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ミニシアターで話題の『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』。元さくら学院の新谷ゆづみが波乱を呼ぶ役

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)映画「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」

大学の繊細な学生が集まったサークルが舞台の映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』が公開される。唯一ぬいぐるみとしゃべらない部員の役で、新谷ゆづみが出演している。元さくら学院の生徒会長で、昨年公開の『麻希のいる世界』に主演して注目された19歳。現実を見据えて強く生きながら、人知れず傷つくのを等身大で演じている。

台本を自分の解釈で演じるのが楽しくて

――新谷さんは小学5年のとき、「ちゃおガール」のオーディションで準グランプリになったのがデビューのきっかけ。早くから芸能界に興味があったんですか?

新谷 小学生の頃はそんなに深く考えてなくて、「これに応募したらどうなるのかな?」くらいの興味本位でした。それがここまで繋がったのは、奇跡だと思っています。

――仕事をしているうちに、意欲が高まったんですか?

新谷 レッスンでお芝居が一番楽しかったんです。紙1枚の台本を自分で解釈して、思ったように演じる。その流れがすごく好きでした。

――さくら学院時代にも、演技企画で2年続けて「サクラデミー女優賞」を受賞しました。

新谷 そのときもお題を出されて自分の思うままにやったら、観ている方に「面白かった」と言われたのが嬉しかったです。

アミューズ提供
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ギリギリまで悩んでも本番では何も考えずに

――これまでの出演作で、特に大きかったものというと?

新谷 塩田明彦監督の『麻希のいる世界』は主役ということで、それまでの作品とはだいぶ気持ちが変わりました。プレッシャーを感じた分、いろいろなことを考えたかもしれません。

――重い病気を抱えながら、バンドを結成しようとする役でした。

新谷 どういうふうに見せるか、毎回悩みますけど、結局は台本を読むだけ読んで台詞を覚えて、現場に入ったら何も考えずにやってみる、という感じでした。それが大事かなと、最近は思っています。

――カメラが回ったら、感情の赴くままに?

新谷 ギリギリまで考えてはいるんです。思ったことはメモするタイプで、さっきも『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』の台本を久しぶりに見たら、いろいろと書き込んでいました。でも、本番では何も考えません。不安はあっても、準備したことは自然に出ると思っています。

――他に、演技をするうえで大事にしていることはありますか?

新谷 いろいろな人と関わらないとできない仕事なので、共演者や監督たちと会話しながら、良い関係を築くようにしています。みんなで作っていくのが醍醐味ですし、周りの方たちに「一緒に頑張ろう」と思ってもらえたらいいなと。

――人見知りはしないわけですか。

新谷 プライベートで1対1だと緊張して人見知りになってしまいますけど、現場で仕事モードだと話せます。

アミューズ提供
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強さから人のことを考えてあげられる役でした

『21世紀の女の子』、『眠る虫』の新鋭・金子由里奈監督の長編商業デビュー作で、『おもろい以外いらんねん』などで知られる大前粟生の小説の初映像化となる『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』。男らしさ、女らしさのノリが苦手な大学生・七森剛志(細田佳央太)は、入学式で知り合った麦戸美海子(駒井蓮)、白城ゆい(新谷)と共にぬいぐるみサークルに入る。

――『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』は、まずタイトルを聞いて、どう思いました?

新谷 その通りなんだろうなと。でも、ぬいぐるみサークルの話とは想像できませんでした。

――ぬいぐるみを作るサークルではなくて。

新谷 そう。実はぬいぐるみとしゃべるサークルですけど、みんな表向きは隠していて。原作を自分で買って読んで、すごく面白かったです。

――演じた白城はぬいぐるみとしゃべらない役ですが、新谷さん自身はぬいぐるみは持っていますか?

新谷 部屋に何コかあります。大阪の海遊館でおばあちゃんに買ってもらったペンギンのぬいぐるみをずっと大切にしていて、今も連れ添っていて。小さい頃はしゃべってました(笑)。あとはアザラシ、犬、カワウソ……と全部動物ですね。

――映画のキャッチコピーは「わたしたちは全然大丈夫じゃない。」ですが、白城は一見、大丈夫そうでした。

新谷 そう見えますよね。主人公の七森や麦戸ちゃんたちはやさしいから、いろいろ悩んでいますけど、白城も実はすごくやさしいと思うんです。七森たちは弱さから来るやさしさ、白城は強さから来るやさしさ。七森たちを助けたくて、どうしてこんなに悩んでいるか考えてあげられる。その真逆のやさしさが、白城のポイントかなと思っていました。

恋愛もちゃんとしてきた大人っぽさを意識して

――そんな白城は新谷さんにとって、入りやすい役でした?

新谷 等身大の私よりは恋愛もちゃんとしている女の子で、そういう面では白城をしっかり理解して、大人っぽく演じられるように意識しました。女性らしい仕草だったり、友だちとかいろいろな人をイメージしました。

――予告編にもある「落ち着くところばかりにいたら打たれ弱くなるから」という台詞は、白城を象徴しているように感じました。

新谷 打たれ弱くならないように、しっかりしようという強さが出ています。でも、七森からしたら「わざわざ辛いところに行かなくていいのに」と思うんでしょうね。

――白城が掛け持ちしているイベントサークルのほうでは、セクハラっぽいことが多いと聞いて、七森は「やめないの?」と聞いてました。

新谷 その七森のやさしさが1周回って、白城を傷つけていて。自分が生きている世界を否定された気持ちになりますからね。たぶん白城は七森に「やさしいだけではダメだよ」と伝えたかったけど、面と向かって言ったら、逆に傷つけてしまう。わかり合うのは難しくて、白城も強そうに見えて、いろいろ悩んでいるんですよね。

考えても答えが出ない問題もあるので

――白城と七森がそういった会話を、大学で歩きながらしていました。あれは長回しですよね?

新谷 長回しで何回かテイクを重ねました。大事なシーンで、階段を降りながら転ばないようにしないといけないこともあって(笑)、緊張しました。あのとき、2人は初めて本当の気持ちを話しました。それまでは、そういう話をするとぶつかるとわかっていたからできなくて、勇気を出して話したら、やっぱりぶつかった。けど、ぶつかり合うことが大事なんだと気づかされるシーンでした。

――その会話の最後のほうで、白城は「正義感みたいなものがしんどい」と涙声になってました。

新谷 気持ちの流れで自然にそうなりました。たぶん、ぬいぐるみサークルのみんなで固まっていたら、ぶつかり合うことは絶対なくて。違う視点を持つ白城が来たからぶつかりましたけど、それはそれで良かったと思います。やさしいだけだと、本当の対話はできないので。

――でも、実際のところ、新谷さんのような若い世代は、自分が傷つかないためにぶつかり合うことは避けがちと聞きます。

新谷 その傾向はあります。できるだけ揉めたくないと、みんな思っていて。私はグループにいたときはたまにぶつかることもありましたけど、そこで生まれる絆は必ずありました。

――新谷さんも葛藤してきたことはあったと。

新谷 いろいろありますね。解決策を見つけるために、感じていることを書き出してみたりします。でも、悩んでも仕方ないこともありますから。考えても出ない答えを、見つけないといけないと思っていたらしんどいので、答えがない問題もあると理解することも大事かなと。

人として好きになってくれたのが嬉しくて

――前半で七森に告白された白城の、話しながら笑いがこみ上げてくる感じは、ラジオでの新谷さんみたいだなと思いました。

新谷 わりと素な感じでしたね。白城は七森に好きだと言われて、嬉しかったと思うんです。イベントサークルにいるような男の子たちに「つき合って」と言われるのと、七森に言われるのは重みが違っていて。イベントサークルでは女の子らしくしてないといけないところがあるけど、七森は自分のことを人として、ちゃんと好きになってくれたんだろうなと。それで、笑いがこみ上げてきたんだと思います。

――白城は「恋人って感じじゃないけど」とも言ってました。

新谷 そうなんですよね。そういう形の恋愛もあると知ったのは、白城がひとつ成長できた部分だと思いますけど、結果的には自分が傷つけられることになって。

――新谷さんの目線でも、七森はやさしすぎると思いますか?

新谷 そうですね。白城がいつか伝えたかった「やさしすぎるだけでは生きていけないよ」ということは、本当にその通りだと思います。だって、傷つくのは結局自分だから。そんな七森たちを守りたいという白城が、最後に見えてきました。

(C)映画「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」
(C)映画「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」

19歳で『NANA』を観て刺激を受けました

――完成して試写で観て、改めて感じたこともありました?

新谷 構成的にぬいぐるみ目線のカットが入るのは、遊び心があってホッコリしました。等身大の白城と七森の感情がぶつかり合えた感覚は、芝居をしていてもあったので、胸を張ってお届けできます。

――自分でも映画はよく観るんですか?

新谷 映画を観るのは好きです。あと、アニメも観ていて、最近一番刺激を受けたのは『NANA』です。

――原作は矢沢あい先生の名作マンガですが、放送されていたのは17年前。

新谷 私が3歳の頃で、ずっとタイトルだけ知っていて、姉が持っていたマンガも読んだことがなかったんです。たまたま配信でちょっと観てみたら、主人公のナナが19歳のときから、お話が始まっていて。私も今19歳だから、絶対観るべきだと思いました。刺激的な内容で、当時の若者の心情が鮮明に伝わってきて、実写映画も観させてもらいましたけど、私も演じてみたいと感じました。

――ナナとハチ、どっちを?

新谷 ハチです。ナナは大人っぽくて、私がやるにはカッコ良すぎるので(笑)。でも、映画を観ると必ず「これをやってみたい!」と思います。

アミューズ提供
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誰かが今こんな気持ちかもと思える作品が好き

――好きな映画の傾向はどんな感じですか?

新谷 ヒューマンドラマ系ですかね。日常を感じられて、今もしかしたら誰かがこんな気持ちになっているかもしれない……というような物語が好きです。でも、小説やアニメだと現実離れしたファンタジー系も、頭の中で想像するのが楽しいです。

――ご自身では『麻希のいる世界』の重病を抱えた役から、最近だと『ZIP!』の朝ドラマ『パパとなっちゃんのお弁当』の漫才をやる女子高生まで、いろいろな役を演じられていますが、得意な役柄はありますか?

新谷 ちょっと暗い部分を持つ役が、どちらかと言うと得意かもしれません。私自身、人に見せている部分と見せてない部分があるので。誰でもそうだと思いますけど、天気でいうと晴れと雨と曇りと、いろいろな感情を持っていて。そういう役のほうが、ずっと明るいような役より入りやすい気がします。

――7月で20歳ですが、精神的には大人なほうなのでは?

新谷 いえ、まだまだ子どもだなと思います。姉が2人いて、一緒にいるといじったり、ふざけたことしかしてなくて(笑)。仕事になったらちゃんとしようと思いますけど、逆に言えば、切り替えないと子どもスイッチが入ってしまいます(笑)。

何ごとも怖がらず全力を注げる女優になれたら

――ラジオでは「中国語を勉強したい」と話してました。

新谷 アジア圏の文化にすごく興味があります。楽器の音も雰囲気を感じますし、中華料理も酸辣湯とか大好き。中国に行ってみたくて、語学も一番興味あるのが中国語です。最近ちょっとテキストを読んだり、講座を聴いたりしているんですけど、発音だけでもいっぱいあって難しくて。時間がかかりそうなので、地道に楽しみながら学んで、自分の世界を広げられたら。

――女優として海外で活躍したいとも?

新谷 そこまでは考えていませんでした。でも、確かに憧れはあります。

――大きな夢もあるんですか?

新谷 「こういう作品に出たい」というのはメラメラ沸いています。頑張っても、誰かの元に届かなければ意味がないので。映画も好きですけど、おじいちゃんやおばあちゃんに観てもらうには、もっとテレビに出たいとも思っています。

――目指す女優像もありますか?

新谷 作品を観るごとにいろいろな方に感銘を受けますけど、お芝居もすごくて接したときの人当たりも素敵だなと思ったのは、先輩の吉高由里子さんです。でも、私は自分の道を行って何ごとも怖がらず、お仕事を楽しみながら全力を注げる女優になりたいです。

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Profile

新谷ゆづみ(しんたに・ゆづみ)

2003年7月20日生まれ、和歌山県出身。

2014年に「ちゃおガール2014☆オーディション」で準グランプリ。2016年より成長期限定ユニット・さくら学院で活動し、2019年に卒業。同年に映画『さよならくちびる』で女優デビュー。主な出演作は映画『麻希のいる世界』、『マイスモールランド』、ドラマ『異世界居酒屋「のぶ」』、『卒業式に、神谷詩子がいない』、『警視庁・捜査一課長』など。映画『わたしの見ている世界が全て』が公開中。映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』が4月14日から公開。インターネットラジオ『新谷ゆづみのひとりゴト。』(AuDee)でパーソナリティ。

『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』

監督/金子由里奈 原作/大前粟生 

出演/細田佳央太、駒井蓮、新谷ゆづみ、細川岳、真魚、上大迫祐希、若杉凩ほか

4月14日より新宿武蔵野館、渋谷ホワイト シネクイントほか全国ロードショー。

公式HP

(C)映画「ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい」
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芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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