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宮澤佐江が「強そうに見えて超ネガティブ」を越えて続ける挑戦。「元AKB48」の肩書きへの想いは?

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)2023映画「犬、回転して、逃げる」製作委員会

AKB48グループ卒業から7年を経て、ミュージカル出演が相次ぐなど精力的な女優活動を展開する宮澤佐江。異色のサスペンスコメディ『犬、回転して、逃げる』では、世界の終わりを願うヒロインの婦人警官を演じた。TVシリーズから続く『ウルトラマンデッカー』の劇場版を別にすれば、11年ぶりの長編映画。活動休止も経て至った現在の想いを聞いた。

ミュージカルは苦労の先に楽しさがあって

――今年は夏までミュージカルが3本続きますが、自分の中で軸にしている感じですか?

宮澤 いえ、ミュージカルが軸ということではないです。いっぱい出させていただいているので、ミュージカル女優と思われがちですけど、そんな肩書きはおこがましくて。もともと目指していたわけでもないですし、ミュージカルのお話が来ると、すぐ「出ます」とは返答できないくらい重く受け止めて、慎重にやらせていただいています。

――とはいえ、AKB48グループを卒業直後から、出演が相次いでいました。見る人が見たら、向いているのでは?

宮澤 どうですかね? 最近やっとミュージカルが楽しいと思えてきて、きっと芸能生活の締めくくりも舞台に立って終わるだろうなと、漠然と想像はつきます。だけど、やっぱり自信はまだまだないです。

――楽しさは感じてきていると。

宮澤 苦労の先に楽しさがある感じです。

自分の力のなさを実感することは多かったです

――これまでに出演したミュージカルで、宮澤さんの中で特に大きかった作品は何ですか?

宮澤 『王家の紋章』は良くも悪くも、一生忘れられない経験になっています。初めてのグランドミュージカルで、ヒロインを演じさせていただいて、右も左もわからなくて。発声も歌もグループにいたときは自信があったのに、ミュージカルを目指してきた俳優さんの中に入ると、自分の実力のなさをものすごく感じました。

――新妻聖子さんとWキャストでした。

宮澤 新妻さんも他の役者さんも、私とは次元が違っていて。お客様からも厳しい言葉をたくさんいただき、辛いときもありました。でも、ひとつの作品を仲間と作る先には、楽しさを感じました。アイドルのときも、チームのみんなとレッスンで汗も涙も流しながら、お客様の前で披露する達成感が大きかったので。ミュージカルも稽古期間にみんなで悩んで乗り越えて、お客様に観ていただき、ようやく完成。その達成感を味わいたくて、チャレンジさせてもらっている感じです。

――アイドル出身だけにナメられないように……みたいな意識もありました?

宮澤 私のせいでアイドルからミュージカルに来た人はダメだと思われなくない、というのはありました。個人の実力があってミュージカルの世界に進んだ人も、今はたくさんいますから。良くないイメージを持たれたくはなかったんですけど、自分自身の力のなさを実感することが当時は多かったです。

ヘコんだ翌日にケロッとはできません

――2018年夏から1年ほど活動休止したのは、そういう中での重圧もあって?

宮澤 そうですね。あまりのプレッシャーに心が耐えられなくってしまって、体にも異変が起き始めて。それで、1回お仕事を離れようと決意したんです。

――復帰後は、そのプレッシャーからは解放されたんですか?

宮澤 いえ、今もしょっちゅう感じています(笑)。体調に出たりもしますけど、やっぱり精神的な問題ですね。メンタルが特別強いわけでもないので。

――そうなんですか? 宮澤さんは強いイメージがありますが。

宮澤 ポジティブに見えるかもしれませんけど、スーパーネガティブです(笑)。自己肯定感も非常に低い人間で、一回ヘコむと翌日にケロッとはできないんです。

――寝れば忘れることはないと。

宮澤 そういうタイプではないですね。ヘコんだ時間を過ごせば過ごすほど、心が疲れてしまうところはいまだにあります。その先に楽しい結果があることはわかっていても、そこに辿り着くまでがすごく大変です。

――休業中はプライベートを満喫したそうですが、そんな生活に戻りたいとは思わないんですよね?

宮澤 でも、芸能界にそこまで執着はないかもしれません。与えられたお仕事、やりたいお仕事にはひとつひとつ真摯に向き合って、100%以上の熱量で挑みたい想いはあります。生半可な気持ちではいませんけど、どうしても一生この仕事をしたいとも思ってないです。

映画は優雅な息抜きになると知りました

――『犬、回転して、逃げる』が公開されますが、映画は自分では、昔からよく観ていたんですか?

宮澤 正直、子どもの頃も役者になりたいと思い始めてからも、あまり観ていませんでした。アイドルを卒業して時間ができて、ここ5年くらいですかね。映画館で映画を観ることが、自分にとって優雅な息抜きの時間になることを知りました。

――テレビの世界には早くから興味があったそうですが、ドラマは観てました?

宮澤 いっぱい観てました。『1リットルの涙』は子どもながら毎回泣いて、DVD-BOXも買いました。今は忙しさによって観られない期間もありますけど、『逃げ恥(逃げるは恥だが役に立つ)』とか、戸田恵梨香さんとムロツヨシさんの『大恋愛』とか、最近だと『silent』も好きでしたね。

――この5年で観た映画では、面白かったものはありますか?

宮澤 1年くらい前に、田中圭さんの『女子高生に殺されたい』を親友の大島優子ちゃんが出ていることもあって観に行って、面白かったのを覚えています。

「床を泳ぐ」という意味がわからなくて(笑)

関西の人気劇団・ヨーロッパ企画出身の西垣匡基が監督と脚本を手掛けた『犬、回転して、逃げる』。カフェ店員の木梨栄木(長妻怜央)は泥棒という裏の顔を持つ。婦人警官の眉村ゆずき(宮澤)の部屋に忍び込み、現金の入った封筒の中の「ずっとお前を見ているからな」という手紙にドキッとするも、ひと仕事を終えた。眉村は泥棒に入られたことに気づかないままで、爆弾魔の犯行予告があったと電話が入る。そして、木梨の愛犬の天然くんがある日、家からいなくなっていた。

――『犬、回転して、逃げる』のようなシュール系は好みですか?

宮澤 観たことがなかったです。そもそも、日本の映画でこんなシュールな作品、あります(笑)?

――台本を読んだときから面白いと思いました? あるいは、戸惑いました?

宮澤 最初に読んだときは、全然理解できませんでした(笑)。台詞よりト書きのほうが多い台本だったんです。説明がすごく細かく書かれていて「どういうことだろう?」と思って。撮影中も「これでいいのかな? さっきのシーンとどう繋がるんだろう?」とか、常に不安で“?”を浮かべていました。でも、たぶん西垣監督の中では、画がしっかり出来上がっていて。監督がOKと言うなら大丈夫と信頼して、挑んでいました。

――台本には「酔っぱらって床を泳ぐ」とか書いてあったんですか(笑)?

宮澤 「床を泳いでタンスに頭をぶつける」とありました(笑)。意味がわからなくて、現場でお芝居の流れで「床を泳ぐといったら、こうしか進めないよな」と背泳ぎみたいにしてみたら、監督に「面白い!」と言われて決まりました(笑)。

――何パターンかやってみたわけではなくて?

 何となく「これでいいですかね?」とやったら、「それでいきましょう」と。最初のスキップのシーンは三つくらい提示して、一番やりたくなかったダサくてどんくさそうなのが使われてしまいました(笑)。

コメディとは考えずシンプルなお芝居を

――そういうコミカルなシーンは楽しんでできました?

宮澤 前もってコメディと聞いてはいましたけど、笑いを取りにいくお芝居をしようとは思いませんでした。コメディを撮っているとは考えず、シンプルにお芝居をしていただけ。出来上がって観たら、「こういう作りに編集してくださったんだ」と確認できた感じです。

――完成したら、自分でも笑えました?

宮澤 「どこで笑えばいいんだろう?」と思いつつ、クスクス笑えるところがありました(笑)。監督自身、たぶん爆笑してもらおうとはしてなくて。よくありそうな日常の中で、小さな笑いはあらゆるところに転がっているよねと。たまたま私が演じた眉村ゆずきたちが、ズームアップされていただけなんだと思いました。

なぜ生きているのかと一度は考えるので

――こういう作品で、婦人警官の眉村の役作りは念入りにしたんですか?

宮澤 今回はそんなに作り込みはしませんでした。役の年齢も自分と同じくらいだったので。

――なぜ「1日でも早く世界が終わってほしい」と考えていたか、掘り下げたりは?

宮澤 そこは監督と話しました。ずっと刺激のない人生を送ってきて、朝起きてから夜寝るまで、ルーティンをこなしているようなもの。大きな欲も趣味も特にない。生きていてもつまらない。何で生きているんだろう……と考えて、着地点が「早く世界が終わってしまえばいい」というイメージだと聞きました。

――理解しにくい心境ではありませんでした?

宮澤 でも人間、誰でも一度は「何のために生きているんだろう? 今これをしている意味は何だろう?」と考えると思うんです。深くはなくて、サラッとでも。その感覚の延長かなと思いました。

普段もキャピキャピはしています(笑)

――目をパチパチしたり、大げさな表情をしたりは、監督の演出があったんですか?

宮澤 特に言われたわけでなく、自分でやってみて、使われたお芝居です。

――木梨の妄想シーンでは、かわいくキュンポーズをしたりもしていました。

宮澤 あれはありのままの私という感じです(笑)。

――普段もキュンポーズをしているんですか?

宮澤 やってます。相変わらずキャピキャピさせていただいてます(笑)。

――眉村みたいに酔っぱらって電話をすることも?

宮澤 それはまったくないです。お酒はたしなんではいて、酔っぱらいはしますけど、家で1人では飲まないので。だから、そのシーンは経験がなくて難しかったです。

――犬の天然くんとのシーンもありましたが、宮澤さんも愛犬がいますよね。

宮澤 ワンちゃんは飼っていることもあって、動物とお仕事をするのは目標のひとつで、今回ちょっと叶いました。お芝居をちゃんとできるお利口なワンちゃんで、スムーズに撮影は進みましたけど、犬のスケジュールに合わせて人間が動いていました(笑)。

岸谷五朗さんの教えが今も心に残ってます

――舞台の仕事が多かった中で、約10年ぶりの長編映画出演となって、改めて感じたこともありましたか?

宮澤 クランクインのときは緊張や不安、プレッシャーが上回っていましたけど、やっぱり映像作品は楽しいと思い出させてもらえました。現場の雰囲気がすごく良かったんです。いい意味でユルッとしていて。役者さんにもスタッフさんにも怖い人がいなくて、萎縮せずにいろいろなアプローチのお芝居をできました。

――怖い人がいる現場もあるんですか(笑)?

宮澤 ないんですけど(笑)、ベテランの方とご一緒すると、ご本人は怖くなくても、自分が「テレビで観ていた人だ」と勝手に緊張してしまって。せっかく覚えた台詞が出なかったことも、過去にはあったので。

――今まで、現場で監督や先輩に言われて、その後も演技の指針になったようなことはありますか?

宮澤 初めてのドラマで監督に、台本の「。」や「、」や「……」にもしっかり意味があると言っていただいて、今も意識しています。あと、『地球ゴージャス』の舞台で、「自分の間合いでなく役の間合いで台詞を言う」と教わったのは、すごく心に残っています。

――それは誰に言われたんですか?

宮澤 岸谷五朗さんです。1人しゃべりの台詞を言っていたら、「そのスピードだと宮澤佐江ちゃんが一生懸命説明しているだけ。この役は頭の回転が速いから、もっとバーッと言わないといけない」と教わったんです。他の作品でも「ここはゆっくり言うかな」とか「速く言ったほうが相手に響くかな」とか考えています。

夢よりも目の前の1コ1コに全力で

――先ほど「芸能界の締めくくりは」という話が出て、それはだいぶ先のことでしょうけど、将来像は何か描いていますか?

宮澤 今は夢や目標はないです。目の前のお仕事に1コ1コ全力で向き合うことが、自分に合うスタンスかなと、ここ数年は思ってきて。そうして積み上げてきたものはありますけど、先のことはまだちょっと考えられていません。

――「元AKB48」と言われないようになりたい、と思ったりはしますか?

宮澤 私のことをわかりやすく説明するために元AKB48と書いてくださるのは、愛情のひとつだと思うので感謝はしていますけど、そこを越えていない自分を悔しく思うときはありますね。いつまでも元AKB48という肩書きに甘えたくないですし、不要になるように頑張りたいとは思っています。

――仕事以外で挑戦したいことはありませんか?

宮澤 今はそんなにないです。でも、休業中は海外旅行をいっぱいしていたんですね。パリ、イビサ、エジンバラ、ハワイ……。コロナ禍になってから行けてないので、久しぶりに海外旅行をしたいです。

――今度はどこに行きますか?

宮澤 前にアメリカのセドナに行ったとき、何か心がザワザワしたんです。それから仕事運が上がった気がしていて。だから、またセドナに行って、運気を上げてきたいです(笑)。

Profile

宮澤佐江(みやざわ・さえ)

1990年8月13日生まれ、東京都出身。

2006年にAKB48に2期生として加入。SNH48、SKE48を経て2016年に卒業。同年にミュージカル『王家の紋章』に出演し、本格的な女優活動を開始。主な出演作はミュージカル『ピーター・パン』、『ウエスト・サイド・ストーリー season2』、『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』、『キングアーサー』、ドラマ『おっさんずラブ』、『ウルトラマンデッカー』、『飴色パラドックス』、映画『高校デビュー』など。3月17日より公開の映画『犬、回転して、逃げる』に出演。ミュージカル『She Loves Me』(5月2日~30日/シアタークリエほか)、『スクールオブロック』(8月17日~9月18日/東京建物 Brillia HALL、9月23日~10月1日/新歌舞伎座)に出演。

『犬、回転して、逃げる』

監督・脚本/西垣匡基 出演/長妻怜央(7ORDER)、宮澤佐江、なだぎ武、中村歌昇、仁科亜季子、登坂淳一ほか。

3月17日よりシネ・リーブル池袋、シネ・リーブル梅田ほか全国順次公開。

公式HP

(C)2023映画「犬、回転して、逃げる」製作委員会
(C)2023映画「犬、回転して、逃げる」製作委員会

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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