Yahoo!ニュース

親友を裏切るあざとい悪女ぶりが怖い。初主演の山谷花純。「最低なことをしますけど好きな裏返しに思えて」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)「親友は悪女」製作委員会2023

高校時代のたった1人の親友と再会。一緒に暮らし始めるが彼女の本当の姿は……。ドラマ『親友は悪女』で親友と周りの男性たちを翻弄する役を、山谷花純が演じている。昨年は大河ドラマ『鎌倉殿の13人』などに出演し、デビュー15年で初のドラマW主演。そのあざとく不敵な悪女ぶりが鮮烈で話題だ。シャープな見た目からもハマり役に思えるが、その裏では自問自答とリサーチを重ねたという。

人生に必要な技術や知識がわかった1年でした

――去年は充実した1年だったようですね。

山谷 今後の人生に必要な仕事、技術、知識がよくわかった年でした。それを身に付けるのは大変だと思いますけど、30歳に向けて新しい目標ができて、ワクワクしています。

――どんな目標ができたんですか?

山谷 映画の連載が始まって、言葉を知らないとダメだなと思いました。忙しさにかまけて人と会わず、ちゃんと会話をしてこなかった分、人前で何を話したらいいか、わからなくなっていたんです。文章にしようとしても、伝えたいことが書けなかったり。そんな自分を知って、今は言葉を勉強したり、知識を増やしたりしています。頭が良くなりたいので(笑)。

――そのために何をしているんですか?

山谷 本を読んだり、連載のために映画館に行ったり、ドラマをちゃんと観たり。当たり前のことですけど。プライベートの人間的な部分では、もうちょっと大人な、しなやかで品のある女性になろうと意識しています。

(C)「親友は悪女」製作委員会2023
(C)「親友は悪女」製作委員会2023

プレゼントされた猫の本を読んでいます

――本はどんなものを読みました?

山谷 誕生日(12月26日)に『親友は悪女』で共演していた石川瑠華さんから、猫の本をもらいました。絵と一緒に言葉が紡がれていて、すごくかわいくて。「寝る前に読むとホッとするかも」とくれたんです。新しい本を買うのでなく、持っている本をプレゼントしてくれるって、嬉しいじゃないですか。しかも私だったら選ばない本で、瑠華と添い寝をしているような気持ちで読んでいます(笑)。

――石川瑠華さんはまさに頭が良さそうな方ですね。

山谷 楽屋でもずっと本を読んでいました。あと、何年日記みたいなものを持っていて、アナログを大事にしていて。私もそっちが大好きなんです。私はただ電子機器に弱いだけでもありますけど(笑)、消えていくものをあえて大切にする彼女は、すごく素敵だなと思いました。

タイトルを聞いただけで私は悪女役だろうなと(笑)

電子コミックとして人気を博した和田依子の原作をドラマ化した『親友は悪女』(BSテレ東)。堀江真奈(清水くるみ)は会社で営業サポートとして忙しく過ごし、同期の橋井翼(矢野聖人)のことが気になっていた。ある日、高校時代のたった1人の親友だった高遠妃乃(山谷花純)と10年ぶりに再会。離婚して行くところがないという彼女を家に迎え入れるが……。

――『親友は悪女』での悪女の妃乃役はピッタリと評判ですが、自分でもハマる感じはしていました?

山谷 私は顔面はハッキリしているので、昔からキツい役をいただくことが多くて。だから、最初に『親友は悪女』というタイトルを聞いて、「私は悪女役でしょう?」とマネージャーさんに言いました(笑)。同時に、相手役が清水くるみちゃんとも聞いたんです。「会いたかった。面白そう」という話もしたのを覚えています。

――清水くるみさんとは「10代の頃から、よくオーディションで顔を合わせていた」とのコメントがありました。

山谷 それから原作を読ませていただいたんですけど、これまで悪役をやるとき、行動や言葉に共感を得られたことはまったくなくて。今回の妃乃も同じでした。だからこそ、パーソナルな部分はどこにあるのかを考えました。親友にここまで執着する根源は何か? なぜこんなに好きなのか? 好きなのになぜ「嫌い」と言うのか? そういうことを自問自答しながら、役を作っていきました。

(C)「親友は悪女」製作委員会2023
(C)「親友は悪女」製作委員会2023

私にできないことが全部できるのを目の当たりに

――その「なぜ」に答えは出たんですか?

山谷 クランクインして、すぐわかりました。清水くるみに対しても、彼女が演じる真奈に対しても、自分が欲しいものを全部持っているのを目の当たりにしたんです。現場での居方、人との関わり方、会話の仕方……。私ができないことを、彼女はすべてできていました。

――自分とどう違っていたと?

山谷 人との距離感をうまく保つんです。遠からず近からず。私は遠ければ遠い、近ければ近いと、白黒ハッキリしてしまって。グレーな部分も持っている彼女を「私もああいうふうにしゃべりたい」と尊敬しながら、たまにチクッと嫉妬するときもあって。自分が妃乃と近くなりすぎていたからかもしれませんけど、そこを反映して演じられたと思います。

――その嫉妬心がエスカレートすると、「彼氏を奪ってやる」になると?

山谷 好きの裏返しで、どこにもぶつけられない想いを、当人にぶつけるしかなくなることはあると思うんです。この沸々とした感情は、モノや他人に当たるより、その感情を生んだ相手にしか返せない。私もくるみが大好きだからこそ、感じられた部分がありました。

(C)「親友は悪女」製作委員会2023
(C)「親友は悪女」製作委員会2023

『ホリデイラブ』を観たり港区女子を調べたり

――単純に“悪女”にはどんなイメージがありました?

山谷 この作品に入る前に『ホリデイラブ』は観ました。

――松本まりかさんの怪演が話題になったドラマですね。

山谷 私はひねくれてガラの悪いヤンキーや、グレて世間から外れた悪役は経験あります。でも、今回の妃乃のような、自分から人と関わって、かき乱していく、あざといタイプの悪女は演じたことがなかったんです。プライベートの自分ともかけ離れすぎていて、周りにそういう人もいなかったから、どうしたらいいのかわからなくて。

――妃乃は宅配便の配達人やカフェの店員にまで、良い顔をしていて。

山谷 YouTubeで港区女子を調べたりもしました(笑)。「こういうフリフリの服を着る人がいるの?」といろいろな人に聞くと、本当にいるんですよね。インスタを調べて、“パパ活”とか“六本木”みたいな地名やブランド名を入れて検索すると、出てきました。彼氏と撮った写真の加工具合やリールを見て、まぶしい世界にいる人たちを参考にさせてもらいました。

鏡の前で顔や手をどう見せようかと

――唇に指を当てたり、小首をかしげたりするあざとい仕草も、そうやって身に付けたんですか?

山谷 台本に「かわいく」とか書いてあると「ヤバい!」って、すごくプレッシャーになるんです(笑)。たぶん妃乃は人にどう見られるかを意識して、客観的な目を持っていて。そのアンテナは張っている子なんですね。だから私も家でずっと、本を読みながら鏡の前にいました。内面より、どうすればどう見えるのか。首はどれくらい傾けたらいいのか。手の角度、指や袖の見せ方……。そういうことをすごく考えて、鏡の前でやっていたんです。携帯で自撮りする方法もありましたけど、データが残るのは恥ずかしいなと思って(笑)。

――その成果が撮影で発揮されたわけですか。

山谷 12話あるので、どのくらいの小出し具合がいいのかも考えました。最初から飛ばしていって、後半でアップアップして「もうネタがない」となるのが怖かったので(笑)。徐々にレベルを上げていった感じです。

――演出的に「もっと」とか言われたりは?

山谷 たまにありました。「もっと強く」とか「ハツラツとした感じで」とか。妃乃は執着している相手、興味がない相手……と違う顔を見せるので。だから、同じようなシーンでも、相手が変われば演出もいろいろ変わるのを感じました。

叩かれたら痛いけど叩く手も痛いので

――妃乃がニヤッと笑うのを見て、ゾッとすることもあります。役者としては、こういうえげつない役を演じることに、楽しさもありませんでした?

山谷 楽しくはなかったです。苦しかった。自分が先導して指差すほうに人を移動させないといけない、ゲームマスターのような役柄だったので、どちらかというと心より頭を働かせていました。その中で自分の目的に対する意欲を大事に作っていくのが、すごく難しくて。でも、回想の高校時代のシーンは楽しかったですね。

――それは、どういう意味合いで?

山谷 真奈と共有している部分が多かったからですかね。バチバチ計算するより、ウソであったとしても心のままに生きていた。真奈のことが好きで、嫌いにもなったけど、妃乃にとっても宝物のような思い出だったと思うんです。私も演じるのが幸せで楽しかった。その後は、やっていて辛くて。人って叩かれたら痛いけど、叩いた側の手も痛いですよね。そういう感覚に近かったように思います。

――客観的に見れば、妃乃のやっていることはひどいと?

山谷 何て最低なことをするんだろう、と思いながら演じていました(笑)。真奈のことを好きなのに、なぜ違う形にできないのか。家庭環境も踏まえて、いろいろあったのはわかるけど、すごく悲しい子に思えました。ツンと押しただけで倒れてしまいそうなギリギリのところを、生まれてからずっと歩いてきて、今にも泣きそうなんだなと。私も家に帰った瞬間、か細くなっているような気がしました。現場で明るいくるみと一緒にいるときのほうが元気でした。

(C)「親友は悪女」製作委員会2023
(C)「親友は悪女」製作委員会2023

人に執着してしまうところは自分と似てるかも

――そこまで掘り下げると、悪女の妃乃への愛おしさも生まれませんでした?

山谷 そうですね。悪いだけの子にはしたくなくて、成長も伝わったらいいなと思いますけど、女性視聴者に嫌われたらガッツポーズですね(笑)。「ムカつく」とか悪口を言われるのが、役者としては一番の誉め言葉になるかなと。

――自分とはかけ離れた役とのことでしたが、どこかに山谷さん自身の反映もないですか?

山谷 あそこまで人を好きになってしまうところですかね。人に執着してしまうところは私もあるのかなと。友だちにすぐ連絡するし、妹や母には何でも話してしまう。意外と寂しがり屋なのも共通点で、そのわりに1人で紅茶を飲むような時間も必要だったり、扱いが難しい(笑)。妃乃と価値観はまったく違いますけど、性格は似ているかもしれません。

1年で飲むつもりのラム酒が1日で半分に(笑)

――妃乃が「せっかくきれいに生まれたんだもん。磨かないと」と言っていたのも、女優として通じるところがあるのでは?

山谷 たぶん世間一般の方々のほうが、メイクもうまいし、服にも詳しいし、髪もきれいに巻けると思います。私たちはプロの方にメイクしてもらって、やっと人前に出られるので。そこで何かを表現することはできても、自分でその姿にまで辿り着くことは、できない人がほとんどだと思うんです。一般の方たちのほうが、自分を磨くことに時間を費やしているんだろうなと。私も今回の放送前に、親知らずを2本抜きましたけど(笑)。

――山谷さんはお酒好きだそうですが、妃乃のように「いくら飲んでも酔わない」タイプですか?

山谷 そんなことはなくて、しっかり酔っぱらっています(笑)。毎晩飲むのは楽しみで、お誕生日に現場で大好きなラム酒をいただいたんですね。クランクアップの翌日、「頑張ったから飲もうか」と開けたら、ビックリするほどなくなりました(笑)。今年1年、作品が終わったときだけ飲むつもりでいたのに、おいしくて止まらなくて、半分くらいを1日で飲んでしまって。この調子だと、あと1本撮ったらなくなってしまうので、すごくショックでした(笑)。

(C)「親友は悪女」製作委員会2023
(C)「親友は悪女」製作委員会2023

主演して初めて見た景色がたくさんありました

――1ヵ月の撮影で、悪女を演じる極意は掴めましたか?

山谷 よくわかってないですね。それより、親友との関わり方を学んだ気がします。初めてのW主演で、真ん中から見た景色をくるみと共有して、そこで育まれる関係性があって。15年やってきた中でも主演は難しかったし、本当はW主演のほうがもっと難しいのかもしれない。女優同士、私は相手に楽しんでお芝居をして欲しいんです。無理してキツい想いはして欲しくない。叩く側が強くないと受けられないから、遠慮なくやらせてもらったり。そこで初めて見た景色がたくさんあったことのほうが、印象に残っています。

――やっぱり主演の現場はこれまでと違いましたか。

山谷 それが一番大きかったです。今までは感情的になることもあれば、逆に感情を飲み込んで、「とりあえず撮らないと」って流してしまったことも多かったんです。でも、主役はみんなのそういう想いを代弁する立場でもあると、私は思っていて。そのやり方をすごく考えて、くるみとも話しました。W主演でも彼女のほうが名前が先に来ているし、年もふたつ上だから、意見を尊重しました。

やるしかなくて終わったら強くなっていて

――15年で主演に辿り着いたのは、女優・山谷花純さんの何かがバージョンアップされた結果でもありますか?

山谷 チリツモではあると思いますけど、去年が本当に良い1年で、たぶん死ぬときに思い出すような作品がポン、ポン、ポンと自分の元にやってきたんです。その分、ずっと大切にしていくつもりだったものがなくなったりもしましたけど、不思議な縁が重なるタイミングでした。

――大きな変化があったわけですか?

山谷 作品との出合いで、成長せざるを得ませんでした。何もできず知識も技術もなくても、待ってはもらえない。明日は必ず来て、カメラの前に立って台詞をしゃべらないといけない。そういう作品が続いて、やるしかないと。それで終わってから、自分が強くなっていたことに気づくんです。そんな1年を締めくくった作品が『親友は悪女』でした。

――今後も主役を張っていきたいと?

山谷 こだわりはありません。今までは真ん中の方をサポートする役が多くて、自分の性格的にもそっちが合っています。ただ、そこだけだと背負うものは少ないんですね。自分が真ん中に立って、責任を感じながら毎日を過ごすようになりました。全体を見る目を肥やしたいから、もしご縁があれば、もう少し今までと景色が違う場所で、お芝居をしてみたい想いは強くなりました。

――知名度もさらに上げたいですか?

山谷 それはいいです(笑)。私は自由にスーパーに行ったり、電車に乗ったりしたいので。有名になりすぎると、できなくなりますよね? そういう大切なものは失いたくないかなと。でも、お仕事はたくさんやりたいです。

(C)「親友は悪女」製作委員会2023
(C)「親友は悪女」製作委員会2023

Profile

山谷花純(やまや・かすみ)

1996年12月26日生まれ、宮城県出身。

2007年にエイベックス主催のオーディションに合格し、2008年にドラマ『CHANGE』で女優デビュー。主な出演作はドラマ『トレース~科捜研の男~』、『私の正しいお兄ちゃん』、『鎌倉殿の13人』、映画『シンデレラゲーム』、『劇場版コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』、『まともじゃないのは君も一緒』、『天間荘の三姉妹』、『餓鬼が笑う』など。ドラマ『親友は悪女』(BSテレ東)でW主演。4月3日スタートの連続テレビ小説『らんまん』に出演。

『親友は悪女』

BSテレ東/日曜23:30~

出演/清水くるみ、山谷花純、矢野聖人、石川瑠華、淵上泰史ほか

公式HP

(C)「親友は悪女」製作委員会2023
(C)「親友は悪女」製作委員会2023

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

斉藤貴志の最近の記事