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『イチケイのカラス』映画化で西野七瀬が裁判官に。「悩んだ経験が次に活きる繰り返しです」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/松下茜

竹野内豊が型破りな裁判官を演じて人気を博したドラマ『イチケイのカラス』が映画化。異動した岡山地裁で同僚になる役で西野七瀬が出演している。乃木坂46を卒業して丸4年。これまでもシリアルキラー、刑事、スナックのママ、銀行員など多彩な役を自然体でモノにしてきたが、女優としての取り組みを聞くと順応力の高さが浮かび上がった。

グループ卒業直後は急に時間ができて焦りました

――乃木坂46を卒業して4年になりますが、女優として出演作が続いて、自信がついてきた感じですか?

西野 自信はまだあるとは言えませんけど、お芝居をするお仕事に少しずつ慣れているかなとは思います。

――最初は不安もあったそうですね。

西野 ありました。卒業した直後はグループでの活動がごっそりなくなって、急に時間がいっぱいできてしまって。体力と気力はあり余っているのにバランスが取れなくて、どうすればいいだろうと焦っていました。

――もしそういう状態が続いたら……と考えたりも?

西野 何か別の自分ができるお仕事はないか、探したりしていたと思います。

――結果的にそんな必要はなかったわけですが、観ている分には西野さんは、どんな役もスッと演じられている印象があります。自分の中では悩んだ役や入りやすい役はありました?

西野 毎回難しいなと思っています。そのときはめっちゃ悩んだりしているんでしょうけど、あまり覚えてなくて(笑)。

舞台でお客さんに届ける経験は大きかったです

――転機として、『孤狼の血 LEVEL2』でのスナックのママ役を挙げられていたこともありました。

西野 髪を染めてビジュアルからガラッと違うので、自分にとっても周りの印象的にも、わかりやすい変化もあった作品かなと思います。あと、去年やらせていただいた舞台『みんな我が子』も、自分の中では大きかったです。

――主人公の次男の婚約者役でしたが、やっぱり映像とは違う感覚でしたか?

西野 まったく違います。わかりやすいことだと、映像ではマイクを付けているので、小さなささやきでもスクリーンで音響として届きますけど、舞台だとそうはいかなくて。ステージの前のほうにフットマイクがあるだけで、気持ち的にささやきたい台詞でも本当のささやきだと、お客さんに届かない。そこがめちゃくちゃ難しかったです。私は舞台はまだ2回目だったので、共演の堤(真一)さんたちに教わったりしていました。

――稽古中には悩んだことも?

西野 その時期には「うーん……」となっていましたけど、やっているうちに「そういうことか」とわかるところや、いつの間にかできるようになっていたところもあって。いろいろ経て、全部終わったら「良い経験だったな」となっています。細かいことを文字に残して覚えるというより、どこかで自分の身になっていて。それが次の作品とかで自然に活きていたらいいな……という感じです。

――順応力が高いんでしょうね。

西野 知らないうちにできていたことも、きっとできていないこともあるんでしょうけど、その繰り返しなのかなと思います。

役のキャラと間を誉められたのが嬉しくて

――自分の女優としての強みが見えてきたりはしていますか?

西野 強み……。欲しいですけど、思いつきません(笑)。

――何かを誉められて嬉しかったとか、ありませんか?

西野 たくさんありますけど、それも全然覚えてなくて。でも、今回の『イチケイのカラス』の初号試写のあと、竹野内さんとお会いしたら、「すごく良かったね」とおっしゃっていただけました。

――どこが良かったというお話だったんですか?

西野 「キャラが立っていて、間がいい」と言ってくださって。私はそこまでたくさん出ているわけでないのに、そんなところまで観ていただいていた喜びがありました。

――確かに「ちょっと失望」とか何気に面白かったです。計算した部分もありました?

西野 まったくありません。「もっとこうすれば良かったかな」と観ると毎回思ってしまいます。竹野内さんのお話は予想外で、自分が思うことと人が良いと思うことは違うんだと、身に染みてわかりました。

楽しさも難しさも毎回必ずある感じがします

――演じる楽しさは高まってきていますか?

西野 楽しさもあるし、「うまくいかない。しっくりこない」という難しさもあります。どちらも毎回必ずある感じです。

――『イチケイのカラス』ではどんな楽しさがありました?

西野 やっぱり、ちょっと面白いシーンというか、笑いどころがわりとあるのは楽しかったです。

――では、難しかったところは?

西野 裁判官の役が初めてで、法廷で言い慣れない法律用語を言うことですね。人がたくさんいて、全員にちゃんと伝わるようにしないといけなくて。そこは特に集中して、堂々としゃべるようにしました。

――裁判官について、事前に調べたりもしました?

西野 いただいた資料を読みました。法服が黒いのは“染まらない”という意味があるとか、天秤を持っている女神の像は、劇中で説明を聞くシーンもありましたけど公平に裁く象徴だとか、そういうことが印象的でした。女性の裁判官が少ないことも知りました。

人の良いところは見るようにしていて

――西野さんが演じた赤城公子がなぜ裁判官を目指したとか、劇中に出てこないバックグラウンドも考えました?

西野 学生の頃から生徒会長をやっていたのかな、みたいなことは考えました。正義感は絶対あると思うので、そこが入間さんに感化されて、変わっていくのかなと。

――そういう正義感は西野さんの中にもあるもの?

西野 どうなんだろう? 人並みだと思います。特別に正義感が強くはないかもしれません。自分の中で違うなと思ったら、わりと口に出してしまうほうですけど、「あくまで自分の意見」として言うようにしています。

――赤城公子にとっての入間みちおのように、誰かに影響を受けて自分が変わったことはありますか?

西野 作品をひとつひとつやるたびに、いろいろな共演者の方やスタッフさんと出会って、無意識に影響は受けていると思います。具体的に何かと聞かれると難しいんですけど、人の良いところは見るようにしています。

感じたままのリアクションで行けました

――『イチケイのカラス』のドラマも改めて観たんですか?

西野 改めてチェックはしませんでした。今回は2年後のお話で、私は岡山の裁判官という役だったので、真っ白な状態で臨みました。

――実際にこの作品の世界に入って、どんなことを感じました?

西野 入間みちお裁判長と一緒の場面が多くて、主人公の空気感や人間性が作品の中で重要なんだなと思いました。私は「何だ、この人? ありえない!」というリアクションを取る役で、自分が感じたままで行けました。竹野内さんご自身のことも、撮影に入る前に監督から「自由ですごいよ」と聞いていて、その意味はすぐわかりました(笑)。

――どんな自由ぶりだったんですか?

西野 撮影の合間はどこにいらっしゃるのか、わかりませんでした(笑)。急にフラフラどこかに行ってしまったり、撮り始めるときに小部屋に入ってカチャンとカギを掛けたり。気さくに話し掛けてくださるんですけど、不意打ちで「アリクイの威嚇って知ってる?」とか、ビックリするような質問も投げ掛けられました(笑)。

――普段から入間みちおっぽかったと。

西野 翻弄されました(笑)。一度、言い辛い台詞を練習されていて。邪魔しないように隣りで静かにしていたら、急に「どうする?」と聞かれたんですね。私は(タクシーアプリのCMの)「GOする」しか思い浮かばなかったんですけど(笑)、「はぁ?」みたいになったら怖いから何も言えなくて。そしたら、ご自身で「GOする」とおっしゃって(笑)、合っていたんだと思いました

現場でよくわからない質問をしてしまって(笑)

――西野さんからは、現場で共演者の方とどんなコミュニケーションを取っていたんですか?

西野 私も突然よくわからない質問をしているかもしれません。柄本(時生)さんに「お金を何に使っていますか?」と聞いたら、ビックリされました(笑)。そのときにただ気になったんですけど、良くなかったかなと思いました。

――ちなみに、西野さん自身はお金をどんなことに使うんですか?

西野 趣味の謎解きゲームや旅行ですね。夏に北海道や静岡に行って、飛行機代は高いんだなと久しぶりに思いましたけど、そういうときは出費を惜しまないことに決めています。

――旅行だと、どんなことにこだわりますか?

西野 ホテルも大事だし、ごはんにも妥協したくなくて(笑)。そこで値段で迷わないようにしています。せっかく来たんだから、後悔はしないように。おみやげは人にはあまり買わないタイプですけど、自分にはめっちゃ買います(笑)。

暑い中での長回しは緊張感がありました

――映画『イチケイのカラス』には、『グータンヌーボ2』で共演していた田中みな実さんも出演されています。

西野 ちょっと不思議な感覚でした。重めの法廷シーンでお互い真剣にお芝居していて、前室に戻ると普段通りの感じで。私が漢字ドリルを現場に持っていって、みんなでどれくらい書けるかやっていたんですけど、みな実さんは全部満点で、さすがだなと思いました。

――何で漢字ドリルを持っていったんですか?

西野 漢字が好きなので面白そうだなと思って、何となく買ったんです。そしたら、皆さんがすごくやってくれて、嬉しかったです。

――他に印象的だったシーンはありますか?

西野 裁判所でみんなで階段を降りながら入間さんに問い掛けるシーンは、カットを割らずに長回しだったんですね。私の台詞もあって、噛んだら1からやり直しになるので緊張感がありました。現場が暑かった中で、カットが掛かると、また全員で階段を上がって。1回のOKテイクを出すために、みんなで心をひとつにして、たくさん撮りました。

――最初のほうの野球のシーンはどうでした?

西野 めちゃくちゃ暑かったです(笑)。1日じゅうグラウンドにいて、頭がボーッとしてきて、夏の野外ロケは大変だなと、久しぶりに痛感しました。でも、スタッフさんがお水や冷たいアイスを用意してくださって、ありがたくいただきながら撮っていました。

仕事と趣味で心のバランスを取っています

――普段、自分で映画やドラマを観て、「この女優さんはいいな」と思うことはありますか?

西野 日本の作品ではないですけど、2年くらい前にNetflixで観た『クイーンズ・ギャンビット』というチェスのドラマはめちゃくちゃ良かったです。主演の女優さん(アニャ・テイラー=ジョイ)に不思議な魅力があって。台詞はそんなに多くないのに、表情だったり間だったり、人を引きつける感じなんです。気づくと一気見してしまって、すごく印象に残りました。

――西野さんも主役を張っていきたい気持ちはありますか?

西野 機会があれば頑張りたい……というところですね。

――そこまでガツガツする感じではなくて?

西野 はい(笑)。今回のような立ち位置が、私はいいのかなと思います。

――日ごろからインプットのためにしていることはありますか?

西野 普通に謎解きとか趣味を楽しんでいる感じです。お仕事だけしていると、私はしんどくなってしまうので。他に夢中になれるものがあって、精神的なバランスがうまく取れているのかなと思います。

撮影/松下茜

Profile

西野七瀬(にしの・ななせ)

1994年5月25日生まれ、大阪府出身。

2011年に乃木坂46の1期生オーディションに合格。2018年に卒業。主な出演作はドラマ『あなたの番です』、『アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋』、『言霊荘』、『恋なんて、本気でやってどうするの?』、『シャイロックの子供たち』、映画『孤狼の血 LEVEL2』、『鳩の撃退法』、『あなたの番です 劇場版』、『恋は光』、舞台『みんな我が子』など。

映画『イチケイのカラス』

1月13日公開

監督/田中亮 脚本/浜田秀哉 原作/浅見理都

公式HP

東宝提供
東宝提供

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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