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命を断つと決めた少女が最後の晩餐に訪れたレストランで…。ヒロイン役の畑芽育を苦境から救ったものは?

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/S.K.

命を断とうとする者が最後の晩餐を求めて訪れるレストランが舞台の映画『森の中のレストラン』で、畑芽育がヒロインを演じている。ドラマ『青天を衝け』や『純愛ディソナンス』などで可憐さが目を引いたが、今作では絶望を抱えて森へ足を踏み入れた少女という、かつてない重苦しい役。自身のキャリアの中での苦境からの脱出も含めて聞いた。

外見のコンプレックスも武器だと捉えられて

――今年4月で20歳になって、気持ちの変化はありましたか?

 早く大人になりたくて仕方なかったので、「やっと20歳になれた!」と思いました。誕生日の当日にお酒を買いに行って、家で乾杯しました(笑)。

――芽育さんはずっと「かわいい」と言われてきたかと思いますが、そこはこれからも武器にしていきますか?

 どうでしょう? 作品に出てヴィジュアル面を誉めていただくのは、すごく嬉しいです。私自身は身長や目の色がコンプレックスで、ネックかなと思っていました。でも、相手役の俳優さんとの身長差がいいとか言っていただくことも多くて。これもひとつの武器なんだとポジティブに捉えられるように、皆さんが変えてくださいました。

――SNSで何か書かれて、ヘコむようなこともないですか?

 お芝居に対する意見を目にして、改善しようとか、そういう見方もあるんだとか、自分にとって得るものが多いので。ポジティブに捉えるようにしています。

――外見的にも大人っぽくなりたい、というのはありませんか?

 等身大でいいかなと思います。

重苦しい役から得るものは大きいだろうなと

――『森の中のレストラン』の紗耶役はオーディションで決まったんですか?

 はい。自殺願望のある女の子の役と聞いていました。

――審査ではどんなシーンを演じたんですか?

 紗耶がレストランで最後に頼んだ食事を終えて、犬のマイロが来て引き留められるけど、死ぬと決めて森に行くシーンをやりました。犬はぬいぐるみで。

――この役をやりたい想いは強かったんですか?

 任せていただけるのであれば、全身全霊でやりたい気持ちでした。

――これまでの女優人生の中で、一番重苦しい役だったかと思いますが。

 重苦しかったです。でも、自分の得るものがきっと大きいと思ったので、頑張って挑戦しました。

こんな寒い森にいたら本当に死ぬと思いました

――撮影に入る前に準備でしたことはありましたか?

 監督から、自殺願望のある方の後ろ姿とかを集めた写真集をお借りしました。写真にそういう空気が流れていて、見て感じるものがあって、役作りの参考にしました。あとは「中学生っぽく」と言われていたので、自分の母校の周りをウロチョロ歩いて、最近の中学生はどんな感じなのか見たりもしました。中学生にしか出せない空気感はあって、19歳だった自分が演じるのは難しかったですね。幼さって何だろうと。

――その部分では、どんなことを意識したんですか?

 顔の造形は変えられないから、声のトーンを低くしすぎないようにしたり。紗耶は特殊な女の子の雰囲気はありながら、どことなく中学生感が残るようにしました。

――死を考えるほどの苦しみは、想像するしかなかったですよね?

 そこまでは経験ないので、一番難しかったところかもしれません。

――「撮影期間を思い出そうとしてみても、記憶が途切れ途切れ」とコメントされていますが、森の中をさまよう場面の記憶も断片的ですか?

 あのシーンは本当に大変だったんです。10月の夜で寒いし、暗いし、めまいがするくらいで。

――画面にも白い息が映っていました。

 こんなところにいたら、本当に死んでしまうと思いました。自分がどこをどう歩いているかわからなくて、足取りも不安定で、瞬間ごとにしか記憶は蘇ってきません。それくらい役に入り込んでいました。でも、寒さや森の空気や木の匂い、レストランのセットの暖かさはすごく覚えています。

食事がおいしかったから余計に切なくて

――森の中で紗耶は「楽になりたい」と憑りつかれたようにつぶやいていました。

 きっと紗耶はやさしい女の子なんです。楽になりたい感情もあるけど、誰かに助けを求めるより自分が消えることを選んだのは、周りに迷惑を掛けたくなかったのかなと思いました。そういう彼女のバックグラウンドを考えるのは、役者として楽しい作業でした。

――最後の晩餐としてバジルのスパゲティを食べていたときは、紗耶はどんな気持ちだったのでしょうか?

 私はごはんが大好きなんです(笑)。しかも、劇中で食べたバジルパスタもすっごくおいしくて! こんなの食べたら死ぬなんて考えないよと、私自身は感じました。でも、役に入っているから、人生最後の食事だと思いながら食べていて、おいしかったからなおさら、切なくなったりもしました。

――自分の人生を振り返ったりもしつつ?

 監督にもそう言われました。いろいろなことを振り返りながら、ひと口ひと口を噛みしめてほしいと。楽しいこともあったかもしれませんけど、14年か15年で人生の幕を閉じるのは悲しいですよね。

諦めに近い状態だったように感じました

――父親の虐待を母親ともども受けるシーンも、観ていて苦しくなりました。

 そのときの紗耶の心情としては、やるせなさというか、諦めに近い状態だったのかなと思いました。「楽になりたい」と言っていた通り、積み重なってきたものがあって、「もうどうにでもなれ」と思っていたんだろうなと。

――撮り終わってからも引きずるような?

 大変でしたけど、引きずりはしませんでした。そのシーンが終わって、山を越えたなという感じでした。

――泣きながらレストランのシェフの京一に電話するシーンもありました。

 悲痛でした。現場が大変だったから、本当に「助けてほしい」という気持ちで撮った記憶があります。過酷なロケで役のことでも思い悩んで、逃げ出せるものなら逃げ出したい気持ちになったりもしました。

――途中で胃が痛くなったりも?

 食欲はあまりなかったです。役に入り込んでいたからか、お弁当もモリモリ食べる感じではなくて。

アウトドアのロケは健康的でした(笑)

――一方で、レストランでアルバイトとして働きながら、森の中で狩りや川で魚釣りをするシーンは楽しかったのでは?

 楽しくて和気あいあいと撮影していました。鴨を撃つシーンは、実際に撃ってはいません。どういう衝撃が来るか、こと細かに教えていただいて、イメージを重ねました。自分でも猟銃の動画をたくさん観て勉強しました。

――川魚は実際に焼いて食べたんですよね?

 食べました。本当においしかったです。あんなアウトドアなことは、今まで経験なくて。私はすごくインドアなんです。10日くらい長野で撮影して、自然に触れてアクティブに動いて、思い返すと健康的な生活でした(笑)。

――犬のマイロは懐いたんですか?

 すごくいい子でした。私も昔、ワンちゃんを飼っていたことがあって、撮影の合間に散歩をしたり、おやつをあげたりしていました。

「やめてやる」と思って『レオン』を観て奮起して

――死ぬまでは考えなくても、苦しいことがあって、何かで救われたような経験はありますか?

 オーディションに落ち続けると「もうお芝居なんてやめてやる!」と思うんですけど、映画を観て「こういう役をやれたらいいな。頑張ろう」という気持ちになって、結局はお芝居に助けられることの繰り返しでした。

――どんな映画を観て持ち直したんですか?

 私は『レオン』が大好きなんです。ナタリー・ポートマンさんが演じたマチルダを観て、髪型をボブにしたくらい(笑)。あのときのナタリー・ポートマンさんは12歳か13歳だったのかな。私がその年齢の頃にあんな役が来なかったので悔しくて、「いつかはできたらいいな」と奮起して、お芝居を続けようと思いました。映画に救われることは本当に多いです。

――「やめてやる」は真剣なレベルで思ったんですか?

 本気で思った時期もあります。このお仕事自体が自分に合ってない気がしたり、オーディションに受からなくて「必要とされてないならいいや」と考えてしまったり。中学生から高校生になるタイミングとかで、そういうことがありました。

――傍から見ている分には、コンスタントに出演作が続いている印象でした。

 そう思われますけど、私自身は劣等感にまみれていて。

――でも、結局は踏み留まって。

 お芝居が好きなのと、自分のお芝居を認めてくださったり、求めてくださる方がいると「私はここにいてもいいんだ」と、存在意義を確認できました。

――この『森の中のレストラン』に来年3月公開の『なのに、千輝くんが甘すぎる。』と、ヒロイン役が続きます。

 ヒロインに憧れはありました。でも、いただく役の番手を気にしたことは、あまりないかもしれません。お芝居をすること自体が楽しいので。撮影で忙しくて参ってしまいそうなときのほうが、生き生きしているんですよね(笑)。

台本の読み方を学んだら世界が広がりました

――まだ20歳ながら子役からのキャリアは長い中で、演技に対する考え方が変わったりはしましたか?

 中1のときに今の事務所に入って、お芝居の先生に出会って、台本の読み方をきちんと学んでから、世界が広がりました。紙1枚の台本でも、狭かった自分の世界がこんなに展開できるんだとわかって、お芝居がすごく楽しくなりました。

――それまでとどう変わったんですか?

 小学生の頃は、台本は自分の役の台詞とト書きしか読んでいませんでした。前後はすっ飛ばしていて。だから、そこに書いてあることしか理解できなかったんでしょうね。今振り返ると、何てことをしていたんだと思いますけど(笑)、自分が出てないシーンまで全部読み込んで役を理解する大切さに気づきました。

――監督か誰かに言われて、演技の指針になったようなこともありますか?

 監督ごとにいろいろなスタイルがありますから、その都度、要求されるものを表現できるようにならなければと思います。自分が柔軟でいることを、どの作品でも意識しています。

大きい波風の立たない日本の映画が好きです

――映画は今もよく観るんですか?

畑 大好きです。最近だと『ボイリング・ポイント 沸騰』というイギリスの映画が面白かったです。クリスマス前のレストランのお話で、90分ワンカットなんです。私、90分の映画は観やすくて好きなんですけど、それに加えてワンカットだから、劇場で観ても臨場感が伝わってきて。すごくワクワク、ドキドキしました。映画の良さはこういうことだなとも感じました。

――演じる役者さんたちは大変だったかと。

 きっとたくさんリハーサルを重ねて、一度でもNGを出したらダメというプレッシャーがあったでしょうね。でも、そういうことを考えて観ると、映画が面白くなくなってしまいそうだったので。

――好きな映画の傾向もありますか?

 ずっと洋画ばかり観ていましたけど、最近は邦画もよく観ます。山戸結希監督の作品とか、清原果耶さんと成田凌さんの『まともじゃないのは君も一緒』とか、大きい波風が立たない映画も好きです。

――日常を描いた作品ですか。

 サスペンスも大好きなんです。『容疑者Xの献身』はもう何回観たかわからないくらいですし、事件が起きて大どんでん返しがある映画も好きですけど、日常がヌルッと流れるような作品もいいですね。

――そこは邦画らしいところでもあって。

 そういう作品に自分が出たい憧れもあります。

最後の晩餐ならスイーツを取り寄せます(笑)

――『森の中のレストラン』の取材で毎回聞かれたかもしれませんが、自分の最後の晩餐には何を食べたいですか?

 おにぎりと豚汁、と答えていますけど、デザートもありなら、福岡にどら焼きに生クリームとイチゴのあまおうが入っているスイーツがあって。それがいいかな。

――東京では食べられないんですか?

 そうなんです。福岡に遊びに行ったときに食べたら、すごくおいしくて! スイーツは普段も週1回くらい、自分へのご褒美で食べる必需品なので。最後の晩餐にも取り寄せて、デザートにしたいです(笑)。

撮影/S.K.

Profile

畑芽育(はた・めい)

2002年4月10日生まれ、東京都出身。

1歳から芸能界で活動。主な出演作はドラマ『99.9-刑事専門弁護士-』、『荒ぶる季節の乙女どもよ。』、『青天を衝け』、『プロミス・シンデレラ』、『純愛ディソナンス』、映画『ショコラの魔法』、『劇場版 仮面ライダーゼロワン REAL×TIME』など。11月19日より公開の映画『森の中のレストラン』、12月30日放送のドラマ『まんぞく まんぞく』(NHK BSプレミアム)、2023年3月公開の映画『なのに、千輝くんが甘すぎる。』に出演。

『森の中のレストラン』

監督/泉原航一 脚本/幸田照吉

出演/船ヶ山哲、畑芽育、森永悠希、染谷俊之、奥菜恵、佐伯日菜子、谷田歩、小宮孝泰ほか

11月19日よりK'sシネマほか全国順次公開

公式HP

人里離れた森の中にあるレストラン。三ツ星フレンチの名店で腕を磨いた瀬田京一(船ヶ山哲)の料理が評判を呼ぶ一方、森で命を断とうとする者が“最後の晩餐”を求めてやってくるという噂があった。ある日、絶望を抱えた少女・小島紗耶(畑芽育)がこの森へ足を踏み入れる。

(C)森の中のレストラン製作委員会2022
(C)森の中のレストラン製作委員会2022

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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