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スキャンダルで炎上して芸能界を追放された女優の再起は? モデルから初主演の田中芽衣が投影したもの

斉藤貴志芸能ライター/編集者
ヘア&メイク/長坂賢 スタイリング/山田莉樹(とこしえ提供)

『梅ちゃん先生』や『特命係長・只野仁』などの脚本を手掛けた尾崎将也が監督も務めた映画『炎上シンデレラ』が本日から公開される。スキャンダルで炎上して芸能界を追われた女優役で主演するのは人気モデルの田中芽衣。つかみどころのない役柄だが「自分に似ていた」という。華やかに見える活動の裏で葛藤した日々のことも語ってくれた。

小さい頃にドラマのシーンをマネしていました

――映画は自分でもよく観ますか?

田中 観ますけど、割合的にはドラマのほうが多いかもしれません。韓国ドラマをよく観ていて、ハン・ソヒさんが大好きで、『夫婦の世界』や『マイネーム』が面白かったです。私はモデルなので、ドラマや映画でもファッションやメイクに注目しているんですね。『夫婦の世界』はファッションもすごくかわいくて、そういう点でも好きなドラマでした。

――モデルとしてデビューしつつ、女優をやりたい意欲も早くからあったんですか?

田中 モデルの仕事が何より好きですけど、芸能界全般に興味があって、演技にも挑戦したいとずっと思っていました。母がドラマを好きで、小さい頃から一緒に観ていて、好きなシーンをマネしていたんです(笑)。

――どんなドラマのどんなシーンを?

田中 松嶋菜々子さんの『救命病棟24時』を観て「お医者さんはカッコいい」と思って、人形を使って手術のシーンをしたり(笑)。あと、『メイちゃんの執事』とか『ライフ』とか学園ものも好きでした。

――『ライフ』はいじめの話でした。

田中 そういう印象的な役どころを楽しそうに思って、家でマネして「ママ、見て」とやってみては、笑われていました(笑)。

衣装協力/モールド(03-6805-1449)=シャツ¥37400、タートル¥23100、パンツ¥44000。リューク(info@rieuk.com)=イヤカフ¥33000、ネックレス¥60500
衣装協力/モールド(03-6805-1449)=シャツ¥37400、タートル¥23100、パンツ¥44000。リューク(info@rieuk.com)=イヤカフ¥33000、ネックレス¥60500

毎回新しい自分を発見できています

――演技も好きな根っこがあったわけですね。

田中 そうですね。あと、歌やダンスも好きでした。『ミュージックステーション』は毎週観て、E-girlsさんとかの振りを覚えて踊っていて。何より安室奈美恵さんが私の人生のミューズみたいな感じで、ライブDVDを観ながら歌っていましたね。

――田中さんの女優デビューは、中学生の頃に出演したドラマ『天皇の料理番』でした。

田中 あの頃はまだ熊本から通っていて、知らないことが多すぎて、緊張と不安が大きかったです。

――何かの作品で意欲が高まったり?

田中 毎回「こういう自分がいるんだ」と発見できて、楽しい感覚を積み重ねて、今も続けている感じです。いまだに毎回緊張しますけど、撮影に入ってしまえば「やるしかない」というモードになります。

――演技レッスンを受けたりはしました?

田中 受けてないです。全部現場で学んでいます。

クオリアム提供
クオリアム提供

泣いて帰って玄関で寝てしまったことも

――田中さんは中学生のときに、SNSからスカウトされてモデルデビュー。女優の他にも、写真家やアパレルブランドでの活動もしていて。人生スイスイ来ている感じですか?

田中 そんなことないです。下積みの読者モデルの頃は熊本に住んでいましたけど、編集部の方には関係ないから「あさって表参道でスナップです」とか言われるわけです。洋服も準備しないといけないし、飛行機やホテルの手配もパソコンを見て、母と泣きながらやっていました。このお仕事で頑張ろうと決めて、高校生になって上京してからも、知らない土地で友だちもいなくて。熊本人からすると、都会は外に出るのも怖かったです。

――東京に馴染むのに時間がかかったと。

田中 電車がわからなくて大変でした。山手線の原宿駅と地下鉄の明治神宮前駅ってどういう繋がり? とか。新宿はいまだにちょっと迷いますね。そんな中で雑誌の撮影がうまくいかなくて、駅から家まで泣きながら帰って、そのまま玄関で寝てしまったこともありました。起きたら朝になっていて……。悲しいことを口に出すと、余計に悲しくなってしまうので、あまり言わなかったんですけど、葛藤していた時期は長かったです。上京して7~8年で最近やっと、いろいろなものに慣れてきました。

――モデルとして努力していたことも?

田中 ほぼすべての雑誌を買って、こういう服が流行っている、こういうポージングの見せ方がきれい……というのを切り抜いて貼ったブックが、今も家にあります。

(C)クエールフィルム
(C)クエールフィルム

自分で何が本当かわからなくなったことはあります

尾崎将也の3本目の監督作となる『炎上シンデレラ』。初主演映画の撮影中にスキャンダルを起こして炎上し、表舞台から追放された女優の安西みつほ(田中)。メイキングを撮影していた田代良一(飯島寛騎)は、いつか彼女を主役に映画を撮りたいと夢見ていた。1年後に偶然再会した2人に、小劇団を主宰する山倉賢太(大河内健太郎)が割り込んでくる。

――『炎上シンデレラ』の主役は、どういう流れで決まったんですか?

田中 オーディションに行きました。台詞の台本を見て、何となくやりやすい感じがして、終わったあと、マネージャーさんに「受かった気がする」と言ったんです。そしたら、本当に受かりました。不思議なことに。それから監督といろいろお話しさせていただいて、私に合わせて台本を改訂していただきました。

――みつほはやりやすい役だったと?

田中 そうですね。年齢だったり、女優を目指しているところだったり、自分と共通点が多かったので。

――でも、みつほは掴みどころがない役でもありませんでした? どこまで本当なのかわからないというか。

田中 そこも上京した頃の私に似ているなと思いました。ちゃんとしたいばかりに、その場をうまく切り抜けようと、ウソをついているつもりではないけど、本心と裏腹のことを言ってしまう。自分でも何が本当かわからなくなった経験はあるので、やりやすかったのかもしれません。

あざとさを表現するのはモデルの仕事と繋がって

――みつほが表舞台から消える原因になった大麻パーティーも、なぜあの場に留まったのか、結局よくわかりませんでした。

田中 あのシーンは何テイクか撮る中で、自分にも何コかの感情が出てきました。ひとつの理由ではないと思うので、観る方それぞれに受け取ってもらえたら。

――みつほはあざとい感じもしました。

田中 そこに関しては、監督と話し合いました。モデルのお仕事でも、かわいい系、クール系とかファッションによって、ポージングも変わってくるんです。それがお芝居とリンクしました。あざとさを表現するのに、両手で頬杖をついたり、小首をかしげたりするのは、自分の感覚でできました。

――喫茶店でみつほが変わったぬいぐるみを席に持ってきたのも、ひとつのキャラ付けだったんですか?

田中 何を持つかという話になって、みつほのちょっと不思議なところを表すには、あれがいいとなりました。

――現場で決まったんですね。

田中 そうです。いろいろコミュニケーションがあって、私のアイデアも聞いていただきながら、みんなで役を作り上げた感じがします。皆さんのイメージを私がギュッとまとめて表現するような現場で、今まで出演した作品の中で一番ホーム感がありました。

何を考えているのかわからない感じにしたくて

――田中さんがアイデアを出したことも?

田中 さっきお話ししたあざとさの表現もそうですし、何を考えているかわからない感じにしたかったので、台詞を「ここまで言わなくていいと思います」と変えてもらったりもしました。飯島さんとも「みつほならこう座りそう」とか話しました。すごく役を作ってらっしゃったので、私もやりやすくて助かりました。

――田中さんも作っておいたことはありました?

田中 みつほは台詞がそこまで多くない分、クセを作ったらわかりやすいかなと思いました。顔の角度とか、肘の付き方とか。心理面や台詞に関しては、私がまだ苦手な部分なので、監督やスタッフの皆さんのアドバイスをいただきました。でも、表情やポーズに関してはモデルでやってきた自信もあったので、自分から提案していきました。

――悩んだ場面はありませんでしたか?

田中 あったと思いますけど、序盤でわからないことは全部監督と話して、スルッとやれました。今までの作品で「どうだろう?」と不安なままやると、うまくいかないことが多かったんです。今回は初主演で、わからなければどんどん聞くスタンスでいきました。意見を柔軟に取り入れられるように、いい意味で準備しすぎず、考えすぎないようにしていて。

誰かの人生を生きる楽しさを初めて感じました

――今後も幅広いジャンルで活動していくんですか?

田中 いろいろやりたいです。10代のときに上京して、波はありながらも走り続けてきて、コロナ禍で一度お休みになったとき、自分を見つめ直したんです。人生でこのお仕事しかしたことがないので、それだけでいいのか。このまま続けていけるのか。あれこれ考えて、結局は表現することが好きなんだと再確認できました。モデルもお芝居もカメラも、歌やダンスも全体的に好きで、ずっと続けていけたらと改めて思いました。

――原点に戻った感じ?

田中 お芝居に関しては今まで、正直不安が大きくて前向きになりにくいところがあったんです。でも、『炎上シンデレラ』で1人で抱え込まず、皆さんと協力して作り上げることによって、自分でない誰かの人生を生きる時間が楽しいと初めて感じました。

――さらに新たに取り組もうとしていることもありますか?

田中 新たにというより、小さい頃はクラシックバレエと社交ダンスをやっていて、最近はポップ系のダンスのレッスンに自分で先生を探して行っているんですね。それをアーティストっぽくやるのでなくて、歌やダンスを見せる作品に挑戦したいです。

――ミュージカルということですか?

田中 というより、歌手を目指すようなストーリーで歌ったり踊ったりできたら、面白そうだなと。本物の歌手にならなくていいんです。でも、ダンスは得意で、歌も昔から安室さんを聴いてきて、音感みたいなものは何となくある気がします。いつか作品の中で披露するのが、ちょっとした目標です。

悩んで空回りするより考えすぎずに楽しく

――劇中で飯島さんが演じた田代が「思考は現実化する」と言っていました。その言葉を田中さんはどう思いました?

田中 すごく共感します。私もお仕事を始めてからずっと、思い描いたことを口にしたり想像を膨らませたら、現実になってきたので。このオーディションを受けて、いけそうな気がしたのもそうでした。逆に言うと、想像できないことをやると、だいたい失敗するんですよね。

――人生のモットーはありますか?

田中 座右の銘とかはないですけど、何ごとも前向きに楽しみます。落ち込む日があっても、「今回ダメだったのなら、次はもっとうまくできる」と考えるようにしていて。感情を使うお仕事をしているので、楽しさも大きいけど、悲しさも深くなりがちなんです。そこで悩みすぎないことが大事かなと。

――夜中に1人で泣くようなことはないと。

田中 そういうときもありますけど、泣いても「次は楽しもう」と思うことにしています。10代の頃、悩んで空回りしたことがありすぎて。大人になった今は、何も考えずに楽しくやったほうがうまくいくとわかりましたから。

Profile

田中芽衣(たなか・めい)

2000年1月28日生まれ、熊本県出身。

2014年にティーン誌でモデルデビュー。2015年にドラマ『天皇の料理番』で女優デビュー。主な出演作はドラマ『こんな未来は聞いてない!!』、『放課後ソーダ日和』、『新米姉妹のふたりごはん』ほか。11月4日より公開の映画『炎上シンデレラ』に初主演。

『炎上シンデレラ』

監督・脚本/尾崎将也 出演/田中芽衣、飯島寛騎、横田真悠、大河内健太郎ほか

11月4日より池袋HUMAXシネマズほか全国順次ロードショー

公式HP

(C)クエールフィルム
(C)クエールフィルム

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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