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東京国際映画祭で観客賞。『窓辺にて』で稲垣吾郎の心を動かす玉城ティナ。完璧美女が恋愛に求めるものは?

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/S.K.

東京国際映画祭に出品されて観客賞を受賞した『窓辺にて』が公開される。穏やかな流れの中で、ひと筋縄でいかない恋愛の機微を描いた作品で支持される今泉力哉監督の17作目。稲垣吾郎が演じる主人公の心を動かす高校生作家役で、玉城ティナが出演している。華やかな佇まいが今泉作品にどう溶け込んだのか。恋愛映画について思うことも含めて聞いた。

変に目立ってしまうかなと思っていました

――今泉力哉監督とは以前から面識はあったそうですね。

玉城 私が10代の頃、オーディションで審査員をされていたり、作品を観させていただいて何人かでお話しさせてもらったことがありました。でも、今泉監督の世界観の中に私がいるのは、考えたこともありませんでした。

――監督のどの辺の作品をご覧になったんですか?

玉城 わりと初期の作品です。『愛がなんだ』も観ましたけど、もっと前の『こっぴどい猫』とか。テイストは初期の頃からそんなに変わってなくて、会話劇のニュアンスがありつつ、今よりクスッとさせる印象でした。

――日常を切り取ったような作風と、よく言われますよね。

玉城 実際にお仕事させていただくと、特別な演出をされることはなくて。脚本もご自分で書かれているので、そこに込められる方なのかなと思いました。

――ある美形の女優さんが言っていたのは「今泉監督の作品が好きだけど、自分は顔がうるさいほうなので世界観に馴染まなそう」と。玉城さんが「中にいるのは考えたことがない」とおっしゃったのは、同じような理由で?

玉城 変に目立ってしまうかな、というのはありました。今の自分の感じだと、今泉監督のど真ん中の作品には合わないかなと。でも、『窓辺にて』では実年齢よりだいぶ若い高校生作家というキャラクターで、監督が私にわりと近いイメージを持ってくださったように思いました。

反発心と自分の正義を持つのは10代で通る道

『窓辺にて』で玉城が演じたのは、高校生作家の久保留亜。フリーライターの市川茂巳(稲垣吾郎)は文学賞の会見で彼女と出会い、受賞作にモデルがいるなら会わせてほしいと願い出る。市川は編集者である妻・紗衣(中村ゆり)の不倫に気づきながら、自分に何の感情も湧かないことにショックを受けていた。

――今泉監督は留亜役について、玉城さんと「重なる部分があるようにも思えた」とコメントされています。

玉城 どの辺が重なるのかはいまだに聞いていません。やりながら自分で探したほうが、お互い良さそうな感じだったので。どんな役でも自分とは違うのを前提に演じますけど、留亜はいわゆるキラキラ高校生みたいなキャラクターでもないし、トーンは近いのかなと思いました。

――演じたうえで、監督の印象と合致するかは別にして、自分ではどんなところが重なると?

玉城 私も文章を書くのは好きなのと、何となく自分と似たエッセンスはあった気がします。具体的に「ここが」とは言えませんけど、台詞や留亜が書いた設定の小説の言葉にそう感じることがありました。

――文学賞を受賞した記者会見での伝わらなくてもどかしい感じは、感性が人より鋭そうな玉城さんも覚えがありませんでした?

玉城 私たちの仕事では、ある意味、正解に導かれるような発言をしないといけなくて。そこに向かっていく道筋を作られているような場面も多くて、私もああいう記者会見は得意ではないです。留亜はそこでふて腐れた10代に見えたほうが、今後の展開を踏まえると良いかなと思って、「早く帰りたい」くらいの感じを心掛けました(笑)。私はわざわざ反論するようなことはしませんけど、あの年代ならではの反発心と自分の正義がある感じは、通る道なのかなと思います。

普通の会話に見えるように間も恐れないで

――今泉監督の作品に出演した女優さんから、「力んで芝居すると浮く」「台詞を台詞として言うとダメ」という話をよく聞きます。玉城さんもそういうことは感じました?

玉城 私は全然感じなかったです。今泉監督の作中では、普通という枠からちょっとハミ出た人たちが集まった印象がありますけど、私は逆に、自分の普通の演技がわからなくて。ただ、台詞っぽく言葉を立ててしゃべると目立ってしまう、というのはありました。稲垣さんや彼氏役の倉(悠貴)さんとのバランスを探る感じで、世界観に馴染もうとはあまり考えてなかったかもしれません。

――今泉組の現場ならではのことはなかったですか?

玉城 とにかく会話劇なので、ちゃんと会話に見えないと、つまらないだろうと思いました。ちょっとした間を恐れない。実際の会話で考えながらしゃべっていたら、そういう間は起こるので。食い気味にいかないことは気をつけました。だから、穏やかに話しているように見えて、内心タイミングとかをすごく考えていて。そこで表情を変えずに演じ続けるのは、この現場が初めてでした。

――台詞は量も多くて、長回しもあったようですね。

玉城 とりあえず全部長回しで、最初から最後まで撮っていました。私は慣れると、やりやすかったです。「振り向いてそこから」という方法でなくて、劇中と時間の流れが合っていて。もちろん台詞を全部入れておくという最低限のことができてないと、成り立たない現場でした。

すべては時間と同じように通り過ぎていくと思います

――作品自体のテーマにもなっている“手放す”ことについても、何か考えました?

玉城 留めておけるものなら留めておきたいことはあっても、月日も人との関係性も結局は通り過ぎてしまうものなのかなと思います。

――手放したくなくても。

玉城 すべては流れていく。時間と同じようなもの。所有できるのは自分自身くらいしかない気がします。この映画の中でも「手放そう」という意志表示は特に感じませんでした。自然な流れで原理みたいなニュアンスというか、繋ぎ止めようとすることのほうが不自然。そこで思い出が全部消えるわけでもないでしょうし、手放したところで人の本質は何も変わらないと思います。

――高校生役という部分で、気を配ったこともありました?

玉城 「こういうもの」と思ってやると、たぶん違うものになるので、特定の高校生像は持ちませんでした。留亜として、会見の場ではふて腐れた感じだけど、相手が市川さん1人だと何でもしゃべる。純粋なやさしさが出た一方で、人を利用しているところも若干見えて。振り幅のあるキャラクターなので、演じ分けには気をつけました。あまりスンとした子には見られたくなくて、笑顔を見せようというのはありました。

衣装協力/イザ(コート)=ワンピース(97,900円) 東京都港区南青山5-12-2 vendome yamada east bldg.5F(0120-135-015)
衣装協力/イザ(コート)=ワンピース(97,900円) 東京都港区南青山5-12-2 vendome yamada east bldg.5F(0120-135-015)

17歳の役で過ぎたものの箱を開けるように

――市川に彼氏と別れた話をして泣くところは、ただの子どものようでした。

玉城 手が届かないものに対して悩むことに慣れていない感じとか、バランスが難しかったですね。監督を見ても何も言ってくれないので(笑)、大丈夫ということだと思いながらやっていました。

――玉城さんには、あんなふうに「もうやだ!」と言って泣くイメージはないかも。

玉城 そんなこともない……と言うのも変ですけど(笑)、そういうふうに見えるだけだと思います。

――自分が17歳の頃を思い出したりもしました?

玉城 感覚として、過ぎたものの箱を開けて探るようなことはしました。実年齢が17歳のときに17歳の役をやるより、過去になった今のほうがやりやすかったかもしれません。

ドラマチックな恋愛を欲してはいません

――以前、好きな映画監督にデヴィッド・フィンチャーとかイ・チャンドンとか、ヒリヒリする作風の人を挙げていましたが、恋愛映画で好きな作品はありますか?

玉城 これというものを挙げるのは難しいですね。パッと浮かんだのは『エターナル・サンシャイン』です。恋人の記憶を消していくというストーリーでしたね。でも、映画を観て「こういう恋愛がしたい」と憧れることは、あまりないです。

――そもそも恋愛映画は観ないとか?

玉城 あえて選ばないことはなくて、普通に観て泣いたりもします。でも、有名な恋愛映画は辛い話が多い印象があって。ずっとハッピーなことがなく、すれ違ったり、生き別れたり。そういうドラマチックなものを、私は欲してはいません。

――玉城さん自身、最近だとドラマ『NICE FLIGHT!』で三角関係的な展開がありましたが、恋愛系の作品への出演は少なめですね。

玉城 めっちゃ恋愛していて揺れ動く女の子は演じたことがないです。キスシーンとかあると角度とか難しくて(笑)、あまり得意でないかもしれません。

意地悪な人でなければいいです(笑)

――玉城さんは外見から何からハイスペックですが、恋愛対象として男性に求めるものも高いですか?

玉城 全然高くないです(笑)。高く見られがちですけど、自分自身が穴だらけで、条件をあれこれ付けることはないです。

――ベタな質問ですが、好きな男性のタイプというと?

玉城 意地悪でなければ(笑)。変な駆け引きみたいなことは、面倒くさいなと思ってしまいます。だから、わかりやすい人がいいですね。一般的なわかりやすさではなくて、私にとってわかりやすければ。そこが難しいところですけど。

――見た目は玉城さんと釣り合うくらいでないと?

玉城 釣り合うとか、全然考えません(笑)。

――『窓辺にて』では留亜の出ていないところで、大人たちの不倫絡みの話が描かれていました。

玉城 役として前後は気にしないほうがいいかなと思って、台本も一回通しで読んだあとは、自分以外のシーンは読まないようにしていました。出来上がって観たら、別軸でドロッとしたものがいろいろあったんだなと。改めて、そこは考えないほうがやりやすい役だったと感じました。

――それこそ駆け引きが面倒くさそう?

玉城 そうですね。でも、この作品では、あまり感情的になってないところが好きでした。別れる、別れないで感情的になっているのを見せられると、そういう手法の作品もありますけど、私は疲れてしまうので。今回の夫婦たちは無理して普通に話している感じとかに、より寂しさが出ているように思いました。

20代前半とはきちんと変えていかないと

――玉城さんは先月25歳になりました。区切り感はありますか?

玉城 25歳だからこうしよう、とまでは思いませんけど、すぐ30歳になるんだろうなとは感じています。

――20代後半は人生のどんな時期になりそうですか?

玉城 あまり何をしようとか決めてはいません。いろいろな縁をいいタイミングですくい上げられればと思います。

――手放すものは手放しつつ?

玉城 20代前半とは、何かしらきちんと変えていかないといけないでしょうね。何をどう変えていくかは、まだこれからです。

撮影/S.K.

Profile

玉城ティナ(たましろ・てぃな)

1997年10月8日生まれ、沖縄県出身。

2012年に「ミス iD」で初代グランプリ。同年に14歳で『ViVi』の最年少専属モデルに。2014年にドラマ『ダークシステム 恋の王座決定戦』で女優デビュー。主な出演作は映画『Diner ダイナー』、『惡の華』、『地獄少女』、『ホリック xxxHOLiC』、『グッバイ・クルエル・ワールド』、ドラマ『荒ぶる季節の乙女どもよ。』、『極主夫道』、『鉄オタ道子、2万キロ』、『NICE FLIGHT!』など。1月6日公開の映画『恋のいばら』に主演。『玉城ティナとある世界』(ニッポン放送)でパーソナリティ。

『窓辺にて』

監督・脚本/今泉力哉 出演/稲垣吾郎、中村ゆり、玉城ティナほか

11月4日より全国ロードショー

公式HP

(C)2022「窓辺にて」製作委員会
(C)2022「窓辺にて」製作委員会

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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