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NMB48卒業から3年の太田夢莉。孤高のスナイパー役に重なったアイドル時代の荒んでいた自分とは?

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)浅井蓮次・沢田新・小学館/『バイオレンスアクション』製作委員会

NMB48でセンターも務め、3年前に女優を目指して卒業した太田夢莉。この2年で8本もの舞台に出演して、2.5次元の大作で主演も務めている。19日公開の映画『バイオレンスアクション』では、橋本環奈が演じる殺し屋の仲間のスナイパー役。もともと「演技に一切興味がなかった」という彼女が打ち破ってきたものとは?

台詞は覚えてからがスタートでした

――去年から舞台出演が続いていますね。

太田 ありがたいことに。稽古で演出の方に教えていただいたり、お客さんの前に立ってお芝居することで、一番勉強になる場所だと思っているので、舞台はたくさんやっていきたいです。

――どんなことが舞台で身に付きましたか?

太田 初めは舞台って、長い台詞を覚えるのが大変だと思っていました。でも、実際にやってみたら、覚えてからがスタート。台詞の意図、行間にある想い、どういう感情から出た言葉なのか。一番大事なのはそこだと気づきました。

――何回も台詞を練習するより、背景の心情を考えることに時間を割くと?

太田 そうですね。意図をちゃんと考えて言わないと、空っぽの芝居になることを知ったので。あと、舞台ではいろいろハプニングもあるので、対応力が付きました。先月の『はめふら(乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…)』の舞台でも、大事なシーンで噛んでしまって、すごく落ち込んだんですね。やり直したい、時を戻したい……。でも、「それが舞台だから」と共演者の方に言っていただいて、救われました。「生でやっているんだから、毎回同じ芝居はできない。ミスも含めて舞台なんだよ」と。それで、ミスも楽しめるようになろうと思いました。

どんくさいところがアニメのキャラと同じで(笑)

――『はめふら』はアニメで人気を博した作品ですが、主人公のカタリナをイメージ通りに演じられました?

太田 原作ファンもすごく多いし、カタリナはアニメでは大人気声優の内田真礼さんが演じられていて。初めての2.5次元の舞台で、「全然違う」とか批判されたらどうしよう……とすごく不安でした。でも、幕を開けたら、意外と「カタリナだった」と言っていただくことが多くて。

――良いお芝居だったということですよね。

太田 どうですかね。私も結構どんくさくて、稽古中も何もないところでコケたりしていたので(笑)、演出家さんに「カタリナっぽい」と言っていただけました。ゲネプロでも舞台裏から出ていくとき、壁にボーンとぶつかったり(笑)。そういうカタリナと一緒なところを誇張して演じたので、やりにくさは感じませんでした。

Showtitle提供
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次の目標が見つかったらグループはすぐ卒業しました

――夢莉さんはNMB48時代、『ミナミの帝王ZERO』のヒロイン役でドラマに初出演して、いきなり女優スイッチが入ったんですよね?

太田 あの作品に出させていただくまでは、お芝居したい気持ちは一切ありませんでした。演技経験もなかったので、撮影に入る前に監督と練習をしたんですね。「違う!」「ダメ!」と、どストレートに怒られまくりましたけど、「今日は何点」と毎回点数を付けてくださって。ヘタクソなりに、できなかったことが徐々にできるようになる感覚は、女優のお仕事ならではと思いました。

――演技自体にも面白みは感じました?

太田 自分でない人になるのに、自分の感情を使うのが、何か不思議でした。ひとつの作品が終わったときの達成感もすごくて。アイドルは一生はできないから、次の道を考えたとき、「女優だ!」と。

――初ドラマからわりとすぐ、卒業を発表しました。

太田 ドラマを撮影したのが19歳のときで、その年のうちに卒業しました。ちょうど「そろそろ……」と考えていたので、次の目標が見つかった瞬間、すぐ事務所の人に「卒業します」とお伝えして。アイドルは小学6年生から十分やったので、ためらいはなかったですね。

映画の見方が完全に変わりました

――以前は、自分で映画やドラマを観たりもしてなかったんですか?

太田 映画好きの方に比べたら、全然観てなくて。今回の『バイオレンスアクション』に出演するに当たって、演技レッスンを受けたんですけど、そのときの講師の先生に「いろいろな作品を観たほうがいい」と言われました。DVDを渡していただいたりもして、楽しむものだった映画の見方が完全に変わりましたね。「ここでこの表情ができるのはすごいな」と思ったり、勉強しています。

――刺激を受けた作品もありました?

太田 『孤狼の血LEVEL2』の鈴木亮平さんのお芝居がすごすぎて! 映画って、お話の順番通りでなくバラバラに撮るのに、あんなことができるのがカッコ良くて。観終わった後まで、ずっと圧倒されていました。

――『バイオレンスアクション』のために、アクション系の映画を観たんですか?

太田 『孤狼の血』を観たのは撮影した後でした。アクション部の方に「観ておいてください」と言われたのは、韓国の『アジョシ』です。あれもすごかったですね。

(C)浅井蓮次・沢田新・小学館/『バイオレンスアクション』製作委員会
(C)浅井蓮次・沢田新・小学館/『バイオレンスアクション』製作委員会

演技レッスン次第で決まると言われた役です

オンラインアクセス数1000万PV超えの人気コミックが原作の『バイオレンスアクション』。殺し屋のバイトをする専門学生・菊野ケイ(橋本環奈)の仲間で、孤高の天才スナイパーのだりあを太田が演じている。初めてアクションにも挑戦した。

――『バイオレンスアクション』で演じただりあは金髪で、撮ったのは去年1月から放送された『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』と同じ頃ですか?

太田 そうです。金髪の時期に一気に撮りました。監督とはもっと前に、一度面談をさせていただいて。その後、「もしかしたら『バイオレンスアクション』という作品のだりあ役が決まるかもしれない」とお聞きして、演技レッスンに通わせていただいたんです。そのレッスン次第で決める、という流れでした。

――オーディションを兼ねたレッスンだったんですね。

太田 そうです。だりあは大事な役ですし、有名な役者さんたちの中に入ってやることになるので。プレッシャーを感じながらも、原作を読んで「だりあを絶対やりたい」と思っていました。

弱さがあるから強くいられるところに惹かれて

――だりあは過酷な境遇からスナイパーになった役ですが、惹かれるものがあったと。

太田 強い人って、絶対どこかに弱さもあるじゃないですか。だりあはその象徴のようなキャラクターだと思いました。弱さがあるから強くいられる。そういう人間らしさに惹かれました。陰のある役も好きだったので。

――自分にない部分だから?

太田 私はもともと、すごく暗かったんです。お仕事をしていく中で明るくなりましたけど、みんなから陰キャと言わたりもしていたので、だりあと重なりました。

――陰キャでアイドルをやるわけにはいかなかったでしょうからね。

太田 でも、グループ時代も楽屋で1人で音楽を聴いて、「ぼっちや」と言われていて(笑)。アイドルを卒業してからのほうが、明るくなりました。1人になっても人見知りして、共演者の方たちとお話しできないと、作品をやるうえでも良くないので。積極的に会話を心掛けて、最近やっと緊張せず話せるようになりました。

アクションは動きのひとつひとつに意味があって

――アクションにも興味があったんですか?

太田 特別やってみたい想いはなかったです。運動神経が低レベルなので、カッコ良くできない気がしていて。走り方もダサいし、球技全般もダメ。ダンスで体を使っていたから、何とかなるかもしれないと思っていたら、そんな簡単な話ではありませんでした。アクションも台詞と同じように、ただ動けばいいのでなく、ひとつひとつの動きに意味があって。相手の方との呼吸もあるから、自分がひたすら動いてもケガをしてしまうし、こんなに難しいことを俳優さんはやっていたんだと、ビックリしました。

――だいぶ練習したんですか?

太田 はい。アクション部の皆さんと敵役の城田優さんたちと一緒に練習させていただきました。ヘタクソな私に何度もつき合ってくださって。

――最初の頃はどんな感じでした?

太田 普通に立つ姿勢から全然ダメでした。腰を低くすることに、なかなか慣れなくて。アクション部の方に「絶対に筋肉痛になるので、湯船に浸かって体を休めてください」と言われましたけど、本当に腰や脚、太ももとかに来ました。姿勢が悪いと体を痛めるみたいで。でも、「頑張ったな」と思えて良い痛みでした(笑)。

重いライフルを構えて首が取れるかと思いました(笑)

――だりあはナイフを使った攻撃もします。

太田 ナイフは逆手とか向きもありますし、地べたを回転して投げるところは勢いや切れが必要で、難易度が高かったです。

――スナイパーとしてライフルも構えて。

太田 ライフルが重たいんです! 普通に持つ分にはいいんですけど、撮影でずっと構えて、同じ位置をキープするのは大変でした。向きや角度も指示していただいて、首と肩が取れるんじゃないかと思って(笑)。映画でスナイパー役の方が何気なく持っているのを観てましたけど、実際にはこんなにキツいんだと知りました。

――完成披露試写会では、城田さんに飛び蹴りをするシーンで「息子さんが危ない状況がありました」と話していました(笑)。

太田 城田さんは背が高くて脚が長いから、なかなかお腹まで蹴りが届かなかったんですよね。そのイベントのときは、事前に城田さんに「話していいですか?」とお許しをいただきましたけど、ネットニュースで使われたから良かったです(笑)。

演じる役のことは好きな食べ物まで考えました

――だりあのキャラクターについても掘り下げたんですか?

太田 演技レッスンの先生と、だりあのバイオグラフィーを作りました。どうやって生きてきたのか、家族とはどんな関係だったのか。そういったことから、好きな食べ物は何なのか、とか。そんなの映画では描かれませんけど、滲み出るものはあるので。自分の演じる役のことは自分が一番わかってないといけないから、明確にしておいたんです。

――役のたたずまいを作るうえで、大事なことなんでしょうね。

太田 「私はだりあ」と自分に思い込ませて、安心して現場に行くことができました。

――それで、だりあの好きな食べ物は何だと?

太田 ウイダー(inゼリー)と書きました(笑)。ごはんには絶対興味がなくて、必要最低限のものでいいんだろうなと。あとは、サラダチキン。食べられれば何でもいいけど、筋肉に利いて体を現状維持できるもの、ということで。

感情を人に見せるのは恥ずかしかったんです

――『バイオレンスアクション』では家探しのくだりで、だりあに「持たなければなくさない。だから、何も持たなかった」という台詞がありました。

太田 その台詞は一番共感しました。私も生きてきて「失いたくないから、持たなければいいや」と思ったりしたので。大事な台詞だし、強い想いがありました。

――夢莉さんはどんなときに、「失いたくないから……」と思ったんですか?

太田 アイドルグループをやっていて、荒んでいた時期がありました。人を信じすぎると裏切られたときに傷つくから、信用しないほうがいい、とか。応援してくださる方には感謝していましたけど、日常生活ではある程度の壁を作っておかないと、何かあったときに怖くて、予防線を張っていたんです。

――恋愛しても、別れるときのことまで考えるタイプとか?

太田 絶対考えます。何でも百歩先まで見ちゃうタイプで、「どうせこうなるから、最初からしなければいい」ということになります(笑)。

――小さい頃からそういう感じだったんですか?

太田 冷めていて、かわいくない子と言われていました(笑)。注射されても、人がコケても黙って見ていて、クリスマスとかにプレゼントをもらってもはしゃがない。感情を誰かに見せるのは恥ずかしいと思っていたので。今、役者の仕事をしているのが不思議です(笑)。

――どこかの時点で、演技での感情表現ができるように?

太田 この『バイオレンスアクション』の演技レッスンは大きかったですね。初めはお芝居がヘタなことが恥ずかしかったんです。それが「アイドルを卒業して2年でできるわけがない。ヘタでもまずは一生懸命やればいい」と、考え方が変わりました。

10年後まで考えてお金を稼ぎたいです(笑)

――劇中でだりあはケイに「ひとつだけ希望を言ってください」と聞かれていました。今の夢莉さんなら、何と答えますか?

太田 イベントで「商売繁盛」と書いたんですけど、お金を稼ぎたいですね(笑)。もしかしたら病気になってしまうかもしれないし、急に芸能のお仕事ができなくなるかもしれない。親のこともあるし、飼っている猫も養わないといけない。だから、いつ何があっても、大丈夫なようにしておきたくて。

――具体的に買いたいものがあるわけではなくて?

太田 親に家は絶対買ってあげたいです。まだ何も恩返しができていないので。あと、自分の家も買いたいです。

――どんな家を買うんですか?

太田 10年経っても、高く売れる家がいいです(笑)。一生その家に住むわけではないので、売るとなったときに、土地の値段が下がってない場所に買うと決めています(笑)。

――本当に先々まで考えているんですね。

太田 自分の良くないところかもしれませんけど。お金持ちになって、家も車もあって、犬も猫もいたとしても、孤独に見える人っていませんか? 何でも手に入って欲がなくなっても、それはそれで悲しいと思うので、欲の多い今が幸せなのかもしれません。

バッドエンドがリアルで好きです

――芸能界での自分の将来も、先々まで見据えているんですか?

太田 それが自分の仕事に関しては、1年後や2年後にどうなっているのか、まったくわかりません。とりあえず今を生きる感じですけど、焦りが抜けなくて。私の同世代は、中学生や高校生、あるいは子役からやってきて、活躍している方が多いので。相談して助けてもらいながら、自分の経験値を積み上げているところです。

――『バイオレスアクション』では、1歳上の橋本環奈さんにも相談したり?

太田 環奈ちゃんは見ていて、すごく勉強になりました。アクションも経験あるからササッとこなされるし、レベルが違うと思いました。

――夢莉さんが目指す女優像もあるんですか?

太田 女優さんというより、映画の『ダンサー・イン・ザ・ダーク』がすごく好きなんです。定期的に観返していて、そのたびに気持ちが落ち込むので、あまり観ないようにしていますけど、あのビョークさんは好きです。

――深くて重い映画でした。

太田 これも演技レッスンの先生に「どんな映画が好き?」と聞かれて、「バッドエンドです」と言ったら、いっぱいDVDを集めてくださって。その中で一番好きだったのが『ダンサー・イン・ザ・ダーク』でした。バッドエンドの代表作みたいな感じで。

――なぜバッドエンドが好きなんですか?

太田 幸せになったら、面白くないと思ってしまいます(笑)。バッドエンドのほうがリアルじゃないですか。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』も観ていて「こうなってほしい」という願いがどんどん裏切られますけど、そうなるのがおかしくない展開なので、引き込まれるんですよね。

20歳を過ぎて自分の体を労わるようになりました

――自分の人生はバッドエンドでないほうがいいですよね(笑)。

太田 お願いだから、ハッピーエンドになってほしい(笑)。でも、何がハッピーなのかもわからなくて。安定したい気持ちもあれば、安定したくない気持ちもあります。

――イチ女性としての将来の展望はあるんですか?

太田 10代では体の不調はなかったんですけど、20歳を過ぎて体質が変わってきた感じがして、自分を労わろうといろいろ気をつけるようになりました。20歳、21歳とお酒を覚えたての頃はいっぱい飲んでしまっていたのを、最近はほどほどにしています(笑)。あと、お風呂に毎日浸かったり、野菜を食べたり、水をよく飲むようになりました。

――いいことですけど、22歳で10代の頃とそんなに変わりました?

太田 疲れが取れにくくなったかもしれません(笑)。もともと寝つきが悪いんですけど、よく寝たら次の日の仕事や稽古が快適なので、人間やっぱり寝ないとダメだと、今さら気づきました。

――階段を昇ると息が切れたりは?

太田 ゼエゼエします(笑)。私より年上のマネージャーさんがスタスタ行って、私はヘバって「待ってくださ~い!」みたいな。舞台もあるので体力を付けないといけなくて、筋トレもしますけど、舞台が終わるとサボってしまって(笑)。いい役者になるのも体がベースだから、頑張ります!

Profile

太田夢莉(おおた・ゆうり)

1999年12月1日生まれ、奈良県出身。

2011年にNMB48の3期生オーディションに合格。2019年に卒業し、女優としての活動を本格的にスタート。主な出演作は、ドラマ『ミナミの帝王ZERO』、『日暮里チャーリーズ』、『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』、映画『せみのこえ』、『ブレイブ 群青戦記』、舞台『AI懲戒師・クシナダ』、『陰陽師 生成り姫』、『フラガール-dance for smile-』、『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』THESTAGEなど。8月19日より公開の映画『バイオレンスアクション』に出演。朗読劇『アルバート家の令嬢は没落をご所望です』(9月3・4日/ところざわサクラタウン ジャパンパビリオン ホールA)に出演。

『バイオレスアクション』

監督/瑠東東一郎 脚本/江良至、瑠東東一郎

8月19日より全国公開

公式HP

(C)浅井蓮次・沢田新・小学館/『バイオレンスアクション』製作委員会
(C)浅井蓮次・沢田新・小学館/『バイオレンスアクション』製作委員会

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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