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メジャーアイドルと地方・地下アイドルの紙一重~3年ぶり夏開催のフェスTIFにて~

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)2022 TOKYO IDOL PROJECT

「日本初のアイドルに特化した大規模フェス」として2010年よりスタートした「TOKYO IDOL FESTIVAL」がこの5~7日の3日間、3年ぶりに夏に開催された。近年、アイドルシーンが停滞しグループの解散も相次ぐ中、知名度のあるアイドルが少なくなった印象があった。一方、地方アイドルや地下アイドルでも個々のメンバーでは、メジャー勢との差は紙一重かもしれないとも思わせた。

アイドル戦国時代に始まり来場者は9万人に

 TIFが初開催されたのは、アイドル戦国時代の最中の2010年。大ブームを起こしていたAKB48の対抗馬的な存在でフジテレビ発のアイドリング!!!(朝日奈央らが在籍)がホスト役を務め、45組が参加した。会場は品川プリンスホテルを中心としたエリアで、48グループやハロー!プロジェクト勢は不参加ながら、ももいろクローバーなど第三極のアイドルが集結した豪華感があった。

 第2回からは会場を現在のお台場・青海エリアに移し、48グループ、ハロプロ、坂道シリーズも参加するようになっていく。出演するアイドル、来場者数とも年々増えていった。2日から3日開催となった2016年には301組が出演、翌2017年には来場者数が8万人を突破。2019年には約9万人にまで増え、アイドルファンには夏の風物詩となった。

 その一方で、アイドルブームは徐々に沈静化していった。ホスト役のアイドリング!!!は2015年で活動終了。その後も解散するグループが相次ぐ。ブームに乗って参入した大手プロダクションのアイドルほど、ピークアウトと共に撤退も早かった。

 昨年から今年にかけても、アミューズ所属でBABYMETAL、松井愛莉、三好彩花らを輩出したさくら学院、篠原涼子らが在籍した伝説的グループの名を継いだ東京パフォーマンスドール、ももいろクローバーZの後輩で大阪が拠点のたこやきレインボー、テレビ朝日の番組発のラストアイドルらが実質的に解散。プラチナムプロダクショングループ所属でアルバムがオリコン1位になった“ニジマス”こと26時のマスカレイドも、今年10月での解散を発表している。

知名度の高いグループが減って薄れた豪華感

 2020年にはコロナ禍の影響でオンライン開催。昨年は東京オリンピックとの兼ね合いで10月に行われた。そして、今年は3年ぶりに8月の開催に。メンバーの感染による出演キャンセルも少なからずあったが、3日間で230組が参加。約3万人が来場し、オンラインで約2万5千人が視聴している。

 48グループからはキャンセルになったNGT48以外の全グループが出演。乃木坂46の5期生と日向坂46、ハロー!プロジェクトからJuice=Juice、つばきファクトリーらも参加したほか、佐々木彩夏(ももいろクローバーZ)、でんぱ組.inc、声優界からブームを起こしたウマ娘 プリティーダービーといった辺りも名を連ねた。

 だが、全体的には有名どころがだいぶ少なくなった印象。しかも、「バーチャルTIF」などを除く6会場のうち、メジャーアイドルの大多数はメインのHOT STAGE(Zepp DiverCity)での出演のみ。他の会場は知名度だけで言えば、すっかり手薄になったのは否めなかった。

 以前のTIFでは、どの会場でもそれなりに豪華感があり、同じ時間帯でどれを観るか、来場者を悩ますことが多かった。今回はHOT STAGEの入場待ちで常に長い列ができていて、1点集中の様相。やはりメジャーアイドル自体が減ったことを改めて実感させた。

ウマ娘 プリティーダービーのステージ
ウマ娘 プリティーダービーのステージ

札幌から参加の「タイトル未定」のポテンシャル

 とはいえ、TIFはもともと多様なアイドルの見本市との趣旨も掲げている。まだ世に知られていないアイドルから、お気に入りを見つけ出す楽しみもある。過去にはDorothy Little Happyや大阪春夏秋冬など地方が拠点のグループが、TIFをきっかけに全国のアイドルファンに注目されたりもした。

 今年、そういう意味で個人的に惹かれたのが「タイトル未定」という4人組だ。正直まったく知らなかったが、札幌を拠点に2020年から活動していて、公式HPによると「何者かになろうとしなくていい。何者でもない今を大切に。」がコンセプト。それで、このグループ名が付けられたようだ。

 「メインステージ争奪LIVE」に優勝してHOT STAGEにも立ったが、自分が観た別会場のライブでは、1曲目の「鼓動」で機材トラブルがあっため、主催者の計らいで2回歌うことに。清涼感の漂う楽曲と各メンバーのパフォーマンス、ルックスには、15分のステージでグッと引き付けられるものがあった。

 彼女たちが北海道を中心に支持を広げても、全国レベルでメジャーになることはないかもしれない。本人たちがそんな展開を望んでいるのかどうかも知らない。ただ、個々にはメジャーグループに入っても、十分通用しそうに思えるメンバーもいた。15分のステージを観ただけだが、そんなふうに感じられた。

 「だから地元に留まらずメジャーを目指すべき」と言いたいわけではなく、ポテンシャルの話。他の地方や地下系のグループを観ても、同様に「このメンバーならメジャーでも」と感じることは少なからずあった。

橋本環奈も“奇跡の1枚”以前は福岡のいちアイドル

 ラストアイドルの絶対的センターだった阿部菜々実は、もともと仙台が拠点のパクスプエラのメンバー。「兼任可」だったラストアイドルのオーディションに応募したのだが、取材で「地方アイドルさんや地下アイドルさんでも、実力があって、かわいい方はたくさんいます」と話していた。阿部自身が身を持って証明したことだが、本当にそうなのだと思う。

 TIFのステージでも、メジャーアイドルはやはり華やかさが違っていたが、知名度の低いアイドルでも、個々で見れば劣らないメンバーはいる。20分やそこらのステージでわかるものではないだろうが、実際に阿部以外にも、地方や地下アイドルからメジャーグループに入った途端、一気に多くのファンが付いた例はある。

 2日目のHOT STAGEのトリを飾ったのは=LOVE。指原莉乃プロデュースで、シーンが停滞していたここ5年でデビューしたアイドルでは圧倒的な勝ち組だ。オリコン1位を獲得し、日本武道館、横浜アリーナ、幕張メッセと大会場でのライブも満員にしている。

 この=LOVEと姉妹グループの≠MEには、以前地方や地下のグループで活動していたメンバーが少なからずいる。そのうちの1人は、加入当初のSHOWROOM配信で地下アイドル時代を振り返り、「車で大阪まで遠征したのにお客さんが3人しかいなかった」と話していたことがある。今ではそんな話が信じられない人気と輝き。現グループに入ってからの努力もあるにせよ、資質は地下アイドル時代からあったはずだ。環境次第ですべては変わる。

 さらに遡れば、今や女優として活躍が目覚ましい橋本環奈も、元は福岡のアイドルグループREV. from DVLのメンバー。“奇跡の1枚”と言われた写真が出回って“1000年に1人の美少女”として知られる以前、REV.を主催するアイドルイベントに招いたことのあるイベンターは「当時は特に注目されてなったし、集客が伸びたわけでもなかった」と話していた。

非メインのステージからシーンを活性化する存在も

 繰り返しになるが、すべてのアイドルがメジャーを目指しているわけではないだろう。バラエティでブレイクした王林は、青森のりんご娘から一時ラストアイドルに兼任で参加したが、「東京での活動も青森のPRのため」と半年で脱退。メジャーシーンでの活動より、りんご娘に戻ることを選んだ。りんご娘を卒業してキー局でのテレビ出演が増えた今も、青森第一の姿勢は変わらないようだ。そういうスタンスのアイドルがいるのは良い。

 ただ、ポテンシャル的にはメジャーアイドルも地方・地下アイドルのメンバーも、実際は紙一重なのかもしれない。退潮ムードのアイドルシーンを再び活性化させる存在が、今年のTIFのメインでないステージで歌っていたグループから現れることも、ない話ではない。

新鋭グループによる「TIF アイドル総選挙 2022」で優勝した#ババババンビ
新鋭グループによる「TIF アイドル総選挙 2022」で優勝した#ババババンビ

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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