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眠ると1日の記憶を失う少女の恋の行方は…。福本莉子が主演の難役で不安を越えて見つけたもの

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/河野英喜

放送中のドラマ『赤いナースコール』でヒロインを演じるなど、多方面で目覚ましい活躍を続ける福本莉子。今年3作目の映画でW主演の『今夜、世界からこの恋が消えても』も公開。眠りにつくと1日の記憶を失う難病を患う役で、撮影に入る前は不安に苛まされたというが、胸を震わせる恋物語を見せている。スクリーンでの並外れた輝きの裏にあるものは?

期待値の高い作品で初めての役柄で

――ロートCキューブにオロナミンCと、ご出演のCMがよく流れています。

福本 人から「見た」と言われることが多いです。「薬局でCキューブのCMが流れていたよ」とか。私も家で作業をしていて、テレビから自分の声が聞こえてくると「エッ?」という(笑)。不思議な感じがします。

――『今夜、世界からこの恋が消えても』のメイキング動画では、本読みのときに莉子さんが不安から涙しているところがありました。気丈なイメージがあったので、ちょっと意外でした。

福本 どの作品でも、撮影に入る前が一番不安です。役のことをどれだけ深く考えられるか、手探り状態なので。撮影に入ったら、やるしかないんですけど、それまでの準備期間に悩むことは多いです。

――特に今回は難しい役だけに?

福本 皆さんの期待値が高い作品なのもわかっていた分、頑張らないといけない中で、記憶障害の役は初めてでしたから。毎日のことを忘れてしまう役の気持ちを、どうやって積み上げていけるか、すごく不安でした。

日記を書いて感情を積み上げる手掛かりに

――不安を打ち消すために、どんなことをしましたか?

福本 記憶障害の方が実際にどういう生活をされているのか、ドキュメンタリーを観たり。あと、撮影期間中はずっと日記を書いていました。私目線の日記帳と、真織を演じて感じたことを日記アプリに書き分けて。

――劇中でも、真織は日記に1日の出来事を書いて、朝起きて復習することで忘れた記憶を繋ぎ止めていました。

福本 その日記は用意してくださって、台本に書いてあることの前後で真織が何をしていたか、知るヒントになりました。プラスして自分の感じたことも書いておくと、積み上がった感情を出すシーンで、手掛かりになるんじゃないかと。演出部の方が真織の生まれてからの出来事を表にしてくださったのも見たり、とにかくできることは全部やって、真織の人生について考えました。

――記憶障害の原因になる事故に遭う前のことから?

福本 そうですね。アウトドアが好きだったという設定があって、休みの日は家族と出掛けていたんだろうなとか、そういう想像もしました。

ドキュメンタリーから取り入れたことがありました

『ソラニン』、『アオハライド』、『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』など数々の青春恋愛映画を送り出してきた三木孝浩監督がメガホンを取った『今夜、世界からこの恋が消えても』。クラスメイトへのいじめを止めるため、同級生の日野真織(福本)にウソの告白をした神谷透(道枝駿佑)。真織は事情を知らされながらも、3つのルールを付けてOKと返事をする。

――前向性健忘を扱った映画やドラマはわりとありますが、そういう作品を観たりもしました?

福本 ハリウッドの作品をいくつか観ましたけど、ドキュメンタリーのほうが深く知ることができました。真織の記憶障害を知っているのは、両親と親友の泉ちゃんと学校の先生だけ。その中で学校では普通を装っていて。ドキュメンタリーでは7秒で記憶が消えてしまう方が、常にメモを取りながら人の話を聞いていたんですね。それは真織に通じることだと思いました。

――真織もつき合い始めた透のことを「よく知るため」という名目で、あれこれ質問してはメモしていました。

福本 一瞬で何を受け取れるか。普通の人よりアンテナを張っていて、相手を観察するくらいの目線で見ている。そこは取り入れたらどうかと、三木監督とも話しました。人からは普通に見える真織の普通でないところとして、意識していました。

――学校での真織は普通以上にキラキラした女の子に見えました。

福本 周りを不安にさせないための彼女なりの努力として、そういう女の子を演じているわけですよね。

自分も大事なことを忘れているんじゃないかと

――そうこうするうちに、最初の演技的な不安は消えていったわけですか?

福本 ずっと不安でしたし、むしろ後半のほうが難しかったです。道枝さんとは2回目の共演ですけど、透と真織としては初めて。最初のデートのシーンは、その距離感のままで良かったんです。1ヵ月くらい撮影していると、お互いの人となりもわかって、共演者として仲が深まっていきました。でも、真織は1日で記憶を失くすから、毎回「初めまして」からスタート。そこで自分と真織の感覚に、ギャップが出てしまって。それをどうするかが、わからなくなりました。

――確かに、そこは難しそうですね。“記憶”についてもいろいろ考えました?

福本 はい。真織は劇中で、ずっと動画や写真を撮っていて。何気ない日常の一瞬やちょっとした出来事が、「忘れてしまうんだ」と思うとすごく尊いんだと、改めて感じました。私の記憶はなくならなくても、ある1日を鮮明に覚えていることは、ほぼなくて。すごく楽しかったことやすごく悲しかったことでも、ずっと覚え続けていることはできない。私もきっと、大事なことを忘れているんじゃないかと思えてきました。

――それはこの映画を観ていても感じました。莉子さんは普段、写真を撮ることは?

福本 ごはんの写真は撮ります(笑)。インスタや記録用に。あとは、仕事で自分の写真をアップする必要があれば撮るくらいです。中学生、高校生の頃は、友だちと遊びに行くたびに写真を撮っていたのを、今思い出しましたけど、大人になると撮らなくなりますね。

壁にぶつかっては乗り越えた事実が自信に

――真織の日記には、透のことを「私の毎日にひと筋の希望を与えてくれる」と書かれていました。莉子さんも過去の記憶が支えになることはありますか?

福本 今までやってきたお仕事を振り返ると、たくさんの思い出があります。毎回壁にぶち当たって、自分にない引き出しを求められましたけど、それをひとつずつ乗り越えてきた事実は、確実に自信に繋がっています。

――今回は壁が高かっただけに、乗り越えて得たものも大きかったと?

福本 乗り越えられたのかはわかりません。公開されて皆さんに届くまで、どう思ってくださるか、ソワソワします。でも、三木監督とも『ふりふら(思い、思われ、ふり、ふられ)』以来の2回目ですし、成長した姿を見せたい思いもありました。

――「台本を読んで何度も泣いてしまった」とのコメントもありましたが、それはどの辺のシーンだったのでしょう?

福本 花火大会と最後のところです。花火大会は真織の「こんな大事な一瞬も忘れてしまう」という気持ちを考えると、本当に切なくて。原作では真織と透の視点が交互に出てくるので、感情がより立体的に見えて、すごく考えさせられました。

――その花火大会の最中やデートのシーンは、すごく楽しそうでした。会話もリアルに高校生の恋人っぽくて。

福本 あれがないと、本当に悲しい物語ですからね(笑)。デートの点描はクランクインの初日に撮って、台詞はなくて全部自由でアドリブでした。

学校帰りの制服デートはいいですね(笑)

――透は途中で真織の記憶障害のことを知って、真織の望むことをしてあげていました。

福本 そうですね。おみくじを引いたり、水族館に行ったり。

――莉子さんは女子高だったそうですが、ああいうデートは高校時代にしたかったことではありますか?

福本 学校帰りに制服のまま、どこかに行ったりしたかったです(笑)。場所はどこでもいいんです。近所のカフェでもいい。制服のまま、お出掛けするのが、学生ならではですよね。

――透と真織みたいに学校公認のカップルになるのは?

福本 別れたときに気まずいですよね。別れる前提で言ってますけど(笑)、そうなると、卒業してからもみんなの記憶に残るから、ちょっとプレッシャーだと思います。でも、一緒に登下校するのは憧れますね。共学だったら、しているのかな?

――あの2人のように、お揃いのキーホルダーとかを持ったりするのは?

福本 ペアルックは難易度高いですけど(笑)、ちょっとした小物をお揃いで持っているのはいいですね。離れていても、その物を持っていると元気をもらえて、女子としてはとても嬉しいと思います(笑)。

――真織はデート中に「透くんといると心が急かない」と言ってました。

福本 一緒にいて疲れる人よりは、落ち着く人がいいですよね。あと、私は話を聞いてくれる人がいいです。聞いてもらって、どうこうするわけでなくても、そういうことを言える相手がいるだけで心強くて。安心材料になる気がします。

青春キラキラだけでないリアルさが素敵だなと

――三木孝浩監督の青春恋愛映画は、出演された『ふりふら』以外にもご覧になっていました?

福本 はい。『アオハライド』、『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』、『坂道のアポロン』などを観たことがあります。

――莉子さん的には、三木監督の作品の魅力は、どんなところに感じます?

福本 まず映像がすごくきれいなのと、はかないイメージがあります。ただの青春キラキラではなくて、大人と子どもの境目での葛藤が見えたり、きれいだけど夢物語ではないリアルさが素敵だと思います。それで、一瞬一瞬がていねいに切り取られていて。撮影でも三木監督は1シーンに時間をかけて、何回もやることもありますし、役者の気持ちができるのも待ってくれます。

――作品を観ても、わかる気がします。それはそうと、前回の取材で好きな映画をうかがったら『セブン』が挙がって「そっちなんだ」と思いましたけど(笑)、恋愛映画も観ているんですね。

福本 全然観ます(笑)。『ワン・デイ 23年のラブストーリー』とか『きみに読む物語』とか好きです。

――洋画派なんですか?

福本 海外のロケーションがきれいで、服もかわいくて、洋画を観ることが多いです。フランス映画とかヨーロッパの作品も韓国映画も観るので、結構幅広いと思います。

絶対に書き留めておきたい感情だけは日記帳に

――完成した『セカコイ』では、原作や台本で泣いたシーンは、自分が演じているのを観ても泣けました?

福本 (取材日時点で)まだ観てないんです。映像を繋げたものはいただきましたけど、初号試写が楽しみで、フライングしたくなくて。映画は音楽ひとつでも、印象が全然変わりますよね。だから完成したものを観るまで、ちょっと我慢しています。

――そこはこだわりがあると。

福本 この作品を撮ったのが今年の2月から3月で、完成がギリギリだったんです。いつもは1年前とかに撮って、初号を観てから取材ですけど、今回はこういう形になりました。

――日記はクランクアップ後は書いていないんですか?

福本 昔は毎日書いていましたけど、書き始めると止まらないくらい、いっぱい書いてしまうんです。手も疲れるし(笑)、時間もかかるから、次の日の朝が早かったりすると書けなくて。毎日書こうとしたらプレッシャーになってしまうので、何かあって「この感情は絶対書き留めておこう」という日だけ、書いています。

――手が疲れても、手書きにはこだわりが?

福本 日記帳を作ってしまったので、埋めないと気が済みません(笑)。

舞台で芝居は生ものだと実感しました

――今年前半は『君が落とした青空』に『20歳のソウル』と映画公開が続いた一方、舞台『お勢、断行』にも出演されました。初のストレートプレイで学んだことは多かったですか?

福本 舞台は3年ぶりで、ストレートプレイは初めてで、初日はすごく緊張しました。いつもは耳から小さなマイクが出ていて、声を確実に拾ってくれましたけど、『お勢、断行』ではそれがなくて、集音マイクだったので、皆さんに声が届くか心配だったんです。

――ミュージカルと違って歌や踊りがない分、負担が少ないわけでもなくて?

福本 ミュージカルでは歌で感情の起伏を表せて、嬉しい場面も悲しい場面も歌って物語が進んでいきますけど、ストレートプレイでは言葉だけで見せないといけない。どの言葉を立たせて伝えるか、技術も必要になりますし、すごく勉強になりました。

――舞台を経験すると、芝居が鍛えられると聞きます。

福本 鍛えられますし、お芝居はやっぱり面白いと思いました。地方も回ると、劇場によって声の響き方が全然違って、お客さんの反応に県民性も出てました。大阪だと笑いを取るところですごくウケたり(笑)。それによって私たちも変わって、お芝居は生ものだとすごく感じました。

夏は苦手ですけど今年はアクティブに

――夏は好きな季節ですか?

福本 暑いから、あまり好きでないです(笑)。冬のほうが好きですね。寒ければ服を着ればどうにかなるけど、暑いとどうにもならない。だから、夏は苦手です。日焼けもしますから。

――夏のキラキラした思い出はありませんか?

福本 3年前に、舞台で一緒になった方たちと海に行きました。最初は海辺でのんびりしようと思って、海に入るつもりはなかったんですけど、気がついたら入っていました(笑)。

――青春映画のシーンではよくある、花火大会やお祭りには?

福本 私の実家から花火が見えたんです。家族と見たり、近くなので浴衣を着て行ったりしていました。屋台が夏って感じで楽しいですよね。昔はりんご飴とか食べていましたけど、だんだん牛タンの串とかになってきました(笑)。

――小さいことでも、夏に恒例で何かしたりは?

福本 手持ち花火は毎年します。去年の夏は大阪に帰って、姉の家に泊まっていたんですね。通っていた教習所に近かったので。そしたら、姉がネットで花火を買って、近所の公園でやりました。去年の夏の思い出は花火と教習所です(笑)。

――『セカコイ』が公開される今年の夏は、どう過ごしますか?

福本 ちょっとアクティブになってみようかなと。私、人生でキャンプしたことがないんです。やりたい気持ちはあるので、ソロキャンプというわけにはいかなくても、山や川でチャレンジしてみたいです。

――それこそ「元気ハツラツ!」のCMみたいな感じで?

福本 そうですね。素敵な夏にします!

撮影/河野英喜

Profile

福本莉子(ふくもと・りこ)

2000年11月25日生まれ、大阪府出身。

2016年に第8回「東宝シンデレラ」オーディションでグランプリ。2018年に映画『のみとり侍』で女優デビュー、同年にミュージカル『魔女の宅急便』に主演。主な出演作は映画『思い、思われ、ふり、ふられ』、『しあわせのマスカット』、『君が落とした青空』、『20歳のソウル』、ドラマ『華麗なる一族』、『消えた初恋』、『昭和歌謡ミュージカルドラマ また逢う日まで』など。ドラマ『赤いナースコール』(テレビ東京系)に出演中。

『今夜、世界からこの恋が消えても』

監督/三木孝浩 脚本/月川翔、松本花奈 

出演/道枝駿佑(なにわ男子)、福本莉子、古川琴音、松本穂香、萩原聖人ほか

7月29日より全国東宝系にて公開

公式HP

(C)2022「今夜、世界からこの恋が消えても」製作委員会
(C)2022「今夜、世界からこの恋が消えても」製作委員会

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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