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元カレの電話を待つ役でアイドルは変われるか? 石田千穂(STU48)が初の舞台に「殻を破りたいです」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/S.K.

瀬戸内を拠点とするSTU48でセンターも務める石田千穂が、舞台『パレード』に出演する。原作は映画化もされた吉田修一の小説。共同生活をする5人の若者の上辺だけの付き合いに波紋が広がるストーリーで、石田は人気俳優になった元カレからの電話を毎日待ち続ける無職女性の役。グループでの出演作以外では初の舞台で、普段はあまり感情が表に出ないという彼女が、自分の殻を破ることから取り組んでいるようだ。

いろいろなお仕事をするのがカッコイイなと

――広島から東京に来るのは、どれくらい時間がかかるんですか?

石田 新幹線で4時間くらいですね。

――車中はどう過ごしていますか?

石田 3時間半くらいは寝ています(笑)。だから前の日はちょっと夜ふかしして、やらなきゃいけないことをしておきます。新幹線で寝る分を睡眠時間にカウントするので(笑)。

――舞台『パレード』に出演しますが、小さい頃からアイドルを目指していた中で、女優にも意欲はあったんですか?

石田 私はAKB48さんが好きだったんですけど、アイドルをしながらドラマに出たり、モデルをしたり、いろいろなお仕事をするのがカッコイイなと思っていました。『マジすか学園』も観ていましたし、自分も演技のお仕事もしたい気持ちは最初からありました。

――普通にドラマや映画も観ていました?

石田 母がドラマを毎日観ていたんです。私も一緒にいろいろ観て、『コード・ブルー』や『花より男子』が好きでした。

――『花より男子』の世代でしたっけ?

石田 当時の世代バッチリではないですけど、再放送とかで夏休みに1回は絶対観ていました。道明寺司派です(笑)。

――公式プロフィールの趣味にも映画鑑賞が入っています。

石田 配信系のアプリで観ています。STU48の仕事柄、瀬戸内をバスで回ることもあって、移動時間がすごく長くて。そういうときに映画を観ます。

――どんな映画が好きなんですか?

石田 恋愛系ですけど、青春や学園ものより、クセがあってひと筋縄ではいかないほうが好きです。たとえば、『フォルトゥナの瞳』とか。死が近い人がわかってしまうお話で、めちゃめちゃ切なくて。ああいうのがいいですね。

ドラマ仕立てのMVで演じるのが楽しくなって

――初めて自分で演技をしたのは、2019年のAKB48グループの舞台『仁義なき戦い~彼女たちの死闘篇~』ですか?

石田 そうです。すっごい難しくて、映画を観ても怖くて、よくわからなくて。

――暴力団の抗争を描いた作品ですからね。

石田 あのときは、WキャストだったHKT48の神志那結衣さんの演技がすごかったんです。参考にさせていただきながら、ガムシャラにやった感じでした。

――演技の楽しさも感じました?

石田 そのときは楽しさもありましたけど、奥が深いというか、難しい印象のほうが強かったです。その後アイドルになって5年経って、歌にダンスに握手会、お話し会、写真集とひと通りやらせていただいて、最近8枚目のシングル『花は誰のもの?』で、30分のドラマミュージックビデオを撮ったんです。映像の演技は初めてで苦戦しつつ、成長できている感覚が楽しくて。それをきっかけに、演技にもっと挑戦したいと思いました。

のんびりしながら芯が強いのは自分と似てます

――舞台は自分で観に行くことはありました?

石田 『パレード』の出演が決まってから、いくつか観させていただきました。藤原紀香さんやNGT48の本間日陽さんが出演されていた『サザエさん』とか。

――『パレード』の原作や映画は知っていました?

石田 あまり小説に詳しくなくて知らなかったんですけど、情報が解禁されてから、ファンの方が「すごく有名な作品だよ」と言ってくださって。嬉しさと共に「頑張らなきゃ」と気合いがさらに入りました。

――台本は面白かったですか?

石田 最初は共同生活している1人1人の秘密が明かされていって、何を意味しているのかあいまいなまま読んでいたのが、後半になるにつれ、ゴチャゴチャした人間関係が「そういうふうに繋がっていたんだ!」となりました。本当のことを知らない振りして過ごしているのが、最後はちょっと怖くなりましたけど、何回も観たくなる作品だと思いました。

――千穂さんが演じる琴美は、田舎からトラックで上京して、つき合っていた人気俳優からの電話を毎日待ち続ける役。公式HPの動画で「自分と似ているところがたくさんあって」とコメントされていました。

石田 琴美ちゃんは家でのんびりしながら、彼からの連絡を待っていますけど、強い意志も持っていて。私も周りから「ホワホワしている」と言われますけど、「こうしたい」と決めたことに向かう芯の強さはあると思うので、そこは似ているかなと。

ずっと家にいるのは苦でありません(笑)

――千穂さんも部屋にずっといられるタイプですか?

石田 そこもめっちゃ似てると思いました。琴美ちゃんはずっと部屋着で、眉毛をピンセットで整えていて、私もそれ、するんですよ(笑)。テレビを観ながらピョン、ピョンと。お休みの日も、友だちに誘ってもらったら、お出掛けすることはたまにありますけど、基本、家で過ごすことが多いです。

――自粛のときも、そんなに苦ではなかったと?

石田 ライブやイベントができないのは悲しかったんですけど、家にいること自体は苦ではなかったですね。いくらでもいられます(笑)。

――琴美は部屋もきちんとしているようですね。

石田 私も部屋はわりときれいなほうだと思います。毎日、寝る前にある程度片づけているので。実家にいた学生時代の部屋は本当に汚くて、勉強机とか見てられないくらいでしたけど(笑)。ひとり暮らしを始めてから、家具とかにこだわりを持ち出して、きれいにしたいと思うようになりました。

――部屋にどんなこだわりがあるんですか?

石田 色を統一したり。今は白と、やさしい木の色にしています。あとは、お店で見つけたかわいい小物が置いてあります。

肝が据わったところは噛み砕いて演じます

――琴美のキャラクターについて、他に軸にするところはありますか?

石田 私と違うと思ったのは、知らない人のトラックに乗って上京してきたとか、共同生活の家に初めての人がいても、普通にあいさつできちゃう感じとか。琴美ちゃんは肝が据わったところがありますね。私は人見知りしちゃうタイプなので、誰に対しても物怖じしないのは尊敬します。そういう人になり切るために、琴美ちゃんを噛み砕いて理解して、演じたいと思います。

――昔つき合っていた俳優からの電話を待ち続けている気持ちは、わかりますか?

石田 私はめっちゃ仲良い友だちでも、電話もLINEも全然しないんです。直接会って話したいので。だから、現実的に琴美ちゃんの気持ちは、そこまでわかりません。でも、本当に大好きな人がいたら、いつ来るかわからない電話を待ってしまうかなとも思います。

――23歳という設定は、20歳の千穂さんとそこまで変わりませんか?

石田 変わると思います。琴美ちゃんの恋愛経験とか、今の私の年齢だと周りの友だちでもあまりないので、お姉さんだなって感じます。

――舞台では発声も大事ですよね。

石田 舞台を観にいくと、コソコソしゃべるシーンでも本当にコソコソしゃべると聞こえないから、お腹から声を出している感じがしました。そこは大事だと思うので、意識していきたいです。

――共演者には、アイドルの先輩に当たる元C-uteの矢島舞美さんがいます。(*Cは温度の単位)

石田 ハロプロさんのMVとか、ちょくちょく拝見していました。矢島さんは顔合わせ前に、リモートで少しだけお話しさせていただいて。すごくやさしい雰囲気で、少人数の舞台で緊張していたのが、一気に安心感を持てました。

(C)吉田修一/幻冬舎(C)2022舞台『パレード』製作委員会
(C)吉田修一/幻冬舎(C)2022舞台『パレード』製作委員会

泣くシーンは気持ちが追い付くまでが難しくて

――歌と演技は、表現の点で通じるところもあると思いますか?

石田 確かに、歌もカッコいい曲、切ない曲、はかない曲、笑顔の曲とかいろいろあって、表情も含めて表現するのは我ながら得意なほうです。演技となるとまた別で、どうなるか不安はありますけど、アイドルとして学んだことを少しでも活かせたらと思います

――さっき出たドラマミュージックビデオのような仕事もありますし。

石田 そうですね。あのミュージックビデオでは、日ごろから一緒に過ごしているメンバーと学生の物語を演じて、共通する部分が多くて楽しめました。でも、感情表現の豊かな役だったので、泣くシーンや怒るシーンは緊張でバクバクしました。

――千穂さんは合唱部員の役で、全国コンクールがコロナ禍で中止と聞いて涙するシーンがありました。

石田 気持ちが追い付くまでが難しかったです。3年間頑張ってきたのに……というのは、アイドル活動でもリンクするところがあって。何ヵ月もライブも握手会もできなくて、ずっと家にいた時期の虚無感を思い出して挑みました。

――普段は泣かないほうですか?

石田 泣かないですね。全然涙もろくなくて、カラッとしています。嬉し涙も数えるほどしかなくて、怒ったりもしません。

メンバーと何でも言い合える関係を活かしました

――あの劇中では、瀧野由美子さんと喧嘩別れになるシーンもありました。

石田 仲良し3人組が小さな出来事から仲が悪くなってしまって。私と瀧野由美子ちゃんはお互いガンコなので、普段も立ち位置や振付で「こうだよ」「いや、こうだよ」ということは結構多いです(笑)。でも、何でも言える関係で、撮影でもそういうところを活かしました。

――ドラマの最後のほうにあったように、抱き合ったりすることも?

石田 ノリで抱き合うことはあっても、ああいう感動の場面ではないですね。だから、新鮮でした。

――千穂さんは総じて、クールというかフラットなタイプなんですか?

石田 スイッチが入ったら、めっちゃはしゃぎますけど、普段は落ち着いています。だからこそ、お芝居では感情を出し切りたいなと思います。

お肉派から魚派に変わりました(笑)

――今年3月で20歳になって、心境の変化はありました?

石田 年齢もありますし、STU48で後輩がどんどん増えるたびに変わりました。最初の頃は自分が年下のほうで、お姉ちゃんメンバーに付いていく感じだったのが、今はもう一番上の先輩として、背中を見せていかないといけなくて。そう思ってから、しっかりするように意識して、自分のことだけでなく、グループ全体のことをより考えるようになりました。そこは大人になったと思います。

――洋服や食べ物の好みが変わってきたりは?

石田 お肉派から魚派になりました(笑)。前は焼肉かお寿司だったら、断然焼肉だったのが、今はお寿司になって、自分でも衝撃です(笑)。

――肉は胃にもたれるようになったとか?

石田 そこは大丈夫ですけど、なぜかお寿司のほうが好きになりました。行くのは回転寿司とかですけど(笑)。

――好きなネタは?

石田 炙りサーモンです。わりと満遍なく食べながら、炙りサーモンだけは2貫食べます(笑)。

抑える前にやりすぎの演技から挑みます

――大人の女性になりたい願望はあるんですか?

石田 大人っぽくはなりたいです。だから、最近ちょっと前髪を伸ばしています。前髪を作る日と流す日と、気分で分けるのもいいなと思って。数年前は絶対に前髪ある派でした。あと、スニーカーとかヒールのない靴を履きがちだったのが、パンプスを履くようになりました。ワンピースとかフワッとした服をよく着ていたのも、今はGパンやカッコいい服を選んでいます。

――女優として目指すイメージもありますか?

石田 役にめちゃめちゃ入り込む方は、観ていてすごいなと感じます。自分はまだまだですけど、長澤まさみさんとか憧れます。

――差し当たり『パレード』の稽古では、どんなことを課題にしていきますか?

石田 グループの外では初めての舞台で、課題がありすぎて。どれが一番大事かもわからない状態です。稽古の中で、ひとつひとつクリアしていけたら。

――アイドルでライブ経験が豊富だと、生の舞台で演じる度胸はあるのでは?

石田 でも、全然別のジャンルなのでドキドキします。今回は出演者の人数も少なくて、台詞も長かったりするので、不安もありますけど、演じるのは楽しみです。

――この舞台を千秋楽まで務め上げたら、大きくステップアップできそうですね。

石田 演技をするとき、やりすぎたら抑えればいいんですけど、私にとっては、まずやりすぎることが難しくて。恥ずかしさとかをなくして挑めるように殻を破って、新しい自分が生まれたらいいなと思います。

撮影/S.K.

Profile

石田千穂(いしだ・ちほ)

2002年3月17日生まれ、広島県出身。

2017年にSTU48の第1期生オーディションに合格。2020年に1st写真集『檸檬の季節』を発売。2021年に6thシングル『独り言で語るくらいなら』で初センター。7月16日~24日に上演の舞台『パレード』に出演。

舞台『パレード』

原作/吉田修一 脚本・演出/平塚直隆

出演/仲田博喜、矢島舞美、曽田陵介、眞嶋秀斗、石田千穂(STU48) 語り/石川藍

7月16日~24日 新国立劇場 小劇場

公式HP

(C)吉田修一/幻冬舎(C)2022舞台『パレード』製作委員会
(C)吉田修一/幻冬舎(C)2022舞台『パレード』製作委員会

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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