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ハリウッドデビューに続きスマホ映画。執着系オタク役に「同じことをしてました」という中屋柚香の進む道

斉藤貴志芸能ライター/編集者
ABP提供

昨秋公開の園子温監督のハリウッドデビュー作『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』で、日本人キャストに抜擢された中屋柚香。スマホ映画『彼の全てが知りたかった。』で、主人公のインフルエンサーを神のように崇めるオタクを演じている。「女性アイドルに憧れてマネしていたことがある」と言う彼女が、この新ジャンルの作品にどう取り組んだのか?

ローテンションでバーッとしゃべりました

――『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』に出演して、反響は感じましたか?

中屋 「観たよ」という声もあれば、「あの役はキミだったんだ」と驚かれたりもしました。着物姿の少女のような役と私にギャップがあったみたいで。「映像映えするね」と言われたのは嬉しかったです。

――自分でも映画館に観に行ったんですか?

中屋 はい。ポスターが貼ってあって、自分の名前が載っているのが感慨深くて、何回も観に行きました。初めての映画で、大きなスクリーンに自分が映るとドキドキしました(笑)。

――スマホ映画『彼の全てが知りたかった。』で演じたトン子は、主人公の優奈が「めっちゃかわいいのに、しゃべり方は異常なオタク」という役。そういうしゃべり方に試行錯誤はありました?

中屋 「異常」の捉え方で迷いましたけど、私の周りにはオタク気質な友人が多くて。中でも、アイドルオタクの女の子をイメージしました。声のトーンを高くするか、低くするかというところで、彼女は興奮したときにローテンションでバーッとしゃべるのが面白いんです。家でも「こうかな?」って、1人でマネたりしていました。

――トン子は楽しんで演じられたわけですか?

中屋 私はトン子ちゃんがすごく好きで、楽しかったです。脚本を読んでから衣裳合わせをして、その服が「これだ!」とビタッときました。今流行りの地雷系でファンシーで、原宿とかの街中に本当にいそうなリアリティがありました。

『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』より(C)2021 POGL SALES AND COLLECTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』より(C)2021 POGL SALES AND COLLECTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

憧れのアイドルをマネて前髪をパッツンに

縦型シアターアプリによる『smash.スマホ恋愛映画祭』の1編として配信されている『彼の全てが知りたかった。』。底辺の動画配信カップルだった優奈(小野花梨)は、元カレの蒼太(佐藤寛太)の浮気が許せず、ファンを装いネットストーキングを始めた。自身の熱狂的ファンであるトン子(中屋)を影武者に、ある計画を企てて……。

――トン子のどんなところが好きなんですか?

中屋 女の子が女の子に憧れる気持ちや執着は、私もわかるので。「その人みたいになりたい」とも思うし、愛おしさも感じる。すごく不思議な感覚ですけど、狂愛みたいなものは私にもありました。

――中屋さんが憧れていた女性というのは……。

中屋 黒宮れいちゃんという、アイドルだった女の子です。彼女が高校生のときに、すごく好きでした。ミスiDに選ばれたり、LADYBABYというグループを組んでいたり。私はサブカルチャー系でSNSで自分の魅力を発信している女の子に惹かれていて、そこから見つけたんです。

――中屋さんは我が道を行くタイプで、人のマネはしないのかと思っていました。

中屋 れいちゃんと同じパッツンの前髪にしたりしました。

なかやまきんに君の動画で元気が出ます(笑)

――中屋さんが今、インスタでフォローしている顔ぶれを見ると、満島ひかりさんや松岡茉優さんら女優さんたちなどに交じって、なかやまきんに君もいますね。

中屋 なかやまきんに君を見ていると、元気が出るんです(笑)。だから、「もうイヤだ」とくじけそうになったり、オーディションがうまくいかなかったときに、笑っている動画やごはんを食べている動画を観ています。

――トレーニング動画を観て、ムキムキになろうとしているわけではないんですね(笑)。

中屋 なれたらカッコイイなと思います(笑)。きんに君の筋トレ動画を観て、鍛えることも大事だなと思って、家で一緒にやったりはしています。結構ハードですけど、ちょうど「もうダメだ」となるタイミングで、きんに君が声を掛けてくれるんです(笑)。

――アーティスト系では岡村靖幸さんや小沢健二さんもフォローされていますが、世代ではないですよね?

中屋 最近ちょっと昔の音楽が好きで、岡村靖幸さんは母が車の中でかけてくれて。いい曲だなと思ったのが出会いでした。

――特に好きな曲というと?

中屋 岡村さんだと『カルアミルク』がカッコイイですね。小沢健二さんは何年か前に出た『アルペジオ』が好きです。映画の『リバーズ・エッジ』の主題歌で、夜の街にすごく合います。

ABP提供
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役の食べてるものや行くところを想像します

――トン子の話に戻ると、オタクっぽいしゃべり方以外には、あまり役作り的なものは必要ありませんでした?

中屋 私は役のことを四六時中ずーっと考えてしまうんです。どういうものを食べているのか、休みの日はどういうところに行くのか……と想像していることは多かったです。

――トン子は何を食べていると?

中屋 エナジードリンクを飲みつつ、カニのしたらばのような棒状のものを食べているイメージです(笑)。ネットにかじりつくような子なので、コンビニのごはんが多いのかなと、自分がコンビニにいたときに思いました。

――役に対する情報量が少ない作品ですが、そうやって補っていたと。

中屋 お芝居に直接繋がるかはわかりません。でも、そういうことを考えておくと、自信になります。私はまだ、カメラで撮られていると緊張するんです。頭が真っ白になってしまう。そこで集中するためには、なるべく蓄えを持っておいたほうが「できる」と思えるので。

――自分の中でバックボーンになるんでしょうね。

中屋 あと、実際のアイドルのオタクの女の子のツイッターを検索して、どういうことを考えているのか見たりもしました。2時間前とかのリアルな書き込みが出てきて、トン子ちゃんみたいな子は本当にいるんだなと、改めて思いました。

好きだから全部知りたいのはわかります

――トン子はしたたかなところもありますよね。あれだけ崇めていた優奈を裏切ったり。

中屋 その気持ちもわかると言えばわかります。優奈を好きだからこそ、彼女が経験したものは全部知りたい。傷つけたいとは一切思っていなくて、純粋な愛が軸にありながら、そうなってしまうのは理解できます。

――優奈役の小野花梨さんとのスマホを通じた掛け合いのシーンは、どう撮ったんですか?

中屋 先に小野さんがお芝居された映像を私が見て、台詞の受け答えをする形で、面白かったです。

――小野さんはキャリアは長いですが中屋さんと同世代で、刺激も受けました?

中屋 主役とはこういうことかと思う気配りをされていて、もちろんお芝居もひとつひとつ本当に上手で、感動しました。ブチキレるシーンはすごかったり、さすがだなと改めて思いました。

――他に、スマホ映画ならではのことはありましたか?

中屋 モニターを観ると画面が縦長なので、「ここまで映るんだ」ということは意識しました。私は撮影自体が久しぶりで、最初はガチガチでしたけど、だんだん解れて楽しめました。

クズだと思っても愛おしかったりするのかなと

――『彼の全てが知りたかった。』は、『smash.スマホ恋愛映画祭』の3作中の1作ですが、優奈の元カレの蒼太についてはどう思いましたか?

中屋 オタクとしては、推しの恋人が好きじゃないというのは、おおいにある話なんです(笑)。そこで「推しが選んだ人だから」と肯定するか、「絶対許さない」と否定するか。オタクが一度は直面する問題らしくて。トン子はどっちだろうと、考えたりはしました。

――中屋さん目線では蒼太はどうですか? ルックはいいけど、チャラすぎませんか(笑)?

中屋 ああいうフワフワした感じの男性に惹かれてしまうのも、わからなくはないです。「こいつクズじゃん」と思っても、そこが愛おしかったりして憎みきれない。そういう魅力がありますね。

――では、優奈が別れたあとも、浮気が許せないのもわかると。

中屋 それは私はないかもしれません(笑)。思い出すとか引きずることは、あまりしないと思います。

――女性のほうがその辺はサッパリしていると言いますよね。

中屋 でも、優奈ちゃんみたいに一途で、引きずってしまう女の子もいっぱいいると思います。私も一途ですけど(笑)、去る者は追わずというか。

――トン子は昔の彼氏に「女の美容は男のためにやるものだから」と言われて、振られたと話していました。

中屋 そんなこと言われたら、殴ってしまいたくなりますね(笑)。「どういうこと?」という。人それぞれだから、決めつけられたくないです。

――自分が恋愛系で好きな映画はありますか?

中屋 『ただ、君を愛してる』と『ソラニン』です。宮﨑あおいさんの演じるラブストーリーがすごく好きで。宮﨑さんにしか出せない危うさと少女性が、どちらの作品にもマッチしていると思いました。

フォロワー数が人の価値のようになっていて

――この作品ではSNS社会の空気も反映されていて、トン子は優奈らのことを「動画配信サイトでしか生きられない人たち」と言ってました。

中屋 確かに、フォロワー数がその人の価値になっているかと思うくらい、SNSは今すごく大きな存在になっているのは感じました。

――中屋さんもインスタのフォロワー数は気になりますか?

中屋 私は急にいっぱい増えたら怖くなると思います。今の私のインスタでも「全校朝礼以上の人数だ」というのがあって(笑)。何万人とかになったら、向こうに1人1人の方がいることを忘れてしまいそうな気がします。

――これから中屋さんが活躍すれば、フォロワー数は必然的に増えると思いますが、そういう初心は忘れないでほしいですね。YouTubeを観たりはしていますか?

中屋 人の休日のVログを観るのは好きです。行きたい場所で検索して、そこを訪ねた人のVログを観て、「ここはいいな」と思ったりします。

――映画を配信で観たりもしますか?

中屋 いろいろ観ています。この前『ノーカントリー』を観てみたら、だいぶハードでした(笑)。でも最近、映画を観たあとにワッと疲れてしまうので、NETFLIXなどでドキュメンタリーを観るのが好きになりました。

――どんなドキュメンタリーを観たんですか?

中屋 『ハイパーハードボイルドグルメリポート』です。「世界のいろいろな人が何を食べているのか?」という番組で、環境も何もかも違う中で同い年の人が出ると、不思議な気持ちになります。

舞台を観てエンタメは救いだと感じました

――『彼の全てが知りたかった。』の原案・脚本の根本宗子さんの作品は、観たことありました?

中屋 舞台をDVDで観てました。すごく好きな方で、大学時代はみんなと「ねもしゅーは神」と言っていて。お会いしたことはないですけど、脚本を書かれた作品を演じられて嬉しかったです。

――根本さんらしさを感じた部分も?

中屋 岡本夏美さんがおっしゃっていたのは、根本節というか、台詞が特徴的なんです。すごくイマドキな感じで、言い回しも面白くて。私は小野さんの「元彼がどんどんつまんなくなるの、耐えられない!!」という台詞が、本当にそうだなと思いました(笑)。

――根本さん作品に限らず、舞台に出たい気持ちもあるんですか?

中屋 すごくやりたいです。『キレイ』という舞台を観に行ったとき、阿部サダヲさんがカッコ良くて、お芝居が魅力的で感動しました。エンタテイメントは本当に救いだと感じられて。お芝居はなくても人は生きていけるけど、人の心を動かすこともできる。そう感じると、もっとお芝居をしたいと思います。

静かな日本庭園で無心になるのが好きです

――前回の取材では「サウナ通いをしている」とのことでしたが、今も続けていますか?

中屋 相変わらず好きです。よく行って、整っています(笑)。

――春のお楽しみはありませんか?

中屋 最近は日本庭園にハマっています。鎌倉の明月院の庭師の方のこだわりがすごくて、美の極みみたいな庭園になっていて。ごみひとつ、枯れ葉ひとつ落ちてない。すごく心惹かれます。暖かくなってきたので、いろいろなお寺を見に行きたいです。

――どういう流れで、日本庭園に興味を持ったんですか?

中屋 何も考えずにブラブラするのが好きで、1人で鎌倉に行ったんですけど、最初は海に行くつもりが、ちょっと曇ってきて。曇りの日の海は心がザワザワするので、森のほうに行ったら、パッと明月院を見つけました。人混みが好きでなくて、できるだけ落ち着く場所を考えていると、急に「そうだ。お寺に行こう」とひらめくことが多いですね(笑)。

――それにしても、なかなか渋い趣味で。

中屋 私はいろいろ考えすぎて、頭がいっぱいいっぱいになりがちなんです。静かな日本庭園でただ葉っぱを見ていたりすると、無心になれる。それが好きです。

Profile

中屋柚香(なかや・ゆずか)

1998年2月24日生まれ、東京都出身。

2009年にNETFLIXオリジナル映画『愛なき森で叫べ』で女優デビュー。映画『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』、ドラマ『年下彼氏』、『ジモトに帰れないワケあり男子の14の事情』などに出演。スマホ映画『彼の全てが知りたかった。』が配信中。今冬公開予定の映画『世界で戦うフィルムたち』に出演。

公式インスタグラム

smash.オリジナルスマホ映画『彼の全てが知りたかった。』

原案・脚本/根本宗子 総合プロデュース/佐久間宣行 監督/戸田彬弘

出演/小野花梨、岡本夏美、佐藤寛太(劇団EXILE)、中屋柚香

公式HP

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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