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「この体型の私が求められているので」 野呂佳代がドラマにバラエティに活躍する裏でしてきたこと

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)「メンタル強め美女白川さん」製作委員会

『ゴッドタン』や『ロンドンハーツ』などバラエティ出演が絶えない元AKB48の野呂佳代。今月からはドラマ『メンタル強め美女白川さん』にレギュラー出演する。主人公の同僚で、愛されキャラながら繊細でぽっちゃり体型がコンプレックスという役どころ。「自分の人生をギュッと詰めた感じ」だという。ずっと陽の当たる場所を歩いてきたわけでない野呂が芸能界を生き抜き、38歳になってキャリアハイを更新していく。その裏で彼女がしてきたことは?

コロナ禍の前に「やめ時が来た」と思ってました

――最近ますますテレビなどの出演が増えて、売れっ子になった感覚はありますか?

野呂 私の周りは売れている人だらけで、自分も同じとは思えないです。でも、充実感はすごくあって。昔から「仕事が一番したい」という気持ちで生きてきたので、今はバラエティもドラマもいろいろやらせてもらえて嬉しいです。

――野呂さんはSDN48を卒業して引退を考えていた頃、『ロンドンハーツ』の進路相談企画で、有吉弘行さんに「全力でやれ!」と叱咤されたのが転機になったとか。その後は、やめたいと思ったことはないですか?

野呂 いや、ありますよ。2019年にめちゃくちゃ落ち込んでました。バラエティにおける自分の立ち位置がよくわからなくなって、仕事も今より全然なくて。とにかくうまく行かない。改善策も見つからないまま、「やめ時が来たかな」と思いながら、ズルズルやっていました。でも、コロナ禍になって世の中がガラッと変わって、芸能界でも、みんな仕事が一度なくなりましたよね。本当に売れている人しかテレビに出てない状況を見ていて、そういう人たちがどんな振る舞いをしているか考えたんです。やっぱり自分も仕事を振ってもらえる人にならないといけない。そう切り替えてから、「やめないで頑張ろう」という気持ちになりました。

――仕事を振られる人になるために、どんなことをしたんですか?

野呂 バカみたいな話ですけど、「元気にあいさつをしよう」と(笑)。もちろん、それまでもあいさつはしていましたよ。でも、私のちょっと苦手な部分で、初めて会った人に「おはようございます!」と言えないタイプだったんです。大きな声も出せなくて。でも、そんなふうにしていたら仕事はもらえないから、原点に戻って元気なあいさつを心掛けました。子どもっぽくても、それはやっぱり基本かなと思います。

太田プロダクション提供
太田プロダクション提供

ぽっちゃりでなければ何も残らなかったかも

――芸能界でサバイバルするための戦略や、目指したポジションもありました?

野呂 ウソで固めたら絶対ダメになっていくと思っています。素直な気持ちを伝えられる人でありたい。謙虚さは絶対失ってはいけない。芸能界にずっといて学んだことを、忘れないようにしています。

――元アイドルの看板の活かし方を考えたりは?

野呂 活かせるものは何ひとつないですね(笑)。みんな私がアイドルだったことを忘れていますし、それを言ってもAKB48に申し訳ない気持ちになります(笑)。

――『メンタル強め美女白川さん』で演じる町田杏花は、体型にコンプレックスを持つ役ですが、芸能界ではぽっちゃりキャラはオイシイ感じですか?

野呂 私がぽっちゃりでなかったら、何も残らない可能性があったと思います(笑)。芸能界には、スタイルがいい人はいっぱいいるじゃないですか。きれいな人だらけ。演技がうまい人だらけ。私の個性はぽっちゃりしかないかもしれませんけど、今となっては、そこが良かったのかなと思い始めました。

――今回の町田さん役も、野呂さんだから演じられる部分はありますよね。

野呂 ありがたいです。人生でガリガリになったことが一度もないのは、残念ですけど(笑)。昔から、アメリカの女性はお尻が大きくてカッコイイとか、人と少し感性がズレていて、ぽっちゃりが悪いとは全然思ってなかったんですね。アイドル時代にいろいろ言われましたけど、今はこの体型の私を求めてくれる人がいるので、良かったなと思います。

――ダイエットもしないほうがいいと?

野呂 全然やろうと思いません。昔SDN48を卒業したあと、テレビのダイエット企画のオファーがいっぱい来て、結構やりましたけど、どれもこれもうまく行かなくて。痩せたといっても、そこまで細くはなりませんし、ひとつは途中でクビになりました(笑)。結果的に私はそういうことをするのではなく、このままでいいんだとわかりました。

(C)「メンタル強め美女白川さん」製作委員会
(C)「メンタル強め美女白川さん」製作委員会

今は女優もバラエティも主戦場です

――今も主戦場はバラエティというスタンスですか?

野呂 もともとは「女優をやりたい」の一点張りでした。でも、バラエティをやったことによって、女優の仕事のオファーをいただけているので、今はどちらも主戦場です。女優になりたいからバラエティをやめたいとは、全然思いません。バラエティでキャラクターが固定されて、できる役がないとも見られたくないです。そこは自分の努力次第。いただいた仕事はすべて、全力で返すスタイルでやっていこうと思います。

――とりあえずバラエティでは、ポジションを確立しましたね?

野呂 それがですね、自分の年齢が上がって、若い子がいっぱい入ってきたときの振る舞いを、今すごく考えています。本当は若槻(千夏)さんみたいになりたいんですけど、無理なので(笑)。自分なりの道を模索しながら、楽しくやらせてもらっています。

――ライバルとかキャラが被っていると思う人はいますか?

野呂 そういう人は思い浮かびません。でも、能力が高い人はたくさんいるので、自分もそういうふうにならないといけない気持ちはあります。

浅野温子さんが最初の憧れでした

――女優を目指した原点は、どんなところだったんですか?

野呂 遡ると、幼稚園の頃から浅野温子さんが大好きでした。オーディションの履歴書にずっと「浅野温子さんみたいな女優になりたい」と書いていた気がします。表情がすごく豊かですし、『101回目のプロポーズ』では悲しみもありながら“愛とは?”みたいな深いテーマで演じられて、『パパはニュースキャスター』のみゆきという役は面白くて! かわいらしいけど、田村正和さんを完全に自分のものにはできない切なさとか、いろいろなものが見られました。そんな演技ができる人になりたいというのは、今でもずっと変わらず思っています。

――演技に対する感性は早熟だったんですかね。

野呂 演じる人の個性を見て、いいなと思って、幼稚園の頃から自分もやりたいと思っていました。山口智子さんのあっけらかんとした感じもすごく好きでしたし、小池栄子さんはバラエティもちゃんとやられて、演技も素晴らしくて。面白い役もシリアスな役も全部できる方だと思います。

(C)「メンタル強め美女白川さん」製作委員会
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初めての真面目な役で思わぬ感情が生まれて

――自分が出演して、何かに目覚めたような作品はありますか?

野呂 それは毎回どの作品でもありますけど、私は明るい役が多かったんですね。たぶん私自身と似ているということで、オファーしてくださって。でも、去年の年末の『顔だけ先生』では、真面目な先生の役をやらせていただきました。舞台では悲しい役も多かったんですけど、ドラマでは初めてだったのと、相手役の若林(時英)さんに感情を引き出してもらって、すごく勉強になりました。

――生徒の子どもを身ごもる役でしたが、台本を読んでいたときにはなかった感情が、掛け合いの中で生まれたとか?

野呂 そうです。こんな気持ちが生まれるんだ、こんな表情が出るんだ……というのが、すごく新鮮でした。最後の体育館のシーンで、それが純粋に素晴らしいと感じて、この気持ちを忘れないようにしたいなと。自分も相手の感情を引き出せる役者になりたいとも思いました。

――『ナイト・ドクター』の看護師役も「本当にいそう」と評判でした。

野呂 衣装合わせをしたとき、自分で「こんな看護師さん、いる!」と思ったんです。そのときから、「こういう人いるよね」と思ってもらえる女優さんになりたいと、意識するようになりました。共演した俳優さんが一線の方ばかりで、撮る直前まで前室で談笑していたのに、本番になった途端、シリアスに変わるのがすごくて。演技はもちろん、集中力も勉強できて、ちょっと自信を持てたところがあります。

(C)「メンタル強め美女白川さん」製作委員会
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人の視線を気にする昔の自分を思い出しました

――『メンタル強め美女白川さん』の町田さん役について、「台詞の中に以前自分が思っていたことや行動があった」とコメントされていました。町田さんのどんな部分が自分と重なったんですか?

野呂 私は体型にコンプレックスを持っている部分とめちゃくちゃポジティブな部分を、両極端で持っていたんです。今はポジティブマインドのほうが強くなりましたけど、ふとしたときに自分を卑下する感覚になってしまって。あと、人の感情にすごく敏感なんです。私は昔から太めで、「こう見られているんだろうな」というのを笑いに変えていた人間ですけど、人の視線に気づく繊細さは町田さんと似ていると思います。開き直るときもあれば、町田さんみたいにヘラヘラして、その場をやり過ごすこともある。それで家に帰ってから気にしているのも、一緒ですね。

――野呂さんもバラエティで体型いじりを受け流しつつ、家では落ち込むこともあるとか?

野呂 最近はこれが私の個性だと受け入れているので、何も気になりません。でも、以前は町田さんと同じような気持ちになってました。自分を責めることも多くて。今はお仕事もいろいろいただく中で、プラスに変えていけますけど、このドラマをやっていて、昔の自分を思い出しました。1回は考えたことが台詞の中に入っていたので。

――1話では、社食でフライの盛り合わせにするか、ヘルシーサラダ定食にするか、迷うシーンがあります。

野呂 「痩せようとしてサラダを食べていると思われるかな」というような台詞があって、自分でもそう考えてしまうところがあります。ジムに行っていたとき、年を取っても歩けるように健康になるためでしたけど、野呂佳代だとバレたら「こっそりダイエットをしているのに全然成果がないんだな」みたいに思われるんじゃないか……とか(笑)。その台詞は自分とリンクしました。

(C)「メンタル強め美女白川さん」製作委員会
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年齢を重ねて図々しくなりました(笑)

――自分と重なる部分がある町田さんは、演じやすい役ですか?

野呂 やりやすいですけど、実はやりにくいところもあります。町田さんは全部あっけらかんとしているわけでなくて、私としては「そんな細かいことはいいよ」みたいな気持ちになるんです。自分と違う部分で繊細というか。普段の自分と同じテンションでやっていると、「これは町田さんじゃない」と思って直したり、微調整が難しいです。

――ベースが似ているだけに。

野呂 そうなんです。町田さんと自分の境界線が微妙で、町田さんに寄せるべきところを自分でやってしまうと、テンションが違う。そういう部分を考えないといけなくて。

――OLで経理担当という部分で意識することはありますか?

野呂 日々の業務に慣れている感じは出そうとしています。経理の人って、たまにテレビで見ると、計算機を見ないで打っているんですよ。そういうのを演技でやりたくて仕込んだ部分があるので、見つけてほしいです。

――野呂さんはメンタル強めですか?

野呂 めっちゃ弱いと思っていました。みんなにも「ガラスのハート」と言われていて。でも、今日まで戦って仕事ができているということは、たぶんメンタルが強いはずなんです。気にしぃなところもすごくあったのが、何日か経つと忘れて前向きになっている自分もいて。そうなるまでの日数もどんどん短くなって、38歳の今に至る感じです。

――何かを乗り越えたというより、自然に強くなったと。

野呂 年を重ねるといろいろ経験して、悪く言えば図々しくなりました(笑)。何かあっても、なってしまったものは仕方ない。そう思えるようなったのは、年の功ですね(笑)。

(C)「メンタル強め美女白川さん」製作委員会
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「こんな人いる」と思われる女優を目指して

――女優を今後も続けていくために、身に付けたいことはありますか?

野呂 やっぱり「こういう人いるよね」というリアリティを表現できたらいいなと、すごく思います。どんな役であっても「いるいる」と思ってもらえる女優になりたいです。

――そうなるために努力していることも?

野呂 人を観察するしかないし、日本の作品をもっといっぱい観ようと思っています。私はもともとハリウッド作品が大好きで、洋画をよく観ていたんです。でも、日本の映画で日本の人をたくさん見ることで「いるいる」がわかるので、たくさん勉強して吸収していきたいです。

――面白かった邦画はありました?

野呂 「今ごろ、それを言う?」という感じですけど、安藤サクラさんが素敵だと思って、『万引き家族』を観直しました。樹木希林さんも出てらっしゃって、下品になりそうなところも自然だったり、「いるいる」をちゃんと表現できる女優さんは、やっぱりいいなと思いました。

――野呂さんがもし、白川さん役の井桁弘恵さんみたいなスタイルだったら、目指すものは違っていましたか?

野呂 全然違っていましたね。井桁さんのスタイルになれるものなら、恋愛もののヒロインをやりたいです。海外作品にもめちゃくちゃ出たい。でも、私はやっぱり、日本で一回頑張らないと。

(C)「メンタル強め美女白川さん」製作委員会
(C)「メンタル強め美女白川さん」製作委員会

エプロンもきれいな品のある主婦になりたくて(笑)

――これから40代も見据えて、仕事以外で取り組みたいこともありますか?

野呂 雑誌に出ている主婦モデルの方って、すごく素敵ですよね。白金で自転車に乗ってそうだったり(笑)。プラベートでは、そういうきれいな主婦になりたい気持ちがあります。「掃除をきちんとされているんでしょうね」「お料理をいつも作っているんでしょうね」と言われるくらいの品が欲しいです(笑)。

――今は掃除や料理は?

野呂 やってますけど、40代ではフリルの付いたきれいなエプロンをして、お皿にもこだわりを持った主婦になれたらと。

――今のエプロンは違うんですか?

野呂 家ではスウェット生活です(笑)。スウェットの上にデニムのエプロンをして、マンガがいっぱい描いてあるお皿を使っていて。そこにもう1コ品が乗ると、素敵な主婦になれるのになと思います(笑)。

Profile

野呂佳代(のろ・かよ)

1983年10月28日生まれ、東京都出身。

2006年にAKB48に加入。2010年にSDN48に移籍後、2012年に卒業。『ロンドンハーツ』(テレビ朝日系)、『ゴッドタン』(テレビ東京系)、『ラヴィット!』(TBS)などのバラエティに出演。女優としての主な出演作は、ドラマ『僕らは恋がヘタすぎる』、『ナイト・ドクター』、『顔だけ先生』、映画『ハッピーメール』など。4月6日スタートのドラマ『メンタル強め美女白川さん』(テレビ東京系)に出演。

ドラマParavi『メンタル強め美女白川さん』

4月6日スタート テレビ東京系/水曜24:30~

公式HP

AKB48で同期だった秋元才加(右)とも女優として初めて共演
AKB48で同期だった秋元才加(右)とも女優として初めて共演

(C)「メンタル強め美女白川さん」製作委員会
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芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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