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意外と少ないアーティスト出身の女優。『ファイトソング』藤原さくらの先駆者たちは?

斉藤貴志芸能ライター/編集者
藤原さくら(公式ホームページより)

ドラマ『ファイトソング』で、主人公らの三角関係を見守りながら自らの想いは胸に秘める役で、藤原さくらが反響を呼んでいる。シンガーソングライターとしてデビューし、ドラマ出演は4作目。アーティスト出身で俳優活動も継続的に行う例は、男性と比べて女性では意外と少ない。先駆者たちを振り返る。

音楽界から男性は相次ぎ俳優業に進出

 音楽畑の出身で、コンスタントにドラマや映画で俳優をしている男性アーティストは多い。主役級か脇役タイプかを問わずに挙げれば、星野源、浜野謙太(在日ファンク)、金子ノブアキ(RIZE)、渡辺大知(黒猫チェルシー)らはここ1年でも出演作があった。

 上の世代だと及川光博、ユースケ・サンタマリア(BINGO BONGO)、ピエール瀧(電気グルーヴ)、さらに上では石橋凌(ARB)や陣内孝則(ザ・ロッカーズ)、もっと遡れば武田鉄矢(海援隊)らもいる。グループサウンズ出身の沢田研二(ザ・タイガース)や故・萩原健一さん(ザ・テンプターズ)らはルーツか。他にも挙げればキリがないくらいだ。

 アーティストは芝居の現場に役者と違う空気感を持ち込んでくれる、とよく言われる。上記の面々もそういうインパクトを持っていて、俳優業が定着した。ところが女優となると、アイドル出身や中島美嘉、大原桜子のような最初から二刀流のケースを別にすれば、アーティストとしてキャリアを積んだうえで、単発でなく出演を続けている例は意外と少ない。

 そんな中で、現在『ファイトソング』(TBS系)に出演中なのが、ギターを奏でるシンガーソングライターの藤原さくらだ。

スモーキーな声が強い台詞でも生きて

 藤原がインディーズ活動を経てメジャーデビューしたのは、19歳だった2015年。女優デビューは翌年、福山雅治主演の月9ドラマ『ラヴソング』でヒロインを演じた。歌手を目指す役で、オーディションから抜擢されたもの。

 両親がいない施設育ちで、吃音でうまく喋れず、人生に嫌気がさしていたという設定。演技経験がないとただ暗い感じになりがちだが、内面的には活発なところをうまく表現していた。福山が演じる臨床心理士のひと言にときめいたり落ち込んだりと、恋する乙女らしさも見せていて。その後はしばらく、女優活動は劇団☆新感線の舞台くらいだったが、昨年『DIVE!!』で久々にドラマに出演した。

 『ファイトソング』では清原果耶が演じる木皿花枝を巡る、ミュージシャンの芦田春樹(間宮祥太郎)、幼なじみの夏川慎吾(菊池風磨)の三角関係がストーリーの軸。藤原が演じる萩原凛は、花枝や慎吾と同じ児童養護施設で育ち、慎吾を想い続けている。

 思ったことをズバズバ言うアネゴ肌で、自分の恋心は胸に秘め、花枝を好きな慎吾を「シャキッとしろ!」と蹴ったりしながら後押し。「言うって決めたんだろ? 死ぬ気で行け! 骨は拾ってやるから」などと強引だが、「捉えどころがないのがオレの魅力」と自賛する慎吾に「そうかもね」と真顔になったりも。

 そんな凛に、視聴者からSNSで「切ない」「報われてほしい」などと共感の声が寄せられている。シンガーの藤原はスモーキーな歌声が持ち味で、しゃべりでも低音が凛の強い口調にマッチしている。

『ファイトソング』より (C)TBS
『ファイトソング』より (C)TBS

草分けは『私は泣いています』のりりィ

 アーティストから女優活動を本格化させた草分けは、2016年に他界したりりィさんだろう。荒井(松任谷)由実や五輪真弓らと同じ1972年に、作詞作曲も自ら手掛けるシンガーソングライターとして、当時は異例のアルバムデビュー。1974年に『私は泣いています』がオリコン3位、52万枚を売り上げるヒットとなった。もの憂げなハスキーボイスはインパクトが大きかった。

 子育てでの活動休止を経て、1997年にドラマ『青い鳥』で女優として復帰。豊川悦司が演じた逃避行をする主人公の生き別れていた母親役。2001年には『3年B組金八先生』第6シリーズで、上戸彩が演じた性同一性障害の生徒の愛情深い母親を演じた。

 他にも多くの作品に出演してきたが、やはり陰のある母親役のイメージが強い。2013年の『半沢直樹』でも半沢の母親役。一方、往年のNHK少年ドラマシリーズから岩井俊二の企画プロデュース・脚本でリメイクした『なぞの転校生』では、崩壊した異次元世界から来た王妃という役を演じている。藤原さくらが出演した『ラヴソング』では大手レコード会社の社長役だった。

 なお、りりィさんはひとり息子のJUON(FUZZY CONTROL)と結婚した吉田美和(DREAMS COME TRUE)の義母に当たる。64歳で肺がんで息を引き取った際には、この家族らに看取られたという。

NHKホームページ人物録より
NHKホームページ人物録より

YOUは軽やかな役からカンヌ受賞映画まで幅広く

 最近ではNHK朝ドラ『カムカムエヴリバディ』の安子編や深夜の不倫ラブコメ『じゃない方の彼女』に出演したYOUは、3人組バンドFAIR CHILDのボーカルだった。もともと1985年にアイドル歌手としてデビューし、テクノポップユニット・SHI-SHONENの戸田誠治に誘われ、FAIR CHILDの結成に参加。1988年に1stシングルを発売した。

 当時は23歳。持ち前のファニーボイスを存分に発揮し、作詞も手掛けていた。1990年にはCMソングの『探してるのにぃ』がオリコン17位に。また、『ダウンタウンのごっつええ感じ』のレギュラーにもなり、1993年のFAIR CHILD解散後もバラエティ出演が続き、タレントとして活躍した。

 女優業でもドラマを手始めに、2004年に公開された是枝裕和監督の映画『誰も知らない』に出演。カンヌ国際映画祭で柳楽優弥が史上最年少&日本人初の最優秀主演男優賞を獲得した同作で、子どもたちを見捨てた母親役。自らもキネマ旬報の助演女優賞に選ばれるなど、高く評価された。

 その後も『セカンドバージン』で綾野剛の遥か年上の恋人役、『ボイス 110緊急指令室』の唐沢寿明らが行きつけの居酒屋店主役など、脇役での出演が途切れない。

 独特の声やバラエティでのイメージから飄々とした役の印象が強いが、『カムカムエヴリバディ』では息子を戦争で失った悲しみを義理の娘の安子(上白石萌音)にぶつける役どころで、いじめる裏にやるせなさをのぞかせたりも。観る者の琴線に触れる演技でも印象を残す。

コミックバンド出身の濱田マリの気のいい母親ぶり

 『カムカムエヴリバディ』では、るい編に濱田マリが出演していた。1人で大阪に出てきた17歳のるい(深津絵里)を住み込みで雇うクリーニング店の夫婦の妻役。大阪人らしい陽気なキャラで、るいを娘のように大事にしてきた。

 濱田自身は神戸出身で、関西ノリを押し出したコミックバンド・モダンチョキチョキズにボーカルとして22歳で加入。1992年に定番アニメソングのカバー『新・オバケのQ太郎』でデビューしている。

 濱田も甲高い声に特徴があり、モダンチョキチョキズが1997年に活動停止後、5分間の情報番組『あしたまにあ~な』で、早口でまくしたてるナレーションを聴かせていた。女優としても、明石家さんま主演のドラマ『恋のバカンス』で二股をかけられるキャビンアテンダントを演じたのを皮切りに、出演が相次いだ。朝ドラにも『カムカムエヴリバディ』以前に2011年の『カーネーション』、2014年の『マッサン』と出演している。

 『カーネーション』では髪結いをして2人の息子を女手ひとつで育てた役だったり、本人の素とも重なる気のいいお母さん役が多くなっていった。だが、北野武監督・主演の映画『血と骨』では凶暴な主人公を破滅させる後妻役、ドラマ『アンフェア』では篠原涼子が演じた刑事が信頼する情報解析係ながら、実は彼女の娘の誘拐事件の黒幕という役を演じていたりも。クセのある役どころも巧みで、演技の引き出しは多い。

 そして、ここまで挙げた4人に共通するのは、声が独特なこと。歌手としての強みは、演技でも役を形作る大きな要素として武器になるようだ。

NHKホームページ人物録より
NHKホームページ人物録より

UA、YUI、miwaらは限定的に映画出演

 一方、『スワロウテイル』のCHARA、『タイヨウのうた』のYUI、『東京フレンズ』の大塚愛と、いずれも歌手の役で主演したが、女優活動はほぼ単発で終わっている。UAは松本人志監督の『大日本人』、Coccoは岩井俊二監督の『リップヴァンウィンクルの花嫁』など、主演も含め映画出演歴はあるが、その存在感をドラマで広く見られるまでには至らなかった。

 より若い世代では、miwaが2015年に『マエストロ!』、2017年に『君と100回目の恋』と映画2本でヒロイン。所属事務所も小栗旬、田中圭、綾野剛らが名を連ねるトライストーンながら、その後は女優業の広がりは見せていない。

 アーティストとして強い色と人気を持つほど、演技でも役より本人のイメージで見られがちで、フィットする役柄が限られる面もあるかもしれない。

長身で強い女性役にハマるシシド・カフカ

 逆に、女優業でも個性を最大限に活かしているのがシシド・カフカだ。19歳からドラマーとしてプロの世界で活動。やがてドラムを叩きながら歌う独自のスタイルを確立し、2012年にCDデビュー。ビートと一体化したボーカルはシャープで迫力たっぷり。2013年には『プリッツ』のCMにドラムを叩いて出演している。

 女優デビューは2014年のドラマ『ファーストクラス』。シリーズ前作で、菜々緒が演じた川島レミ絵の悪女ぶりが話題を呼んだが、シシドはそのレミ絵でさえ頭が上がらない猟奇的な姉のナミ絵役。この設定を体現できる女優はなかなか思い浮かばない中、172cmの菜々緒を上回る175cmの長身で見た目も強そうなシシドに、白羽の矢が立ったのだろう。まさに打ってつけだった。

 その後も、朝ドラ『ひよっこ』で気の強さが災いして見合いは破談続きの役、『カンナさーん!』で渡辺直美が演じた主人公の夫の不倫相手役。2020年にはハードボイルドなドラマ『ハムラアキラ』で“世界で最も不運な探偵”として主演している。困難にもクールに立ち向かう姿は、独特な佇まいとシンクロして見入らせた。

 2021年の『レッドアイズ』では亀梨和也が演じた主人公のチームの一員で元自衛官の役。長い手脚が映えるアクションも見せた。心身がタフな女性役にはこのうえなくハマる存在となっている。

ゲス極の美人ドラマーが話題の映画に主演

 同じドラマーでは、ゲスの極み乙女。のほな・いこかが2017年から、さとうほなみ名義で女優活動をスタート。ドラマ『黒革の手帖』でデビューした。『いつまでも白い羽根』での復讐のために看護学校に入学した役などを経て、今年1月には配信ドラマ『30までにとうるさくて』で主演。広告代理店のキャリアウーマンだが、プロポーズされた彼氏とセックスレスで悩むという役どころだった。

 公開中の城定秀夫、今泉力哉両監督がコラボした映画『愛なのに』でも、ヒロインを演じている。瀬戸康史が演じる主人公の憧れの女性で、自らの婚約者は浮気をしているという役に挑んだ。現在32歳。元より美人ドラマーとして名高く、藤原さくらと同様、今後の女優展開が注目される。

(C)2021「愛なのに」フィルムパートナーズ
(C)2021「愛なのに」フィルムパートナーズ

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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