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堀田真由は初挑戦の声優でも実力派。実写で経験ない天真爛漫な主人公を声で演じ切れた理由

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/松下茜

大河ドラマ『鎌倉殿の13人』への出演も発表された堀田真由。若手実力派女優として評価を確固たるものにしている中、アニメ映画『ブルーサーマル』で声優に初挑戦した。グライダーに青春を賭ける大学生たちを描いた作品で、天真爛漫な主人公を演じている。実写作品では演じてこなかったタイプの役だが、言われなけば彼女だとわからないくらいの声で、生き生きとしたキャラクターに仕立てた。好演の裏にあったものは?

普段のお芝居でも声は変えていました

大学の体育会航空部が舞台の『ブルーサーマル』。キラキラしたキャンパスライフに憧れて長崎から上京した都留たまき(堀田)は、破損させてしまったグライダーの弁償のために入部したが、主将の倉持潤(島﨑信長)の操縦する機体で飛び立った瞬間、空の美しさに魅了される。周りを明るくする性格で、先輩の空知大介(榎木淳弥)や同期との間に絆も生まれ、大会に挑んでいく。

――「いつか声のお仕事をやってみたい」と思っていたそうですが、アニメが好きだったんですか?

堀田 昔は『ドラえもん』とかジブリ作品とか、よく観ていました。このお仕事を始めてからは、あまり観なくなってしまったんですけど。

――役者さんの表現のひとつとして、声優に興味があったわけですか?

堀田 そうです。お仕事で「いい声ですね」と言っていただくことが多くて。高すぎず低すぎず、「眠たくなるような声」とも言われて(笑)、それは良いのかどうかわかりませんけど、これだけ声のことを言われるなら活かしたいと思っていました。普段のお芝居でも声は大事ですけど、アニメーションで声だけで演じる経験を一度はしてみたかったんです。

――一般人でも、録音した自分の声を聴くと「思っていたのと違う」と感じがちですが、そういうことはありませんでした?

堀田 私は普通のお芝居をするときも、声は変えているんです。役によって高くしたり、低くしたり。だから、作品を観てイメージと違うと感じるより、「こういう声にして良かった」と思います。

――さすがプロですね。

堀田 でも、今回は初めてのアニメーションで、試写を観たときはエンドロールで自分の名前が流れて、「そうだ。私がやっていたんだ」と思いました(笑)。違う人の声を聴いているような感覚になっていました。

オーディションでは何パターンか用意して

――それだけ役の声になっていたということですよね。確かに観ていて堀田さんの顔は浮かばず、たまきでしかない感じでした。オーディションでは課題の台詞は決まっていたんですか?

堀田 はい。他のアニメーション映画のオーディションを受けたときは、当日読む原稿を1枚もらって、おおまかなストーリーしか聞いてなかったんですけど、『ブルーサーマル』では詳細な資料をいただいて、原作もわかっていたのでマンガを読んだり、紙1枚の台詞に対して、たくさん準備ができました。

――ちなみに、どのシーンの台詞だったんですか?

堀田 先輩の空知とケンカしているところです。方言の長崎弁も入っていました。

――オーディションから、だいぶ練って臨んだんですか?

堀田 原作を読んで「こんな感じかな」と決めていったところはありましたけど、役者のオーディションでも何か言われたあとにどう変われるか、対応力が大事だと思っていて。今回も、まず自由にやってから「こういう声も出せます」と見せていけるように、声の大きさや高さを何パターンか用意しておいて臨みました。

――力が入っていたんですね。手応えもありました?

堀田 まったくわからなかったです。ドラマや映画のオーディションだと、審査する方が目の前で見てくださいますけど、アニメーションでは後ろや違うブースにいらっしゃって、「今はいけたな」みたいな感覚はありませんでした。

テンションは上げてトーンは下げようと

――たまきの声は普段とだいぶ変えたようですね。

堀田 意識的に変えました。たまきは表情がコロコロ変わる女の子なので、声も合わせて変えていって。全部低いわけでなく高いところもあるし、裏返ったりもする。いきなり大声を出したかと思ったら、泣いているような鼻声になったり。主人公だから登場する場面も多いので、観ている皆さんを飽きさせないためにも、声の変化を出したほうが楽しいかなと思ってやっていました。

――ベースとしては、テンション高めで?

堀田 テンション感は高めです。でも、原作の小沢(かな)先生に言われたのは、たまきは明るく高いトーンというより、ちょっと低い声を出す女の子をイメージしていたそうです。「そこがオーディションで堀田さんにピッタリでした」と言っていただいて。だから気持ちは上げていきたくても、声はキーンと高いトーンにならないように意識しました。2時間くらいの映画の中で、ずっと聴き心地の良い声にしたいとも思ったので。

――それは声優初挑戦にして、高いハードルではありませんでした?

堀田 お芝居の現場とはスタイルが違うので、慣れるまでにちょっと時間がかかっただけで、表現することに関しては同じ、という感覚でした。普段お芝居をしているときは、いろいろな答えが正解になり得ますけど、アニメーションはもう画ができていて、答えはそこにあって。『ハニーレモンソーダ』のようなマンガを実写化した作品と、違いは感じなかったです。原作にリスペクトを込めたいので、自分がどうするかというより、忠実に声を乗せられたらいいかなと思っていました。

OKはもらっても納得いかなかったので

――一方で、アニメならではの誇張表現もありましたよね。怒って「ムキーッ」と言ったり。

堀田 普段「ムキーッ」とは言いませんよね(笑)。ペットボトルの水をブッと吐くシーンも難しかったです。生きている中で、そんなことはなかなか起きないし、アニメーションならではですね。走っているシーンでは遠くに行くにつれて、声は小さくなるけど息の量は多くなったり、距離感が一番難しかったかもしれません。グライダーの中で先輩と話しているときや、丘の上でしゃべってから降りるときもそう。実際にその場にいるわけではないので、「こんな感じの風が吹いていて、こんな温度だろうな」とか想像しながらやりました。

――悩んだシーンもありました?

堀田 水を吹き出すシーンは1回やってOKはもらえましたけど、自分では納得がいってなくて、家でずっと練習していたんです。確か最終日に、もう1回やらせてもらいました。先日インタビューで小沢先生とご一緒したとき、そこで「やらせてください」とお願いしていたのが、「つるたまっぽかった」と言っていただきました。ストイックなところが似ていたみたいです。あとは、長崎弁が大変でしたね。

――橘正紀監督は堀田さんについて、「こちらの無茶振りにすぐ反応してくれて」とコメントされています。どんな無茶振りをされたんですか?

堀田 自由にやらせていただいて、私は無茶振りをされた感覚はないです。でも、最後のほうの倉持先輩とのかなり長いシーンを、一連で録りました。それが無茶振りだったんですかね? 役者の現場では短く切って撮って何回も続けるので、アニメーションではこんなに長いシーンを一気に撮るんだとビックリしました。でも、その最後のシーンは感情が高ぶるところで、ちょっと前から録っていったほうが繋がるから、「やってみますか?」と言われたんです。エネルギーと集中力をすべて懸けて1回やったら、「もう1回やろう」となって(笑)。結局何回もやったから、体力的にはすごく大変でした。

空の画を見ただけで高揚感がありました

――グライダーで空を飛ぶ感覚は、アニメの画を見て味わえました?

堀田 画を見ただけで、すごく高揚を感じました。空とか雲とか景色の情景が本当にきれいで。実際に飛んだわけではないですけど、そこにリアルなものはありました。

――それもあって、たまきの感動もリアルに声に出たわけですか?

堀田 たまきが空を飛んだときに出る声は、本当に感動的なものだと思うので、すごく意識しました。初めてグライダーに乗って上空に行ったとき、空知と一緒に雲海を見たとき……。ひとつひとつの大事なポイントでの声は難しかったです。実際にグライダーに乗るタイミングがなかったので、動画を観ておきました。

――自分でグライダーに乗りたい気持ちもあったんですね。

堀田 はい。エンジンがなくて上昇気流だけで飛ぶのは、飛行機とはちょっと違う感覚なんでしょうね。高いところはそこまで得意でなくて怖さもありますけど、どういうものか知りたい気持ちはあります。

日常では起伏がないタイプなんです

――役柄について掘り下げるのも、実写と同じでしたか?

堀田 そこはあまり変わらなかったと思います。

――たまきは、姉のちづるが言うには「無邪気で誰とでも仲良くなれて、いつも笑っている」女の子。堀田さんが実写であまり演じないキャラクターですよね。

堀田 そうなんです。私はクールとか勝ち気な役が多いので、真ん中にいて、みんなを明るく照らすような王道の女の子は、演じたことがありませんでした。自分の中で苦手意識があって、そういう役も来ないから、きっと私は違うんだと、どこかで思っていました。それが今回ご縁をいただいて、やってみたら本当に難しかったですね(笑)。

――ちゃんと周りを照らすキャラクターになっていました。

堀田 自分の引き出しにはなかったです。私の日常の中で「嬉しい! ハッピー!」みたいに高まることはあまりなくて。起伏がないタイプなので、現場に行くまでにたまきのテンションに上げる作業は、大変だったかもしれません。

――上げるために何かしたんですか?

堀田 ちょっと早めに起きて、頭を動かしていました。声録りをする前にも、共演者の方とお話をしたり。ローなテンションから上がるのが遅いので、ギリギリに起きて現場で「おはようございます」から録るのは怖かったです。

三角関係では2人をただ振り回す感じで(笑)

――たまきの倉持先輩と空知それぞれに対する気持ちも考えました?

堀田 その三角関係みたいなものもストーリーの中にありますけど、たまきは空知に対しても倉持さんに対しても、接し方は変わらない女の子だと思うので、そこはまったく気にしませんでした。たまきはひたすら、たまきでいて、2人を振り回している感じでしたね(笑)。

――航空部の他の1年生に「どっちが好きなの?」と聞かれて、「私は別にそんなふうには」と話していたのも本音だと?

堀田 でも、そこは後半で、自分のいろいろな気持ちに気づき始めていたとは思います。あのシーンは女子っぽくて面白いですね。

――たまきを声優としてこれだけ見事に演じ切ったら、もし『ブルーサーマル』が実写化されてもいけそうですね。

堀田 いえ、声だから演じられたと思います。私はやっぱり、ひと筋縄ではいかない役が来るみたいで、たまきみたいなまっすぐな役は、実写ではなかなかできないと思います。『ブルーサーマル』だと、お姉ちゃんのちづるのほうが自分が演じるイメージがあって。だからこそ、たまきのような役に憧れはあります。

――では、またアニメで声優をやるとしたら、実写と違うタイプのキャラクターを演じたいと?

堀田 そうですね。戦う役とか。今回、倉持さん役の島﨑さん、空知役の榎木さんが、私も観ている『呪術廻戦』に出演されているのがすごくて。リアルにあんな戦いをすることはないじゃないですか(笑)。演じるためには、空を飛ぶ以上に想像を膨らませないといけないし、正解はなくて。そういう役にも挑戦したいと思っています。

憑依でなく直感が当たるタイプです

――堀田さんはもともと演技力を評価されていて、初挑戦の声優でも実力を見せてくれました。自分では役者として器用なタイプだと思っていますか?

堀田 器用か不器用かはわかりませんけど、完全に感覚派だろうなと。憑依とかはないし、考えすぎてもしっくりきません。日常でも直感が当たるタイプです。初めて会った人と「仲良くなれる」と感じて、あとで気づくとその通りだったりすることがよくあって。そういう感覚を、お芝居でも大事にしたいと思っています。

――声優の仕事でも、その感覚が活きたんですか?

堀田 私はお芝居でも、台詞は音から掴むんです。もちろん内容は考えますけど、ずっとしゃべり続けて耳で覚えていく感覚。だから、台詞のリズムがズレると「あれ?」となるし、耳はすごく大事と思っていました。そしたら今回、音響監督さんに「堀田さんは耳がいい」と言われて。どうしてか聞いたら、「相手が言ったことをちゃんと聞いて、それを踏まえて、お芝居が変わっています」ということでした。音で台詞を覚えているのと繋がりました。

一番大事にしているのは長く続けること

――それと、堀田さんは今回アニメで主役。映画や単発ドラマでの主演もありつつ、連続ドラマの1話のゲストでも印象を残してきました。自分の業界での立ち位置について、目指すところはあるんですか?

堀田 自分の中では、真ん中に行きたいとか、バイプレイヤーでいいとか、立ち位置を考えることはありません。作品に惹かれるか、キャラクターを演じたいかで出演を決めています。真ん中だから得られることもあれば、主軸でないから遊んでみることもできる。可能性を狭めないためにも、今のスタンスでいいのかなと思っています。一番大事にしているのは、長く続けることです。

――おばあさんになっても、役者を続けていようと。

堀田 続けていけるかはわかりません。でも、最近は学生でない役も増えてきて、社会人役の中で可能性が広がって、そのあとはきっと母親役をやると思います。役者は自分が辞めると言うまで、無限に続けられる仕事なので、やり切ったと思える瞬間まで、いろいろなことに挑戦できたらと思います。

撮影/松下茜

Profile

堀田真由(ほった・まゆ)

1998年4月2日生まれ、滋賀県出身。

2015年にドラマ『テミスの求刑』でデビュー。主な出演作はドラマ『わろてんか』、『3年A組-今から皆さんは、人質です-』、『いとしのニーナ』、『危険なビーナス』、映画『虹色デイズ』、『劇場版 殺意の道程』、『ライアー×ライアー』、『ハニーレモンソーダ』など。2020年より『non-no』専属モデル。『ゼクシィ』13代目CMガール。『坂上どうぶつ王国』(フジテレビ系)に出演中。公開中のアニメ映画『ブルーサーマル』で主演声優。『鎌倉殿の13人』(NHK)に出演。

『ブルーサーマル』

監督/橘正紀 原作/小沢かな 配給/東映

公式HP

(c)2022「ブルーサーマル」製作委員会
(c)2022「ブルーサーマル」製作委員会

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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