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業界注目度MAXの新人女優・河合優実。「テンプレは避ける」演技でデビュー3年で映画9本。

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/S.K.

21歳になった新人女優・河合優実が業界関係者や玄人筋の間で話題になっている。2019年にデビューするや、公開された映画はすでに9本。『サマーフィルムにのって』と『由宇子の天秤』でヨコハマ映画祭の最優秀新人賞を受賞したほか、出番は多くない作品でも独自の存在感で印象を残した。来年公開の作品も2本控え、ドラマ、CM、MVの出演も相次ぐ。最新作『偽りのないhappy end』では主人公の妹で突然行方不明になる役。称賛がやまない彼女の演技力の核と素顔を探ってみた。

学級委員に推薦されるタイプでした

――河合さんは高校でダンス部に入って、表現というところで女優を目指したそうですが、学校は進学校でしたっけ?

河合 そういう括りに入るんですかね。英語に特化した高校でした。

――成績優秀だったんですね。

河合 まあまあ優秀でした(笑)。中学までは勉強も頑張っていて。

――優等生だけど変わり者だったタイプですか?

河合 変わり者ではなかったと思います。学級委員とかに推薦されちゃうタイプでした。

――周りの信頼が厚かったんですね。

河合 というか、学級委員をやる子って、だんだんそういうキャラになっちゃうじゃないですか。クラスの中で「あいつがいるなら」みたいな。そのポジションでした。よく「図書室の隅で本を読んでいたタイプでしょう?」と言われますけど、そうではなくて、めちゃめちゃ仕切っていました。

――学級会で騒いでいる男子がいると叱ったり?

河合 はい(笑)。合唱コンでも指揮者をやったり。でも、通信簿で先生から「そういうことをやりながら、裏でみんなを見ていますね」と書かれました。

大手より少数精鋭の事務所がいいかなと

――女優を目指す前に勉強を頑張っていた頃は、将来にはどんなビジョンを持っていたのですか?

河合 絵を描いたりダンスをしたり、大きな括りで芸術的なことは好きで、アートやエンタテイメントの世界に関わりたいというのは、うっすらありました。自分が表現する側でなくても、英語で何かを繋いだりイベントを作る仕事を考えた時期もありましたし、美大に行って舞台美術やグラフィックデザインを学ぼうかとも思いました。

――女優になると決めてから、今の事務所の鈍牛倶楽部に自分で応募したんですよね。オダギリジョーさんや西田尚美さんら一流の俳優さんたちが所属してますが、よく女優志望の高校生が入りたがる研音、スターダストといった事務所とはカラーが違うような……。何かアンテナに引っ掛けるものがあったんですか?

河合 何社か受けましたけど、男性が多いことはあまり意識しませんでした。業界のことは何もわからなくて、唯一繋がりがあって相談できる俳優さんがいたくらいで、手掛かりが本当になくて。ただ何となく、大手の事務所には子役からやっていたり、もう活躍している同年代の女の子も多くて、今から飛び込んでも時間がかかりそうだなと感じていました。だから少数精鋭で、いい俳優さんがいるところに入れたらなと。

野性のカンで良いほうを選べてます

――映画では『愛のむきだし』を観て影響を受けたそうですね。それも高校生の頃ですか?

河合 たぶんそうです。事務所に応募する前とか。親が映画や演劇を好きで、私もミュージカルを観たり、映画にも触れていたと思います。でも、高校時代は自分がダンスをやることで忙しくて、あまり観てなくて。『愛のむきだし』は何で観たのか覚えていませんけど、初めての「映画ってすごい!」みたいな体験でした。

――事務所に入ってからは、トントン拍子に仕事が決まっていったようですが、自分でも予想以上だった感じですか?

河合 他の方がどうなのかわかりませんけど、オーディションを受けまくって、その中で決まった作品をやらせていただいて。撮った作品の公開時期がラッキーに重なっている、ということでしかないと思います。でも、事務所もタイミングが違ったら他のところに入っていたかもしれないし、岐路に立ったとき、何だかんだ野性のカンみたいなもので(笑)、結果的に良い方向を選べている気がします。

――女優としての天性の嗅覚があるような?

河合 根拠はなくて「何となくこっちのほうが良さそう」という感じで、進路の選択もしてきました。それで今に至っています。

――オーディションで変わったことをしたわけでもなく?

河合 ガッツはありました。「この世界に入ったからには良い女優になってやる!」みたいな想いは持っていますけど、いつどこでも目立つことをするやり方はしてなかったです。

探り探りの演技でも予想は裏切りたくて

――河合さんが演じてきた役は、「この役ならこんな感じかな」というところに行かない印象があります。展開的にも演技的にも。もちろん台本ありきでしょうけど、自分で演じ方に関して意識していることもありますか?

河合 どこかでお芝居を教わったわけでなかったから、どう演じるかは作品ごとに探り探りで、自分が何をしたのかわからないところがあります。でも、たぶんテンプレは避けてきました。「こうなるだろう」というのは裏切りたい。だからどうするとか、最初から意識しているわけではないですけど、台詞を口にしたり、ふと動きが出たときに、典型的なものは避けて通る気はします。

――やっぱり半ば意識的だったんですね。

河合 単純に、何回も見たようなことはしたくないんですよね(笑)。というか、自分がそう思って演技をしていたことを、最近になって自分でわかってきました。

――それも最初は野性のカンだったんですか?

河合 そうですね。どの側面から撮っていただくかは監督次第なので結果論ですけど、言語化できないカンみたいなものでやっていた感じです。でも、演技での挙動のひとつひとつに根拠が必要という考え方があって、そこを今思えば軽視していたのが1、2年目。今はだんだん意識に上がってきて、いろいろ試している段階です。

起きた事象をそれぞれの目線で見てるだけ

2011年の『ヒミズ』から10年間、園子温監督の助監督を務めてきた松尾大輔監督の長編映画デビュー作となる『偽りのないhappy end』。中学を卒業して地元・滋賀を離れ東京に住むエイミ(鳴海唯)は、母親が亡くなった後も1人で暮らす妹のユウ(河合)を「東京で新しい人生を始めない?」と誘っていた。はじめは拒んでいたユウが急に上京を受け入れたが、引っ越してきて早々、行方不明になる。

――『偽りのないhappy end』の撮影はデビューした2019年だったとか。すでに何本か撮ったあとでした?

河合 ガッツリ撮ったのは『由宇子の天秤』くらいで、まだほぼなかった気がします。キャスティングの方が何かを観て声を掛けてくださったみたいで、オーディションなしで映画が決まったのは初めてで、「やっていいんですか?」と思いました(笑)。しかも、『愛のむきだし』の園子温監督の助監督だった方が監督と聞いて、嬉しかったです。

――台本を読んで、タイトルについてはどう思いました?

河合 強くて不思議なタイトルだなと。台本を読み進めて、撮影が終わったあとに改めて考えると、私の勝手な解釈では『偽りのない』に重きが置かれている感じがしました。事象として起きたことがあるだけで、登場人物はそれぞれの目線でしか見てない。起きたことにはウソ偽りはなくて、それがハッピーエンドかどうかは主観でしかない。そんなふうに思いました。

居心地が悪そうな子になってました

――ユウがまだ小さい頃に、お姉さんが家を出てからの心情はわかりましたか?

河合 わかりやすくはなかったです。脚本上にあるヒントで理解しようとして、監督と本読みやリハーサルをして……。あっ、今思いましたけど、心情は自分の中で理解というか、咀嚼はできていたかもしれません。でも、その出し方で迷いました。

――寂しさとかをどう表現するかで?

河合 はい。目線や歩き方に至るまで敏感になってしまって。私は当時、ほとんど感覚や生理に頼ってやっていたから、考え出すと「こっちを見ているけど、これでいいのかな?」みたいなところで悩むことが、現場で結構ありました。

――細かいところまで気を配ってはいたわけですね。

河合 大事なことですし、監督が私の意図のない挙動を見抜いてきたので。とても繊細な問題だと気づかせてはもらえたものの、なかなか突破できずに囚われてしまいました。その違和感みたいなものが映像に映っている気がします。ユウが何か居心地が悪そうな子に見えるというか。撮っていたときの自分の状態が影響していると思います。

――でも、居心地が悪そうなのも、東京でのユウを物語っているようでした。お姉さんのエイミのことも、本当は大好きなんでしょうけど、挑みかかるような目を向けていたり。

河合 そうでしたよね。「私は2年前にこの目を選択したのか」という感じです(笑)。今観ると、すごく気持ち悪い。でも、良い違和感だと思う人もいるかもしれない。

――そう思いました。寂しさと表裏一体で。

河合 私は迷いながら、ああやって挑むように見ていて、自分の中で落とし込めてはいなくて。ただ、寂しさがユウの根本にあったことだけは確かだと思います。

『偽りのないhappy end』より (C)2020 daisuke matsuo
『偽りのないhappy end』より (C)2020 daisuke matsuo

最後まで悩み続けた作品です

――『偽りのないhappy end』は河合さん的には、いろいろ悩んだ作品だったわけですか?

河合 たくさん悩んだ作品として記憶しています(笑)。

――『由宇子の天秤』のときよりも?

河合 それぞれ別のベクトルで悩みましたけど、『偽りのないhappy end』は最後まで悩み続けました。『由宇子の天秤』のときは、たぶん「悩んでいいんだ」と考えていたんです。悩んで出したものがOKと言われたら、自分もOKと思える。でも、『偽りのないhappy end』ではずーっと水の中にいる感じで、OKと言われても「絶対OKじゃない」みたいな(笑)。そういう葛藤を抱えながらやっていました。

――結果的には、その葛藤も良い形でユウに活きたように思いますが、彼女がエイミの知らないところでどう生きてきたとか、想像しないといけない部分が多かったからでもありますか?

河合 そうですね。空白しかないような役だったので(笑)。でも、そういう想像するのは好きです。とにかく、悩んだのは表現の仕方でした。

――ユウはエイミに「私は幸せだと思う?」とか「何で私が東京に来たか考えたことある?」と聞いていました。河合さんもユウが幸せか、なぜ東京に来たか考えました?

河合 東京に来た理由は考えました。それと、なぜあそこでお姉ちゃんに「幸せだと思う?」と聞いたのかを、すごく考えました。

――お姉ちゃんに自分のことを見てほしかったから?

河合 お姉ちゃんが東京に行って、ユウは置いていかれたと思っていたし、自分を見てほしいというのは一番根っこにあって。それをどこまで、お姉ちゃんにぶつけるか。寂しい、構ってほしい、一緒にいたかったと、どうやって伝えるか。そこで、どんな表現を選ぶかで悩みました。

『偽りのないhappy end』より (C)2020 daisuke matsuo
『偽りのないhappy end』より (C)2020 daisuke matsuo

根拠がないことを突かれて試行錯誤しました

――さっき出た「テンプレを避ける」ことは、『偽りのないhappy end』でも考えていたんですか?

河合 考えたんですけど、そこで根拠なくやりすぎていたんです。台詞を言えば成立するところで、表面的にテンプレっぽいことを避けて、何となく手や脚を動かしていたら、監督に「何で動かしたの?」と聞かれました。それでドツボにハマりました。自分の演技に根拠がないことを初めて突かれて、何もできなくなって。意味付けを考えざるを得なくて、いろいろ試行錯誤しました。

――ユウがエイミにあてがわれたベッドのシーツを剥がして、間仕切りにしたところは、意外と意味があるように思いました?

河合 そう思います。2人の間に壁があることを象徴しているし、ユウがお姉ちゃんに一緒に暮らそうと誘われても滋賀にいたのと同じで、全部言葉で言わず行動でお姉ちゃんを責める子なんですよね。面倒くさいとは思われたくないけど、何か気づいてほしいというサインの出し方で、察させようとしていて。

――この作品の予告編やポスターで、ユウが琵琶湖の前でバレエを踊る後ろ姿がフィーチャーされてます。

河合 撮っているときはまったく聞いてなくて、「そんなに大事だったの?」みたいな(笑)。でも、出来上がった作品を観ると、意味は感じました。

役を固めすぎないほうがいいと思うようになって

――松尾監督に根拠のなさを指摘された話がありましたが、他の現場でも演技の指針になる言葉をもらったりはしました?

河合 最初の頃、『由宇子の天秤』の春本(雄二郎)監督のワークショップを受けたとき、エチュードをやって。怒りを感じたときにモノを投げたら、「それはやってほしくない」と言われました。いろいろな映画やドラマで見る演技なので。確かにそうだと思って、そこからテンプレを避けるようになりました。

――今ユウを演じるとしたら、2年前とは違っていました?

河合 違っていたと思います。当時脚本を読んで想像したことと、完成して観て感じたことは違っていましたし、あのあとの2年でいろいろな現場を経験して、普段の生活で変わったこともありますから。でも、それでユウを演じて良くなるかはわかりません。あのときしか撮れなかったものが映っているので、あれで良かったと思います。

――演技への取り組み方は変わったんですね。

河合 本当に真っ白なところから始めて、「これで合っているのかな」みたいなことをずっとやっているので、常に変わっています。1週間前と今でも違うかもしれません(笑)。

――最近、大事にしていることは何ですか?

河合 自主制作でなければ、監督と事前に会える機会は、たいてい衣装合わせくらいしかなくて。それまでに役を固めていたら、「こんな服を着る人なの?」ということが結構あるんです。監督に「こういう子だと思う」と言われて、「あれ? そうだったんだ」となったり。だから、役について固めすぎないスタイルがいいのかなと思っています。かと言って、考えておかないと監督と話ができないので、どのくらいがいいのかは探りますけど。

「一緒にやりたい」と言われるのは楽しみです

――最近、自分で観て刺激を受けた作品はありますか?

河合 ちょっと前の作品ですけど、『演劇1』という想田和弘監督の平田オリザさんのドキュメンタリーが上映されていて、めちゃめちゃ面白かったです。「演じるとは何か?」みたいなことが出ていたり、劇団の生活とか子どものワークショップを開いたりとか、すごく密着していて。

――河合さんは今、業界や玄人筋で高い評価を受けていますが、自信になっていますか?

河合 自信というか、作る側の人たちにそういうふうに言われるのは嬉しいです。「一緒にやりたい」と言ってくれる方と、出会える機会が増えるのは楽しみです。

――今は「脇役や出番が少なくても印象に残る」と言われることが多いですが、主役もやっていきたいと思っていますか?

河合 それは最近考えていて、いろいろなことを言われます。「主役は30歳までやらないほうがいい」と言う人もいれば「早くやったほうがいい」と言う人もいる。「主役かどうかは関係ない」と言う人も「主役をやると違う」と言う人もいて、どうなんでしょうね? 自分のストレートな気持ちとしては、あまり主役をやりたいとは思いません。どんな役でも楽しいので。それより、面白いことをやりたいです。

Profile

河合優実(かわい・ゆうみ)

2000年12月19日生まれ、東京都出身。

2019年にデビュー。主な出演作は映画『佐々木、イン、マイマイン』、『サマーフィルムにのって』、『由宇子の天秤』、ドラマ『夢中さ、きみに。』、『生徒が人生をやり直せる学校』、舞台『フリムンシスターズ』など。公開中の映画『偽りのないhappy end』に出演。2022年2月11日公開の『ちょっと思い出しただけ』、2月25日公開の『愛なのに』に出演。

『偽りのないhappy end』

監督・脚本/松尾大輔

アップリンク吉祥寺ほかにてロードショー

公式HP

(C)2020 daisuke matsuo
(C)2020 daisuke matsuo

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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