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朝ドラから映画で初主演する鳴海唯の大きな理想。失踪した妹を探す役に「お芝居では映りは悪くてもいい」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/S.K.

朝ドラ『なつぞら』でドラマデビューし、レバテックやワコールスポーツブラなどCM出演も相次ぐ鳴海唯。初主演した映画『偽りのないhappy end』が公開される。園子温監督に10年間師事した松尾大輔監督の長編デビュー作。離れて暮らしていた妹が同居した途端に行方不明となり、必死に探す中で自身のトラウマも疼いていく。まだデビュー3年だが、女優としての大いなる理想も語ってくれた。

「私は何をしているんだ」と大学を辞めて上京

 小学生の頃に上野樹里が主演したドラマ『のだめカンタービレ』を観て、女優に興味を持ったという鳴海唯。兵庫出身で高校時代に「東京の大学に通いながら役者を目指そう」と考えたが、受験で落ちてしまい、すべり止めだった関西の大学に進学。ほぼ諦めモードになっていた。

 だが、握手会に出向くほどファンだった広瀬すずの主演映画『ちはやふる-結び-』の撮影にエキストラで参加。同世代の役者たちが芝居をしている姿に「私はここで何をしているんだ」と大学を辞めて上京し、俳優養成所に通った。半年ほど経ち、広瀬が主演した2019年の朝ドラ『なつぞら』のオーディションを受けて合格。広瀬が演じたなつと姉妹のように育った明美役で、共演を果たした。

 その後もドラマ『マイラブ・マイベイカー』、『妖怪人間ベラ~episode.0~』などに出演。最近では、レバテック、アイン薬局、ワコールスポーツブラなどCM出演も続いている。初主演映画『偽りのないhappy end』は『なつぞら』を観た松尾大輔監督から声が掛かり、2019年に撮影した。

 中学を卒業して地元・滋賀を離れ、東京に住むエイミ(鳴海)。母親が亡くなった後も1人で滋賀で暮らす妹のユウ(河合優実)を「東京で新しい人生を始めない?」と誘っていた。はじめは拒んでいたユウが急に上京を受け入れたが、引っ越してきて早々、行方不明に。エイミは同じく妹が行方不明になっているヒヨリ(仲万美)と出会う。

嫌われたくなくて自分を繕うのが役と似ていて

――松尾大輔監督はキャスティングについて「何かを抱えている役どころに、自分を重ねられるであろう人たちを選んだ」とコメントされています。唯さんもエイミと自分を重ねられました?

鳴海 生い立ちは真逆ですけど、どこか自分を繕うところは、すごく似ていると思いました。私はよく、人目を気にして八方美人な態度を取ったりしちゃって。人に嫌われたくないと考えるのが、エイミと重なりました。

――自分の中でフタをしてきたものが露わになっていく役でしたが、事前にいろいろ考えました?

鳴海 プランを立ててお芝居をしてしまうクセがあるので、たくさん考えました。この役がどんな会社に勤めているのか想像して、「こういう言い回しをしよう」とか細かいことまで固めて。でも、今回は監督に「そういうやり方ではなくて、現場で生まれた生の感情でお芝居をしてほしい」と言っていただきました。私にとって初挑戦で、お芝居の幅が広がったと思います。

――転機になったんですね。

鳴海 事前にどれだけ考えても、相手がいないと成立しないのがお芝居で、現場で絶対に変わってくるので。自分でプランを固めすぎると、全然違うボールを投げてこられたときに、対応しきれなかったりもします。そういう意味で、お芝居の仕方をシフトできて良かったです。

ズタボロの状態で撮ったらリアルに

――とはいえ、今までと演技の仕方を変えることに、不安はありませんでした?

鳴海 もう一生不安でした(笑)。初めての主演で「私でいいのかな?」とも思ってましたし、ここまでシリアスな役をやったこともなくて。本当に右も左もわからない状態でした。でも、撮影前に万美さんに「難しい役で、わからないことがある」と相談させていただいたら、万美さんも同じだとおっしゃって。それで「正解はないから、わからないままでいいのかも」と思えました。

――確かにひと筋縄ではいかない物語ですが、台本を読んだ時点ではどんなことを感じました?

鳴海 登場人物の感情がなかなか言語化できないレベルで、繊細に丁寧に描かれていたので、「こんなお芝居ができるかな」とプレッシャーがありました。出来上がった映像を観ると、思っていたより自分の芝居が形になっていて、救われました。

――クライマックスなどで、エイミは叫んだり半狂乱になったりもしてました。ああいう感情の爆発は自然に出ました?

鳴海 私はカットが掛かれば、そこで終わりと、切り替えはできるタイプです。あまり役の感情を自分に持ち込んだりはしません。でも、泣いたり叫んだりするときは、少し時間がほしいです。琵琶湖でのシーンでは撮影場所まで船で移動したので、その間に集中する感じでした。

――ボートでの撮影というのも緊迫感を高めたのでは?

鳴海 危険も伴いますし、その中であそこまでシリアスなお芝居をして、私たちにも監督やスタッフさんにも、すごく緊張感がありました。しかも早朝から撮っていて、陽がどんどん明るくなってタイムリミットも迫って、心も体もズタボロの状態でした。でも、エイミもそういう状況だったので、リアリティのある映像が撮れたと思います。

叫んでしまうような感情も知っておかないと

――唯さんは普段、ああいう感情の起伏はありますか?

鳴海 私は根っから明るい人間なので(笑)、あまりないと思います。もちろん落ち込むこともありますけど、寝たら忘れます。叫ぶこともないです。

――でも、役に入れば叫べると。

鳴海 ここまで感情の起伏が激しい役も初めてで、叫んだり泣いたりする演技はうまくできなくて、悔しく思ったりもしました。役者としては、叫んでしまうような感情も知っておかなければいけない。でも、普段生活している中で、叫んだり殺人事件に関わったりすることはないので。そこは作品から学ぶしかないと思って、そういう映画をたくさん観たりしています。

――どんな作品を観たんですか?

鳴海 最近だと『ヤクザと家族』が好きでした。あとは、『凶悪』とか『孤狼の血』とか。あまりグロい映像は得意でないですけど、ストーリーの中で必要なバイオレンスシーンはやらないといけないので、しっかり観て「こういうふうにするのか」と勉強させていただいています。

自分の演技より作品を誉められるのが嬉しくて

――唯さんは上京して半年で朝ドラのオーディションに受かって、この『偽りのないhappy end』で主演もすぐ務めて、ここまで順調に来ている感覚ですか?

鳴海 順調とは思っていませんけど、小学生の頃からやりたかったことを仕事にできているのは、幸せだと感じています。その幸せを作品のたびに噛みしめながら、成長している段階かなと思います。

――この主演映画で「お芝居の仕方をシフトできた」とのことでしたが、『なつぞら』の頃と演じ方はだいぶ変わりましたか?

鳴海 その場で感じたことを表現する大切さは、松尾監督に教えていただいて一段階アップできたと思います。あと、前はカメラに映った自分の顔を「めっちゃブス!」とか「結構いい映り」とか、いちいち気にしていたんです(笑)。それが今はなくなりました。ファッション誌に出していただいたら、カッコ良く映りたいと思いますけど、お芝居をしているときは役だから、ブスに見えたっていい。どのタイミングでそう思うようになったのかわかりませんけど、あまり人の目を気にしなくなりました。

――演技観も変わったでしょうね。

鳴海 『ムショぼけ』というドラマに出させていただいて、作品について「面白い」と良い評価をいただいているのを見たとき、自分のお芝居を誉められるより嬉しくなりました。逆に、海外の作品を観てすごく面白いと、悔しい気持ちにもなるんです。「何で日本でこれができないんだろう?」って。私が言う立場でもなくて、大先輩の方たちが日本映画を活発にしていく運動を始めてらっしゃると思いますけど、その作品の一員になれるような役者を目指したい想いで、今はお仕事しています。

――自分が売れたい、というよりも。

鳴海 もちろん売れたい気持ちもあります。たぶん売れないと目指すところに行けないので、絶対条件かなと。でも、一番の目標は、日本の映画をもっと活発にする力になることです。

映画館でしか味わえない感動があります

――海外のどんな作品を観て、悔しいほど面白いと思ったんですか?

鳴海 最近だと『イカゲーム』です。私はデスゲームものはあまり観ないんですけど、『イカゲーム』だけはめちゃくちゃ観ました。あとは『ジョーカー』とか『ストレンジャー・シングス』とか。日本の作品とは明らかに何かが違う。それが何かはわからなくて、予算の問題とかいろいろあると思うんですけど。でも、『ヤクザと家族』やNetflixで観た『全裸監督』は、たぶん海外でも通用するレベルですよね。

――実際、『全裸監督』は海外でも大反響を呼びました。

鳴海 私はデビューした頃、「英語を話せるようになってハリウッド映画に出たい」と言ってましたけど、今はこれだけ配信が広まって、日本語でお芝居しても海外の方に字幕で観ていただける。世界への一番の近道はそこだと思います。たくさんの方の目に触れるメディアで本当に面白い作品に参加することが、今の目標です。

――そのために日ごろから努力していることもありますか?

鳴海 配信のお話をしましたけど、映画館にすごく通うようになりました。Netflixで映画を観るのも好きですけど、映画館でしか感じられない良さもあるので。そこで受けた感動が一生忘れられないものになったことも、私自身ありました。そういう感動を、自分もお客さんに受け取ってもらえるようになりたい。そのためにも自分で劇場に足を運んで、感動を体験しています。映画を観る空気を味わうのは、好きでもあるし勉強でもあって。

――単にスペクタクルものの迫力を大スクリーンで味わいたい、というだけではなくて?

鳴海 そうですね。映画って長いじゃないですか。家で観ると携帯を触ったり、トイレに行ったり、1回止めたりしますよね。それができる良さもありますけど、映画館で携帯をオフにして、トイレに行くのももったいないから我慢するのは、特別な時間だと思うんです。それに、映画が終わったあと、エレベーターとかでみんなが感想を言い合っているのを聴くのも好きなんです。

――演じる側としても糧になるんでしょうね。

鳴海 自分が出た作品だと、「あんなに頑張ったのに伝わってない」ということもあれば、「眠そうになりながら撮ったのに響いてる」ということもあると思います。人それぞれ受け取り方は違うので。そういう生の声を聞くと、やっぱり映画は面白いなと思います。

観る人を心の底から笑顔にできたら

――松尾監督以外でも現場で誰かに言われて、自分の指針になったようなことはありますか?

鳴海 人に言われたわけではないですけど、この仕事に対する目標はどんどん高くなってきています。昔は「この人と共演できたらいいや」とか「あのCMに出られたら十分」とか思っていたんですけど、今はそんなことはまったく考えていません。どんどん高みを目指していきたいだけ。周りの方にどれだけ「良かった」と言ってもらえても、自分で満足することは本当にないです。常に「もっと、もっと」という気持ちがあって。なぜ自分がそんな精神状態になったのか、わかりませんけど(笑)。

――武士道みたいな意味で女優道を極めようと?

鳴海 そうですね。自分の信念に自分がついていく感じで、どこまで行くのか。家族にこの話をすると「何を目指しとんねん?」と笑われますけど(笑)、ネタではなくてマジで言ってます。その先に何があるのかはわかりません。でも、信念に辿り着いたら、辞めてもいいくらいに思っています。

――道しるべというか、尊敬する人はいますか?

鳴海 「この人」と名前を挙げられないくらい、たくさんいますけど、スーパーヒーローが大好きです。アニメのキャラクターでも、人のために頑張っているのがカッコいいと思ったり。中2病っぽいですね(笑)。あと、マイケル・ジャクソンも大好きです。自分とはまったく別世界の人ですけど、私も誰かを心の底から笑顔にできる作品を作りたいと思っているので。そんな信念を持つようになったのは、ヒーローたちの影響があったと思います。

――来年の活躍も楽しみにしていますが、今年はプロ野球の始球式でマウンドに上がって、ボールも持たず、バックスクリーンのほうを向いていたのも話題になりました(笑)。そのリベンジもしたいところですか?

鳴海 いやー、あれは本当にやらかしてしまいました。また投げさせていただく機会があったら、絶対にホームベースと反対方向は向きません(笑)!

Profile

鳴海唯(なるみ・ゆい)

1998年5月16日生まれ、兵庫県出身。

2019年にNHK朝の連続テレビ小説『なつぞら』でドラマデビュー。ドラマ『マイラブ・マイベイカー』、『妖怪人間ベラ ~episode.0~』、『ムショぼけ』、Vシネマ『ゼロワンothers』などに出演。レバテック『現場のリアルで叶えよう。』篇、ワコール『スポーツブラcw-x』などのCMに出演中。

『偽りのないhappy end』

監督・脚本/松尾大輔

12月17日よりアップリンク吉祥寺ほかにてロードショー

公式HP

(C)2020 daisuke matsuo
(C)2020 daisuke matsuo

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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