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「強くなるために笑うしかなかった」 筧美和子が孤独を抱えて逝く役でスクリーンに残した存在感

斉藤貴志芸能ライター/編集者
映画『幕が下りたら会いましょう』に出演している筧美和子

今年も『恋はDeepに』など連続ドラマに相次ぎレギュラー出演した筧美和子。松井玲奈の初単独主演映画『幕が下りたら会いましょう』では、彼女の突然死んだ妹を演じている。登場人物たちの心に大きな影を落とすと同時に、観る者にも忘れられない印象を残した。この作品への取り組みと共に、モデルやグラビアなど幅広く活躍してきた中での演技に対するこだわりを聞いた。

力不足も手応えもダイレクトに見えてきます

――筧さんは幅広いジャンルで活躍されてきましたが、もともとは女優をやりたかったんですか?

 スカウトされて、最初は芸能界の中で「これがやりたい」という明確な目標はありませんでした。『テラスハウス』やグラビア、モデルといろいろ経験させてもらって、どのお仕事にも今できる精いっぱいを出し切ろうとしてきて。その中でお芝居に向き合っていくうちに、自然とすごく惹かれているのに気づいた感じです。

――何かで演技への意欲に火がついたんですか?

 お芝居だけに絞るとか方向転換したつもりはなくて、自然な流れではありました。でも思い返すと、火がついた瞬間みたいなのはあったと思います。『犬猿』という映画にメインキャストで出させていただいたとき、自分の力のなさも手応えや周りの反応も、どちらも知れたんですね。それで、お芝居により興味が湧きました。

――『犬猿』でも今回の『幕が下りたら会いましょう』と同じく、姉との関係性がになっている役でしたね。演技で壁にぶつかったこともありました?

 ありました。どんな壁か言葉にするのは難しいんですけど、ひとつひとつの作品で自分の知らない自分の姿を知って、実力不足もダイレクトに見えてくる世界だと感じます。それが辛くもあり面白くもあって、続けているのかなと思います。

色っぽい役は自分のアイデンティティかなと

――色っぽくてクセのある役が続いた時期もありました。そういう役は得意なんですか?

 まったく得意だとは自覚していません。客観的に見たら色っぽい役と言っていただけるのかもしれませんけど、役によって個性は違うので、私は毎回ただただ向き合っているだけです。ただ、そういう役ではグラビアでの経験が活かせて、それで呼ばれている部分もあるはずですから、自分のアイデンティティのひとつかなとは思います。

――自分で観るのはどんな映画が多いですか?

 映画は前からいろいろと観ていて、もともとはヒューマンドラマというか、登場人物の人生が見える作品が好きでした。でも、最近はバイオレンスものをよく観ています(笑)。

――自身でも『孤狼の血 LEVEL2』に出演されていました。

 白石(和彌)監督からヤクザをテーマにした作品に入って、観ていくうちに面白くなって、『アウトレイジ』とかも観ました。

――筧さんの中にそういう作品に惹かれる何かがあったのでしょうか?

 何なんですかね? 不思議と熱くなれるというか。もちろん反社会的なことを肯定するわけではありませんけど、日常でそこまで熱くなる瞬間はないので、映画の中でそういうものを感じているのかもしれません。

見えない繋がりは自然に感じ取れて

女優出身で25歳の新鋭・前田聖来監督の商業デビュー作『幕が下りたら会いましょう』。実家の美容室を手伝いつつ、鳴かず飛ばずの劇団を主宰する麻奈美(松井玲奈)のもとに、東京で働いていた妹の尚(筧)が死んだと知らせが入る。麻奈美はかつて、尚の戯曲を盗作して賞を獲っていた。遺品整理のために尚が住んでいたアパートを訪ねると、そこはゴミだらけで、天真爛漫に見えた妹が孤独に生きていたことを知る。

――『幕が下りたら会いましょう』の尚は、心情や背景が直接はほとんど描かれてなくて、演じるうえでは難しくなかったですか?

 確かにあまりわかりやすい表現はされてなくて、掴むのに時間はかかりました。でも、コロナ禍でリモートで読み合わせをさせていただいて、監督とも松井さんとも麻奈美との関係性とかを話し合えたので、そこまで悩むことはありませんでした。「ここはなぜこうなのかな?」と迷ったら、監督に相談もしましたけど、事前に話し合いができていたから、すんなり入っていけました。

――尚がなぜ1人で東京に行くことにしたのかも、裏で設定はあったり?

 そこの裏設定については聞いていませんけど、ヒントみたいなものはちりばめられていて。家庭環境とか麻奈美との関係とか、そういうところからかき集めたものを持って、現場に行く感じでした。

――尚の麻奈美への感情も整理できていて?

 バシッと麻奈美への感情を作ってやるというよりは、持ち合わせた情報の中で、お互いに感じ取ったものから探っていきました。わかりやすく仲の良い姉妹ではないけど、一緒に過ごしてきた時間の中で、見えない繋がりがあるなと思って。その辺は事前に監督がたくさんお話してくれたことが大きくて、自然とそうなっていけた気がします。

実家を出るときに覚悟をしていたと思います

――尚が実家を出て行くときには、麻奈美に前髪を揃えてもらいながら、トロフィーを「私のものでもあるから」とかチクチク言いつつ、ずっと大人な振る舞いをしてきたんですかね?

 私だったらダイレクトに言ってケンカになっていたと思いますけど、家族の形が複雑で、そこに尚の孤独感があったのかなと。本当の家族として接したいけど、どこかで遠慮みたいなものを持ちながら、関わっていたように感じました。家を出ていくときも、きっと覚悟をしていて。強いというより、強くなろうと頑張っていたんだと考えて演じました。

――亡くなる前には、同僚が上司に強要されたお酒を代わりに飲んでいたこともわかりました。

 そうやって生きるために闘っていた中で、自分を犠牲にしてしまう尚だから、ああいった死を迎えてしまったんだと思うんですよね。一方で、その前に麻奈美に電話をかけたときは、尚の本当の姿、素直な感情が出るところだったので。お芝居の感覚的には、酔っぱらいながら、どちらの気持ちも混在させようとしていました。

――もし麻奈美が電話に出ていたら何を話すつもりだったか、イメージしてました?

 いざ麻奈美が出たら素直に話せなかったんじゃないか。でも、ちょっとは助けを求めたかったのか。断定はできませんけど、そういう気持ちは持っていました。

出来上がった映画を観て涙が出てきました

――麻奈美と高校からのつき合いの劇団の女優が「尚ちゃんはいつも笑ってばかりで」と話すくだりもありました。それも、尚が強くなろうとしていたからでしょうか?

 そうですね。たぶんどこかで家族に対する強い想いはあったと思うんですけど、それを押し殺して1人で生きていこうとしていたのかなと。だから、「いつも笑っていた」というのはすごく腑に落ちて、尚っぽいと思いました。

――筧さん自身にもわかる心情ですか?

 そういう孤独感は、たぶん誰でも持っているものだと思います。だから、私にもわかるところはありますけど、尚は孤独の比重が特に大きかった印象です。それを表に出さないことに関しては、どういう気持ちなのか難しいですね。

――でも、家を出ていくときに振り返った尚の表情には、言葉はなくても伝わるものがありました。自分で試写を観ると、どう思いました?

 尚は序盤で亡くなって、麻奈美やお母さんの中にずっとい続ける役でしたけど、私としては尚が覚悟を決めて家を出ていくところから、あまり他の人との繋がりを考えないようにしていたんです。できる限り尚に集中したくて。だから、映画全体を通して観たとき、自然と涙が出てきました。特に最後の踊っているシーンは、孤独だから笑うしかなかった尚の本当の笑顔というか、これがあったから生きてこられたような楽しかった瞬間が溢れていて。それが観た方に伝わればいいなと思いつつ、麻奈美やお母さんの気持ちも含めてグッときました。

生っぽい表現を大切にしていきます

――今出たように、この映画での尚は序盤で亡くなりつつ、気配はずっと漂っていました。そういう存在感の残し方は計算してできたわけではないでしょうけど、筧さんが演じた尚には心に尾を引くものがありました。

 劇中で劇場での麻奈美の幻覚というか、急に現れた尚を背中から抱き締めるシーンは、わりと序盤に撮影したんですね。松井さんとあまりお会いしてなかった頃ですけど、抱き締められたときに麻奈美の後悔や尚を大切に思う気持ちが伝わってきたんです。あれがあったから、あまり同じシーンがなかった麻奈美との関係性を作ることができました。私の中で麻奈美の存在をすごく感じられた気がします。もしかして松井さんにもそういうふうに、尚の想いが届いていたらいいなと思いました。

――筧さんは主役級をどんどんやりたいとか、もっと有名になりたいということも考えていますか?

 ないと言ったらウソになるかもしれませんけど、あまりそこにこだわってはいません。でも、いろいろな方と仕事をしたいとは思います。今回の前田監督は同世代で女優さんの顔も持っていたり、監督や共演者さんの個性によって、毎回違う経験ができるので。その都度、違う自分に出会えたりもして、すごく面白いです。

――女優としてのポリシーというか、大事にしているものはありますか?

 技術面とか勉強しないといけないことはまだまだたくさんありますけど、生っぽい表現は大切にしていきたいです。自分が映画を観たり、音楽を聴いたり、絵を見る中でも、ダイレクトにガーッと伝えられるより、自分なりに何かを感じ取って解釈ができるものが好きなんです。そこにはたぶん生っぽさがあって。そういう表現を残していけるようになりたいというのは、常に思っています。

Profile

筧美和子(かけい・みわこ)

1994年3月6日生まれ、東京都出身。

2012年に映画『鍵泥棒のメソッド』で女優デビュー。主な出演作はドラマ『まれ』、『鈍色の箱の中で』、『恋はDeepに』、『古見さんは、コミュ症です。』、映画『犬猿』、『スマホを落としただけなのに』、『孤狼の血 LEVEL2』など。ドラマ『凛子さんはシてみたい』(MBS・TBS)に出演中。11月26日公開の映画『幕が下りたら会いましょう』に出演。

『幕が下りたら会いましょう』

監督/前田聖来

11月26日より新宿武蔵野館ほか全国順次公開

公式HP

*写真は『幕が下りたら会いましょう』より

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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