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屈折した青春時代に演技でリベンジ。中井友望が10歳上の先輩たちと校舎に忍び込む役で見せる純粋さ

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/松下茜

不登校や退学を繰り返した末に女優になった中井友望(とも)が出演する映画『シノノメ色の週末』が公開された。取り壊しになる女子高に10年ぶりに集まった3人の卒業生の物語で、彼女たちの前に現れる現役高校生を演じている。自身は周りと壁を作ったまま終わった学校生活を疑似体験する役どころが続き、「初めての感覚」を楽しんでいるという。

自分のままのほうが物語に入れる気がしました

10月から出演映画3本が相次ぎ公開されている中井友望。『シノノメ色の週末』では、女子高を卒業して10年の美玲(桜井玲香)、まりりん(岡崎紗絵)、アンディ(三戸なつめ)が、母校の取り壊し前にタイムカプセルを探そうと週末に集まる。同じく校舎に忍び込んだ高校生のあすか(中井)も行動を共にすることに。

――『かそけきサンカヨウ』では母子家庭で育って精神的に大人な役でしたが、『シノノメ色の週末』で演じたあすかは、同じ女子高生でも子どもっぽい印象でした。

中井 先輩たち3人の中に1人で入っていく役で、特に子どもっぽくしようとは意識しませんでした。『かそけき』のときは大人っぽく見せる努力をちょっとしましたけど、『シノノメ』では自分のままでいたほうが自然に入っていける気がして。「ああしよう、こうしよう」とはあまり考えませんでした。

――作品によって、役作りの仕方を変えているんですね。

中井 素の自分から遠い役ほど「どうやって見せればいいんだろう?」と考えることが多いです。今回はそうでなくて、先輩3人といるときも気をつかって輪に入るより、ただそこにいる感じかなと。あすかはすごく純粋ですけど、誰にも媚びない強さも持っていて、先輩の中にも「楽しそう」のひと言だけで入っていけるんですよね。

――そこが素の友望さんに近かったと?

中井 私も年上の人たちがいる場で、変に媚びて無理に話し掛けたりはしません。というか、私はできないんです。それがいい形で出たんじゃないかと思います。

壁を作るくせに1人でいるのがコンプレックスで

――あすかがどんな高校生活を送ってきたかは考えました?

中井 あの3人といるときと同じだったと思います。教室で1人でいても、みんなといても変わらない。自分がそこにいるだけでいいという。

――友望さんもそんな感じの高校生だったんですか?

中井 私はあすかほど強くなかったです。壁を作るくせに、1人でいることにコンプレックスがありました。でも、みんなといると何もしゃべらないで、「何で私はここにいるんだろう?」と考えていて。あすかみたいに、いつでも変わらずにはいられませんでした。

――あすかが古本屋で買った、ニーチェの『喜ばしき知恵』を読んだりは?

中井 読みませんでした。でも、『(超訳)ニーチェの言葉』という本はもともと持っていたんです。学校に行けなかった中高生の頃に、おばあちゃんかお母さんからもらって。そのときは「難しいな」と思いながら読んでいて、今回ニーチェの本が出てきた巡り合わせは嬉しくなりました。

――夜の校舎に忍び込むのは、撮影とはいえワクワクしました?

中井 確かにそれはありました。撮影では学校に朝から晩までいて、待機場所でも学校の机があって、ずっと学生気分でした(笑)。

――体育館で卓球をするシーンもありました。

中井 めっちゃ楽しかったです。あそこは一方で、桜井さんと岡崎さんが大事な会話をしているシーンですけど、こっちは勝手に三戸さんと卓球で盛り上がっていました(笑)。

――屋上で夜明けの空を見るシーンも、実際に夜明けに撮ったんですか?

中井 そうです。夜空に陽が出てきたときに「今だ!」みたいな感じで。すぐ朝の空になってしまったんですけど、めっちゃきれいでした。屋上で周りに何もなくて、ただ空があって。あそこまで夜明けがきれいに見えたのは初めてで、感動しました。

学校は嫌いで同世代と馴染めなくて

――友望さんも3人が始めた「週末クラブ」があったら、入りたいですか?

中井 はい。映画の完成披露で「どんな高校生でした?」という話が出たんですけど、私は学校が嫌いで同世代の子たちと馴染めなくて。お姉さんたちがああいう楽しそうなことをしていたら、入りたいと思います。

――今の生活の中で週末の楽しみだったり、テンションが低いという友望さんが上がるようなことはありますか?

中井 おいしいものを食べることですかね。王道でお肉やお寿司があると、テンションが上がります(笑)。お肉を焼くとか、回転寿司を取るとか、作業とごはんが一緒になっていると、行事っぽくて楽しいです。ただ料理を出されるだけでなく、何か自分でやりながら食べるほうがおいしいです。

――オフは家にいがちなんでしたっけ?

中井 家にいます。インドアの趣味はいろいろあって、映画やドラマやバラエティを観たり、本を読んだりしています。本はマンガも小説も雑誌もいろいろ読みます。

――部屋はきれいにしているんですか?

中井 きれいです。ちょっと散らかっただけでも、自分がダメ人間な気がするんです(笑)。「私は掃除もできないのか」という。だから、きれいにしています。でも、見える範囲がきれいならいいので、クロゼットの中には脱いだ服をポンと入れてたり(笑)。

音楽の好みが合わない人とは話しませんでした

――あすかはお気に入りの懐中時計を持っていて、「自分の好きなものをわかってもらえない」と話していました。友望さんにはそういうものはありますか?

中井 学生のとき、他の子と好きな音楽が合わなかったりはしました。私は「どうせ話してもわからないから、話す必要もない」と思っていて。あすかみたいに「どうしたらわかってもらえますか?」と大人の人に質問するのは純粋ですごいなと、演じながら思っていました。

――どんな音楽が好きだったんですか?

中井 音楽はよく聴いていて、好きだったのはブルーハーツさんとか。周りのみんなが聴いていたのはEXILEさんやK-POPなどで、それも良いんですけど、「音楽の好みが合わない人とは何を話しても合わない」と勝手に思っていたんです。だから、コミュニケーションを拒否していました。

――ブルーハーツにはどこから入ったんですか?

中井 中学の音楽の授業で『上を向いて歩こう』がいろいろな曲調で歌われているのを聴いたことがあって。バラード、ジャズ、パンクロック……みたいなところで、忌野清志郎さんの『上を向いて歩こう』を聴いたとき、「何だこれ!?」と思ったんです。全然違う曲みたいでしたけど、めっちゃカッコ良くて。帰ってから忌野清志郎さんのことを調べて、その流れでブルーハーツさんを聴くようになりました。あと、ミスチル(Mr.Children)さんや斉藤和義さんも好きです。

――90年代を彩った骨のあるロックが好きだと?

中井 そうですね。友だちに教えてもらったELLEGARDENさんにも、ずっとハマってました。

学校生活の場面は初めての感覚で楽しめます

――友望さんは現在21歳ですが、女子高生役がすごくハマりますね。

中井 同世代の子と比べると顔が幼いなと、自分でも思います。コンビニでお酒を買うときも、3回に1回は身分証明書を見せるように言われて(笑)。それがイヤで、いつも行くコンビニで買うようにしています。

――女子高生的な感覚もまだ持っていますか?

中井 演じるのは何の違和感もないです。「20歳を過ぎて制服を着るのは恥ずかしい」という方もいらっしゃいますけど、私はそういうのもまったくないです。

――友望さんの実際の高校時代は、学校に馴染めなくて退学したんですよね? 青春的な場面は想像も交えて演じるわけですか?

中井 想像したり、少ない経験から「こんな感じだったかな」と思い出します。そういう場面は体験してないだけに、初めてに近い感覚で純粋に楽しめます。「こんなに楽しかったんだ。こういうことを経験できていたら、学校生活は変わっていたかな」と、学生役をやるたびに思います。

――高校時代に戻れたら、こんな青春を送りたい……ということも?

中井 あります。まず単純に、人をシャットダウンしないようにします(笑)。それだけで、だいぶ違っていたと思うので。

――放課後に友だちとファミレスに行ったりもします?

中井 そういうことは実際にしていましたけど、ずっと早く帰りたくて(笑)。「この時間に何の意味があるんだろう?」と思っていました。今振り返ると、そこで楽しめる何かがあった気がします。

人にはわからなくても一歩一歩進んでます

――もう1本、『ずっと独身でいるつもり?』では松村沙友理さんが演じるパパ活女子に集められる役。ふくだももこ監督の作品では、デビューした頃に舞台『夜だけがともだち』に出演しました。

中井 その前にちょっとお会いしたこともあって、舞台のお話を聞いてオーディションを受けました。ふくださんの映画は『おいしい家族』や『君が世界のはじまり』が大好きで、選んでいただいて嬉しくて。舞台はすごく勉強になりました。

――どんなことを学んだんですか?

中井 それまでもお芝居は好きでしたけど、できないことが多くて。消化できないまま終わるのが悔しかったんです。でも、舞台は毎日稽古して本番も何回もあって、今日できなかったことを明日は変えられる。それで、お芝居は楽しいと改めて思ったのと、ふくださんの演出が面白くて。

――そうみたいですね。松本穂香さんが『おいしい家族』で「でんぐり返しをしてください」と言われた話を聞きました。

中井 大阪の方で面白いことが好きで、笑いの場面を多く作ったり。誰かがアドリブでやったことが「それ、いいやん」って固定になったりするから、最初の台本と全然変わるんです(笑)。私は根本的なことですけど、「友望は声が小さいから、毎日腹筋して」と言われました。稽古期間中はずっと腹筋をしていたら、何回目かに「急に声が出るようになった」と誉められて、嬉しかったです。

――今回の映画では、ふくだ監督に成長を見せられました?

中井 どれだけ成長したかと言われたら、そんなに自信はないですけど、自分の中では一歩一歩進んでいるつもりです。いつか誰が見ても「良くなったね」と言われるように、頑張りたいです。

感情が伝わるように発声を練習してます

――演技力を磨くためにしていることもありますか?

中井 3ヵ月くらい前から、ボイストレーニングに通っています。『かそけき』を観たとき、自分の声やしゃべり方は感情が伝わりにくい気がしたんです。「自然体で良い」と言ってくださる方もいますけど、お芝居で発声を操ることが全然できてなくて。もっと伝えることができるはずだと思って、レッスンを始めました。

――感情表現には技術も必要だと。

中井 発声のための体やノドの使い方を教わっていて、難しいことだらけです。今までの自分がどれだけ声を出せていなかったのかと、毎回思います。「こうすれば出る」とわかってレッスンでは出せても、日常的にそういう声が出せないと、お芝居で使えないじゃないですか。だから、毎日声の出し方に気をつけています。

――もともと『ヒミズ』が女優を目指すきっかけだったそうですが、最近刺激を受けた作品もありますか?

中井 配信で観た、のんさんと林遣都さんの『私をくいとめて』がめっちゃ良かったです。もともとのんさんは好きだったんですけど、この映画では心の中にいる相手と会話をしていて。日常の中で辛いことや楽しいことがいっぱいあっても、1人暮らしだと心で思うだけなのに、会話として出てきて刺さる言葉が飛び交っていました。

ネガティブな負けず嫌いなんです

――同世代の女優さんで気にになる人はいます?

中井 このお仕事を始める前は、同い年くらいの女優さんを「かわいいな。きれいだな」と思ってましたけど、そういう目では見られなくなりました。やっぱり「負けたくない」と思うので。

――そういう気持ちはあるんですね。

中井 負けず嫌いです。ただ、強い気持ちで「負けない!」と思って頑張って上がっていける人と、負けてしまうと「私はダメかもしれない」と落ち込む人に分かれて、私はめっちゃ落ち込むタイプなんです。ネガティブな負けず嫌いで(笑)。そこをうまく、上がっていくほうに持っていけるようになりたいです。

――でも、友望さんは澄んだ存在感とか他の人にないものを持っていて、あすかのように独自の道を行くタイプかもしれないですね。

中井 そうなれている自信はないですけど、そんな存在でいたいです。

――目標にしていることはありますか?

中井 いろいろな作品を経験したいですし、朝ドラにも出たいです。

――あっ、そうなんですね。朝ドラを目標に挙げる若手女優さんは多いですけど、友望さんは独特だから、もっと変わったところを目指しているのかと思ってました(笑)。

中井 やっぱり朝ドラは、みんなが出たいのと同じように出たいです(笑)。あと、お芝居がしたくて女優になりましたけど、表現の場はたくさんあって。映画、ドラマ、舞台、CMに、私はラジオも好きだし、自分の好きなものを詰め込んだ写真集もいつか出したくて。そういうことをいろいろできるように、ちゃんとした女優になりたいです。

Profile

中井友望(なかい・とも)

2000年1月6日生まれ、大阪府出身。

『ミスiD2019』でグランプリ。2020年にドラマ『やめるときも、すこやかなるときも』で女優デビュー。映画『COMPLY+-ANCE コンプライアンス』、舞台『アルプススタンドのはしの方 高校演劇ver.』などに出演。映画『かそけきサンカヨウ』、『シノノメ色の週末』が公開中。11月19日公開の映画『ずっと独身でいるつもり?』に出演。音楽×映画の祭典『MOOSIC LAB[JOINT]2021-2022』のイメージモデルを務める。

『シノノメ色の週末』

全国公開中

監督・脚本/穐山茉由 配給/イオンエンターテイメント

公式HP

(C)2021映画「シノノメ色の週末」製作委員会
(C)2021映画「シノノメ色の週末」製作委員会

中井友望『かそけきサンカヨウ』インタビュー

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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