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世界で高評価の純愛ホラーで霊が見える女子高生役の山田愛奈 「素の自分が出ないようにカッコつけてます」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)2020映画「DANCING MARY」製作委員会

鬼才と呼ばれるSABU監督が3年前に撮影し、世界13ヵ国の映画祭で高評価を受けてきた『DANCING MARY ダンシング・マリー』がついに公開された。霊になったダンサーの恋人を、主人公の市役所職員と共に探す女子高生を山田愛奈が演じている。クールなルックスで陰のある役が多く、今回も霊能力を持つことで苦しみつつ、奔走の中で成長していく。撮影時は19歳だった自身にも響くものがあったという。

クールに見られますけど、よくしゃべります

――新潟出身だそうですが、雪かきとかしてました?

山田 雪かきなんて、もう日常的すぎて(笑)。東京の友だちに話すと驚かれますけど、冬は玄関前に身長より高く雪が積もっていましたから。自分が上京してから考えると、あの雪の中でよくミニスカートで学校に行っていたなと(笑)。寒さに強かったんでしょうね。

――環境は大きいですよね。

山田 あと、東京ではみんな電車ですごく揺られていますけど、私は雪道で足腰が強くなったのか、わりと平気です(笑)。

――新潟で高校まで過ごして、どんな学校生活でしたか?

山田 習いごとはたくさんやらせてもらって、夢中になっているものがいつもひとつはありました。中学では新体操部に入って、1年生がすごく多かったので、絶対補欠には入りたいと負けず嫌いを出していて。それと、よくしゃべる子でしたね。友だちと話しに学校に行っていた感じで、お仕事で東京にいることが多くなってから、ちょっと寂しかったりもしました。

――「よくしゃべる」とのことですが、山田さんって見た目や役柄のイメージと、公式ラジオチャンネルとかでゆるゆる話しているときと、ギャップがありますよね(笑)。

山田 クールに見られがちですけど、カッコつけているだけで、普段はあのラジオのまんまです。今までモデルをメインでやっていて、女優でも陰のある役が多かったので、普段の自分が出ないように、カッコつけのフィルターを掛けています(笑)。

とこしえ提供 ヘア&メイク/八戸亜季子 スタイリング/小笠原吉恵
とこしえ提供 ヘア&メイク/八戸亜季子 スタイリング/小笠原吉恵

やる気がなかった演技が急に楽しくなって

――もともと地元の初売りセールでスカウトされたそうですが、自分から芸能界に入りたかったわけではなくて?

山田 きっかけはスカウトで、フリーペーパーの『新潟美少女図鑑』の撮影を習いごと感覚で重ねているうちに、気づいたら東京で仕事をしていました(笑)。

――光るものがあって業界の人の目を引いたんでしょうけど、最初はモデル志向だったんですか?

山田 こだわりはなかったというか、モデルと女優の違いもよくわからなくて、みんな同じ芸能人だと思っていました。ただ、『新潟美少女図鑑』から全国区の雑誌でも仕事をしてみようか……という流れはありました。

――3年前に公開された初主演映画『いつも月夜に米の飯』のトークイベントでは、監督から「初めて会ったときはお芝居にやる気なさそうだった」という話が出てました。

山田 そうなんですよね。女優の仕事をするつもりは全然なくて、初めて舞台に出させてもらったときのレッスンもまったくやる気がなくて、一番怒られてました。演出家の方が怒って帰ってしまうほどでしたけど、それはそれで、こっちも悔しくなって。

――自分のやる気がなくて怒らせたのに?

山田 こっちからすると「やりたくもないのに来ているのに」というのがあったんです。でも、怒られるのはイヤで、なぜ怒られるのか考えたら、やっぱり他の人よりできてなかったし、演技への向き合い方もまったくなってなくて。次にその演出家の方に会ったときにビックリさせたい一心で、急に役者としてのスイッチが入った感じです。そしたら、演技が“苦しい”から“楽しい”に変わって、舞台の稽古も人一倍熱心にするようになりました。

ヘア&メイク/八戸亜季子 スタイリング/小笠原吉恵
ヘア&メイク/八戸亜季子 スタイリング/小笠原吉恵

役のキャラクターが見えるとワクワクします

――デビュー前は映画やドラマに触れてはいたんですか?

山田 母の影響で、もともと映画を観るのは好きでした。休日には1人で映画館に行って、3本たて続けに観たり。

――影響を受けた作品もありますか?

山田 ちょうど演技が苦しいから楽しいに変わる時期に、『ヒミズ』を観たんです。二階堂ふみさんが泥だらけになりながら叫んでいる姿に、すごく惹かれました。作品として今も好きですけど、自分が変化するタイミングだったこともあって、影響を受けました。

――今出た“演技の楽しさ”は、山田さんにとってはどんなことですか?

山田 『DANCING MARY』でもそうでしたけど、役を1から作っていく難しさの中で、キャラクター像が見えた瞬間の嬉しさだったり、その役を自分が演じていくワクワク感だったり。プレッシャーもありつつ、撮影現場の雰囲気や作品を撮り終わったときの達成感も含めて、すごく好きだし、やり甲斐があるなと思います。

――『DANCING MARY』の撮影は3年前だったそうですね。

山田 私が今23歳になったばかりで、当時は19歳でした。

――今、試写で19歳の自分を観ると?

山田 10代と今では骨格も違って(笑)、当時の自分の演技が恥ずかしい気もします。でも、あの年齢ならではのもどかしさや、人との距離の取り方で演じていて。今ならいろいろ考えて行動するところも余裕がなかったのが、映像で雪子らしさになって表れていました。自分なんだけど、親目線で観てしまう感覚があります(笑)。

(C)2020映画「DANCING MARY」製作委員会
(C)2020映画「DANCING MARY」製作委員会

監督に試されているプレッシャーはありました

イタリアのアジアン映画祭で日本初の最優秀オリジナル映画賞を受賞したほか、世界13ヵ国の映画祭で受賞や正式出品された『DANCING MARY ダンシング・マリー』。解体予定のダンスホールに棲みついたダンサー・マリー(坂東希)の霊から、恋人のジョニー(吉村界人)を探してほしいと頼まれた市役所職員の研二(EXILE NAOTO)と霊能力を持つ女子高生・雪子(山田)が、2人の恋を成就させるため、時空を越えて奮闘する。

――雪子についても、キャラクター像が見えた瞬間はありました?

山田 本当に1からキャラクターを作り上げたのは、この作品が初めてでした。今までは監督から「こういう性格です。このシーンはこんなふうに」とか指示がありましたけど、SABU監督はそういうことを本当に言わないんです。試されているのかもしれないとプレッシャーでいっぱいだった分、やり甲斐がありました。最終的な雪子像に行き着くまで、四つくらいキャラクターを書き出しました。

――たとえば、どんなキャラクターを?

山田 ずっと暗くて笑いもしないで、棒読みに近い感じで淡々としゃべる、とか。でも、雪子は霊が見える以外はみんなと変わらない女の子だから、普通でいいかと思って。普通に笑って、普通に泣く。ただ能力のせいで誹謗中傷を受けて、殻に閉じこもってしまった。そこで研二が普通に接してくれて、打ち解けていった感じですね。

――途中から研二に、「うるさいわね!」とか「グズグズしない!」とか、口調が強くなったりもしました。

山田 あれは完全に現場でのEXILE NAOTOさんとの空気感で、強く言ったり急かす感じになりました。NAOTOさんが気軽に話してくださっていたので。雪子も研二との出会いを通じて、やっと自分の能力を活かせる居場所を見つけられたのかなと思います。

映像に違和感が出るのがイヤなんです

――3年前の撮影でも、いまだによく覚えていることもありますか?

山田 印象に残っているのは、研二の車でのシーンが多いです。雪子の感情の変化が表れるのはほとんど車の中で、特に研二と雪子とジョニーの3人で乗っていたとき、初めて雪子が焦ったんですね。いつも淡々としていた雪子の人間味が出て、必死な感じをどう表現するか、ずっと迷っていたんです。どうするか決められないまま現場に行って、その場の雰囲気に乗って雪子として演じたんですけど、出来上がった映画を観たら違和感はなくて。

――まったくなかったです。

山田 私、映像を観ていて違和感があるのが、すごくイヤなんです。いかに違和感がないように演じて、皆さんに観てもらえるかを、自分の中で大切にしていて。今回、一番心配で見どころでもあるそのシーンが、客観的に観て良いなと思えました。皆さんにどう感じてもらえるか、今は楽しみです。

――学校でいじめられて、怒りから秘めていた力が暴走する回想シーンは、どんなことを考えて演じました?

山田 雪子を演じるに当たって、今までの人生も私なりに考えたんです。育ってきた環境があまり良くない中で、自分が他の人と違うギャップにも苦しんできて、もし私でも殻に閉じこもるなと、雪子を受け入れられました。私は怒ると無になる感じで、悲しみや怒りの発散の仕方は人それぞれですけど、そういう心情は誰もが持っているもの。感情が爆発したからといって、雪子の問題が解決したわけではなかったのが、研二や霊たちと出会って自分を見つけていく。そういう雪子の成長に注目して観ていただいても、面白いかもしれません。

(C)2020映画「DANCING MARY」製作委員会
(C)2020映画「DANCING MARY」製作委員会

小さい頃は霊が見えて怖くはなかったです

――山田さんは霊は見えますか?

山田 小さい頃から小学2年か3年までは見えてました。今は姿は見えませんけど、気配は感じるので、お清めの塩のスプレーを持ち歩いています。家族がわりと霊感が強くて、それを受け継いだみたいです。

――小さい頃は、どんなふうに霊が見えていたんですか?

山田 怖いという感覚はあまりなくて、幽霊というより人として見てました。小さい頃、祖父母の家でお経を教えてもらって、よく仏壇の前で唱えていたんですけど、すごく覚えているのが、隣りのふすまが勝手に開いたんです。そこに亡くなったおばさんが正座していて。私はよく仏壇にコーヒーやお菓子をお供えしていて、おばさんが「ありがとう」と言って、ふすまがスンと閉まりました。自分で開けてみたら誰もいなくて「あれ?」となって、おばあちゃんに話したら「遊びに来たんだね」と言われました。

――そのときも怖くはなかったと。

山田 はい。でも、やっぱり年齢を重ねるごとに、怖さが強くなりました。雪子のように霊の姿が見えたほうが怖くないと思います。

――そうですかね(笑)?

山田 でも、そんな能力は要りませんよね(笑)。

ヘア&メイク/八戸亜季子 スタイリング/小笠原吉恵
ヘア&メイク/八戸亜季子 スタイリング/小笠原吉恵

何テイクも重ねて鬼気迫る感じが出せて

――『DANCING MARY』の撮影は長期にわたったそうですね。

山田 そうですね。東京、北九州、台湾で撮ったので。私は海外で撮ったのも初めてで、楽しかったです。

――台湾では、雪子がヤクザの幽霊に「教えなさい! さもないと、もう1回死ぬことになります」などとタンカを切る場面がありました。

山田 雪子が心の揺れを乗り越えて、自分の意志をちゃんと人に伝えられるようになった流れの中での台詞で、大事な場面だと思って演じました。あのシーンは唯一、何テイクも重ねた気がします。

――何かがうまくいかなかったんですか?

山田 それもSABU監督はおっしゃらないので、私も聞きたいです(笑)。でも、雪子は元気ハツラツな女の子ではないので。自分より絶対的に強いであろう人に向かって意志を押し通すシーンに、監督のこだわりは絶対的にあったと思います。何回も撮っているうちに、追い詰められたわけではないにしても、鬼気迫った感じで演じることができました。監督にそういう意図があったのかはわかりませんけど、感謝しています。

「人には役目がある」という台詞に泣きました

――『DANCING MARY』の中で、雪子は「人はそれぞれお役目があって、この世に生まれてきている」と言われてました。

山田 台本でそこを初めて読んだとき、1人で泣きました。当時は19歳で子どもと大人の狭間にいた感じで、今では悩まないようなことで悩んでいたんです。そんなときにすごく心に響いたというか、救われたというか。お役目があるなら、自分が今悩んでいることも、いつか大きな何かに繋がるのかもしれない。大人になったら、小さい悩みだったと笑い飛ばせるかもしれない。そんなふうに考えられるようになりました。

――今は自分にどんなお役目があると思っていますか?

山田 コロナ禍になって家にいる機会が増えて、映画を観たり芸術に触れる方は多くなりましたよね。エンタテイメントをお届けする側として、少しでもいろいろな気持ちを受け取っていただけるようになれたらと思います。

――そのためにも、女優として磨きたいことはありますか?

山田 最近、アクションの稽古を始めました。まだ基礎クラスですけど、いつか特技と言えるようになったら、アクション作品に出たいです。新体操をやっていたのが活かせるかもしれません。

――走るのは得意なんですよね? 昔、CygamesのCMとか、やたら走っていた印象があります。

山田 そうなんです! 走るお仕事が多くて、10代はほぼ走ってました(笑)。そう言えば『DANCING MARY』でNAOTOさんに引っ張られて走るシーンなのに、私が追い越してしまってNGを出したりもしました(笑)。走るのは得意で大好きですね。それで、今は学生役が多いですけど、刑事モノや医療モノ、難しい役柄にも挑戦したいです。

ヘア&メイク/八戸亜季子 スタイリング/小笠原吉恵
ヘア&メイク/八戸亜季子 スタイリング/小笠原吉恵

Profile

山田愛奈(やまだ・あいな)

1998年9月6日生まれ、新潟県出身。

『non-no』専属モデルを経て、2017年に映画『最低。』で本格的に女優デビュー。主な出演作は映画『いつも月夜に米の飯』、『シグナル100』、『NO CALL NO LIFE』、ドラマ『シグナル 長期未解決事件捜査班』、『dele』、『名もなき復讐者 ZEGEN』、配信ドラマ『A/LIVE(エーライブ)』など。公開中の映画『DANCING MARY ダンシング・マリー』でヒロイン。

『DANCING MARY ダンシング・マリー』

監督・脚本・編集/SABU

全国順次公開中

公式HP

(C)2020映画「DANCING MARY」製作委員会
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芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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