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『ナイト・ドクター』から映画で躍進の岡崎紗絵。「涙に暮れて一度落ちないと上がれなかった」頃を越えて

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/厚地健太郎

夏にドラマ『ナイト・ドクター』で主演の波瑠と渡り合う女医を演じた岡崎紗絵。1st写真集『すがお。』は重版、公開間近の映画『シノノメ色の週末』でもメインキャストと、注目度が高まっている。モデルとしても活躍する抜群のルックスや好感度の高さを持ち合わせているが、オーディションに落ちては悔し泣きした時期もあったとか。躍進のバックボーンを探る。

女優は自分にはできないと思ってました

――今年はドラマ『教場Ⅱ』、『監察医 朝顔』、そして『ナイト・ドクター』のメインキャストと話題作への出演が続いて、1st写真集『すがお。』は発売前から重版決定。飛躍している感覚はありますか?

岡崎 自分ではわかりませんけど、いろいろな役に挑戦させていただけるのは嬉しいです。

――岡崎さんはもともとモデルとしてデビューして、女優はやりながら意欲を高めていった感じですか?

岡崎 女優はやる前はわからない世界で、自分にできるものではないと思ってました。チャレンジさせていただいて、徐々に「できるようになりたい」という想いが強くなった感じです。

――そのために努力したことも?

岡崎 映画やドラマをちゃんと時間を作って観るようにしています。物語を追うだけでなく勉強だと思って、洋画を観たいときも邦画も1本観たり。

――刺激を受けた作品もありますか?

岡崎 ドラマの『カルテット』が大好きです。メインの4人のバランス感が絶妙で、台詞が台詞でないような言い回しにすごく刺激を受けました。『若者たち』というドラマもそうですけど、自然体な演技に惹かれます。たぶん皆さん、計算された自然体の作り方を持ってらっしゃると思いますけど、本当にすごいなと感じます。

毎回違う課題があって壁だらけです

――女優として演技をする中で、壁に当たったこともありますか?

岡崎 もう壁だらけです(笑)。毎回違う課題があって、考えることも多くて尽きないですね。

――ゲスト出演された『監察医 朝顔』での赤ちゃんを亡くした母親役は、定型でいけない難しさがあるように感じました。

岡崎 難しかったですね。シングルマザーで子どもがいることも、その子どもが亡くなってしまうことも、自分にとっては未知で。経験してないことがたくさんあるお話だったので、悩みました。

――最終的には、自分なりの答えを見つけて?

岡崎 自分の答えというより、現場で監督のお話を聞きつつ、上野(樹里)さん、山口(智子)さん、ともさか(りえ)さんと名だたる女優さんたちが、作品の空気感を醸し出してくださいました。私はそこに乗るだけで、あの世界に連れていっていただけた感覚があって、すごく助けられました。

自分と違うしっかり者らしい行動を考えて

女子高を卒業して10年になる元放送クラブの3人が、取り壊しになる母校にタイムカプセルを探すために集まる『シノノメ色の週末』。モデルを続けているがパッとしない美玲(桜井玲香)、広告代理店に就職したまりりん(岡崎)、カメラ好きのアンディ(三戸なつめ)は裏門から学校に忍び込んだが、タイムカプセルは見つからず、また週末に集まることに。

――『シノノメ色の週末』のまりりんこと一ノ宮まりは、入りやすい役でした?

岡崎 現場の空気は女子高のようなキャッキャした感じで、撮影には臨みやすかったです。お2人がやさしくて柔らかい雰囲気の方で、距離感をどう取るか考えていたのが必要なかったくらいに、最初から近くにいてくださって。でも、まりりんのキャラクターは自分とちょっと離れていて、気をつけないといけない点も結構ありました。

――たとえば、どんなことですか?

岡崎 私なら素通りしてしまうようなことも、まりりんは真面目だから目についたり。“しっかり者だからこうするだろうな”という行動を考えました。わかりやすく言うと、“後片付けをするのは私”みたいな(笑)。お2人が自由なキャラクターで散らかしたのを「それはダメでしょう」という。廃校になるとはいえ学校に忍び込むのも、「まずいよ」と言い出すのはまりりんで、「大丈夫」と引っ張っていくのが美玲。まりりんはルールに則る意識が強い女性だと、意識しながら演じました。

――そんなまりりんが自分と違ったということは、岡崎さんは校則を必ずしも守っていなかったと(笑)?

岡崎 はい(笑)。まりりんほどは守ってないですね。今なら先生側の考えもわかりますけど、高校生の頃はそのときが一番大事で、楽しみたい一心でしたから。スカートを短めにしたりはしました(笑)。

進路に悩んだ高校時代を思い出しました

――まりりんは高校時代は放送クラブの部長で、超マジメで目立たなかったのが、広告代理店のデキる女っぽくなっていた設定。岡崎さんは高校時代と今で、大きく変わったところはありますか?

岡崎 あると思います。高校生の頃は「学生生活を充実させたい。楽しいことをしたい」という気持ちがすごく強かったのが、大人になると、そういう想いだけでは進めないものがありますね。仕事だと、また違いますから。

――外見はどうでしょう?

岡崎 やっぱり大人になってきたと思います。高校時代ならではの顔の肉の付き方があって(笑)、当時の写真を見ると幼いなと感じます。

――劇中では高校時代の制服を着るシーンがあって、「スカートがスースーする」という台詞もありました。

岡崎 そうでしたね。今は私服でミニスカートを穿く機会はあまりないので、制服は「どうなんだろう?」というのはありつつ、テンションが上がりました(笑)。

――撮影しながら、高校時代を思い出したりもしました?

岡崎 やっぱり自分の青春時代も重ねました。学生時代は突っ走っていく強さもありますけど、私は進路をどうするか考えていて。

――岡崎さんは高校時代には、もうモデルデビューしてました。

岡崎 大学に進もうか。名古屋から上京しようか。岐路に立たされて、将来について、いろいろ考えた時期でした。それも良い経験になりました。

クタクタになるまで煮え切るのが私らしくて

――まりりんと美玲が広告代理店とモデルの立場から口論をするシーンが、ひとつの山場になっていました。

岡崎 2人がぶつかるところは、自分の中では一番大きかったです。現場はピリピリする感じでもなかったんですけど、撮影前はお互い、口数はいつもより少なかったかもしれません。まりりんがオーディションで友だちを選ぶ側に立ったのは、心苦しかったと思います。じゃあ、どうしたら良かったのか。一歩踏み込んで話したりもして、あのシーンは「自分ならどうするだろう?」と、いろいろ考えさせられました。

――美玲は「選ぶ側にはわからないんだよ」と言ってましたが、モデルでもある岡崎さん自身としては、そちらの気持ちもわかるのでは?

岡崎 すごくわかります。まりりんの本社の上司が言っていたように、「商品やその先に見える思いで選ぶので、その人自身を否定しているわけではない」ということはわかったうえで、やっぱり落ちたらショックなので(笑)。

――岡崎さんも美玲のように、オーディションに落ち続けた時代もあるんですか?

岡崎 全然あります。落ちるたびに「うーん……」と考え込む時間が多くて、毎回悔しくて泣いていたり、涙まみれでした(笑)。

――そういうときはどう立ち直ったんですか?

岡崎 自分で自分を納得させないと、気持ちが上がらなくて。それもだんだんわかってきたんですけど、周りの方にどれだけ手を差し伸べてもらって、「大丈夫だよ」と言っていただいても、自分でモヤモヤしていると上がり切れません。「こうしたら良かった」とか「あれはダメだった」とか、いろいろなことを考えに考えて、煮え切ったら上がるしかない、という感じなんです。だから、私は1回は落ちないといけなくて。結論が出る、出ないに関わらず、クタクタになるまで煮え切らすのが、たぶん私らしいんだと思います。

年齢と大人でない自分にギャップがあって

――岡崎さんは『シノノメ色の週末』の公開直前に26歳の誕生日を迎えました。

岡崎 そうなんです。本当に早くて。

――特に区切りの年ではありませんが。

岡崎 でも、四捨五入で30歳により近づきますし、ちょっと焦るようにはなってきました。もう誕生日は喜び一色ではいきません(笑)。

――劇中の3人のように、大人になりきれてないところも?

岡崎 本当にまだ大人でないので。だから、年齢とのギャップに私自身がやられている感じなんです(笑)。

――自分のどんなところが、まだ大人でないと?

岡崎 もっとしっかりしなきゃいけないと思います。まりりんのように人をまとめる力もありませんし、年齢が上がるに連れて責任感もちゃんと持たないといけない。そう考えると、実際の自分とギャップがあって、ザワザワします(笑)。

――ファッションとか食とか、趣味・趣向が変わってきたりはしてますか?

岡崎 ファッションに関しては、ちょっとカジュアルになってきました。他はそんなに大きく変わってないと思います。でも、考え方が柔らかくなった気はします。学生時代は「こうでないとダメだ!」みたいな固定観念が強くて。そこは視野が広くなって、いろいろな方とコミュニケーションを取っていくと「そういう考え方もあるんだ」と思えるようになりました。

作品の一員なんだと思うと熱くなります

――まりりんたちと違って、今の岡崎さんは充実感の大きい日々ですよね?

岡崎 そうですね。いろいろなことをやらせていただいて。でも、余裕があるわけでもなくて、考えがいろいろ巡っている状況です。

――演技の楽しさはより感じるようになりました?

岡崎 昔よりは楽しめる時間が増えてきました。楽しいだけではできませんけど、『シノノメ色の週末』でも、みんなで作っていると思うと熱くなります。物語のいちキャラクターになれるように頑張ろうと、すごく気持ちが高まって。「作品の一員なんだ」という想いが昔より強くなって、それは余裕がないと見えないところだと思うので嬉しいですね。

――『ナイト・ドクター』はストーリー的にも群像劇で、「みんなで作る」意識はより大きかったですか?

岡崎 それはすごくありました。主役の波瑠さんも田中圭さんも、先輩の皆さんがやさしい方ばかりで、そういう方々と一緒にお芝居させてもらえたのは、すごくありがたいことでした。

今ここにいそうな自然体の演技に憧れます

――今、演技で課題にしていることはありますか?

岡崎 ナチュラルなお芝居にすごく憧れを持っています。今ここで本当に生きているように思える役って、簡単そうに見えて、すごく難しいことを痛感していて。それくらい自然体に見える役を、自分に落とし込んで演じられたら一番だと思うので、そこに近づけるように頑張りたいです。

――先ほど『カルテット』の話が出ましたが、そういう意味で感化されたのは、どんな作品ですか?

岡崎 やっぱり『カルテット』では、皆さんが本当に感じたままを発しているように見えるんです。台詞が浮いてないというか。「悲しそうだな」ではなくて、本気の悲しみが観ている側の感情を引っ張るくらいのものを生んでいて。お芝居をしている最中は作品の中で生きているわけだから、観る側のことは考えずに演じていいと思うんです。でも、結果的に観ている人の心を動かしている。だから、自然体で演じることがいかに大変で、技術が要るのか。正解はないと思いますけど、そういう演技をできるようになるのが当面の課題です。

周りの方のことを考えられる人でありたくて

――他に、20代後半の展望はありますか?

岡崎 今まではいろいろ勉強させていただいて、もらったものがたくさんありました。それをとにかく出すことをしてきましたけど、これからはどう変換して自分の色にしていくか。自分ならではの強みにして出していけたら、一番いいなと思います。“これが私”と思える何かを見つけ出したいです。

――今の時点で、自分の強みだと思うことはないですか?

岡崎 今回のまりりんもそうですけど、しっかりしていて正義感に溢れるような役が多いので、そういうふうに見えるのかなとは思います。自分で意識しているというより、人からそう見られるなら強みかもしれません。そこを活かしていくのか、ちょっと違う方向にも持っていくのか、いろいろ考えていきたいと思います。

――人としてのことも含め、これからも変わりたくない部分もありますか?

岡崎 周りの方のことを考えられる人でありたい、というのはすごく思います。日ごろから、それは気をつけていて。現場がイヤな空気になると自分のテンションも下がるし、影響してはいけないところにも影響するので、空気感は本当に大事にしたい。そこは変えたくないところですね。

――そういえば、岡崎さんは以前こういう取材で、天気予報が外れて雨をしのぎながらの外ロケ撮影になっても、イヤな顔ひとつせず対応してくれました。そうした人当たりの良さは、今後さらに売れっ子になっても変わらずにいただけたらいいなと。

岡崎 ツンツンし始めたら、すぐ変わったと言われますよね(笑)。だから、このままでいきたいと思います。

撮影/厚地健太郎

Profile

岡崎紗絵(おかざき・さえ)

1995年11月2日生まれ、愛知県出身。

『ミスセブンティーン2012』に選ばれ、『Seventeen』モデル卒業後の2016年から『Ray』の専属モデルに。女優として、2015年に『脳漿炸裂ガール』で映画デビュー。主な出演作はドラマ『トレース~科捜研の男』、『パーフェクトワールド』、『アライブ~がん専門医のカルテ』、『教場Ⅱ』、『ナイト・ドクター』、映画『ReLife』、『午前0時、キスしに来てよ』、『mellow』など。ドラマ『ごほうびごはん』(BSテレ東)に出演中。1st写真集『すがお。』が発売中。

『シノノメ色の週末』

11月5日より全国公開

監督・脚本/穐山茉由 出演/桜井玲香、岡崎紗絵、三戸なつめ他 配給/イオンエンターテイメント

公式HP

(C)2021映画「シノノメ色の週末」製作委員会
(C)2021映画「シノノメ色の週末」製作委員会

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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