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『悪魔とラブソング』ドラマ化で浅川梨奈が孤立する主人公に 「本音が人を傷つけるのは経験でわかります」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
『悪魔とラブソング』より (C)桃森ミヨシ/集英社・HJホールディングス

『マーガレット』で人気を博した音楽青春群像劇『悪魔とラブソング』が実写ドラマ化された。美しい歌声と美貌を持ちながら、常に本音を話して周囲から孤立する主人公を演じるのは浅川梨奈。恋愛モノからアクション、コメディ、ホラーなど幅広く出演してきたが、この作品は撮影しながら「大きな転機になる」と確信したという。

「きれい」と言われる役なのでダイエットしました

――何か、お顔がシュッとしました?

浅川 やった(笑)! 痩せたんです。この『悪魔とラブソング』に向けてダイエットしました。

――原作の可愛マリアの美貌に寄せるために?

浅川 1話の台本で、周りから「わーっ、きれい! モデルさんみたい!」と言われていて。このままではイカンと思いました(笑)。

――かなりのダイエットをしたんですか?

浅川 マリアは歌うシーンも多いので、肺活量を鍛える体幹トレーニングをしたのと、湯船に毎日浸かるようになりました。汗をかくために。

――それまでは毎日浸かってなかったんですか?

浅川 たまにでいいや、という感じでした(笑)。そういうふうに、いろいろなことをちょっとずつ変えました。

――2年前に女優業に専念してから順調なようですが、当時「演技のワークショップを受けたい」と話してましたね。

浅川 コロナ禍でなかなかタイミングがなくて受けられてないんですけど、自分の過去の作品を観て1人で反省会をしたり、いろいろな作品を観て勉強する時間は、自粛期間からだいぶ増えました。

――どんな映画を観たんですか?

浅川 今までは洋画が苦手というか、字幕を見るのか画面を見るのか、目と耳が追い付かなくて。それが見られるようになって、洋画の楽しさを知りました。全体的に洋画はスケールが大きいので、一度観ると、自分がやる作品で「ああいうシーンか」とイメージしやすくなりました。

苦手意識があった歌が楽しくなって

――演技に対する考え方や取り組み方が変わってきた面もありますか?

浅川 ひとつひとつの作品で役作りの時間が増えました。もともと時間をかけるほうでしたけど、お芝居のことだけを考えられる時間が増えたので。それはすごくプラスになったと思います。想像力が膨らむようになって、役の奥の奥まで考えるのが、楽しくなってきました。

――課題が見つかって、克服したりも?

浅川 常に自分との戦いだと思ってます。日々課題を見つけては、いかにクリアするかを考えますし、そのときごとに120%の力を出しています。それでも「もっとこうできたかな?」となるので、満足することはたぶん一生ないと思います。

――何かを高められてはきたのでは?

浅川 自分ではあまりわかりません。でも、『悪魔とラブソング』は音楽が大事な作品で、撮影が始まる2ヵ月前から歌のレッスンをさせていただいたんですね。私は歌に対する苦手意識が強くて。

――えっ、それは意外な……。

浅川 歌は好きだけど、うまくないから……というのがずっとあったんです。でも、先生やスタッフさんのおかげで、「好きなら、うまいかヘタかはどうでもいい」という気持ちになれました。それで歌うことが楽しくなったのは、成長だと思います。

――劇中で『アメイジング・グレイス』とかを吹き替えなしで歌っているんですか?

浅川 はい。マリアは小さい頃から聖歌隊の練習に行ったり、ずっと歌が好きで、友だちがいないから他に好きなこともなくて。マリアがそれだけ好きな歌に、自分が苦手意識を持っていたらいけないと思ったので、早めにボイストレーニングをやらせていただいたんです。

――マリアは単に歌うだけでなく、聴く人を魅了するわけですよね。

浅川 プレッシャーを掛けないでください(笑)。でも、頑張りました。歌は別録りが多くて、1人で歌うので緊張しますけど、現場の空気が温かくて、楽しい気持ちで歌わせてもらえたので、感謝ですね。

私も思ったことは口にしてしまうので

2007~2011年に『マーガレット』で連載された桃森ミヨシのマンガが原作の『悪魔とラブソング』。県でトップクラスの高校を退学になった可愛マリア(浅川)は、まっすぐすぎる性格で思ったままを言葉にして、転校先でも孤立。歌うことで自分を元気づけてきた。クラスメイトの目黒伸(飯島寛騎)や神田優介(奥野壮)たちと関わるうち、少しずつ変化が訪れ、平和に見えた彼らの日常を揺さぶる。そんな中、クラスで合唱コンクールに参加する話が持ち上がった。

――梨奈さんはマンガ好きですが、『悪魔とラブソング』を読んだことはありました?

浅川 タイトルは知ってましたけど、読ませていただいたのはドラマが決まってからです。私がよく読んでいた少女マンガとは違って、ただの学園モノではなくて、すごく人間味があるというか。1人1人の悩みや抱えているものの大きさを感じる、青春群像劇だと思いました。

――学園モノの少女マンガを梨奈さんは以前「ファンタジー」と言ってましたが、この作品はデフォルメはされつつリアルに感じます。

浅川 そうなんですよね。歌とかピアノとか身近なものが軸になっているし、マリアみたいな子も実際にいるから、すごく現実味があって。私もわりとマリアに近い部分やわかる部分が多くて、ただキラキラした感じの作品ではないですね。

――わかる部分というのは、「本音を言うと人が遠ざかる」といったところですか?

浅川 私自身が思ったことを何でも口に出してしまう性格なんです。今は大人になって、だいぶ直ったと思いますけど、相当グサッときた人もいただろうなと。

――それで遠ざかった人も?

浅川 私は鈍感なので全然わかりませんけど、傷つけてしまったり、言われたくない核心を突いてしまったことは、きっとあったと思います。だからこそ、私はマリアに寄り添って演じられました。逆に、マリアが教えてくれることも多くて。

――たとえば?

浅川 思ったことを素直に伝えることはやっぱり大切で、マリアも悪気があるわけではないんです。クールに見えても、実際はまっすぐなだけ。でも、伝え方やタイミングで人を傷つけてしまうことはあると、改めて教えてもらいました。クラスメイトがマリアと関わって変わっていく。クラスメイトによってマリアも変わっていく。そんな関係性を見ながら、私自身も成長させてもらえたと思います。

「絶対これ」という芯は自分の中にあります

――マリアの台詞も腑に落ちるものが多いですか?

浅川 刺さる台詞が多いですね。マリアだけでなく、全体を通して、心にグサッとくる言葉が多い作品だと思いました。

――特に印象的だった言葉というと?

浅川 私自身、学生時代に何となく、本当の友だちと上辺だけの友だちがいるように感じていて。そのときは“上辺”とは思ってませんけど、何か違和感があったのが、マリアの言葉で「きっと、こういうことだったんだ」と思えました。

――「友だちに選んでもらうには、きれいな面も汚い面も全部さらけ出すしかない」というような?

浅川 すごく的を射てるし、正しいことを言ってるんです。でも、正しいことを伝えることが正義とは限らないこともわかるし、人間関係は難しいですね。悩んでいる学生の方が観たら、きっと共感できると思います。

――マリアのブレないところも、梨奈さんと似ているのでは?

浅川 私はブレブレな部分もありますけど、「絶対にこれ」という芯は自分の中にあって。そういう部分は似てる気はしつつ、やっぱり可愛マリアは強いな、カッコイイなと思います。

――梨奈さんのブレない芯は、女優としてもあります?

浅川 自分で「これだ」とわかっているわけではなくて、何かを言われて「そこは曲げられない」と感じることがあるんです。日々生活したり、お仕事をさせていただく中で、「それはイヤだ」と思うことは、何となく一貫して同じ気がするので、きっと自分の中に1本の芯があるのかなと。私は寝たら忘れてしまうから(笑)、そのときにどう感じたかは覚えてないんですけど。

――ドラマの後半では、マリアが「自分が変われば周りだって変わるかもしれない」と言ってます。

浅川 物語が進むにつれて、マリアは変わっていきます。たぶん登場人物が全員、1話と8話でどこか心情の変化があるので、そこも楽しんでいただけたら。

「本番」という声でガッと変わります

――「役作りの時間が増えた」とのことでしたが、マリアに関しては、事前にどんなことを考えました?

浅川 まずマリアの口調が、普通に生活していたら出ることがないものなので(笑)。

――「お前がさらけ出さないからだ」とか「聞いてくれてかまわないぞ」とか。

浅川 それが口に馴染んでないと、自分で言っていて違和感があるし、観る人も不自然に聞こえてしまう。そこを馴染ませることをすごく意識しました。歌のレッスンで、私は英語が苦手だから『アメイジング・グレイス』を歌えるかなと思っていたとき、先生に「歌詞が口に馴染んでくれば、違和感なく歌えるし、自然に聞こえる」と言われたんですね。じゃあ、台詞もきっとそうだなと。

――普段から、そういう言葉でしゃべるようにしていたとか?

浅川 それはさすがにしてませんけど(笑)、今まで以上に台本を声に出して読む時間は長かったかもしれません。言い方、ニュアンス、アクセントをどこに付けるか。マリアはキャラ的には一番マンガっぽい分、いかに自然に言葉を発せられるか気をつけました。アクセントひとつで、聞こえ方が全然変わることも改めてわかって、脳みそをフル回転させた感じです(笑)。

――演じているときは、やっぱり役に入り込んだ感覚ですか?

浅川 カメラ前に行って、監督から「本番」という声が掛かると、ガッと変わるのは自分の中で感じます。

――意識して切り替えるというより、自然に?

浅川 意識は特にしません。その瞬間に気合いが入るというか、スイッチが変わるというか。グッと引き締まる感覚があります。

クールに見えて繊細なところは大切にしようと

――いわゆる女優体質なんでしょうね。今回のマリア役が自分に来たことには、納得感はありました?

浅川 いや、ビックリしました。まず「歌うの!?」というのが衝撃で。今までそんなに歌を求められたことがなかったから、不安とプレッシャーがありました。役柄については、原作を読むとマリアはクールで強くて、人の気持ちがわからないように見えるけど、実はすごく繊細なんです。どういうふうにそんな精神状態を作っていくか、ずっとマンガを読んで考えましたし、電子書籍も初めて買いました。

――単行本を買いつつ、電子書籍も?

浅川 そうです。私は基本、マンガは単行本で揃えたいんですけど、何かで悩んだりわからなくなったとき、常に手元に置いておきたくて。電子書籍で自分が演じるのと同じシーンや似たシーンを探して、マンガのマリアとドラマのマリアについて考えました。

――いろいろな作品をやってきた中でも、特にエネルギーを使った感じですか?

浅川 自分にとって大きな転機になると思って挑みました。マリアは自分と通じる部分もあって感情移入はしやすいんですけど、難しい役回りだったから、後にも先にもない作品になるはずだと、気合いが入りました。

――今まで転機になった作品に『人狼ゲーム マッドランド』を挙げてましたが、また次の段階に来たと。

浅川 そうですね。『人狼ゲーム』は自分がお芝居にちゃんと向き合いたいと思えたきっかけで、『悪魔とラブソング』は撮りながら「何年か後に振り返ったら、この作品が大切だったことがわかる」と確信しました。

「私はできる!」と自分に刷り込ませてます

――途中では胃が痛くなるようなこともありました?

浅川 プレッシャーでごはんがノドを通らないときはありました。食べてはいたんですけど、いつもよりお箸が進まなくて。

――それは梨奈さんには珍しいこと?

浅川 たまにありますけど、今回はめちゃめちゃ大事という気持ちが強かった分、だいぶプレッシャーは感じていました。でも、1ヵ月経った辺りで、マリアがクラスメイトと仲良くなり始める段階で、監督から「表情が良くなった」と言われました。きっと知らず知らずのうちに、プレッシャーがちょっと抜けたんだと思います。マリアは後半、だんだん態度が柔らかくなっていくので、良かったです。

――転機になったということでしたが、演技への自信も付いてきてます?

浅川 基本的に自分に自信がない人間として生きてきて、それじゃダメだと思っている最中です。1コ1コのお仕事を自信を持ってやりたい想いはあるので、準備はしっかりやろうとしています。

――どういうことができるようになれば、自信を持てますかね?

浅川 それは常に探ってます。1コ1コのお仕事によって、自信の持ち方は違うので。でも、どんな作品でも、自信がある人はキラキラしていてカッコイイので、自分もそういうふうに思われる仕事の仕方をしたいです。

――そのために、やれるだけの準備はして臨もうと。

浅川 あとは自分への刷り込みですね。最近、毎日「私はできる! 大丈夫!」と言って寝ているんです。その効果も、きっと出てくると思います(笑)。

(C)桃森ミヨシ/集英社・HJホールディングス

Profile

浅川梨奈(あさかわ・なな)

1999年4月3日、埼玉県出身。

2016年に『14の夜』で長編映画デビュー。主な出演作は、映画『人狼ゲーム マッドランド』、『honey』、『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』、『胸が鳴るのは君のせい』、ドラマ『女子高生の無駄づかい』、『逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!新春スペシャル!!』など。映画『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~ファイナル』が8月20日公開。音楽劇『ブンとフン』に出演。8月25日~9月2日/よみうり大手町ホール、9月11・12日/サンケイホールブリーゼ。

Huluオリジナル『悪魔とラブソング』

独占配信中(全8話)

公式HP

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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