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『シドニアの騎士』が劇場版で完結。ヒロインを演じ続けた声優・洲崎綾の想い。「全部が記憶に残ってます」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
洲崎綾が演じた白羽衣つむぎ (C)弐瓶勉・講談社/東亜重工重力祭運営局

世界的に評価を受ける漫画家・弐瓶勉の代表作『シドニアの騎士』。2014年、2015年とTVアニメ化されたが、その完結編となる映画『シドニアの騎士 あいつむぐほし』が公開される。異形のヒロイン・白羽衣つむぎを演じた声優の洲崎綾に、TVシリーズからの取り組みや作品への想いを聞いた。

生真面目で緊張してたのが合ってたみたいで

未知の生命体・ガウナに地球を破壊され、かろうじて生き残った人類の一部は巨大な宇宙船「シドニア」で旅を続けていた。最下層部でひっそり育てられていた少年・谷風長道(声:逢坂良太)は祖父の死を機に地上に出て、人型巨大兵器・衛人(もりと)の操縦士訓練学校に入学。小惑星での任務に赴いた彼らの前に、100年ぶりにガウナが現れた――。TVアニメ『シドニアの騎士』は2014年に放送。洲崎綾は長道と同じ訓練生の星白閑を演じた。

――『シドニアの騎士』のTVシリーズ第1期がスタートした2014年は、洲崎さんは他にも『極黒のブリュンヒルデ』、『トリニティセブン』などでメインキャストが続きました。波に乗っていた感じでしたか?

洲崎 いえ、『シドニア』のオーディションがあったのは2013年で、ポツポツと『たまこまーけっと』と『キララキル』が決まったか、発表されたくらいの時期だったと思います。当時は海のものとも山のものともわからなかった私を、よくキャスティングしてくださったな……という感覚でした。

――オーディションから星白閑役で受けたんですよね?

洲崎 そうです。受かるとは全然思っていませんでした。のちに監督にオーディションのことをうかがったら、「透けて見える、その人らしさが重要だった」と言われた気がします。私は生真面目で、緊張が声に乗っかってしまっていたらしくて、それが逆に良かったそうです。

――洲崎さん自身に星白的な資質があったと。

洲崎 監督たちの思い描いていた星白のトーンに、たまたま私の声が合っていたようです。1話を録ったときだったか、「本当にピッタリでした」と言ってもらえて。すごくうれしくて、ホッとしたのを覚えています。

――それまであまり演じてなかったタイプのキャラクターでしたよね?

洲崎 そうですね。もの静かなヒロインで、自分では初めてやるような役柄でした。設定的にも宇宙で戦闘機に乗って戦ったり、普段は体験できないことなので、想像力がすごく必要でした。役が決まったあと、『ゼロ・グラビティ』とか宇宙が舞台の極限状態の映画を観た記憶があります。

洲崎綾(アイムエンタープライズ提供)
洲崎綾(アイムエンタープライズ提供)

もの静かなヒロインに憧れがありました

――宇宙が舞台のSF作品は、観る分には好きだったんですか?

洲崎 憧れはありました。普通は経験できないことを、役を通してできるのが面白いところだと思いますし、リアルタイムではないですけど、『宇宙戦艦ヤマト』とか壮大なテーマの作品も観ていました。

――では、星白役をやりたい度合いは強かったと?

洲崎 はい。私の声質や得意な役柄として、皆さんが思い浮かべるのは、たぶん明るくて天真爛漫な元気キャラだと思うんです。でも、私自身が小さい頃に憧れていたキャラクターは、クールでもの静かな子が多かったんです。(『名探偵コナン』の)灰原哀とか(『新世紀エヴァンゲリオン』の)綾波レイとか。だから、『シドニア』の原作を初めて読んだとき、星白閑にワッと引き込まれました。何かに似せたりはもちろんしたくなくて、私が魅力に溢れていると感じたままに、星白を演じられたらと思いました。

――星白を演じるうえで試行錯誤はありました?

洲崎 明確に「こういう感じにしたい」というのが自分の中にありました。オーディションから原作を読み込んで行ったんですけど、星白はガウナともわかり合えると信じている子で、物語の中でも特殊な立ち位置で、どこか浮き世離れしていて。私的には悟りを開いているような感じを、すごく出したかったんです。人間臭さがあえてそこまでないようにして、みんなの考えが至らないところに自分の確固たる信念がある。そんなキャラクターにしたいと思っていました。

――ガウナとの戦いで谷風長道を守ろうとして、死んでしまいました。

洲崎 長道が戦死した星白のことをずっと引きずって、融合個体のつむぎにも、どこか星白の影を感じているわけじゃないですか。星白の死に翻弄されたり苛まされて物語が進んでいくので、長道にも観てくれる人にも、ずっと忘れられないキャラクターにしないといけない想いもありました。

TVシリーズ第1期のヒロイン・星白閑 (C)弐瓶勉・講談社/東亜重工重力祭運営局
TVシリーズ第1期のヒロイン・星白閑 (C)弐瓶勉・講談社/東亜重工重力祭運営局

限界を知らなくてノドが潰れるまでやりました

TVアニメシリーズの第2期『シドニアの騎士 第九惑星戦役』は2015年に放送。ガウナとの交戦で目覚ましい戦果を挙げる谷風長道は、衛人の正規操縦士となり、戦死した星白閑の衛人機体を模した最強の敵・紅天蛾(べにすずめ)らの猛攻に立ち向かう。洲崎はガウナと人間から生まれた白羽衣つむぎ役。長道らと共にガウナと戦い、その声は星白を思わせた。

――第2期では、ガウナと人間の融合個体の白羽衣つむぎを演じました。外見は巨大で特異ですが、声で演じるうえでは普通の女の子として取り組んだわけですか?

洲崎 そうですね。ただ、プレスコ(声を先に収録してから作画)だったので、画がない難しさはつむぎのほうがありました。声のトーン的には大人まで行かないけど、幼稚園児みたいでもなくて。でも、生まれたての感性ではあるので、「精神面では5歳の女の子だと思ってください」と当時言われました。知らないことばかりで、岐神海苔夫に言われて「ハイ!」と戦闘に出たり。今回の劇場版では10年経って、中学生か高校生くらいの女の子として長道と甘酸っぱい感じになったのは、子どもの成長を見るようでうれしかったです(笑)。

――第2期で特に印象深かったシーンというと?

洲崎 紅天蛾対つむぎという展開があって、どっちも私が演じていたから、ネットで“1人洲崎綾対戦”みたいに言われたのを覚えています(笑)。体力的にはめちゃめちゃキツくて、ノドを潰してしまったこともあって、大変でした。でも、新人の頃だったので、ガムシャラにやってノドの限界を知らなくて潰してしまっても、スタッフさんには「まあ、仕方ないよね」と許されてました。

シドニアの最強の敵だった紅天蛾 (C)弐瓶勉・講談社/東亜重工重力祭運営局
シドニアの最強の敵だった紅天蛾 (C)弐瓶勉・講談社/東亜重工重力祭運営局

――その紅天蛾対つむぎは、どう録ったんですか?

洲崎 紅天蛾のパートとつむぎのパートを別々に録りました。ノドへの負担が大きいことは予想できていたので、つむぎが後だったと思います。紅天蛾はわりと無機質にフフフと笑っていることが多かったので。

――今回の劇場版でもありますが、つむぎが身を挺して、ガウナの攻撃からシドニアを守るようなシーンは、演じていて消耗する感じもありますか?

洲崎 技術的には昔よりノドの使い方がわかって、「これ以上やったら出なくなる」というギリギリのところでできました。でも、精神的にはやっぱり辛いです。何が一番大変だったか考えると、つむぎは必死だから、長道に言葉を掛けるのも、必死な言い方をしたくなってしまうんです。だけど、演出的には「長道とつむぎの気持ちは噛み合うようで、すれ違ってほしい」と言われていて。それがドラマチックに見えるということで、あえて感情を抑えて、スッと消えていく直前のような言い方を求められたのは、難しいところでしたね。

恋愛シーンは等身大の女の子の感情を呼び起こして

アニメシリーズの完結編となる映画『シドニアの騎士 あいつむぐほし』は、第2期でガウナを何とか撃退してから10年後が舞台。シドニアの人々は束の間の平和を楽しみ、つむぎも今や英雄となった長道に想いを寄せながら、穏やかな日々を過ごしていた。しかし、平穏は長く続かない。人類の存亡を賭けて、シドニアはガウナとの最終決戦に挑む。

――今回の劇場版『シドニアの騎士 あいつむぐほし』でシリーズ完結となります。最後までやりたい気持ちは、やっぱりありましたか?

洲崎 それはずっとありました。TVシリーズの第2期が終わったあと、「完結まで観られたらいいな」という声も結構聞いていたので、ファンの方たちが喜ぶ顔も見たくて。『シドニア』の面々で、わりと定期的にごはんに行ったりしていて、みんなで「いつかやるだろう」と話していたんです。監督が飲み会の席で「劇場版を作ります」と言ったときは、オーッとなりました。テレビももちろんうれしいですけど、スクリーンで自分の声が聞こえることには、小さい頃から憧れがありました。

――声を録り終わったときは、感慨もありました?

洲崎 プレスコだから声を録ったあとに画を作って、合わないとか尺がもう少しほしいときに追加収録があるんです。だから「もしかしたら追加があるかも」という気持ちがどこかにあって、終わった感覚がないまま、ここまで来ました(笑)。『シドニア』ロスみたいなものはまだありません。きっと舞台あいさつなどで、「つむぎ役の洲崎綾です」という機会はもうないと感じた瞬間、来るだろうなと思います。

――劇場版ではさっき出たように、長道とつむぎの“身長差15メートルの恋”がひとつの軸になっています。シドニアの居住塔で、つむぎと衛人に乗った長道がデートしていたり。

洲崎 つむぎが居住塔で空を飛んで「怖い」と言うんですよね。普通に考えたら、宇宙でたくさん戦闘を経験しているつむぎが、空を飛ぶのが怖いはずはなくて。1人の女の子の感覚が芽生えたんだと思いました。空から居住塔を見てヒヤッとなるところに持っていくために、等身大の初々しい感情を自分の中で起こして、自然な流れで演じました。でも一度、フラットな気持ちに戻したところはあったかもしれません。

――自分の中高生の頃も思い出しながら?

洲崎 それも引き出しとして、あったかもしれないですね。過去に自分が主役で演じた作品で、ラブストーリーはありましたけど、等身大の女の子としての恋愛を描いたアニメにはそんなに出てなくて。だから、楽しかったです。逢坂くんと掛け合いでお芝居させていただいて、プレスコで画がない分、相手の声をしっかり聴いて心を動かしながら録ったので、ドキドキしました(笑)。

つむぎは胞手部分で人間と直接のコミュニケーションを取る。浴衣を着て祭りに行ったりも (C)弐瓶勉・講談社/東亜重工重力祭運営局
つむぎは胞手部分で人間と直接のコミュニケーションを取る。浴衣を着て祭りに行ったりも (C)弐瓶勉・講談社/東亜重工重力祭運営局

やり取りから出たトーンでないと成立しないので

――つむぎは「どうしても涙が止まらないんです」とも言ってました。

洲崎 そうなんですよね。つむぎがネガティブになってしまって、それを救うために長道が……と盛り上がりを作らないといけなくて。だから、「何でつむぎはそんなに落ち込むんだろう?」と思いながら、うまく気持ちを持っていけるように役作りをしました。「どうしたらいいか、わからなくなってしまったんだろうな」と考えて、作っていきました。

――演じていて、実際に涙が止まらなくなったりも?

洲崎 テストのときはそうでした。掛け合いで演じるので、気持ちが動くまま、涙が出ました。でも、本番は声がカブらないように別録りになるんです。だから、テストのときの自分の気持ちの動きを覚えておきました。逢坂くんがどのタイミングで、どの台詞を言って、そう言われたことで、自分はこう感じたと記憶しておいて、1人で録っていく。難しさはすごくありました。

――結果、胸が震えるシーンになっていました。

洲崎 スクリーンだから繊細な息の音とかもよく聞こえるはずなので、感じ取っていただけるものがあるかと思います。

――予告編にもある、つむぎが「私、この世に生まれてこれて……」と言うクライマックスのシーンも印象的でした。

洲崎 その台詞は雑念を一切入れず、逆に他のことを考える余裕もなく、心からそれだけを思って言ってました。どう言おうかと考えてもムダ。練習しても意味がないというか、長道とのやり取りで出たトーンでないと、成立しないと思って。だから、家では感情を込めず、ただ噛まないように素読みだけして行きました。結局、演出で長道と違うアプローチにするために、あまり声を張らないように指示されて、穏やかにやさしく言ったテイクが採用されました。自分ではすごく気に入っているシーンです。

見た目を超えて愛おしいキャラを演じられて良かった

――TVシリーズからは5年が経っていましたが、自分の中からつむぎを呼び起こすことはすぐできました?

洲崎 しっくりこないようなことは全然なかったです。念のため、TVシリーズの第1期、2期を観返してから、収録に臨みました。気持ちは昔と変わらなくても、私たち中の人が年齢を重ねて、声のトーンがちょっと変わったところはあるかもしれません。でも、10年後という設定のおかげで、違和感ないと思います。

――そうですね。

洲崎 台本を読んでいると、「ここはつむぎはこんなふうに言うだろうな」というのが、自分の声で脳内再生されるんです。何か不思議な感覚でした。たぶん、TVシリーズをやっていた当時、すっごく練習したので、どんなニュアンスを付けて言っていたとか、全部記憶にめちゃくちゃあるんです。ゲームの収録でもアニメを辿った台詞がいっぱいありましたが、当時の映像を観なくても「ここはこう言っていたな」と、自分の中からすぐ取り出せました。本当にシャカリキでやっていたんだなと、ちょっと恥ずかしくもあります(笑)。

――洲崎さんの声優人生における青春期の1作のような?

洲崎 そうですね。今だとさすがに、ノドを潰すまでチャレンジして「1ヵ月お休みします」というわけにはいかないのが、当時は新人だから許されたところがあって。キャストさんやスタッフさんとのコミュニケーションの取り方、みんなで一丸となって作品を作る楽しさ……。本当にいろいろなことを教わって、役者として成長させていただきました。思い出がギュッと詰まった作品です。

――つむぎというキャラクターから学んだこともありました?

洲崎 つむぎは融合個体という複雑な生い立ちで、紅天蛾とは、ある意味お母さんと戦うようなところもあって、すごく辛かったと思います。それでも、長道も星白と戦うようなもので辛いだろうと、自分のことより思いやっていて。長道を元気づけようと星白の姿に変身したら、結局怒られてウエーン……みたいなシーンはかわいかったです(笑)。思いやりがあって、種族や見た目を超えて人を愛せたり、愛してもらえるつむぎは本当に素敵。あんなふうになれたら最高ですね。そんな愛おしいキャラを演じられて、良かったなと感じています。

Profile

洲崎綾(すざき・あや)

12月25日生まれ、石川県出身。

代表作は『たまこまーけっと』の北白川たまこ役、『シドニアの騎士』の星白閑役、白羽衣つむぎ役、『アイドルマスター シンデレラガールズ』の新田美波役、『暗殺教室』の茅野カエデ役など。『バック・アロウ』(TOKYO MXほか)にアタリー・アリエル役で出演中。インターネットラジオ『洲崎西』(文化放送 超!A&G+)などでパーソナリティ。

『シドニアの騎士 あいつむぐほし』

6月4日より新宿バルト9ほか全国ロードショー

公式HP

(C)弐瓶勉・講談社/東亜重工重力祭運営局
(C)弐瓶勉・講談社/東亜重工重力祭運営局

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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