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古代ローマの拳闘バトル『セスタス』がアニメ化。原作・技来静也と監修・亀海喜寛が語る「マンガと格闘技」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
アニメ化される『セスタス』 (C) 技来静也, 白泉社/セスタス製作委員会

古代ローマを舞台に、少年奴隷・セスタスが拳闘士として戦いながら成長していく人気マンガ『拳闘暗黒伝/拳奴死闘伝セスタス』が、連載開始から23年を経てアニメ化される。格闘シーンのアドバイザーに、元OPBF東洋太平洋ウェルター級王者の亀海喜寛が起用された。原作者の技来静也と共に、マンガやアニメで描かれる格闘技について語ってもらった。

ズバ抜けたテクニカルなボクサーで好みでした

――技来先生は格闘技にはいつ頃から興味を持ったんですか?

技来 自分でやったことは全然ないんですが、具志堅用高さんの試合を観てハマった世代です。格闘技の中でボクシングが一番好きで、その後だと、渡辺二郎さんや辰吉丈一郎さんの試合はずっと観てました。

――亀海さんの現役時代には、どんな印象がありました?

技来 亀海さんが戦っていたのはスーパーライト級からスーパーウェルター級で、世界的に成人男性の平均的な体格の階級ですから、競技人口が多くて競争率がハンパでないんです。軽量級だと「世界戦何戦目でベルト獲得」とか話題になりますけど、そういうのが夢物語な中間階級で活躍された選手だったので、すごいなと思っていました。

――ファイトスタイルに関しては?

技来 ズバ抜けたテクニカルなタイプの選手で、私の好みでした。

――亀海さんは逆に、ボクシングや格闘技のマンガはよく読んでいたんですか?

亀海 マンガ自体が好きで、中学生くらいから『はじめの一歩』とか読んでいました。デンプシーロールをマネしてましたね(笑)。『セスタス』を読んだのは大学生の頃です。20年近く前ですけど、ずっとファンで、自分がボクシングで台頭してからも読み続けていました。それで技来先生を紹介していただいたら、先生も僕のことを知ってくださっていたので、一度対談をして。とうとうアニメの格闘シーンの監修まで、やらせていただくことになりました。

(左より)亀海喜寛と技来静也(撮影/S.K.)
(左より)亀海喜寛と技来静也(撮影/S.K.)

技術の理解度や心理描写が他のマンガの比でなくて

――『セスタス』にはボクサーとして、共感どころがあったんですか?

亀海 古代ローマが舞台ですけど、完成度が他のボクシングマンガの比ではないです。最初は雑誌の中で読んでいて、なかなかクオリティに気づかなかったのが、読み進めていくうちに、ただごとじゃないなと(笑)。

――どういうところで、そう感じました?

亀海 まず技術の理解度の深さが違います。あと、心理描写も非常に巧み。セスタスが不安と戦っているのは共感できますし、指導者の葛藤に至るまで、読んでいて素晴らしいと思いました。

――指導者とは、セスタスの師匠のザファルのことですね。

亀海 ザファルはもともと自分が拳闘士で、引退してからの気持ちの変化も描かれていたので、入りやすかったです。

――ザファルには名言が多いですね。ルスカに負けたセスタスに「何も失ってはいない。経験を得たのだ」とか。

亀海 彼の人生経験から来る言葉は重みを感じます。指導している子たちが拳奴(拳闘奴隷)から抜け出したとき、五体満足でいられるための厳しい言葉とか、ひと言ひと言はパッと出てきませんけど、少しずつ自分の中に積み重なっています。「灼熱の季節は過ぎても晩秋に咲く花もあるんだよ」とか、人生を季節の移り変わりに置き換えていたり、すごく響くものがあります。

――それは技来先生の人生経験から出た言葉ですか?

技来 まあ、そうですね。

――拳闘士の技術や心理描写などは、かなり取材して描かれているのですか?

技来 取材というのは特にしたことがないです。想像の世界です。

亀海 それでこういうことがわかるというのは、非常に不思議で驚きです。

技来 テレビとかでボクシング番組やドキュメンタリーは、なるべく観るようにしてますけどね。

セスタスの師匠のザファル (C)技来静也, 白泉社/セスタス製作委員会
セスタスの師匠のザファル (C)技来静也, 白泉社/セスタス製作委員会

特訓に対する感覚が絵と文で言語化されてました

――『拳奴死闘伝』では、セスタスが“最高のタイミングで完璧に脳を震動させたときの手応え”を感じる場面がありました。亀海さんにも覚えがある感覚ですか?

亀海 ツルハシで特訓した後ですね。相手が糸の切れた人形のように垂直落下で倒れるという。あれは逆に、僕が勉強させてもらった感じです。感覚を言語化していただいたというか。かなり昔からツルハシとか、近代でも斧をふるった薪割りをボクサーがやることはあって。そこで使うのは背中の筋肉で、ボクサーのパンチ力の源と言われますけど、実際のパンチで主に使うのは背中の筋肉以外の部分だから、何の意味があるのかと思っていたんです。それが、腕や全身の筋肉の締め方や打ち込むタイミングは、ツルハシを地面にガチッと力を固めて振り下ろす感覚なんだと、マンガの中で絵と文章で書かれていて、すごい発見でした。この感覚を言語化できた人は、今までいなかったのではないでしょうか。

――技来先生はそのツルハシ特訓も、想像で描いたんですか?

技来 多少勉強したところはありますけど、「こういうことなんだろうな」と思って描きました。ハズしてなかったみたいで、今ホッとしています(笑)。

(C)技来静也, 白泉社/セスタス製作委員会
(C)技来静也, 白泉社/セスタス製作委員会

スピード感やパンチの重さをどう表現するか

――セスタスやルスカにモデルはいるんですか?

技来 そういうのはいないですね。

――亀海さんから見て、セスタスっぽいと思うボクサーはいますか?

亀海 セスタスそのものという人は思い浮かびませんけど、「この選手にこの選手をプラスしたら、こういうスタイルになるかな」ということなら、元世界チャンピオンの高山(勝成)くんがいるじゃないですか。彼とホルヘ・リナレスを混ぜたら、セスタスに近くなるイメージはあります。

技来 ああ、なるほど。

亀海 ちょこちょこ動いて機動力で戦って頭も使う高山くんに、リナレスみたいなスピードやきれいさがあると、近いかなって。

技来 本当にいろいろなタイプのボクサーがいますからね。僕の中でいろいろな人のイメージから、影響を受けているんでしょうね。

――セスタスの“神速の拳闘士”ぶりを描くのに、試行錯誤はありましたか?

技来 やっぱりマンガは止めの羅列で表現するしかないので、今もずーっと悩んでいます。スピード感やパンチの重さをどう表現するか。そこは言葉では、ちょっと伝えにくいところですけど。

――亀海さんはセスタスがルスカとか総合系の闘士と戦うのを見て、「自分だったら」と考えたりはしませんか?

亀海 多少は想像しますけど、ボクサーと総合格闘家が戦うことは、今の時代はほぼないので。ボクサーはボクシングのトレーニングを積んでリングに上がって、ボクサーと戦うもの。他の格闘家と戦ったら……というのは、ひと昔前は結構ありましたけど、今はあまり考えません。でも、マンガで見るのは面白いですね。

(C)技来静也/白泉社
(C)技来静也/白泉社

大げさな動きはリアルでないので

――『セスタス』のアニメ化にあたり、亀海さんが格闘シーンアドバイザーとなりましたが、モーションキャプチャーの撮影の監修で、どんなことに気を配りましたか?

亀海 ここまでのマンガですから、高度な技術面も描かれていて、それを表現することにはものすごく気をつかいました。原作のセスタスの拳闘シーンでは多種多様な技術が表現されていて、ボクシング的なIQも高くないとできないわけですから。それを人にやってもらうのは、すごく大変でした。

――セスタスの“ひと呼吸で4連打”みたいなスピード感も重視して?

亀海 そうですね。あとは、体の動きとか。自分の頭の中でイメージしたことを人に伝えるのは、そもそも不可能ですし、先生がイメージしていることと僕のイメージする動きも同じわけではないですから。さらに、それを先生がいらっしゃらないところで、限られた時間の中で演者の皆さんに伝えていくのは、やっぱり難しい部分はありましたね。

――そんな中で、どんなディレクションをしたんですか?

亀海 できるだけクサい動きはやめたほうがいい、と伝えました。構えをワッとやりすぎたりしない、とか。

技来 モーションアクターの方はボクサーじゃなくて、スタントマンなんですよ。

亀海 戦隊モノや時代劇をやってらっしゃる方だから、ボクシングの構えでなくて、少し大げさに見えてしまっていたんです。そうすると、リアルなボクシングではなくなってしまうので。

――リアリティを追求したんですね。

亀海 ただ、そこも難しいところですよね。アニメなので派手な部分も必要になりますし。

技来 そうですね。

モーションキャプチャーを体格に合わせられたら

――『セスタス』の中で、特にアニメで観てみたいシーンはありますか?

技来 やっぱり格闘シーンは楽しみにしています。スピード感をどう表現してくれているか、その辺に一番興味があって。なにせマンガは動きませんから。

亀海 自分がモーションキャプチャーをやってみたいです。ちょっとやらせてもらったんですけど、面白いですね。自分でセスタスをイメージして動いても、やっぱり違うと感じました。キャラクターの体格は決まっていて、僕だと肩幅が広かったりするので、少しズレるんです。セスタスと同じように構えても、モーションキャプチャーだと肩幅の分の修正が効かなくて、セスタスの脇が開いたりしてました。

技来 ああ、なるほど。

亀海 なので、次に撮るなら僕が脇を締めて、修正してやったら面白そうだなと感じました。非常に良い経験をさせていただきました。

――原作の『セスタス』はスタートから23年を経て今も続いていますが、技来先生の中では今後のストーリーのアイデアはまだまだあるんですか?

技来 とりあえず今やってるトーナメントは、死んでも描き終えなきゃと思っています。近場のゴール以外のことは、とりあえず考えないようにしていて。今は先々のことを考えると、頭が痛くなってくるので(笑)。

――漫画家さんによっては、「最終回は決まっている」と言う方もいますが。

技来 僕もないわけではないです。でも、決まってはいません。

TVアニメ『セスタス -The Roman Fighter-』

4月14日よりフジテレビ「+Ultra」(水曜24:55~)ほかにて放送。FODにて水曜24:55~最新話を独占配信

原作:技来静也『拳闘暗黒伝/拳奴死闘伝セスタス』(白泉社『ヤングアニマルZERO』連載)

公式HP

Profile

技来静也(わざらい・しずや)

漫画家。三浦健太郎のアシスタントを経て、1995年に『ブラス・ナックル』でデビュー。1997年より『拳闘暗黒伝セスタス』を『ヤングアニマル』にて連載。2010年より第2部として『拳奴死闘伝セスタス』を連載中。

亀海喜寛(かめがい・よしひろ)

元プロボクサー、ボクシング解説者。1982年11月12日生まれ、北海道出身。2005年にプロデビュー。第33代日本スーパーライト級王者、第38代OPBF東洋太平洋ウェルター級王者。

撮影/S.K.
撮影/S.K.

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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