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“国民的美少女”から3年。井本彩花が『さくらの親子丼』の非行少女役で「殻を破って感情を出してます」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/松下茜 スタイリング/津野真吾(impiger)

米倉涼子、上戸彩、武井咲らを輩出してきた『全日本国民的美少女コンテスト』で3年前にグランプリを受賞した井本彩花。現在、ドラマ『さくらの親子丼(第3シリーズ)』(東海テレビ・フジテレビ)に出演している。本人のイメージと真逆の、家族の虐待を受けて非行に走った少女役で、女優として新たな扉を開いている。

辛い過去を忘れられない役で心が痛くなって

――『オスカルイーツ』で1.4キロのオムライスを18分で楽々完食して、ビックリしました。

井本  自分でもビックリしました(笑)。ペロリと食べちゃいましたね。

――大食いの自覚はなかったんですか?

井本  普段は普通の量を食べてますから。友だちと食べ放題に行くと「めっちゃ食べるね」と言われて、「人より食べるほうなのかな」くらいの意識しかなかったです。

――大きく口を開けたきれいな食べっぷりも含め、ロシアン佐藤さんにフードファイターとしての素質を絶賛されていました。

井本  でも、本業は女優さんを目指しているので、フードファイターの道はないですね(笑)。『オスカルイーツ』みたいに何か企画があれば……って感じです。

――その女優業では『さくらの親子丼』に出演中。家族に虐待を受けて非行に走って少年院帰りの門倉真由子役ですが、オーディションで決まったそうですね。

井本  最初は1人芝居の動画を送る審査で、子どもシェルター(一時的な避難施設)に入居している他の子の役も全部やりました。その中で真由子は泣くシーンが課題だったんですけど、涙が出なくて、カメラを回してから少し時間がかかってしまって。あまり納得がいかない演技だったので、真由子役に決まったときは不安のほうが大きかったです。

――自分ではどの役が合いそうだと?

井本  タロット占いをする朝子がおとなしい役で、オーディションでは一番ナチュラルにできました。

――確かに井本さんは優等生のイメージで、役柄とのギャップはあるかもしれませんね。

井本  私は本当に幸せな環境で育って、真由子とは真逆の人生を歩んできました。真由子には辛い過去があって、忘れようとしても忘れられない記憶になっているのを考えると、心が痛くなります。

撮影/松下茜 衣装協力/ANDYOU DRESSING ROOM、OSEWAYA、BRAND SELECT
撮影/松下茜 衣装協力/ANDYOU DRESSING ROOM、OSEWAYA、BRAND SELECT

初めてのケンカのシーンで全身が筋肉痛に

――真由子のキャラクターはどう捉えました?

井本  根は良い子なんです。中学までは普通に部活でバスケをやって、勉強もしていて。でも、怒ってカッとなると自分をコントロールできなくなる子だと思います。

――暴れるシーンも出てくるんですか?

井本  あります。それまでは普通に過ごしていたんですけど、あるきっかけで心が荒れてしまって。食事中にケンカを始めて、私には初めてのアクションが想像以上で「こんなにやるの?」と思いました。次の日、全身が筋肉痛になって、アザもできていたくらいだったので(笑)。

『さくらの親子丼』より
『さくらの親子丼』より

――相当な暴れっぷりなんですね。最初は監督に「もっと強く」と言われたり?

井本  逆に初めから激しすぎて、「もうちょっと抑えて」と言われました(笑)。あんなに人に当たったり、モノを投げたりしたことはなかったので、ストレス発散になって楽しかったです(笑)。

――1話で出会った大樹(細田佳央太)とは胸キュンなシーンも?

井本  真由子がひと目惚れした感じで、どうしたら会えるか、どう話そうか考えたり、4話まではいい感じで進んでいきます。でも、彼のひと言で落ち込んで、過去のことがフィードバックして「自分は恋をしたらいけない人間なんだ」と心が沈んでしまって。本当に辛いことが多い役です。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

自分を責めて落ち込むところは共感しました

――自分と真逆な人生という中で、心情的にはわかるところもありました?

井本  重なるところがありました。私も自分を追い込んでしまって、精神的に辛い時期があったので。ずっとクラシックバレエをやっていて、コンクールに出て賞を獲れないと「何が足りないんだろう?」とすごく悔しくなったり。

――劇中では、オーディションで苦労した泣くシーンもあるんですよね?

井本  たくさんあります。(シェルターの食事スタッフの)さくらさんと2人のシーンで、親子丼を食べながら泣くところで、自分が考えてきたように涙を流せなかったんですね。周りのスタッフさんには「泣けていたよ」と言われましたけど、私的にはうまくできなくて、カットがかかった瞬間、その場で悔しくて号泣しました。皆さんに心配されるくらい泣いて、恥ずかしかったです。

――自分を不甲斐なく感じたわけですか?

井本  「今はこんなに涙が出るのに、なぜ本番では……」と自分を責めちゃって。でも、クランクインした頃に比べたら、泣くことに捉われなくなりました。(さくら役の)真矢(ミキ)さんにも「泣くことに執着しすぎると気持ちが出ないから。役の感情になれば大丈夫」と言っていただいたので、涙よりお芝居を重視しています。

――普段から泣かないほうですか?

井本  あまり泣かないタイプかも。でも、自粛期間に韓国ドラマの『トッケビ』を観て号泣しました。それから泣ける映画をいろいろ観るようにしています。最近だと、母に「これは良いから」と言われた長澤まさみさんの『世界の中心で、愛をさけぶ』を観て、すごく泣きました。ああいうふうに演技で感動を与えられるのは、本当にすごいことだと思います。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

前日から役に入って寝つけなかったりもします

――怒ることも普段はありません?

井本  自分の中でウッとなっても、抑えてしまいます。私は喜怒哀楽があまり表に出ないタイプで、演技では心の中で思っていても表情に出さないと伝わらないから、難しいです。怒るシーンなら、自分のイメージ以上に感情を熱くしないと、気持ちを出せないと思います。思い切って自分の殻を破らないと。

――それだけに、真由子を演じていると、精神的なエネルギーもかなり使うのでは?

井本  すごく使います。真由子は1人のシーンが結構多くて、「この先、どう生きていけばいいんだろう?」とか心の中でずっと悩んでいるので。でも、シェルターにやってきて、さくらさんや他の子と出会って、「前向きに生きていこう」という意思も見えるので、そんな姿も届けられたらと思います。

――井本さんはデビューした頃から「緊張はしない」と言ってました。

井本  よく「落ち着いてる」と言っていただきます。でも、最近になって、緊張やプレッシャーを感じるようになってきました。

――いろいろなことがわかってきただけに?

井本  そうですね。重要なシーンを撮る前日とか、寝つけないこともあります。私はオン・オフのスイッチの切り替えがパッとできなくて、前の日の夜から、しっかり役に入り込んでおきたいんです。前々日くらいから気持ちの準備をしておいて、好きな曲を聴いたりしながらリラックスして、本番に挑むようにしています。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

大河ドラマの役を調べたら戦国一の美女でした

――一方、大河ドラマ『麒麟がくる』(NHK)にも、織田信長の妹のお市役で、8日放送の第31回に出演します。時代劇や歴史には興味ありました?

『麒麟がくる』より
『麒麟がくる』より
『麒麟がくる』より (c)NHK
『麒麟がくる』より (c)NHK

井本  歴史は好きです。特に安土桃山時代は好きで、お市も知ってました。織田信長の妹で、浅井長政の妻。改めていろいろ調べたら、戦国一の美女と言われていて、芯があって強い女性だったこともわかりました。

――戦国一の美女を演じるのは、国民的美少女としてはもってこいだと(笑)?

井本  やめてくださ~い(笑)。美少女コンテストのグランプリの重みはすごく感じてますけど、戦国一の美女とは繋がらないので、お市として演じました。

――時代劇ならではのこともありました?

井本  まずNHKさんのスタジオセットで撮るのが初めてで、入った瞬間、「空気が違う」と感じました。カメラの数に圧倒されましたね。いろいろな角度から撮られるんです。最初はシーンを一連でやって全体から撮って、浅井長政を撮って、お市を撮る感じでした。ドライリハーサルのときは監督さんに「気持ちが上がってない」と言っていただいて、撮られていくに連れて、どんどんボルテージが上がって、本番では出し切れたと思います。

――着物の着心地はいかがでした?

井本  重みは感じました。座って立つという単純な仕草でも、腰や脚に力を入れないとできなくて。座っているときから力を入れておいて、すぐ立ち上がれるように意識しました。

――お市は複雑な立場なんですよね。

井本  夫の浅井長政が兄の織田信長を討ちに行くので、感情は本当に複雑です。お市は台詞はそんなになくて、台本では「……」というのが多かったので、浅井長政の言葉を受け取ってどう感じたのか、表情で表現するのが難しかったです。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

国民的美少女の肩書きは背負っていく覚悟です

――先日、17歳の誕生日を迎えました。

井本  セブンティーンです(笑)。早いですね。

――青春してますか?

井本  学校も再開して友だちとも会えているので、高校生活もお仕事も充実しています。友だちと夜中にテレビ電話をしていると、すごく楽しいなと思います。

――仕事が忙しい中でも、そういう時間は取っていて。

井本  お休みの日はずっと寝ています。夜中に寝て、昼過ぎから夕方に起きて、12時間以上寝るのは当たり前(笑)。寝られるときには寝ておこうと。

――『全日本国民的美少女コンテスト』のグランプリからは3年が経ちました。

井本  あっという間でした。初めはこの世界のことを何も知らなかったから、緊張もプレッシャーも感じないまま、やっていけたと思うんです。3年経つといろいろなことが見えてきた分、プレッシャーを感じるようになりました。

――さっき出た国民的美少女としての重圧も、最近感じるようになったもの?

井本  グランプリをいただいたときは淡々としていたというか、たぶん自信もあったんです。でも、3年経って今はSNSの時代で、エゴサーチをしてしまって落ち込むときもありました。今はそういうのを見ないようにして、「自分は自分」と思えるようになりました。

――国民的美少女の看板を背負っていく覚悟もできました?

井本  それがあって今の自分があるので、その肩書きを忘れず、ちゃんと背負ってやっていけたらと思います。見えないところでも努力して、どんどん自分を磨いていきます。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

Profile

井本彩花(いもと・あやか)

2003年10月23日生まれ、京都府出身。

2017年に『第15回全日本国民的美少女コンテスト』でグランプリ。同年、ドラマ『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』で女優デビュー。主な出演作はドラマ『あなたには渡さない』、『ラッパーに噛まれたらラッパーになるドラマ』、『女子高生の無駄づかい』、『ラーメン大好き小泉さん 二代目!』など。『さくらの親子丼(第3シリーズ)』(東海テレビ・フジテレビ系)に出演中。大河ドラマ『麒麟がくる』(NHK)の11月8日放送回に出演。『オスカルイーツ』(テレビ朝日)に出演中。

オトナの土ドラ『さくらの親子丼』

公式HP

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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