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JT「想うた」CMで妹役の古川琴音。インパクト強い存在感で若手の個性派女優として浮上

斉藤貴志芸能ライター/編集者
ひと目で忘れない印象を残す古川琴音 (c)河野英喜/HUSTLE PRESS

「お姉ちゃん、待ってや」との声で始まるJTの「想うた」CM。共に美容師になった姉妹が描かれ、個性的な妹を演じているのが古川琴音だ。独特な顔立ちと佇まいが目を引き、一度見たら忘れない印象を残す。再放送されたドラマ『凪のお暇』や配信が始まった『いとしのニーナ』など、デビュー2年で数々の作品に出演。メインキャストを務めた話題作の公開も控え、若手の個性派女優として注目が高まりそうだ。

コロコロ変わる表情で奔放な役にハマる

 JTの「想うた」シリーズCMの第5弾として放送中の「姉妹を想う篇」。テレビでは主に30秒バージョンが流れているが、WEB限定の270秒のスペシャルムービーでは、姉妹の関係性がより鮮明になっている。

 theaのオリジナルCM曲で直に“自分があって個性的な妹 人の意見にそっと合わせる私”と歌われている通り、石井杏奈が演じる姉は真面目そうなのに対し、古川が演じる妹はマイペースで髪型も奔放に変えていく。性格や価値観の違う2人が共に美容師になり、時にぶつかって反発しながら、最後はテレビCMでも流れる通り、妹が姉に「髪、切ってよ」と、子どもの頃にもらった「かっとけん 1かい」との付箋を差し出す。

 短い中でウルッと来るCMで、古川はパンキッシュな髪型も似合う自由な妹役にハマり、陰で悩んで唇を噛む場面も胸に響く。そして、コロコロ変わる表情のひとつひとつにインパクトがある。

個性的な役でオーディションに次々と合格

 古川は神奈川出身の23歳。中学、高校と演劇部で大学でも英語劇サークルに入っていた。「就活する前にこの世界にチャレンジしようと思って」と、好きだった満島ひかりが所属していた事務所のオーディションを受けて合格。2018年に沖縄市の観光PR動画「チムドンドンコザ」の主役に選ばれてデビューした。

 同年には早くも短編映画『春』に認知症の祖父と暮らす美大生役で主演して、「TAMA NEW WAVE コンペティション」のベスト女優賞などを受賞。また、King&Princeのメンバーがトリプル主演の『部活、好きじゃなきゃダメですか?』で連続ドラマ初レギュラー。野球部のマネージャーで、常識人だが急に自論をベラベラ話し出す変なところのある役どころだった。

 さらに、2019年には堤幸彦監督の映画『十二人の死にたい子どもたち』に出演。杉咲花、新田真剣佑、北村匠海、橋本環奈ら若手精鋭たちの中で、ピンクの髪のゴスロリ少女を演じて目を引いた。

 個性的な役でオーディションに受かることが多く、本人は「『声が良いね』と言ってもらえて、キャラクターに合うと感じてくださることが多いのは強みなのかな」と話していた。目力の強いルックスや雰囲気が印象に残ることも「そうみたいですね。一回見たら覚えてもらいやすいかもしれません」と自覚していた。

 1人3役で出演したHelsinki Lambda Club の「PIZZASHAKE」のMVには、「女の子がベティちゃんみたいで癖になる可愛さ」とのコメントも寄せられている。

『凪のお暇』でリアルなメンヘラぶりも

 配信が始まったFODオリジナルドラマ『いとしのニーナ』では、女子高生の拉致から始まるストーリーの中で、独特な話し方でバッサバッサと正論をかざす役。予告動画から「レイプ犯はチンコ切るに1票!」と顔を歪めて叫んでいる。

 一方、中学生から取り組んできた演技の実力も堅実だ。先日再放送された『凪のお暇』では4・5話に出演。中村倫也が演じたゴンに付きまとう美大生の役。

 誰にでもやさしい人たらしで女性を次々に勘違いさせるゴンに恋い焦がれ、情緒が病んだ様子でアパートに押し掛けて「何度も連絡したんだよ……」とすがりつく。ゴンにハマりつつあった凪(黒木華)を「今のは……ゾンビ? 私もあんな顔をしているの?」と怯えさせる、リアルなメンヘラ感を醸し出していた。

(C)河野英喜/HUSTLE PRESS
(C)河野英喜/HUSTLE PRESS

今泉力哉監督の『街の上で』は自然体で演技

 5月公開予定が延期された映画『街の上で』にも、メインキャストで出演している。『愛がなんだ』、『アイネクライネナハトムジーク』、『mellow』など良作を相次ぎ送り出す今泉力哉監督の新作で、下北沢の古本屋の店員役。監督が日常をナチュラルに切り取る作風だけに、古川もこれまでと違うアプローチで演技をしたという。

「今までは台詞にちゃんと気持ちを込めたいと思って、役の心情になろうとしていたんですけど、今回はそうではなくて。ただその場にいて台詞を言うことが大事だなと、撮影しながら思いました」

映画『街の上で』より(C)『街の上で』フィルムパートナーズ
映画『街の上で』より(C)『街の上で』フィルムパートナーズ

 亡くなった店長に関して、若葉竜也が演じる主人公とやり取りする中で涙が溢れ出したりと、引き込まれる見せ場もある。

「泣くお芝居は少しプレッシャーを感じます。でも、泣こうとして気持ちを作ると、違うエネルギーが働いてしまう気がするんです。自然に気持ちが動いて涙が出るように、周りの人との関係性や役の過去を詰めていきます」

 そうした自然体の役でも印象が残るのは、やはり持ち前の佇まいが大きいだろう。個性派女優と言えば、30代では安藤サクラや木南晴夏の名前が挙がり、最近では20代の伊藤沙莉が注目を浴びているが、古川のひと目でドンと印象を刻む存在感の強さは独特。今後、出演作が増えるにつれ、独自のポジションを築いていきそうだ。

 なお、古川はSNSをやってなくて、素の部分はあまり見せていない。インタビュー取材の印象では、JTのCMの妹より地に足が付いた雰囲気で、頭の回転が速いクレバーさも感じた。

 普段の自身は「感情を抑えるほうに走りがち」と言い、「演技のために心は常に動かしていたいと思っていて、映画をたくさん観たり、好きなことをちゃんと時間を取ってやるようにしています」と話していた。かわいい洋服を探しに行ったり、料理に関する本やエッセイを読んで、自分でスープやフルーツサラダを作っているとのこと。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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