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アイドルから声優に転身して1年半、来栖りんの現在地。「何段も上を見るより今の100%を常に出したい」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/岡田健

人気アイドルグループのセンターから、解散後に声優を目指すと宣言した来栖りん。それから1年半、アニメ主題歌でのソロデビュー、写真集の発売に『ラブライブ!』シリーズへの出演も決まるなど、順調な滑り出しを見せている。その裏にあった想いは? 2ndシングルでアニメ『転生したらスライムだった件 第3期』のエンディング主題歌『Believer』の発売を前に、語ってもらった。

新しい道に進む節目に制服で撮影を

――写真集『step by step』が好評です。台湾でのホームステイがテーマとのことですが、来栖さん自身のこだわりが反映された部分もありますか?

来栖 今までの活動の中で制服にゆかりがあって、着させていただくことが多かったんです。ソロデビューして新しい道に進んでいく節目で、アイコン的に制服をまとって撮影できました。今まで応援してくださってきたファンの方には「成長したな」「昔と違った感じに見える」という楽しみ方をしていただければ。このタイミングで私を知ってくださった方には、「こんな顔をするんだ」とひとつの入口になればいいなと思いました。

――撮影に備えて、シェイプアップをしたりは?

来栖 あまりなかったです。撮影したのが忙しくなり始めた時期で、体重は自然と落ちていきました。トレーニングみたいなことも、やると(筋肉が)付きやすいので、体に関しては何もしていません。

――出来栄えは満足のいくものになりました?

来栖 たくさんの表情を見てもらえるように、いろいろな雰囲気で撮っていただきました。普段から一緒にお仕事をしているチームで、リラックスして撮影できたので、親近感を持ってもらえる写真集になったと思います。

撮影/細居幸次郎
撮影/細居幸次郎

体調管理をしっかりするようになりました

――アイドルを卒業して声優アーティストになって、生活や心持ちはだいぶ変わりましたか?

来栖 今は家に帰ってからも、台本を読んで練習したりしています。皆さん、そうだと思いますけど。あと、体調管理をしっかりしなければと思うことが増えました。

――声優さんだとノドもより大事だと思いますが、具体的にはどんなことを?

来栖 保湿もしていますし、無理をしないことが一番かなと。ダンスでもリハーサルで頑張りすぎて、本番でダメだったことが多かったので、調節を考えるようになりました。

小さい頃からレンタルでアニメを観てました

――もともとアニメやゲームが好きで、グループ解散後に声優を目指すと発表したときは、ファンの方からはどんな反響がありました?

来栖 背中を押してくれる方がほとんどでした。声優業の中でもいろいろな活動があって、私のやりたいお仕事をさせていただくことを、応援してくれていると思います。

――アニメを好きになった原点は、小さい頃にお母さんとレンタル店に行って、DVDを借りていたことだったとか。

来栖 そうですね。サブスクとかはそんなにない時代で、深夜帯は子どもの頃は起きてなかったので、レンタルで観ることが多かったです。

――最初にハマったのが『ご注文はうさぎですか?』でしたっけ?

来栖 一番最初だと『らき☆すた』や『ハヤテのごとく!』とかですかね。まだ意味がちゃんとわかってない頃に、たぶんリアタイでなくレンタルで観始めました。声優さんも意識するようになったのが『ご注文はうさぎですか?』の辺りです。

――アイドルもので好きな作品も?

来栖 いろいろ観ていました。『ラブライブ!』シリーズはゲームからやっていて、すごく好きでした。

撮影/岡田健
撮影/岡田健

最初は歌より声の演技をしてみたくて

――声優を目指す中でも、歌も含めた声優アーティスト的な形を志向していたんですか?

来栖 最初は歌のことはあまり考えていませんでした。声の演技をしてみたくて、レッスンを受けていて。その中でご縁があって、ソロ歌手としてデビューさせていただきました。

――アニメやゲームでキャラクターを演じることを、第一に考えていたと。

来栖 今でも、お芝居をたくさんやりたい気持ちはすごくあります。ただ、歌を通して仕事や作品に繋がることも多いので、出会いに感謝しています。

――水瀬いのりさんが憧れだそうですね。

来栖 歌もよく聴いています。水瀬さんに限らず、好きな声優アーティストさんはたくさんいるんです。特に小倉唯さんは、お芝居はもちろん、ステージでのパフォーマンスがめちゃめちゃプロというか。ライブでカバーさせていただいて、あのクオリティに至るまで、どれだけ努力をされているのか、改めて感じました。1人で歌って踊ると、体力の消耗が全然違いますし、ずっと自分だけを見られているプレッシャーもあって、大変さを痛感しますから。

――小倉唯さんはステージで、動きが止まりませんよね。

来栖 息継ぎをどこでしているんだろう、みたいな曲もありますし。あそこまでしっかりダンスをしながら歌えるのは、本当に憧れます。

撮影/岡田健
撮影/岡田健

聖域に足を踏み入れる覚悟が要りました

――来栖さんの2ndシングル『Believer』は、放送中のアニメ『転生したらスライムだった件 第3期』のエンディング主題歌。もともと好きな作品だったそうで、感動は大きいですか?

来栖 『転スラ』をリアタイで観ていて、アニメーションの後ろで自分の歌が流れるのは、本当にありがたいです。でも、自分の好きなものにお仕事として飛び込んでいくのは、覚悟も要ります。聖域に足を踏み入れるというか、考えることもたくさんあって。この気持ちを忘れずにやっていきたいと、改めて思いました。

――アニソンを歌ううえで、求められることはあると思いますか?

来栖 アニソンだからこう歌う、みたいなことは言われません。自分の中では、作品をちゃんと理解して愛したうえで、責任を持って歌わせていただくことが大事だと思っています。

――レコーディングでの取り組みは、グループ時代とそれほど変わりませんか?

来栖 そうですね。強いて言えば、早い段階から自分が楽曲に関わることが増えました。デモの段階から、スタッフさんと相談させていただくことがあります。

うまく聞こえるより歌詞をまっすぐ届けたくて

――『Believer』に関しても、来栖さんの意向が入っているんですか?

来栖 今回はアニメに沿った楽曲で、プロデューサーのJunxix.さんが作ってくださいました。自分の曲というだけでなく、アニメで伝えたいことを歌で力添えする意味で、いろいろと作品にリンクしている部分があると思います。

――技術的な点で、意識したことはありました?

来栖 この曲については、「こういう声で歌おう」「語尾感をこうしよう」とかを練ったというより、歌詞をまっすぐ届けたい気持ちがありました。うまく聞こえるための作戦はあえてナシで、レコーディングしました。

――『転スラ』の世界観や主人公のリムルをイメージして?

来栖 他の楽曲だとキャッチーだったり、キャラソンチックなことも多くて、歌の中でお芝居をするようなことはよくあります。今回は「こんな子っぽく」とかはなく、まっすぐ歌いましたけど、アニメのファンの方に『転スラ』っぽいと感じてもらえるようには考えました。

――一方で、<この果てなき旅はきっと良い事ばかりじゃないけれど自分らしく>といったフレーズは、来栖さん自身の心情とも重なりませんか?

来栖 誰でも生きていて壁にぶつかるようなことは、きっとあるので。いろいろな方に寄り添ってくれる楽曲だと思います。

自分の音楽の好みは反映されています

――カップリングの『SUMMER JOY』と『ヒロイン』では、選曲から携わったんですか?

来栖 基本的に、シングルにどんな曲を入れるかは、スタッフさんたちの判断に委ねていますが、普段から歌わせていただく楽曲自体、私の好みはすごく反映されていると思います。

――普段聴いているのは、どんな音楽なんですか?

来栖 やっぱりアニメ系の楽曲や、声優さんが歌っている曲が多いですね。他はボカロとか。

――『SUMMER JOY』は去年の1stライブで披露されました。

来栖 たぶん最初は音源化の予定はなくて、ファンの方が希望してくださった感じです。夏っぽいアップチューンのタオル曲で、リリースイベントでも皆さんがタオルやペンライトを持参して、盛り上がってくださいます。

――レコーディングで改めて試行錯誤もありませんでした?

来栖 今回のカップリングの2曲は来栖節というか、いつもの私の表現方法とマッチしていて。すごく歌いやすかったです。

ランティス提供
ランティス提供

かわいく歌うことは根付いていて得意です

――その来栖節とは、どんな表現方法だと捉えていますか?

来栖 めちゃくちゃ簡単に言うと、こういう声が出しやすいんです。『Believer』は普段しゃべっている声のままで歌っていて、それは今まであまりなかったことでした。やっぱり長年やっていたアイドルっぽさは根付いていて、かわいく歌うことはわりと得意です(笑)。逆に、しっとりとまっすぐ想いを伝える歌は経験が少なかったので、『Believer』はこの2曲と比べると難しかったです。

――歌に台詞が入ることもありますが、『SUMMER JOY』の「君が好きだ。」では、いろいろなパターンを録ったんですか?

来栖 「こういう雰囲気がいいのかな」と思って何回かやってみたら、スタッフさんから「もうちょっと違うパターンも聴いてみたい」と要望があったりして、結構時間を掛けて録りました。最終的に使用されたのは、素で言ったような雰囲気だったので、かわいさより、そっちが欲しかったんだなと。アフレコでも自分の解釈と違うものを求められて、「こっちか」みたいなことはよくあって。人が思う正解を、試行錯誤しながら探していくのは面白いです。

歌の中の勝ち気な女の子を演じるイメージで

――『ヒロイン』では<教えて私の好きなところ>と問い掛ける形で、<白い肌 内緒のホクロ 見た目より力持ちなとこ>などと挙げていってますが、来栖さん自身と重なりますか?

来栖 この歌詞に関して、すり合わせみたいなことはしていません。Junxix.さんがどこまで私のことを知っているのかわかりませんけど(笑)、もしかしたら合わせたところはあるかもしれませんね。

――自分で思い当たるところはあったり?

来栖 この歌の子は勝ち気でカッコいいと思いますけど、自分は「私が、私が」と行く感じではないです。過去曲の『Get you×2』とかでも歌の中の女の子を演じるイメージで、『ヒロイン』も自分のことというより、「こういう子だろうな」と考えて録りました。

落ち込む時間があれば練習します

――歌はこれまでもやられてきたことですが、声優の演技は独学から始めたんですか?

来栖 アイドルを卒業してから、声優のレッスンを受け始めました。台本を読んで音声を録ったデータを先生にチェックしてもらっていたので、他の人と比べることがなかったんです。だから、イマイチ正解がわからない感じでした。現場に入って吸収することがすごく多いです。

――ハードルの高さを感じたことも?

来栖 感情を解放しないといけないとか、映像のお芝居と共通する部分はすごくあって、楽しかったです。基本的に好きなことなので、レッスンの段階から「無理だ!」みたいにはなりません。マイナスな気持ちは一切なかったです。

――プロの声優さんのお芝居は職人技で、新人さんでも養成所で何年か学んだうえで優秀な方が選ばれてきますよね。そんな中で、ほぼ1からスタートして追い付くのは、厳しいところもありませんか?

来栖 スタッフさんによく言っていただくのは、私が何段も上のところを見て「もうダメだ」と折れてしまったら、もったいないと。今の自分ができることをやって、その100%を常に出せる準備をしておく。無理はしないように心掛けていて。周りと比べて焦っても、すぐできるようにはなれないので。できなくて落ち込む時間があれば練習する。そんな感じですね。

撮影/細居幸次郎
撮影/細居幸次郎

オーディションは1回1回刺さるところがあれば

――オーディションもいろいろ受けているんですか?

来栖 最近もよく受けています。

――声優業界ではベテランの方もオーディションを受けて役が決まるそうですが、落ち続けたりすると、やっぱりヘコみはしますか?

来栖 オーディションはアイドル時代から9割は落ちているので。どんなに有名な声優さんでも落ちるのも見てきました。なので、落ちて毎回ヘコむことは、さすがにもうないです。慣れている、とも言いたくないですけど、とにかく1回1回、自分に刺さるところがあればと思って挑むようにしています。

――声優デビュー作となった『神無き世界のカミサマ活動』の現場では、どんなことを学びました?

来栖 マイク前の立ち回りで「ここで音を立てたらいけない」とかも、現場でしか知れないことでした。コメディ要素が強い作品だったので、ギャグのために強弱を付けるとか、他のジャンルにはないお芝居の技術でも、監督さんや声優さんから学ぶことがたくさんありました。

撮影/細居幸次郎
撮影/細居幸次郎

声の年齢感を上げないといけなくて

――自分がアフレコの現場で求められたことには、応えられてきましたか?

来栖 やっていてすごく思うのは、お芝居を固めすぎても良くないなと。よく聞くことですけど、私は心配性で、練習してガチガチに詰めてしまうクセがあって。それが監督の意向と違っていると、すぐ矯正できずに時間を取ってしまうことがありました。言葉にならない「うーっ」みたいな台詞でも、3秒くらいかと思っていたら、10秒やるように言われて「どうすれば?」と、その場で焦ってしまったり。

――そこで柔軟に対応できなければいけないと。

来栖 だから、最近の練習では詰めるより、「この台詞はこっちのパターンに振られるかも。あっちのパターンもなきにしもあらず」みたいに、いろいろ想定しています。自分だけの解釈にならないように、広く目を向けて。

――差し当たり、身に付けたいことはありますか?

来栖 いろいろなジャンルの作品で、いろいろなキャラクターを演じられるようになりたいです。自分の声が若干、これでも広がりましたけど、年齢が上の役に行けなくて。幅を持つためには、声の年齢感を上げられないといけない。この前、若い声優さんが年配の役を演じる現場にご一緒させていただいて、声を別人みたいに変えているのをすごいなと思いました。どうやったらできるようになるのか、勉強させてもらっています。

現場で学ぶことがメインになっています

――あれこれありつつ、スタートから1年半としては、声優アーティスト活動は充実してますよね。

来栖 そうですね。でも、もっといろいろな作品に出会って、自分の幅を広げていきたいです。今は練習より現場で学ぶことがメインになっていて。基礎は大事で固めていくのは前提として、現場で臨機応変に対応している声優さんから学べることは、すごく貴重です。いろいろな声優さんを見て、自分ができないことを全部吸収していこうと思っています。

――長期的な展望もありますか?

来栖 今はありがたいことに忙しくさせていただいている中で、1コ1コのお仕事をこなしながら、ゆくゆくはアニメで「来栖りんがまた出ているね」みたいなところに行ければと。主役に選ばれるような存在になりたいです。

撮影/細居幸次郎
撮影/細居幸次郎

外に出るために車の免許を取りたいです

――最初にグループ時代と変わったことをうかがいましたが、変わらないこともありますか?

来栖 お休みの日は家でゲームをしていることが多いです。息抜きにはゲームが一番。そこは変わりません(笑)。

――仕事関係以外では、新たに興味を持ったこともなく?

来栖 趣味がゲームと言っていると、信じてもらえないかもしれませんけど、外に出ることは結構好きです。ただ、行きたいところに行けないことが多くて。

――スケジュール的に忙しいから?

来栖 それもありますけど、電車があまり得意ではなくて。長時間乗っているだけで人混みとかに疲れてしまって、目的地に着いたら「もう帰りたい」となることが多いんです(笑)。だから、車の免許を取りたくて。まとまった休みができたら、教習所に通いたいですね。

――『マリオカート』とかは得意ですか?

来栖 唯一苦手なゲームのジャンルが、ホラーと運転系(笑)。方向感覚がないので、そこはちょっと心配です。

――『SUMMER JOY』にある<たった一度しかない今年の夏>は、どう過ごしますか?

来栖 釣りが好きなので、ぜひ家族と行きたいです。父がいろいろなところに私を連れ出してくれるんですけど、最近は私が仕事でゼーハーしているのを見かねて、誘ってくれなくて。余裕があるときに、私から「今日はお出掛けできるけど、どうかな」と言ってみようかと思っています。お仕事もプライベートも充実して、安定できたらいいですね。

KADOKAWA提供
KADOKAWA提供

Profile

来栖りん(くるす・りん)

2000年11月8日生まれ、東京都出身。2016年にアイドルグループのメンバーとしてデビュー。2018年に「週刊ヤングジャンプ」主催の「制コレ18」でグランプリ。2023年にテレビアニメ『神無き世界のカミサマ活動』で声優デビュー。オープニングテーマ『I wish』でソロアーティストデビュー。2024年に2nd写真集『step by step』を発売。『ラブライブ!蓮ノ空女学院スクールアイドルクラブ』に新メンバー役で加入。2ndシングル『Believer』を5月22日に発売。

『来栖りん写真集 step by step』

3300円(税込)  発行・発売/(株)KADOKAWA 撮影/細居幸次郎
3300円(税込) 発行・発売/(株)KADOKAWA 撮影/細居幸次郎

『Believer』

5月22日発売

初回限定盤
初回限定盤

初回限定盤(CD+Blu-ray+フォトブック) 3300円(税込)

通常盤A・B(CD) 1650円(税込)

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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