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松井玲奈が継ぐ? アイドルグループNo.2から名女優への系譜

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(写真:2018 TIFF/アフロ)

SKE48を5年前に卒業して女優として活躍する松井玲奈が、朝ドラ『エール』(NHK)など3本の連続ドラマに出演中だ。おしゃれ好きで清廉なお姉さんやエグい台詞を吐くファミレス店長など、振り幅の広い演技力が注目されている。人気アイドルほど女優への転身は難しい面もある中、長期戦でトップに立った篠原涼子や満島ひかりらアイドルグループ出身者の系譜に、松井玲奈も続けるだろうか。

アイドルドラマから見せていた演技力の片鱗

 松井玲奈は17歳でSKE48でデビューしたときから、将来的に女優を目指していた。その演技センスはアイドル時代から垣間見せている。48グループによるヤンキードラマ『マジすか学園』で少年院帰りのゲキカラという役を演じ、普段のおしとやかなイメージから豹変。ケタケタ笑いながら狂気じみた暴力を振るう姿が、ファンを唖然とさせた。指原莉乃の鼻の穴に鉛筆を突っ込みグサッと刺すシーンでは、迫ってくる彼女を指原が本気で怖がったという。

 SKE48卒業後もドラマや映画に相次ぎ出演し、『ニーチェ先生』での恋心が行き過ぎるコミカルな役、『フラジャイル』でのしたたかな製薬会社の社員、『笑う招き猫』での弾けた金髪の漫才師など、色合いの違う役柄でそれぞれ印象を残してきた。つかこうへい作の舞台『新・幕末純情伝』では、主役の“実は女だった”沖田総司を演じ、激しいラブシーンにも挑んでいる。

 現在出演中の『エール』では、ヒロインの関内音(二階堂ふみ)の姉の吟役。結婚を望みながらまだ叶わず、音に「行き遅れ」と言われて喧嘩したり、アジフライの取り合いをしながらも、歌手を目指す音を温かく見守る役どころだ。

 一方、『浦安鉄筋家族』(テレビ東京系)では、主人公の大沢木大鉄(佐藤二朗)らタクシー運転手が行きつけのファミレスの店長・麻岡ゆみ役。ウェイトレス姿はかわいいが、喫煙して長く居座る大鉄たちと冷たい目でやり合い、娘と彼氏のことで悩む大鉄に「今ごろ、あんたらのお姫様たちは誰かと腰振ってるから!」と言い放ったりも。

 『行列の女神~らーめん才遊記~』(テレビ東京系)にも4日放送の3話から登場。料理センスはズバ抜けた汐見ゆとり(黒島結菜)のライバルとなる、若手フードコンサルタントの難波倫子役。外づらは良いが実はガラが悪く、ゆとりにガンを飛ばして「さっさと消え失せろ言うとんねん、このボケ!」と急に関西弁になって毒づく。役ごとにまるで違う佇まいを醸し出す松井玲奈の真骨頂が、裏表のある役で発揮されていた。

『行列の女神~らーめん才遊記~』3話に登場した松井玲奈(C)テレビ東京
『行列の女神~らーめん才遊記~』3話に登場した松井玲奈(C)テレビ東京

グループのトップから30代で開花した篠原涼子、永作博美

 松井玲奈のように、アイドルグループから女優へ転身を図ることは昔から多い。菅野美穂や中谷美紀は「桜っ子クラブさくら組」、上戸彩は「Z-1」というグループで活動していたこともあるが、あまり知られてなかったので除くとして、最も活躍が華々しいのは東京パフォーマンスドール出身の篠原涼子だろう。

 ソロで小室哲哉プロデュースの「恋しさと せつなさと 心強さと」が200万枚越えの大ヒットとなった後、蜷川幸雄の舞台『ハムレット』などで演技を磨き、30歳で『光とともに…』でドラマ初主演。自閉症児の母を演じた。以来、『anego』や『アンフェア』シリーズ、13年ぶりの続編の放送が待たれる『ハケンの品格』などで、さっそうとした女性役の第一人者となった。

 篠原と同世代では元ribbonの永作博美がいる。グループ活動の休止後、童顔もあって『さんかくはぁと』で24歳で女子高生役を演じたりと、女優として地道にキャリアを重ねた。脇役から存在感を高め、『週末婚』で連続ドラマに初主演。30代で“かわいらしい大人”役がハマるポジションを築いた。39歳女性と19歳男性の恋愛を描いた映画『人のセックスを笑うな』なども話題になっている。

屈指の演技派・満島ひかりと松井玲奈の共通点

 遡れば70年代に人気を博したキャンディーズからは、9年前に他界した田中好子さんが女優として成功を収めている。「普通の女の子に戻りたい」とグループ解散後、芸能界に復帰。映画『黒い雨』で広島原爆の二次被害に遭う主人公を演じ、日本アカデミー賞などで多数の主演女優賞に輝く。ドラマではやさしいお母さん役が続き、『家なき子』で安達祐実、『神様もう少しだけ』で深田恭子、『ちゅらさん』で国仲涼子の母を演じた。

 篠原や永作はグループで人気トップだったが、田中さんはキャンディーズで当初センターを務めたものの、ブレイクした「年下の男の子」から伊藤蘭に代わっている。しかし、伊藤は復帰後も“元キャンディーズ”の肩書きが付いて回ったのに対し、田中さんは演技派女優のイメージが上回り、キャンディーズを知らない世代にも知られるように。

 松井玲奈もSKE48では松井珠理奈との“W松井”で二枚看板ながらエースは珠理奈で、似たポジションだったとも言える。20代で名女優となった満島ひかりも、アイドルグループFolder5時代はセンターのAKINAに次ぐNo.2だった。

 Folder5の活動休止後、まだアイドル色の強かった頃にも『ウルトラマンマックス』のアンドロイド隊員役で、無表情で涙を流したりと絶妙にロボット感を出していた。当初は大きい役に恵まれなかったが、園子温監督の映画『愛のむきだし』でヒロインの新興宗教に洗脳された女子高生役に抜擢され、レズシーンなどにも挑みながら鬼気迫る演技を見せると、一躍注目を浴びて引っ張りダコに。

 世界的に評価された『悪人』などの映画に出演し、『それでも、生きてゆく』で連続ドラマの初ヒロイン。主演した『Woman』では一部で「芝居がリアルすぎてドラマには重い」とも言われたが、それも演技力の高さの裏返しで、今や実力派女優として必ず名前が挙がる。

 本人のキャラクターを活かすセンタータイプと比べ、役ごとに開ける引き出しを大きく変えながら作品を締めるのは、グループのNo.2の役割とも通じるところで、松井玲奈も女優としてこのタイプだ。

長期戦でアイドルのイメージを覆せるか

 48グループ出身の女優では、川栄李奈が結婚・出産前にドラマ『とと姉ちゃん』や『3年A組-今から皆さんは、人質です-』、映画『亜人』など脇役中心ながら様々な作品で好演し、評価を受けていた。彼女はAKB48では人気トップでなかった分、アイドル色がそこまで強くなかったのが幸いした面もある。

 トップだった前田敦子や大島優子らは、演技以前にアイドルイメージの先入観を払拭するのが課題で、かつ結果はすぐ求められがちなのがハードルになっていた。そこは松井玲奈も過去の人気アイドルも同様のこと。あれだけ演技力のある満島でもグループ休止から『愛のむきだし』まで7年を数え、篠原涼子はドラマ初主演まで10年かけた。そこまで至らず、いつの間にか消えていく元アイドルも少なくない。

 成功したアイドルグループ出身女優に共通しているのは、脇役からひとつひとつの出演作でインパクトを残しながら次へ繋げ、アイドル時代とは違う長期戦でじっくりと演技者へ転換していったことだ。

 特に48グループは大ブームを巻き起こした国民的アイドルだっただけに、イメージを覆すには難しさも付きまとうが、今期の3本のドラマで松井玲奈を見ていると、トップ女優の座に就く未来も想像できる。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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