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ドラマ『M 愛すべき人がいて』が話題の中、歌手役を演じた歌手たちを振り返る

斉藤貴志芸能ライター/編集者
『M 愛すべき人がいて』より主演の安斉かれん(C)テレビ朝日/ABEMA

浜崎あゆみがモデルのドラマ『M 愛すべき人がいて』(テレビ朝日系)が話題を呼んでいる。原作の同名小説は浜崎への取材から小松成美が著した“事実に基づくフィクション”だが、ドラマのほうは妙なキャラクターが登場したり、ベタないじめがあったりと、往年の大映ドラマを彷彿させる。それはともかく、主人公のアユを演じるのは安斉かれん。昨年デジタルシングルでデビューしたシンガーで、ドラマは初出演にして主演。歌うシーンもある歌手の役を、演技は未経験でも本職の歌手が演じた例はこれまでもあり、うまくハマった名作も生まれている。そうしたドラマ、映画を振り返ってみたい。

最初から二刀流で世に出た中島美嘉と大原櫻子

 歌手が歌手役を演じた例には、大別してふたつのパターンがある。ひとつは歌手としても女優としてもほぼまっさらな新人が、最初から歌と演技の両面に挑む作品だ。『M 愛すべき人がいて』の安斉かれんは歌手デビューしていたが、知名度はまだ低く、このパターンに当てはまる。

 状況が似ていたのは、2001年にドラマ『傷だらけのラブソング』でヒロインを演じた中島美嘉。オーディションで選ばれて女優デビューした。不良少女だが歌の才能を音楽業界を追放された元プロデューサーに見い出され、歌手を目指していく役どころ。ドラマ主題歌で劇中のデビュー曲「STARS」が自身の実際の歌手デビュー曲になり、オリコン3位となった。

 中島はその後もヒット曲を連発する一方、女優としてもドラマ『私立探偵 濱マイク』、映画『偶然にも最悪な少年』などに出演。2005年には矢沢あいの人気漫画が原作の映画『NANA』に再び歌手役で主演し、主題歌「GLAMOROUS SKY」も初のオリコン1位の大ヒット。歌と演技の両面で圧倒的な存在感を発揮した。

 また、青木琴美の漫画『カノジョは嘘を愛しすぎてる』が2013年に映画化された際、バンドのヴォーカル&ギターというヒロイン・小枝理子役の一般公募オーディションで、約5000人から選ばれたのが大原櫻子だった。

 当時は17歳の高校生。オーディションでは歌唱力を音楽プロデューサーを務めた亀田誠治らに評価され、劇中バンドのMUSH&Co.名義でシングル「明日も」で歌手デビューも果たした。佐藤健が演じた主人公との恋も瑞々しく演じている。

 翌2014年には自身の名義でソロ歌手デビュー。ドラマ『水球ヤンキース』、映画『舞妓はレディ』など女優活動も相次ぎ、昨年は『びしょ濡れ探偵 水野羽衣』でドラマ初主演&主題歌。歌でも演技でも活躍を続けている。

福山雅治を相手に初演技で光った藤原さくら

 近年では、2016年にドラマ『ラヴソング』でヒロインを演じた藤原さくらが記憶に新しい。前年に歌手としてメジャーデビューしたばかりで、このドラマが女優デビュー。主演の福山雅治の相手役としてオーディションで選ばれた。

 吃音を持ち、福山が演じる元ミュージシャンの臨床心理士のカウンセリングを受け、美声と歌手の才能を見出される役で、この手の作品の王道ストーリー。

 吃音でも内面的には活発なところをうまく演じて、恋心を抱く福山のひと言でときめいたり落ち込んだりするのが、台詞がなくても豊かな表情に出ていた。彼の胸に顔をうずめて「私は、せ、先生が好きで好きで。もう大好きなんです……」と涙の告白をしたシーンは泣かせた。

 福山がプロデュースした主題歌「Soup」もオリコン4位のヒットに。その後はまた歌手活動にほぼ専念していたが、昨年は劇団☆新感線の舞台『偽義経冥界歌』に出演。ギターに似た楽器・六紘を奏でる歌うたいを演じた。

伝説を残したCHARA、1作の出演で魅了したYUI

 もうひとつのパターンは、すでにキャリアや人気のあるアーティストが、劇中での音楽の重要性と共に当人のキャラクターがハマって、女優に挑戦するケースだ。

 遡ると、1996年に公開された岩井俊二監督の映画『スワロウテイル』にはCHARAが出演している。1994年撮影の同じ岩井監督による『PiCNiC』が女優デビューだが、『スワロウテイル』では娼婦から歌手になる役で、劇中のバンド・YEN TOWN BAND名義で主題歌シングル「Swallowtail Butterfly~あいのうた~」とアルバム『MONTAGE』をリリース。共にオリコン1位を獲得している。架空のキャラクター名義で1位になったアルバムは史上初。無国籍風の世界観の中でCHARAのヴォーカルはピッタリだった。

 Mr.ChildrenやMY LITTLE LOVERを手掛けた小林武史がプロデューサー&キーボードとして参加していて、映画公開から7年を経た2003年に初ライブ。さらに2015年に復活して本格的に活動を再開した。

 2005年にシングル「feel my soul」でメジャーデビューしたYUI(現在はyui)は、2006年公開の映画『タイヨウのうた』で女優デビュー。太陽の光に当たれない難病を抱え、夜中にストリートライブをしている少女の役だった。

 歌うシーンはもちろん、家の窓から見ていた少年との恋も胸を震わせ、日本アカデミー賞の新人俳優賞を受賞。自ら作詞・作曲した主題歌「Good-bye days」は自身最高のヒットとなった。YUIはその後、女優活動は行っていないが、活動休止した2012年の『NHK紅白歌合戦』では「Good-bye days」を歌っている。

 「さくらんぼ」や「プラネタリウム」などのヒットを飛ばしていた大塚愛も、1作だけ映画に出演している。DVDドラマからの続編として2006年に公開された『東京フレンズ The Movie』。高知から上京し、バイトしていた居酒屋で歌声を聴いたギタリストにバンドに誘われ、デビューを目指す役。相手役の瑛太とのキスシーンもあった。

 印象的なドラマ主題歌を手掛けてきたmiwaは、2015年に映画『マエストロ!』で自身が女優デビュー。このときはフルート奏者を演じたが、2017年の映画『君と100回目の恋』では恋愛モノながらバンドでギターを弾いて歌う役で、ライブシーンでも魅せた。

歌手役から本格的な音楽活動に繋げた柴咲コウ

 歌手の役を本職に委ねるのは、歌のシーンで普通の女優では難しいプロのレベルを求めてのことなのは言うまでもない。ある意味、この逆パターンだったのが柴咲コウだ。2003年公開の映画『黄泉がえり』で、姿を消していて2年ぶりのライブを野外で行うRUIという歌姫を演じた。

 女優業と並行して歌手業にも精力的な柴咲だが、この時点では映画『バトル・ロワイアル』や『GO』、化粧品のCMなどで注目されつつ、CDはラジオの企画でシングルを1枚出しただけだった。そのシングルもヒットしたわけではない。

 『黄泉がえり』でRUIのライブは山場で、3曲も歌っていて、当初は本職の歌手中心にオーディションを行っていたが、歌えてもカリスマ性を持つRUIのイメージに合う人がなかなか見つからなかった。そんな中で「柴咲コウは歌もやっている」とスタッフが聞きつけ、オファーに至ったという。

 劇中でも歌われた主題歌「月のしずく」はRUI名義でシングルリリースされ、オリコン1位、セールス83万枚の大ヒットに。

 歌手役を普通に女優が務め、役名義で単発のCDを出すことはある(『覆面系ノイズ』の中条あやみらの劇中バンド「in NO hurry to shout;」など)。だが、柴咲はRUI役をきっかけに歌手活動にも力を入れ、自身が出演していないドラマ『世界の中心で、愛をさけぶ』の主題歌「かたち あるもの」など、多くのヒットも生んで異例の広がりとなった。

 『M 愛すべき人がいて』の安斉かれんは、2話まではデビュー前で、本格的に歌うシーンはまだない。だが、浜崎あゆみをなぞるなら、今後は歌が見せ場となっていくはず。現在は田中みな実や水野美紀の怪演が注目を集めているが、安斉が初挑戦の演技と本業の歌でどんな印象を残せるかが本来のカギで、期待したいところだ。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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