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『美食探偵 明智五郎』で注目。真面目な小芝風花がコメディ演技で光る理由

斉藤貴志芸能ライター/編集者
『美食探偵 明智五郎』出演中の小芝風花(C)河野英喜/HUSTLE PRESS

 中村倫也の演じる探偵が“食”の絡む事件に迫るドラマ『美食探偵 明智五郎』(日本テレビ系)。その探偵の行きつけの移動弁当店の店主役で小芝風花が出演している。勝手に助手扱いされて、事件に巻き込まれる役どころだ。

 探偵の明智五郎と事件の裏で糸を引く殺人鬼マリアの攻防が軸のサスペンスだが、明智と小芝演じる小林苺との掛け合いはコミカルで、1話から小芝のコメディエンヌぶりを称賛する声がネットに相次いだ。自らを「真面目すぎて面白くない人間」という小芝が、どう笑いを呼んでいるのか?

顔を崩すのに抵抗がないことに気づいて

「校則で制服のスカートを折ったらいけないことになっていても、みんな折っていて先生も気にしてないんです。だけど自分が折ると、すごい罪悪感が生まれて、結局戻してしまいます」

 小芝風花が高校生の頃、自らについて、こう語っていた。演技への取り組み方も真面目。台本は徹底的に読み込んで自分の中で深めるほか、朝ドラ『あさが来た』に出演していたときは、リンゴの皮を剥くちょっとしたシーンのために「剥くのに集中すると台詞が出なかったりするので」と、リンゴをたくさん買って剥く練習をしたそうだ。

(C)河野英喜/HUSTLE PRESS
(C)河野英喜/HUSTLE PRESS

 本人の清楚な佇まいもあり、役柄も真面目なキャラクターが多かった。『あさが来た』では波瑠が演じたヒロインの娘で、仕事に励む母親より良妻賢母タイプの伯母を慕う役。自身が19歳のときに、学校モノで生徒でなく先生役が続いたりも。

 転機になったのが2017年のドラマ『マッサージ探偵ジョー』。初のコメディで、主人公のマッサージ師を強引に事件に巻き込む役(『美食探偵 明智五郎』と同じポジションで逆の役割)。“天真爛漫で社交的”との設定に、弾けて振り切った顔芸を毎回見せる。当時「最初は恥ずかしさもあったのが、私は意外と顔を崩すのに抵抗がないことに気づきました(笑)」と話していた。

本職が見ても「何だこれ」と思われないように

 2019年の『トクサツガガガ』でも隠れ特撮オタクのヒロインを演じ、お目当てのカプセルトイが出るかで一喜一憂したり、脳内で妄想を繰り広げたりと、原作を体現する漫画チックな表情を連発していた。

 一方、昨年は『べしゃり暮らし』で漫才師、『パラレル東京』で大地震の緊急報道を行うアナウンサーと、プロフェッショナルなスキルが要る役も続いた。「プレッシャーと不安で、夜もすぐ目が覚めちゃって眠れませんでした」という。

「たとえば方言でも、私は大阪出身なのでエセ関西弁には敏感になっちゃうんです。だから、特殊な職業の役を演じるなら、プロの方が観たときに『何だよ、これ』となるのはすごくイヤなんです」

 『パラレル東京』ではNHKで新人アナウンサーと同様の研修を受け、イントネーションや声の響かせ方などを鍛えた結果、緊迫したシーンが続く中で「本物のアナウンサーみたい」といった評価を受けた。

振り回されてリアクションを取るのが好き

 そして『美食探偵 明智五郎』では、またコミカル路線の演技に挑んでいる。脚本が同じ田辺茂範氏の『トクサツガガガ』などでのコメディエンヌぶりを買われてキャステインングされた。小芝は「今回は眠れないことはまったくないです(笑)」と話していて、楽しみながら演じているようだ。

『美食探偵 明智五郎』より(日本テレビ提供)
『美食探偵 明智五郎』より(日本テレビ提供)

 1話から、崖で身投げを止めようとして自分が落ちそうになり、助けない明智に「この人最低だー!!」と泣きそうな顔で叫んだり、明智が一流デパート社長の御曹司と知り「エーッ!! 超お金持ち!?」と目をむき鼻の穴を広げて驚いたりと、クスッとさせた。明智との「小林一号」「いち、ご! ですっ」というお約束の掛け合いも楽しい。真面目な小芝にコメディのスイッチが入るのだろうか?

「根本的には今も変に真面目です。自分で『面白くない人間だな』と思うので、天真爛漫な人が羨ましい。私から飛び抜けた何かが出ることはない気がします。でも、振り回されて全力で反応して、リアクションを取るのはすごく好きです」

 面白くしようと意識しているわけではないそうだが、撮影していて気づくとカメラマンが笑っていたり、崖から落ちるところで「うまいね」と言われたり。崖から落ちるのがうまいって……とも思うが、オンエアで、走っていたら足首がグギッと曲がって転がり落ちるのを見ると、わかる気がした。

自分に対して遠慮なくコケるのも全力で

 『マッサージ探偵ジョー』でヘン顔をしたときも、友だちには「いつもの風花やん」と言われたそうで、「テンションが上がるとああいう感じになっちゃうみたいです(笑)」とも。そこは真面目とはいえ、関西人の血があるのかもしれない。

『美食探偵 明智五郎』より(日本テレビ提供)
『美食探偵 明智五郎』より(日本テレビ提供)

「でも、私はただ全力でコケたりするだけ。自分に対する遠慮がなくて、『美食探偵』でも激しいリアクションをすると、拍子でどこかにぶつけちゃうのか、よく傷やアザができています(笑)」。

 コミカルな演技が冴えるのも、結局は真面目さの裏返しのようだ。アナウンサー役で本職に見えるほどに至ったのと同様に、感情が表に出やすい小林苺役では躊躇のないリアクションを取っている。

「苺はテンションは私の倍くらいですけど、真面目な子でもあるので、似ているんだと思います。探偵事務所のセットで体をぶつけて青アザができても、結果的に面白く映っていたら嬉しいです」

 小芝風花はそう語っていた。演じる役に関わらないプロ意識を感じる。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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