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緊急事態宣言下に染みるアイドルプロデューサーとしての指原莉乃のやさしさ

斉藤貴志芸能ライター/編集者
指原莉乃プロデュースの=LOVE/≠ME「次に会えた時 何を話そうかな」MVより

 新型コロナウイルスの感染拡大により、アイドルのライブやイベントも軒並み中止になり、緊急自体宣言の発令後は活動自体がほぼ停止している。アイドルファンは握手会などで会えることが大きな喜びである分、落胆も大きい。

 そんな中、指原莉乃がプロデュースする=LOVE(イコールラブ)と姉妹グループの≠ME(ノットイコールミー)の2組がコラボした新曲「次に会えた時 何を話そうかな」のMVが配信され、多くのファンを感動させた。

=LOVEと≠MEがコラボした「次に会えた時 何を話そうかな」

 全24人のメンバーがスマホによりリモートレコーディング&撮影。自宅で歌う姿に思い出の光景やオフショット映像が混じり、指原が作詞した“今は1人ずっとキミを思う”“会えないときだって変わらず大好きでいるよ”といったファンとメンバーの心情そのままの歌が流れる。

 SNSには「涙止まりません。素晴らしい楽曲」「アイドルとして沢山のファンの方と接してきた莉乃ちゃんだから書けた愛ある楽曲」などと、感謝のコメントが相次ぐ。重苦しい日々が続く中、メンバーたちと指原が作品に込めた愛が琴線に響いた。バラエティで活躍中の指原だが、今回に限らず、アイドルプロデューサーとしてはやさしさに満ちている。

結成間もなかったHKT48の躍進の力に

 今さら述べるまでもないが、指原莉乃はもともとAKB48のメンバーとしてデビュー。後に選抜総選挙で3年連続1位(通算4回)に輝いているが、当初は選抜に1年以上入らない時期もあった。ヘタレキャラやブログの面白さから頭角を現し、2012年の総選挙で4位に躍進。だが、直後に男性スキャンダルが『週刊文春』に報じられ、結成間もないHKT48への移籍を命じられた。

 そこで指原は経験の乏しいメンバーたちの教育係の立場になり、精神的に牽引しつつも宮脇咲良(IZ*ONE専任活動中)らを押し立てる。また、テレビ番組ではメンバーの個性を引き出して、グループの人気をいち早く高める力になった。2013年からは劇場支配人も兼任。ある意味、アイドルプロデュースの原点だったかもしれない。

 今年1月にHKT48を卒業した朝長美桜は、指原について「お母さんみたいな存在」と話していた。膝を手術することになり「アイドルは辞めないと仕方ない」と考えていた頃、指原から「まだ頑張りたいと思っているなら戻ってきてほしい」と言われたり、「大丈夫?」と電話をもらうこともあったとか。そして、指原は「LINEの返信がウソみたいに早い」らしい。「どんな夜中に送っても、トーク画面を開いていたのかと思うくらい、すぐ返ってきて。あんなに忙しくて寝る暇もなさそうだったのに」とのことだった。(『指原莉乃×週刊プレイボーイ2019』インタビューより)

 また、NGT48の山口真帆の暴行事件の際、指原は毅然と山口側に立ち「(山口の言うことが)本当だったら未成年の子どもも預かっている会社(事務所)としておかしい」「解決したと会社が思ったらいけない。本人が納得するまで終わらせてはいけない」などと発言。

 山口と直接の繋がりはなかったようだが、テレビでコメントする前に本人のツイッターに「今回の事件についてお話することになりました」とダイレクトメッセージを送ったとのこと。山口は有料会員向けのモバイルメールで「指原さんは私のことを気づかってくれて、本当にありがたく、そして申し訳なく思っています」と綴っていた。

指原莉乃がプロデュースする=LOVE
指原莉乃がプロデュースする=LOVE

メンバー1人1人にスポットライト

 そんな指原が代々木アニメーション学院とのタッグで本格的にプロデュースに取り組んでいるのが=LOVEだ。2017年に結成された12人組。指原がオーディションでメンバーを選び、グループ名を決めて、楽曲のセレクトや作詞、MVなどヴィジュアルイメージ作りまで、全面的に自身の意向を打ち出している。

 まだ一般に広く知られた存在ではないが、アイドルブームが一段落してテレビ露出があまりない現状でも、結成2年で中野サンプラザを満杯に。昨年10月発売のシングル「ズルいよ ズルいね」はオリコン1位を獲得した。女性ファンが多いのが特徴で、ライブで客席のほぼ半分を占めるのは女性アイドルでは異例。業界での注目度は高まっている。

 昨年4月に指原がHKT48を卒業した際、『週刊プレイボーイ』増刊号の企画で、=LOVEメンバーのアンケートの取りまとめをやらせてもらったが、そこで浮かび上がったのは、1人1人をすごく気に掛ける指原プロデューサーの姿だった。

 朝長美桜も語っていたように、「LINEの返信がすぐ来る」との話は=LOVEメンバーからも出ていた。「ツイッターに写真を挙げたら、『もっと眉毛を太くしたほうがいい』と連絡が来て、『そんなことまで…』と感激しました」(瀧脇笙古)、「『髪を切って染めて』と言われて黒髪ロングから茶髪ボブにしたら、垢抜けて性格も明るくなりました」(大場花菜)といった声も。

 ライブでも「1人1人にスポットライトを当ててくれるセットリスト」(音嶋莉沙)と喜ばれているが、楽曲やMVにもその姿勢は見て取れる。=LOVEでもセンターはもちろん立てている。ただ、歌割りやフォーメーションもMVの構成的にも、1人1人に見せ場は与えられていて、センターと後列で他のグループほど差を感じさせない。

 センターを目指して競い合うのがアイドルグループのひとつの形ではあるが、「争いがないのがイコラブの良いところ」(野口衣織)であり、全員を光らせようとする指原のプロデューサー目線がのぞく。その平等主義はファンが支持する大きな要因にもなっている。

流出騒動で示したメンバーを守る姿勢

 昨年結成された姉妹グループの≠MEでは、あるメンバーの男性との2ショット写真が流出したことがあった。そのときの指原のコメントも曇りがなかった。

 「ファンの皆様を不安、不快な気持ちにさせてしまい、申し訳ございません」と謝りつつ、本人に交際していたわけではないことを確認し、「グループに迷惑をかけたと本人は反省してますが、私はそう感じていません。グループ加入前ということ、それ以上に今の努力を評価しているからです」と述べた。

 さらに「今後も何かあった時にメンバーからコメントを出す事はありません。全ての人に共感していただける事ではないとわかっています。ただ、これが私のプロデュースです」とキッパリ。メンバーを守る強い意志を感じさせた。

 ちなみに、プロデュースする2組は恋愛禁止としていない。このコメントでは「皆さんにそれが伝わってしまうのはプロフェッショナルではありません(誰が言っとんねんではありますが…)」と自虐ネタを入れつつ、「性別を問わず、たくさんの出会いと、時には別れを繰り返して、より素敵な大人になって欲しいです」と、あくまでメンバーを見守る姿勢だ。

指原莉乃がプロデュースする≠ME。=LOVEの姉妹グループ
指原莉乃がプロデュースする≠ME。=LOVEの姉妹グループ

ファンに寄り添って作られた感動のMV

 今回の「次に会えた時 何を話そうかな」は、=LOVEのツアーやイベントの中止に続き、4月29日に予定されていた7thシングル「CAMEO」の発売が延期になった中で、急きょ書き下ろされた。作曲、編曲、音源制作、MV編集もすべて、ディレクターや監督らが自宅で作業。「こんな状況になっても応援してくださる皆さんに、メンバーからの気持ちが届けばいいなと制作しました」との指原のコメントが添えられた。

 握手会もなく会えない中での「次に会えた時 何を話そうかな」。ミディアムバラードを自宅で歌い継ぐメンバーたちに、楽屋や移動中の素の姿が交錯する映像はジワッとくるが、中でも多くのファンを泣かせたのがオチサビ。デビューシングルから5枚目までセンターを務め、体調不良で活動休止中の高松瞳の歌声が、過去の握手会での満面の笑顔の映像と共に流れるのだ。そこにもプロデューサー指原の心遣いが感じられる。コロナ禍以前から高松に会えなかった彼女推しのファンに対するやさしさでもある。(*高松の「高」ははしごだか)

 トップアイドルから類いまれなトーク力でバラエティタレントとして活躍する指原だが、もともとはハロー!プロジェクトのオタクで、アイドルの気持ちもファンの気持ちもわかるのだろう。

 自身は48グループ時代、アイドルとして正統派ではなく、スキャンダルもあった中で、選抜総選挙で圧倒的な強さを見せていたのも、「全国の落ちこぼれの皆さん、私の1位をどうか自信に変えてください」(2015年のスピーチ)といった言葉が象徴するように、ファンを一番に考えているのが伝わっていたから。

 その姿勢は=LOVEや≠MEのプロデュースにも、メンバーを大事にすることと同時に貫かれてきた。緊急事態宣言が出され、ライブやイベントが中止になるのは仕方ない。でも、アイドルを文字通り生き甲斐にしているファンには何ともやるせない。そんな中で届けられた「次に会えた時 何を話そうかな」はファンたちを癒した。指原莉乃のやさしいアイドルプロデュースが緊急事態の中で染みる。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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