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『コウノドリ』傑作選で思わぬ注目。10代屈指の実力派・山口まゆの演技力

斉藤貴志芸能ライター/編集者
『コウノドリ』傑作選で話題の山口まゆ(C)河野英喜/HUSTLE PRESS

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響でテレビ各局の収録が見合わされ、春の新ドラマが軒並み放送延期になっている。綾野剛と星野源がW主演の『MIU404』の初回が予定されていた10日には、同じコンビが出演していた『コウノドリ』の傑作選として5話を再放送。14歳で妊娠した役を演じた山口まゆが思わぬ注目を集めた。

 すでに堕胎できない妊娠8ヵ月に入っていて、胎児のエコー画像を見ても「CGみたい」と他人ごとのようだった中学生が、徐々に母性に目覚めていく姿がリアル。出産シーンでは叫び声をあげながら苦悶して、産まれてきた赤ん坊を抱いて微笑んでいたが、養子に出すために手放さなければならずに号泣。その一連の演技に、ネットで「素晴らしい」「ボロ泣きしてしまった」といった称賛が相次いだ。

 本放送は5年前。当時実際に14歳の中学生だった山口まゆは、現在19歳の大学生になって活躍を続けている。彼女はどんな女優なのか?

“14歳の母”は「自分では納得してませんでした」

 山口のドラマデビュー作は、『コウノドリ』の前年に出演した『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』。吉瀬美智子が演じた不倫を重ねる女性の娘役だった。

 幼い頃からバレエに打ち込み、小学生時代に子役事務所に所属したが、芸能活動から一度離れた後、吉瀬や戸田恵梨香、有村架純らが所属する事務所にオーディションで合格。2年経たぬうちに、『アイムホーム』で木村拓哉が演じた主人公の娘を演じて、新垣結衣が主演した映画『くちびるに歌を』では葵わかならと共に合唱部員役を務めた。

 そして、2015年に『コウノドリ』に出演。当時も大きな反響を呼んでいる。陣痛や出産について、母親に話を聞いたり参考映像をたくさん観て、できる限りの下調べをして臨んだそうだ。

 ただ、最近の取材で、彼女自身はこのときの演技について「やり切ったつもりでしたけど、イメージ通りだったかというと、自分では納得できないところもあって……」と話していた。

 傑作選で改めて観ても「どこが?」という感じだが、反響の広がりに「自分を知ってもらえて嬉しかったんですけど、『次はまた新しいものを見せないといけない』とプレッシャーにもなりました」とのことだった。

役作りのために人と1ヵ月会わなかったことも

 その後もコンスタントにキャリアを重ねていて、辛い過去や心の闇を持った役が多い。「何でですかね(笑)? 私自身はそういう不幸な経験はほぼないので、役を理解するのに時間がかかることもあります」と言うが、毎回『コウノドリ』同様、胸を震わせる。

(C)河野英喜/HUSTLE PRESS
(C)河野英喜/HUSTLE PRESS

 たとえば2017年の『明日の約束』では、離婚して男と遊び歩く毒親の母に育てられた高校生を演じて、その母に逆上してつかみかかり重傷を負わせるシーンは、怒りと悲しみが暴発したようで観ていて居たたまれなくなるほどだった。当時の取材で、役作りにかなり念入りに取り組んだことを話していた。

「実際にそういう経験をした方たちのことをネットでいろいろ調べているうちに、自分の役と重ね合わせて、家で台詞を読んでいて号泣しちゃったり。あとは、感じたことや疑問に思ったことを“母親への恐怖心”とか“態度が変わる?”とか紙に書いて、自分の中でまとめて現場に入りました」。

 特に闇が深かった役が、2019年の『ストロベリーナイト・サーガ』の1話。母親の再婚相手に性的虐待を受け続けて精神を病み、自分の乳房を切り取って病院に担ぎ込まれて入院していたが、実は殺人ショーで人の首をナイフで切り続けていた。

「女の子でいたくない役だったので長かった髪を切って、1ヵ月くらい人と会わないようにしました。彼女が生きてきた時間を共有したくて。誰にも何も言えず苦しくなって、感情の波が激しくなりました。何も考えず無心でいたり、急に寂しくなってワーッとなったり。最終的に役に情が湧いて、撮影中も珍しく引きずりました」。

闇を抱えた役で胸を震わせつつ「幸せな役もやりたい(笑)」

 このときも痛々しさと狂気が交錯して背筋を凍りつかせた。徹底した役作りが成果を上げているようで、取材で役について聞くと、実にいろいろな考察を語ってくれる。一方、演技について、こう話していたこともあった。

「撮り終われば何も覚えてないくらいスッキリしますけど、やる前にはものすごく考えますし、普段もずっと役のことを考えていたりします。ただ、私はひとつのところしか見えなくなりがちなので、現場で監督やいろいろな人に意見をもらって、視野を広げるのも大事だと思うようになりました。そのうえで相手の台詞を聞いて、純粋に感じたことも出しています」。

(C)河野英喜/HUSTLE PRESS
(C)河野英喜/HUSTLE PRESS

 最近でも、『絶対零度~未然犯罪潜入捜査~(Season4)』の3話に出演。記憶障害を負ったバレリーナの役で、飛び降り自殺を図ろうとした。

 もちろん、その10代女優屈指の演技力は暗い役だけで生きるはずはなく、本人も「ぜひ幸せな役もやりたいです(笑)。私自身はそんなに暗くないし、不幸な役がイヤなわけでなく、いろいろな役を今までと違うやり方でトライしてみたいんです」と話している。

 『コウノドリ』の再放送で感動を呼んだが、撮影したのは5年前。まだ19歳ながら、演技にさらに深みを増している今、山口まゆの新作にも注目したい。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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