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『空の青さを知る人よ』でヒロインに抜擢の若山詩音 「高ぶった感情をそのまま出しました」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
アニメ映画『空の青さを知る人よ』でヒロインを演じた若山詩音(撮影/松下茜)

『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』に『心が叫びたがってるんだ。』と、大人も泣けるアニメ作品を送り出してきた長井龍雪監督の新作映画『空の青さを知る人よ』が公開される。吉沢亮、吉岡里帆、松平健ら声優陣の中でヒロインに抜擢された若山詩音は、長編アニメ映画の出演は初めてという21歳だ。思春期の少女の葛藤を澄んだ声で体現した彼女の、大役への取り組みと素顔に迫る。

作品で描かれた痛みに美しさを感じます

取材前に撮影準備をしていると、隣りのブースで別媒体の取材を受けていた若山詩音の笑い声が絶えず聞こえてきた。こちらの取材に入っても、撮影ではやや緊張を見せつつ、インタビューでは随所で明るい笑いが出る。『空の青さを知る人よ』で演じたのは、山に囲まれた秩父に住む17歳の高校2年生、相生あおい。13年前に事故で両親を失い、親代わりとなった姉のあかねと2人で暮らしている。ベースを弾き、高校を卒業したら上京してミュージシャンを目指すという。

――芸歴は子役からですね。

若山  3歳のときに劇団ひまわりに入りました。記憶にはないんですけど、聞いた話によると、姉が当時子役をやっていて、親が現場に付き添うので私も一緒について行ったら、「やってみない?」と声を掛けていただいたそうです。

――4歳で大河ドラマ『利家とまつ』に出演したり、物心がついた頃には演技をしていた感じですか?

若山  そうですね。もう日常のひとつでした。小さい頃から友だちと遊ぶよりお仕事が大事で、「ずっとやっていきたい」と思っていて、それは変わることはありませんでした。

――『空の青さを知る人よ』では高校生のあおいを演じました。若山さん自身はどんな高校生でした?

若山  美術部で絵を描くことが本当に好きで、毎日描いていた覚えがあります。お勉強はそれなりで、受験では実技もあったので美術予備校に通っていて、結構しんどかったですね(笑)。

――美大を受けたんですか?

若山  美大ではなくて、教育学部で美術教育を学ぶために、絵も描けないといけなかったんです。

――あおいと同じく、お姉さんもいるんですね。

若山  姉は6歳上で、あかねとあおいの関係に似ているところがあります。私が生まれたとき、姉はもう物心がついていたので、親みたいな目線もあったと思うんです。私が姉にものを言われたときの感じ方は、あかねに対するあおいと似ていた気がします。

――声優にも早くから興味があったんですか?

若山  ゲームが好きで、中学生の頃から、ずっと声のお仕事をやりたいと思ってました。当時は想いがあるだけでヘッタクソで(笑)、どうにもならなかったんですけど、何年か経って、こうしてアニメ映画に出させていただいて、夢が叶った感じです。

――どんなゲームが好きだったんですか?

若山  RPGは何でも好きです。熱中するとガーッとなって、深夜3時くらいまでやることもしばしばでした(笑)。

(C)2019 SORAAO PROJECT
(C)2019 SORAAO PROJECT

――長井監督の作品を観たことはありました?

若山  『あの花』や『ここさけ』は話題になっていて、周りにも好きな人がいたので観て、ボロボロに泣きました。

――『あの花』でめんまが消える場面とかで?

若山  その前に超平和バスターズのみんなが集まって、想いをぶつけ合うところからワーッとなりました。『ここさけ』でもすごく泣いて、素敵な作品だなと思っていました。

――監督の作品のどんなところが素敵だと思います?

若山  心の移り変わりや痛みがすごく繊細に描かれていて、作品の中でそういう痛みが伝わるとき、矛盾しているかもしれませんけど、私は美しさを感じるんです。そういう意味ですごくきれいな作品で、そこが魅力だと思いました。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

姉に当たる場面で自分のことを反省しました(笑)

あかねの高校時代の恋人・金室慎之介はバンドを組んでいて、卒業後にミュージシャンを目指して上京したまま、音信不通になっていた。町では音楽祭に大物歌手を招くことになり、そのバックミュージシャンとして彼の名前があった。一方、あおいの前には18歳の慎之助=しんのが、当時のままの姿で現れる。若山詩音はあおいと驚くほど共通点があったそうだ。

――あおい役のオーディションでは手応えはありました?

若山  たくさんの方が受けてましたし、自分の声質が合うかも全然わからなかったです。ただ、あおいにフィットしている感覚は不思議とありました。感情が高ぶったときに言ってしまうこととか、何となく共感できるところが多かったので。

――実際のアフレコでも、同じ体験はないにせよ、覚えのある気持ちがあったり?

若山  あかねに進路についてちょこちょこ言われたときのふてくされ方は、経験あります。何なら、今でもあるかも(笑)。言われると反発したくなるのは共感できます。

――あかねは良いお姉さんですよね。

若山  本当に妹想いで、やさしくて、包容力があると思います。

――そんなお姉さんに「あかねみたいになりたくない!」と言うシーンもありました。

若山  あれは八つ当たりに近いと思うんです。年ごろならではですけど、気持ちの整理がうまくつかなくて、キツく当たってしまうことは私も実際あるので、自分の姉に対する態度を反省しました(笑)。

(C)2019 SORAAO PROJECT
(C)2019 SORAAO PROJECT

――自分と似たところがある分、あおい役は掴みやすくもありました?

若山  そうですね。場面ごとに、たとえばやさしく言ったつもりなのに厳しく聞こえちゃうとか、ニュアンスの表現には苦労しても、あおいの基本は自分と同じところがあって、掴みやすかったです。姉との接し方もそうだし、私もベースを弾いていたり、しんのが歌っていた『ガンダーラ』を姉が好きだったり、重なる部分が多くて、自分の体験から気持ちを引っ張ってくることができました。

――ベースはバンドで弾いていたんですか?

若山  大学の軽音サークルでやってました。上手くはないですけど、名残りで今も家にベースが置いてあって時々弾きます。アピールポイントになるとも思わなくて、監督たちには言ってなかったんです。収録が全部終わったあとに「ベース弾くんですよ」とお話したら、ビックリされて「言ってよ~!」となりました(笑)。

――なぜギターでなくベースを?

若山  単純に響く低音が好きなのと、曲の方向性を決めたり、スラップがカッコ良かったりするので、ベースのほうがいいなと思いました。バンドを支えながら、音でいろいろ遊べるのも、ちょっとロマンがあるし(笑)。

――『ガンダーラ』は1978年のヒット曲で、6歳上のお姉さんにしても世代ではありませんが……。

若山  姉は古い曲が好きらしくて、ゴダイゴさんも聴いてましたけど、私は「珍しい趣味だな」と思っていて。『空青』で『ガンダーラ』が出てきてビックリしました。「縁があるのかな」という気持ちになりました。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

すごいエネルギーが自分の中で動きました

――あおいはバンドに誘われて「自分よりヘタなヤツと組んでも時間のムダ」とも言ってました。

若山  強気だなと思います。私はそんなこと言えませんし(笑)、性格はあんな感じではないです。でも、姉に強く当たっちゃうところはあるし、あおいのぶっきらぼうな喋り方は、かなり私の素に近い感じです。

――全体的にそれほど苦戦したシーンはありませんでした?

若山  さっき言ったニュアンスに悩むことはありましたが、「ここは全然うまくいかない!」みたいな場面は……あっ、1コありました。あかねの車で「気をもたせるようなことはやめれ」から進路の話に行くところで、強く当たりすぎて何回もリテイクしました。たぶん私がいつも姉に強く当たっているからで、そこでも反省しましたけど(笑)、なかなかうまくいきませんでした。

(C)2019 SORAAO PROJECT
(C)2019 SORAAO PROJECT

――何気ないシーンで苦労があったんですね。

若山  そうですね。そこで当たりすぎると、あかねとの関係性が違って見えてしまうので。

――予告でも流れる「私はしんのが好き。だけど、あか姉も大好きなんだ!」と言うシーンは、かなりエネルギーを使ったのでは?

若山  内にあるエネルギーを大きくしてやった感じです。すごいエネルギーが自分の中で動いていたと思います。あの辺は素で気持ちが出た感じが重視されて、あまりリテイクはなかったんですけど、録り終わってフーッと口から魂が抜けました(笑)。

――普段は感情を吐き出すことはありますか?

若山  感情の波は大きいほうだと思います。涙もろくて、すぐ泣きます。テレビで『アルマゲドン』がやっていて、最後にお父さんが娘に別れを告げて星を爆破させるところを、その3分前から観始めたのにワーッと大泣きしました(笑)。

――役者としては、それくらいのほうがいいんでしょうね。長井監督は若山さんについて「澄んだ声質と一生懸命な演技が、不安定な時期のあおいにマッチしている」とコメントされてます。

若山  私は声の仕事の経験が少なくて、きれいにしゃべったりするのはヘタクソ。「じゃあ、自分にできることは?」と考えて、気持ちが高ぶったときにそのまま出すことが、もしかしたら良さになるかもと思って、オーディションから臨んでいました。そこを評価していただけたなら嬉しいです。

(C)2019 SORAAO PROJECT
(C)2019 SORAAO PROJECT

――空を飛ぶシーンではどんな気持ちに?

若山  私、高いところは苦手なんです。スカイツリーとか、苦行だと思います(笑)。だから、あそこは「これ死んじゃうよ……」と思いながら入って、「うわーっ!」となりましたけど、本当に空を飛んでいる気分にはなれました。気持ち良さが8割、怖さが2割。おっかなビックリな感じで、いいあんばいであおいの気持ちと重なりました。

――この作品を通じて、大人になることや人生について考えたりもしました?

若山  いろいろ考えました。自分の好きな仕事をやって食べていくこと、姉に対する感謝……。あおいと一緒に感情が動いて、最初は反抗的な態度を取っていても、やっぱり家族が一番大切だと思いました。

――あおいはミュージシャンを夢見ていますが、若山さんはこれから、どう女優人生を送っていきますか?

若山  声のお仕事も全身での演技もやっていきたいと思ってますけど、何より今回、自分の技術的に足りない部分をいっぱい勉強させてもらったので、もっと努力を続けて、実力を伸ばすことが一番重要だと再確認しました。

――声優ならではのやり甲斐も感じました?

若山  すごく面白かったです。台本の「……」のところやちょっとした動きに、アニメだと何か入れないと足りなくなることが多くて、そこに何を入れるか考えるのが新鮮でした。実写ではなかなかできない空を飛ぶ体験も楽しかったし、また機会があれば全力で挑んでいきたいです。

撮影/松下茜
撮影/松下茜

Profile

わかやま・しおん。1998年2月10日生まれ、千葉県出身。『利家とまつ』(NHK)、『ほーむめーかー』(TBS系)などのドラマに出演。『Cafe du cinema』(石川テレビ)で映画紹介レポーター。声優として映画『ヘイト・ユー・ギブ』吹替版、Webアニメ『ガンダムビルドダイバーズRe:RISE』などに出演。

(C)2019 SORAAO PROJECT
(C)2019 SORAAO PROJECT

『空の青さを知る人よ』

10月11日(金)より公開

監督/長井龍雪 脚本/岡田麿里 キャラクターデザイン・総作画監督/田中将賀 

配給/東宝

公式HP

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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