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高畑充希がドラマ界に起こした女優革命

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(写真:つのだよしお/アフロ)

 高畑充希が初の刑事役で主演するドラマ『メゾン・ド・ポリス』(TBS系)がスタートした。一昨年、NHK朝ドラ『とと姉ちゃん』でヒロインを演じた後、『過保護のカホコ』(日本テレビ系)、『忘却のサチコ』(テレビ東京系)と主演が続き、今やメインを張れる貴重な若手女優の1人。一見“朝ドラからのブレイク”の流れに乗った定型のようで、彼女が主役ポジションの女優になったのは、実は革命的なことでもある。高畑充希は従来の華やかなスタータイプではないが、舞台で培った演技力+αの持ち味で静かにトップに立っていた。

舞台をホームグラウンドに演技力を磨く

 高畑充希は幼少の頃からミュージカルが好きで、自らも舞台に立つことを夢見ていたという。たびたびオーディションに落ちながら、13歳のときに『山口百恵トリビュートミュージカル ブレイバックpart2~屋上の天使』の主役オーディションに合格し、2005年にデビューしている。

 その後は『ピーター・パン』で8代目となるピーター・パン役を6年に渡り務めたり、もともと観劇して強く影響を受けたという『奇跡の人』のヘレン・ケラー役を17歳で演じたりと、舞台をホームグラウンドに活躍。劇団出身で実力派と呼ばれる役者は多いが、彼女は中学時代から、ごまかしのきかない舞台で演技を磨き、評価されてきた。

 2007年に『3年B組金八先生』(TBS系)の第8シリーズに生徒役として出演してからは、映像にも進出。映画『アオハライド』では本田翼が演じた主人公の恋敵として物静かながら一途な迫力で打ちのめし、朝ドラ『ごちそうさん』(NHK)では杏が演じたヒロインの義妹役で、内向的な性格から殻を破っていく変化を自然に見せた。

 そして、自らがヒロインに抜擢されたのが『とと姉ちゃん』。一世風靡する雑誌の編集者となる役で、悲しいときほど明るくふるまい、苦しいときほど毅然とする女性像は、感情の揺れを声の大きさでしか表現できないような女優には難しいところだったが、高畑の演技からは心情がさり気なく伝わり、かえって印象を残した。

脇役タイプと見られながら主役級になった理由

 とは言え、彼女のような女優は従来、民放の連ドラで主役を続けることは少なかった。主役となると、まずヴィジュアルに華があって目を引くタイプが求められ、同性が憧れるモデル出身の女優がもてはやされた時代もあった。朝ドラでヒロインを演じても、その後は脇役ポジションに留まる例も少なくない。

 高畑は、もちろん一般レベルなら十分にかわいいが、『プレイバックpart2』のオーディション合格も「ヴィジュアル採用ではなかった」とスタッフが話している。そういう意味で、演技は上手くても華々しさに欠ける面はある。実際『とと姉ちゃん』以前は、ドラマでは脇を固めるポジションがほとんど。

 彼女自身、『とと姉ちゃん』が放送終了した2016年冬に取材した際は、「主役願望は全然ないです。私は主役向きの性格ではないので」と話していた。やはり脇で光るタイプに戻るのか……とも思われたが、2年が経ち、押しも押されもせぬ主役級の女優になっていた。

 要因のひとつには、時流の変化があるだろう。若者を中心にテレビ離れが進む中、いわゆるスターを出せば、ファンが観てくれて視聴率を稼げる時代は終わった。そのスター主義のツケがドラマ離れを生んだとも言えるが、逆に、それでもドラマを観る層は、純粋に作品としての完成度を求める。2013年に『半沢直樹』(TBS系)がスターでなくても上手い俳優を適材適所に配して視聴率40%超えの大ヒットとなってから、そんな流れが生まれて、高畑のような実力派に需要が高まっていたところだった。

 加えて高畑には、コミカルな引き出しもあったことが大きい。民放連ドラ初主演となった『過保護のカホコ』では極度に世間知らずの箱入り娘役で、子どものように喜んだりキレたり、相手役の竹内涼真との話がズレる掛け合いでも笑わせた。平均視聴率も11.5%とまずまず。

 さらに『忘却のサチコ』では、コスプレをたびたび披露。きゃりーぱみゅぱみゅ風にするはずの白塗りが、本人曰く「芸人のゴー☆ジャスさんみたいになっちゃって(笑)」という姿まで見せた。もともと頭痛薬のCMで「ぶちゃくなる」顔を披露していたが、朝ドラで国民的ヒロインになってからもNGが少ないのは、制作サイドとしても使いやすいだろう。

 それも、根底には確かでナチュラルな演技力があったうえでのこと。『メゾン・ド・ポリス』の1話でも、まっすぐな新人刑事として元警察のおじさんたち相手に受けの芝居をしながら、過去に含みを持たせる表情もチラつかせて興味を引いた。

『メゾン・ド・ポリス』の後はまた名作舞台に

 昨年12月で27歳になった高畑。同世代でかわいくて注目された女優が現れたり消えたりしてきたが、主役タイプではないと見られていた彼女が、じっくり時間をかけて演技力ですべてをひっくり返し、トップに立った。現在、連ドラで主役を張り続けているのは、やはり革命的と言っていい。ちょっとした奇跡だ。

 舞台で磨かれたという意味では、『メゾン・ド・ポリス』で共演する小日向文世や、佐々木蔵之介、堺雅人、大泉洋といった劇団出身の俳優の売れ方に近いが、若手女優でそういうスタイルを成立させたのも高畑が初めて。彼女はドラマや映画で活躍する現在も、原点の舞台を大事にしている。

 以前の取材では「私はただの舞台ファン。好きだからやりたいだけ。あと、自分の環境が変わっても、舞台は稽古場に入れば平等。主役とか関係なく、みんなで力を合わせて作るのが好きなんです」と話していた。

 『とと姉ちゃん』のクランプアップ後、たて続けに2本の舞台に出演したのも「私が前からお願いしてました。1年も舞台が空いたことがなくて、絶対やりたくなると思ったので」との話だったが、この4月からはまた『奇跡の人』が控えている。17歳と22歳のときにヘレン・ケラーを演じて、今回はサリヴァン先生役だ。

 高畑充希の演技力はまだまだ練度を増していくはず。年齢を重ねるごとに、味のある女優になりそう。そして、彼女のようなヴィジュアル任せでなく演技力の高い女優がドラマでも第一人者となるのは、とても健全なことに思える。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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