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ブラジルW杯は「GKの大会」になる? 56試合中10試合でMOMにGKが選出

斉藤健仁スポーツライター

ついにベスト8が出揃った2014年ブラジルワールドカップ(W杯)は、いよいよ7月4日(日本時間5日)から準々決勝が始まる。今大会は、カウンターからの得点とともに、GKの好セーブが目立ち、決勝トーナメント1回戦までの56試合中、実に10試合でGKがMOM(マン・オブ・ザ・マッチ)に選出された。2010年南アフリカW杯大会が64試合で5人だったので、すでに倍増である。後に、今大会をふり返った場合に「GKの大会」だったと言われることになるはずだ。

◇56試合中10試合でGKがMOMに選出

まず、GKがMOMになった10試合をふり返ってみよう。

グループリーグ

6月17日 ブラジル 0-0 メキシコ/GKギジェルモ・オチョア(メキシコ)

6月22日 アメリカ 2-2 ポルトガル/GKティム・ハワード(アメリカ)

6月24日 イタリア 0-1 ウルグアイ/GKジャンルイジ・ブッフォン(イタリア)

6月24日 コスタリカ 0-0 イングランド/GKケイラー・ナバス(コスタリカ)

6月25日 エクアドル 0-0 フランス/GKアレクサンドル・ドミンゲス(エクアドル)

決勝トーナメント1回戦(ラウンド・オブ16)

6月28日 ブラジル 2-1(PK3-2) チリ/GKジュリオ・セーザル(ブラジル)

6月29日 オランダ 2-1 メキシコ/GKギジェルモ・オチョア(メキシコ)

6月29日 コスタリカ 1-1(PK5-3) ギリシャ/GKケイラー・ナバス(コスタリカ)

6月30日 ドイツ 2-1 アルジェリア/GKライス・エムボリ(アルジェリア)

7月1日 ベルギー 2-1 アメリカ/GKティム・ハワード(アメリカ)

グループリーグ48試合中、GKのMOMは5試合だったものの、負けたら終わりとなるノックアウト方式の決勝トーナメント1回戦では、実に8試合中5試合もMOMにGKが選出された。特に決勝トーナメント1回戦では、負けたチームのGKが3人もMOMに輝き、試合を盛り上げた。

◇W杯出場している国のGKのほとんどが欧州でプレー

2012年に「世界最強のゴールキーパー論: GK王国イタリアの技術・戦術・哲学」(出版芸術社)という、イタリアのGKに焦点を当てた本を書いた。その時に、イタリア代表にも選出されたことのあるボローニャ(当時)のGKエミリアーノ・ヴィヴィアーノ(昨シーズンはイングランドのアーセナル所属)がこう言っていたことが強く印象に残っている。

「(ブラジル代表の)ジュリオ・セーザルも、イタリアに来たから上手くなったんだよ。もっと日本人もイタリアに来ればいいのに」

確かにインテルで長く活躍したGKセーザル(現在はカナダのトロント所属)はまさしく、そうである。それではW杯の決勝トーナメントに出場した他の15カ国のGKはどうなのか。欧州のチームは当然だが、他の国の正GKも全員が欧州のクラブに在籍しており、特にベスト8に進出したチームのGKは名手揃いだ。

ブラジルのGKセーザルは2005年から2012年までイタリアのインテルで活躍し、コロンビアのGKオスピナはフランスのニースに、コスタリカのGKナバスはペインのレバンテに所属し、アルゼンチンのGKロメロもイタリアのサンプドリアを経て、昨シーズンはフランスリーグのモナコに在籍していた。

欧州のチームのGKは世界的な選手ばかりだ。フランスのGKロリスはリヨンで名声を得て、2012年にはイングランドのトットナムに移籍した。ドイツのGKノイアーはシャルケを経て2011年からバイエルンの守護神を務める。オランダのシレッセンは2012年からアヤックスで、ベルギーのクルトワは22歳と若いものの、今シーズン、アトレティコ・マドリードの優勝に貢献したGKである。

惜しくも決勝トーナメント1回戦で負けてしまった8カ国のGKを見ても、チリのGKブラーボはレアル・ソシエダ(スペイン)、ウルグアイのGKムスレラはガラタサライ(トルコ)、ナイジェリアのGKエニェアマはリール(フランス)、アルジェリアのGKエムボリはCSKAソフィアなどブルガリアを中心にプレー、アメリカのGKハワードはイングランドのエバートンのゴールマウスを長く守ってきた。そして、グループリーグから大会を盛り上げたメキシコのGKオチョアも2011年からフランスのアジャクシオに所属している。

グループリーグで敗退してしまった16カ国を見てみても、欧州のクラブでしかプレーしたことがない正GKは韓国代表のGKチョン・ソンリョンをはじめ、エクアドル、ホンジュラスの3人のGKのみ。日本代表はベルギーでプレーしているGK川島永嗣(スタンダール・リエージュ)をはじめ、イランのGKダバリは2008年からドイツのブラウンシュバイクに在籍し、カメルーンのGKイタンジュは元々フランス国籍でランスで腕を磨き、ガーナ代表GKのクワラジーはノルウェー育ちでノルウェーのユース代表経験がある。

このように、ほとんどの国のGKが欧州でプレーしているか、欧州にゆかりのある選手であり、そのレベルの高さをうかがえる。また多くの国のGKが20代後半か30代であり、経験が重要視されるGKならではであろう。その中でベルギー代表GKクルトワの22歳という若さで、あの安定感あるセービングは特筆すべきであろう。

◇優勝とともに気になる「最優秀GK」のゆくえ

W杯の過去5大会を見ると、最優秀GK賞(1994年大会からヤシン賞、2010年大会からゴールデン・グローブ賞)を受賞した選手は下記の通り、ヨーロッパの選手である。

1994年アメリカ大会:ベスト16のベルギーGKミシェル・プロドーム

1998年フランス大会:優勝したフランスのGKファビアン・バルテズ

2002年日韓大会:準優勝したドイツGKのオリバー・カーン

2006年ドイツ大会:優勝したイタリアのGKジャンルイジ・ブッフォン

2010年南アフリカ大会:優勝したスペインのGKイケル・カシージャス 

「GKの大会」となりそうな今大会も、過去5大会同様にヨーロッパの選手が最優秀GKになるのか。それとも、南米か中南米の国が栄冠に輝き、その国のGKが最優秀GKになるのか――世界中が注目する準々決勝以降もGKから目が離せない!

◇ベスト8進出チームのGK

ブラジル/ジュリオ・セーザル(34歳)

1997年からフラメンゴ(ブラジル)でプレーし、2004年からイタリアに渡りキエーボに所属、2005年から2012年までインテルでプレーし、イングランドのQPRを経て、現在はカナダのトロントに所属する。

コロンビア/ダビド・オスピナ(25歳)

2005年からアトレティコ・ナシコナルでプレーし、2008年から現在までフランスのニースに所属。

フランス/ユーゴ・ロリス(27歳)

2005年からニース、2008年からリヨンのゴールを守り、2012年にイングランドのトッテナムに移籍した。。

ドイツ/マヌエル・ノイアー(28歳)

2006年からシェルケのゴールマウスを守り、2011年にはバイエルンに移籍した。

オランダ/ヤスハー・シレッセン(25歳)

2010年にNECでデビューし、2012年からアヤックスに移籍し、昨シーズンは25試合に出場した。

コスタリカ/ケイラー・ナバス(27歳)

2007年から地元の強豪サプリサでプレー、2010年からスペインに渡り、アルバセテを経て、2011年からレバンテの守護神を務める。

アルゼンチン/セルヒオ・ロメロ(27歳)

2006年は地元のラシン・クラブでプレーし、2007年からオランダに渡り、2010年までAZでプレー。その後はイタリアのサンプドリアを経て、昨シーズンはフランスリーグのモナコでプレーした。

ベルギー/ティボー・クルトワ(22歳)

2008年からベルギーのゲンクに所属し、2010-11シーズンに大活躍し、2011年からスペインのアトレティコ・マドリードに移籍し、昨シーズンのリーグ優勝に貢献した。

◇ベスト16に進出したが、敗退したチームのGK

チリ/クラウディオ・ブラーボ(31歳)

2000年からチリのコロコロでプレーし、2006年から現在までスペインのレアル・ソシエダに所属する。

ウグルアイ/フェルナンド・ムスレラ(27歳)

2004年から地元のクラブやナシオナルでプレーし、2008年から2011年までイタリアのラツィオでプレー、2012年から現在まではトルコのガラタサライに所属する。

ナイジェリア/ヴィンセント・エニェアマ(31歳)

1999年から2005年まで地元のクラブでプレーし、2005年にイスラエルに渡り、2007年からハポエル・テルアビブに所属。2011年にはリールに移籍し、イスラエルを経て、2013年から再びリールに所属している。

アルジェリア/ライス・エムボリ(28歳)

マルセイユのユース育ちで、スコットランド、ギリシャ、日本の琉球FCを経て、2009年からブルガリアのスラヴィア・ソフィアでプレー。その後は鳥亜、フランスなどを経て、現在は再びブルガリアのCSKAソフィアのゴールマウスを守る。

メキシコ/ギジェルモ・オチョア(28歳)

2003年からメキシコのクラブ・アメリカに所属し、2011年からフランスのアジャクシオのゴールマウスを守る。

ギリシャ/オレスティス・カルネジス(28歳)

2007年から地元の強豪パナシナイコスに在籍し、昨シーズンからスペインのグラナダでプレーする。

スイス/ディエゴ・ベナーリオ(30歳)

ドイツのシュツットガルトで育ち、2005年からポルトガルのナシオナウでプレーし、2008年からヴォルフスブルクのゴールマウスを守り続けている。

アメリカ/ティム・ハワード(35歳)

1997年から2003年はアメリカのクラブでプレーし、2003年からイングランドに渡り、マンチェスター・ユナイテッドを経て、2006-07シーズン以来、エバートンのゴールマウスを守り続けている。

スポーツライター

ラグビーとサッカーを中心に新聞、雑誌、Web等で執筆。大学(西洋史学専攻)卒業後、印刷会社を経てスポーツライターに。サッカーは「ピッチ外」、ラグビーは「ピッチ内」を中心に取材(エディージャパン全57試合を現地取材)。「高校生スポーツ」「Rugby Japan 365」の記者も務める。「ラグビー『観戦力』が高まる」「ラグビーは頭脳が9割」「高校ラグビーは頭脳が9割」「日本ラグビーの戦術・システムを教えましょう」(4冊とも東邦出版)「世界のサッカー愛称のひみつ」(光文社)「世界最強のGK論」(出版芸術社)など著書多数。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。1975年生まれ。

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