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トヨタVを1シーズンで退団した33歳になるSOバレット。オールブラックスでプレーを続ける理由とは?

斉藤健仁スポーツライター
トヨタVでのプレーを終えて、ファンに笑顔を見せるSOバレット(撮影:斉藤健仁)

 5月5日(日)、「NTTジャパンラグビーリーグワン」ディビジョン1の最終節、オールブラックスの司令塔SOボーデン・バレットがトヨタヴェルブリッツでのラストゲームを迎えた。オールブラックスのチームメイトだったSHアーロン・スミスも一緒に加入したヴェルブリッツは今季の台風の目となるか、と予想されていた。

 だが、結局、終わってみればヴェルブリッツは9勝7敗で、一昨季5位、昨季6位から一つ順位を落として7位でフィニッシュし、シーズンを終えた。

◇「親しい顔ぶれがいた」と今季、再び日本でプレー

 3シーズン前は東京サントリーサンゴリアスに所属し準優勝に貢献し、2度の世界最優秀選手に輝いているSOバレットは、2023年ワールドカップの後、再び日本のヴェルブリッツでのプレーを選択した。

 しかし、チーム合流前に「今後もニュージーランド代表でプレーしていきたい」とニュージーランド協会との契約を2027年まで延長し、サンゴリアス時代同様に、「サバティカル(長期休暇の意)」の制度を利用し1シーズン限定でのプレーとなった。

 バレットは開幕前、再び日本でのプレーを選んだ理由を「スティーブ・ハンセン(総監督)、スミスら親しい顔ぶれが(ヴェルブリッツに)いるということが理由としてはありました。前回、来日した時にも非常に好感触ではあったが、コロナ禍で非常に制限されていたように感じたので、今回は日本の観光なども含めて楽しみにしています。ヴェルブリッツでプレーするこの1年間の中で、メンタル面をリフレッシュしながら多くを学んで、またニュージーランドに帰国したい」と話していた。

試合後、SHスミス(中央)と話をするSOバレット(撮影:斉藤健仁)
試合後、SHスミス(中央)と話をするSOバレット(撮影:斉藤健仁)

◇シーズン終盤でやっと力を出すことができた

 しかしオールブラックスとして10月29日の決勝までワールドカップを戦った影響もあり、チームへの合流は昨年12月のリーグワン開幕直前となった。SOバレット、SHスミスのハーフ団、そして2019年世界最優秀選手選出の南アフリカ代表FLピーター・ステフ=デュトイ、日本代表のキャプテンNO8姫野和樹らも在籍していたものの、ヴェルブリッツは開幕から勝ったり負けたりを繰り返した。

もちろん、新しい環境ですから慣れるまで時間がかかります。それでもクラブは私や家族を温かく迎え入れてくれて、生活環境を整えてくれた。結束力を高めて、チームメイトと一緒にプレーする、ゲームプランを遂行することに慣れることが課題の一つでした。だから、それをプレッシャーに感じることはなかったし、自分がチームを大幅に調整したり変えたりするよりも、自分自身がチームに溶け込みたかった。

 とはいえ自分のポジションはチームに影響を与える部分もあったと思います。結局のところ、僕らが目指すところは、チームに合ったプレーをすることでした。シーズンの終盤になってそれを出せるようになってきたかな」(SOバレット)

 そのバレットの言葉通り、最後の2試合でSOバレットはインターナショナルプレイヤーであることを証明した。15節の横浜キヤノンイーグルス戦では、ロスタイムにグラバーキックでトライを演出して35-31の逆転勝利をもたらし、最終戦のリコーブラックラムズ東京戦でも司令塔としてチームをリードし45-18で快勝した。

16試合中13試合に出場したSOバレット(撮影:斉藤健仁)
16試合中13試合に出場したSOバレット(撮影:斉藤健仁)

◇「リーグワンは非常に競争の激しい大会」(SOバレット)

 最終戦を終えてSOバレットは「最後の2試合はスバラシイ(日本語で)。ポジティブで良い形で締めくくれたので、ファンも誇りに思ってくれると思う。ただリーグワンは本当に向上していて非常に競争の激しい大会で、(サンゴリアスに在籍していた)3年前は3~4チームがトップを争っていたが、今はそれが8チームくらいになっているし試合も拮抗している。ヴェルブリッツが目指してきたトップ4に入れなかったことを残念に思いますし、本当に複雑な心境です」と正直に気持ちも吐露した。

 ヴェルブリッツは、トップリーグ時代はトップ4の常連だったが、なかなか結果を残すことができず、リーグワンになってからはトップ4に入ることができていない。SOバレットはチームのどういうところを改善すべきか、と感じているのか。

「(ヴェルブリッツに必要なのは)一貫性と選手層の厚みでしょうか。多くの試合で、80分間戦い抜くのに苦労しました。トップのチームはパフォーマンスの一貫性があって、それができるレベルの選手が揃っているし、長い時間をかけてメンバーがコンビネーションを作り上げていくことで、目標を達成している。そういうものがチームのプレースタイルのDNAの一部です。ヴェルブリッツの選手たちもそれを信じてやっていく必要がある」とチームメイトにエールを送った。

◇黒衣集団でのプレーを続ける理由は2人の兄弟

 オールブラックスで123キャップを誇り、5月27日で33歳となるベテラン司令塔のSOバレット。2015年ワールドカップで優勝に貢献し、2019年は3位、2023年は準優勝だった。2016年はハリケーンズをスーパーラグビー初優勝に導き、2016年、2017年には世界最優秀選手賞を受賞した。

 それでもまだオールブラックスとして出場したいというモチベーションはどこから出てくるのか。「オールブラックスというのは特別なチームです。特に2人の弟(LOスコット、CTB/FBジョーディ)と一緒にプレーできることが、オールブラックスでプレーを続ける率直な理由です。もちろんワールドカップにも(3度)出たので、このまま日本でプレーを続けたり、フランスに行ってプレーしたりという選択肢も考えられたのですが、まずはヴェルブリッツのために全力を尽くし、その上でオールブラックスに選ばれ続けるような状態でありたかった。

 オールブラックスも新しいコーチングスタッフになったので、どうなるかわかりませんが、チャレンジしたいという気持ちがあります。(2027年ワールドカップ優勝は)もちろん大きな目標ではありますが、まずは1シーズン、1シーズン、しっかり過ごしていきたい」と先を見据えた。

2019年W杯でもバレット3兄弟は同時にプレーした。左からジョーディ、スコット、ボーデン
2019年W杯でもバレット3兄弟は同時にプレーした。左からジョーディ、スコット、ボーデン写真:ロイター/アフロ

◇バレットが語る南アフリカ代表の強さの理由

 さらに、今季、日本でプレーして成長できた部分があるかを聞くとSOバレットは「もちろんたくさんありました。リーグワンで、いろんなプレースタイルのチームと対戦することができ、特にいろんな国から選手が来ているので、より多くのプレースタイルを知ることができたので、いろいろな国のラグビーをニュージーランドに持ち帰ることができるかな。

 そういったことが(ワールドカップを連覇している)南アフリカ代表の強さにも繋がっていると思います。(リーグワンだけでなく)南アフリカ代表の選手はいろいろな場所でプレーしてきているので、それが南アフリカのラグビーの奥深さが増した理由なのではないか、と考えています。南アフリカはいろいろなラグビーの良い部分を集約してチームを作っていますから」と話した。

 南アフリカの選手は世界中どこでプレーしていても「スプリングボクス」になれるが、オールブラックスの場合、現在の規定では、ニュージーランド協会と契約し、ニュージーランドで国内でプレーしている選手しか黒衣のジャージーを着ることは許されていない。SOバレットは、オールブラックスももう少し門戸を広げてもいいのでは、という意見を持っているようだ。

 イングランド協会にも同様の規定がある。オーストラリア代表30キャップ以上を持っているか、またはスーパーラグビーで5シーズン以上プレーしている選手3人はたとえ海外でプレーしていても、ワールドカップに出場ができる。

◇身体とマインドが続けばまた日本でプレーしたい!

 ヴェルブリッツのキャプテンを務める日本代表のNO8姫野和樹は1年間、一緒にプレーしたSOバレットに関して「プレーが一貫している選手だと思うし、その姿勢はチームにいい影響を与えていたと思います。すごくディテールにこだわるし、勤勉な選手だと思います。常にノートを書いていて、必要なら必要な選手にコミュニケーションを取っていた。勤勉さが選手にいい影響を与えていた」と称えた。

 最後に、バレットにまた日本でプレーしたいか?という質問をぶつけると、少し考えてから「まだまだ先の話ですね。でも、もちろん、その気持ちはあります。身体とマインドが続くのであればプレーしたい。ラグビー選手として1日でも長くプレーしたいというのは、私の目標でもありますから」と大きな笑顔を見せてスタジアムを後にした。

 SOバレットは再びオールブラックスに選ばれて、元サンゴリアスのSOダミアン・マッケンジー(チーフス)らと司令塔争いを演じることになるだろう。そして、きっとオールブラックスの一員として来日し、10月26日に神奈川・日産スタジアムでラグビー日本代表と対戦し、再び日本のファンに元気な姿を見せてくれるはずだ。

シューズをファンにプレゼントするSOバレット。再び日本でプレーする日は来るか?(撮影:斉藤健仁)
シューズをファンにプレゼントするSOバレット。再び日本でプレーする日は来るか?(撮影:斉藤健仁)

スポーツライター

ラグビーとサッカーを中心に新聞、雑誌、Web等で執筆。大学(西洋史学専攻)卒業後、印刷会社を経てスポーツライターに。サッカーは「ピッチ外」、ラグビーは「ピッチ内」を中心に取材(エディージャパン全57試合を現地取材)。「高校生スポーツ」「Rugby Japan 365」の記者も務める。「ラグビー『観戦力』が高まる」「ラグビーは頭脳が9割」「高校ラグビーは頭脳が9割」「日本ラグビーの戦術・システムを教えましょう」(4冊とも東邦出版)「世界のサッカー愛称のひみつ」(光文社)「世界最強のGK論」(出版芸術社)など著書多数。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。1975年生まれ。

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