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「ラグビーW杯は大きな憧れ」。埼玉WKのSH小山大輝が「王座奪還」に貢献し桜のジャージーへ挑む

斉藤健仁スポーツライター
ワイルドナイツで「9」番として存在感を見せているSH小山(撮影:斉藤健仁)

 野武士軍団に桜のジャージー選出への期待がかかる「9」番がいる。

 5月4~5日にかけて「NTTジャパンラグビー リーグワン」ディビジョン1の16節が行われる。最終戦の結果にかかわらず、開幕から15連勝を果たしている埼玉パナソニックワイルドナイツはすでに首位で上位4チームが進めるプレーオフ進出を決めている。 

 ワイルドナイツにおいて、かつてはレジェンドのSH田中史朗(現NECグリーンロケッツ東葛)、そして昨季までは今季限りの引退を表明したSH内田啓介が付けていた「9」番を背負っているのがSH小山大輝(29歳)だ。

◇今季、「9」番として試合出場時間数を一気に増やした

 今季、SH小山はリーグ戦16試合中14試合で先発を任され、クロスボーダーマッチを含めると1試合平均60分ほど試合に出場し、一昨季の平均27分、昨季の平均39分より試合出場時間を大幅に増やした。「(コーチ陣は)経験を積ませてくれているかもしれないですが、ありがたいです。試合に出れば出るほど経験を積めるし、いい感じになってくるのですごく充実しています!」と声を弾ませた。 

 また7年目を迎えて中軸となりつつある小山は、昨季はプレーオフ決勝で負けた悔しさをバネに今季は「王座奪還」を掲げているチームにおいて、キャプテンのHO坂手淳史、引退を表明しているHO堀江翔太らとともにリーダー陣の一人も務めている。

今季、先発として試合に出続けたSH小山の存在感は増すばかりだ(撮影:斉藤健仁)
今季、先発として試合に出続けたSH小山の存在感は増すばかりだ(撮影:斉藤健仁)

 チームメイトから「タックルの姿勢がいい」と称され、身長171cmながら「責任として低くタックルにいっている」というディフェンスリーダーは「チームとしていい方向にいっている。昨季までは前半、トライがとれていなかったり失点が多かったりと後半のチームと言われていたが、今季は前半からいい形でやれている。昨季、(決勝に)負けたので、サインのチェックが明確になっているなどみんなの意識が高くなっている」と冷静に分析した。 

 現に失点こそ昨季とあまり変わらないものの、得点は16試合で昨季の539点から(クロスボーダーマッチを含むと)742点と大幅に増え、特に前半は275点(平均17.2点)から352点(平均22得点)と増えており、試合の入りからチームとしてしっかりと集中しパフォーマンスを発揮していることが今季の強さにつながっているという。

タックルで身体を張るSH小山。チームではDFリーダーも務める(撮影:斉藤健仁)
タックルで身体を張るSH小山。チームではDFリーダーも務める(撮影:斉藤健仁)

◇引退するHO堀江、SH内田をいい形で送り出したい

 今季、シーズン前にワールドカップに4大会出場したHO堀江が引退を表明し、シーズン入るとSH内田も教師になるため今季限りでブーツを脱ぐことを決めた。SH小山は「みんな、あまり口に出して言いませんが、2人が同時に引退しちゃうので最後はいい形で送り出したいと思っています」としみじみと話した。 

 特にSH内田とは9番を争って切磋琢磨してきたライバルである。「7年間いっしょにやっていたので寂しくなりますね。うっちーさん(内田)は熱い男で、真面目で、チーム思い。最初、そういうキャラじゃないと思っていたのでギャップが大きかった(苦笑)。また昔はお互い、いい意味で『ピリピリ』していました。フミさん(=田中史朗)がいたときは、よりそうでしたね……。堀江さんは最初の頃は怖かったです。練習中に厳しいことを言ってくれることがすごく的確だったので自分の成長につながった」と懐かしそうに振り返った。

◇北海道芦別出身。兄の影響で中3から競技を始めた

 SH小山は北海道芦別市出身。4歳上の兄がラグビーをしていた影響で、中学校3年時、野球部を引退してすぐに競技を始めた。芦別高校時代には高校日本代表となり、大東文化大に進学した。

 大学時代は1年時からレギュラー格として躍動し、U20日本代表にも選出され、大学3年時はベスト4進出にも寄与した。大学卒業後の2017年、埼玉パナソニックワイルドナイツに入団し、2018年にはそのスピードが買われて7人制日本代表としても活躍した。 

 趣味はチームメイトのCTB長田智希らとカフェめぐりで、Netflixで映画などを見ることも好きだという。長田同様に、ワイルドナイツの先発では数えるほどしかいなくなった社員選手の一人で、業務用の空調機器を生産する群馬・大泉町にあるパナソニックの工場の総務部に勤務している。

パナソニックの工場で働きつつ、ラグビーに精を出してきたSH小山(撮影:斉藤健仁)
パナソニックの工場で働きつつ、ラグビーに精を出してきたSH小山(撮影:斉藤健仁)

◇ラグビーワールドカップ出場は大きな憧れ

 2021年、2022年シーズンはワイルドナイツの連覇に貢献し、2022年の夏はNDS(ナショナル・デベロップメント・スコッド)にも入り、「エマージング・ブロッサムズ」の一員として試合に出場し、日本代表へ追加招集されたが、キャップの獲得はならなかった。 

 ただ今年1月にエディー・ジョーンズHCがラグビー日本代表の指揮官に再任し、ワイルドナイツファンからはSH小山の日本代表選出への期待も大きい。現にジョーンズHCはSH齋藤直人(東京サントリーサンゴリアス)、SH藤原忍(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)、京都産業大のSH土永旭(4年)&SH髙木城治(2年)らとともにSH小山も高く評価しているという。 

 まだ代表ノンキャップのSH小山だがワールドカップについて聞くと「憧れはありますし、出場したい気持ちは大きいですが、ワイルドナイツで優勝して結果を残さないと(日本代表に)呼んでもらえないし出番は来ないと思います。まずは王座奪還ができるように頑張って(ジョーンズHCに)名前を覚えてほしいですね!」と目の前の試合に集中している。

SH小山とSO松田のハーフ団の2人の存在が優勝の鍵を握っている(撮影:斉藤健仁)
SH小山とSO松田のハーフ団の2人の存在が優勝の鍵を握っている(撮影:斉藤健仁)

◇SO松田と一緒にハーフ団としてチームを勝たせたい!

 5月4日のリーグ最終戦(対横浜キヤノンイーグルス@大分)も含めて、優勝まで残り3試合となった。プレーオフ準決勝は5月18日(土)に東京・秩父宮ラグビー場で実施され、勝利すれば5月26日(日)に東京・国立競技場で決勝戦が行われる。

 負けられない戦いで何が大事となってくるかと聞いてみると、SH小山は「個人としてはSO(松田)力也と一緒にゲームをコントロールして、ハーフ団としてチームを勝たせたい。そして引退する2人をいい形で送り出したい」と語気を強めた。

 持ち味のスピード、タックルだけでなくゲームマネジメントにおいても冴えを見せるSH小山はプレーオフで「9」番として成長した姿を見せたい。そしてワイルドナイツの王座奪還に貢献すれば、きっと日本代表に選出されてワールドカップへのチャレンジが始まるはずだ。

スポーツライター

ラグビーとサッカーを中心に新聞、雑誌、Web等で執筆。大学(西洋史学専攻)卒業後、印刷会社を経てスポーツライターに。サッカーは「ピッチ外」、ラグビーは「ピッチ内」を中心に取材(エディージャパン全57試合を現地取材)。「高校生スポーツ」「Rugby Japan 365」の記者も務める。「ラグビー『観戦力』が高まる」「ラグビーは頭脳が9割」「高校ラグビーは頭脳が9割」「日本ラグビーの戦術・システムを教えましょう」(4冊とも東邦出版)「世界のサッカー愛称のひみつ」(光文社)「世界最強のGK論」(出版芸術社)など著書多数。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。1975年生まれ。

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