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復帰を果たした横浜Eの南ア代表CTBクリエル「イーグルスは自分の一部。日本は自分のホームです」

斉藤健仁スポーツライター
プレーで復帰した喜びを表現していたCTBクリエル(撮影:斉藤健仁)

 いよいよ佳境を迎えようとしている「NTTジャパンラグビーリーグワン」のディビジョン1。リーグ戦を2試合残す中で、昨季、クラブ史上初めてトップ4に入り過去最高成績の3位に輝いた横浜キヤノンイーグルスが4月20日、「神奈川ダービー」で三菱重工相模原ダイナボアーズを43-19で下して2シーズン連続となるトップ4入りを決めた。

 シーズン途中で、南アフリカ代表SHファフ・デクラーク(32歳)&CTBジェシー・クリエル(30歳)といった世界的な選手をケガで欠く中でも勝点を重ねることができたことを、元日本代表の司令塔SO田村優は「神戸、クボタ戦でベストに近いゲームができた。細かいところにこだわってやれば、スーパースター2人がいなくても、きちっと力があることを組織として証明したことは選手の自信になった」と胸を張った。

SO田村優と試合中にコミュニケーションを取るCTBクリエル(撮影:斉藤健仁)
SO田村優と試合中にコミュニケーションを取るCTBクリエル(撮影:斉藤健仁)

◇3ヶ月ぶりの復帰に「言葉にいい表せないほど嬉しい!」

 ただダイナボーズ戦で、インターナショナルな選手の一人である南アフリカ代表68キャップのCTBクリエルが、右の親指のケガから1月13日の第3節以来の出場を果たし、後半28分には自身の復帰を祝うトライも挙げた。

 ベンチからCTBクリエルがピッチに立つと、スタンドからは「ジェシー」というファンからの声が何度も聞こえた。

南アフリカではイーグルスの試合を早朝から見ていました。ブラザーをグラウンドでサポートしたかったので、遠くから離れて見るのはつらかった。(ファンからの声援は)心から嬉しく思いましたし、ファンの前で愛するラグビーができて良かった。

 イーグルスは特別なチームです。自分の一部です。毎回、イーグルスのジャージーを着るのは光栄ですし、当たり前だと思っていません。(復帰できて)言葉にいい表せないほど嬉しい!」(CTBクリエル)

 あらためて試合後に、復帰戦のパフォーマンスについて聞くとCTBクリエルは「ベンチから出たときはリザーブ(みんな)で20点を取る、チームにエナジーを出すことができた。いい仕事ができた。任務完了です。3ヶ月も離脱していたので長く感じた。ちょっと荒い部分もあったがエナジーと自分の調子を取り戻せた」と安堵の表情を見せた。

 イーグルスの沢木啓介監督は「ダイナボアーズ戦に復帰するというプランを決めていた中で、ジェシー(・クリエル)も予定どおり、照準を合わせてくれた。(味方の脳しんとうチェックで)前半の途中で(一度)グラウンドに入ったときは興奮し過ぎていましたが、インターナショナルなプレーもありました。ここから次第に彼らしいプレーが増えていくでしょう」と期待を寄せた。 

◇日本でのプレーは6シーズン目。「日本のすべてが好き」

 CTBだけでなく、WTB、FBでもプレーでき、突破力とタックルに長けた身長185cm、体重95kgのクリエル。21歳の若さで2015年ワールドカップに出場し、続いて2019年、2023年大会も選ばれて、スプリングボクスとして2度の世界チャンピオンに輝いた世界的なBKだ。

 もともとは日本でのプレーを考えてはいなかったようだ、2015年W杯後、21歳の若さでNTTドコモ(現レッドハリケーンズ大阪)に入団。オーストラリア代表FBイズラエル・フォラウ(現浦安D-Rocks)がケガの影響で契約解除となり、その影響もあり、SOハンドレ・ポラード(現レスター)、LOエベン・エツベス(現シャークス)とともに来日し1シーズンプレーした。

 「日本のすべてが好きです。日本から学べることが多い。日本人選手の練習やプレーに対する向上心に魅力を感じた」というCTBクリエルは2019年W杯後に、再び来日。横浜イーグルスでのプレーを続けて5シーズン目を迎えており、すでに日本での試合出場数は50試合を超えた。

 練習の虫で、時間があれば常にフィジカルトレーニングをしている真面目な選手として知られる世界的選手は、南アフリカを離れて日本でプレーし続ける理由を聞くと「人としてどう扱われているか、ですね。日本は自分にとってのホームです。外国人という意識もありません。自分は日本人だと思っています。そこは自分にとってはものすごく大事なことです」と説明してくれた。

 NTTドコモ時代は、週3回、回転寿司に赴いて、30皿くらい食べていたというCTBクリエル。今でも寿司好きは変わっておらず、「今ではちょっといいお店に行くようになったよ!」と笑顔を見せた。

突破力とフィジカルが武器で、バックスリーでもプレーできるクリエル(撮影:斉藤健仁)
突破力とフィジカルが武器で、バックスリーでもプレーできるクリエル(撮影:斉藤健仁)

◇「チームのベストのために自分の仕事を果たす」

 リーグ戦は残り2試合。4月27日のトヨタヴェルブリッツ戦(@瑞穂)でイーグルスのCTBクリエルは先発メンバーに名を連ねた。そして5月4日、リーグ最終戦で、すでに首位通過を決めている埼玉パナソニックワイルドナイツ(@大分)に挑む。イーグルスが2位~4位のいずれかでフィニッシュするかによるが5月18日か19日に、プレーオフ準決勝を迎える。

 昨季3位だったイーグルス。準決勝の壁を打ち破り、初の決勝、そして優勝するために何が必要か――。

まず、しっかりリカバリーすることが大事です。そして次の日からどれだけいい準備をすることしかコントロールできない。自分のこれまでのキャリアを振り返っても自分のできることだけをコントロールする。そして、チームのベストのために自分の仕事を果たします

 CTBクリエルは、自分たちがいない中でも成長曲線を描いてきたイーグルスに大きなプラスアルファを生み出す。

スポーツライター

ラグビーとサッカーを中心に新聞、雑誌、Web等で執筆。大学(西洋史学専攻)卒業後、印刷会社を経てスポーツライターに。サッカーは「ピッチ外」、ラグビーは「ピッチ内」を中心に取材(エディージャパン全57試合を現地取材)。「高校生スポーツ」「Rugby Japan 365」の記者も務める。「ラグビー『観戦力』が高まる」「ラグビーは頭脳が9割」「高校ラグビーは頭脳が9割」「日本ラグビーの戦術・システムを教えましょう」(4冊とも東邦出版)「世界のサッカー愛称のひみつ」(光文社)「世界最強のGK論」(出版芸術社)など著書多数。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。1975年生まれ。

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