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W杯まであと1年!名将ジョーンズHCの下、着実に進化を遂げているラグビー日本代表 

斉藤健仁スポーツライター

今さらながら、5月30日に、東京・秩父宮ラグビー場行われた「リポビタンDチャレンジカップ2014」の第1戦、ラグビー日本代表対サモア代表の試合をふり返っておきたい。

「日本代表がさらにレベルアップする最初の試合にしたい」と、82試合目の試合となり歴代最多キャップ記録を更新したLO大野均が試合前日に語っていたように、2015年にイングランドで開かれるラグビーワールドカップ(W杯)に8大会連続8回目の出場を決めた日本代表の、来年に向けてのマイルストーンになる試合になったのでは……と感じたことが大きい。

日本代表のIRB世界ランキング13位に対して、8位と格上のサモア代表だったが、メンバーは若手中心であり、実質2軍だった。23名中、3月のPRC(パシフィックラグビー・カップ)に出場しているメンバーが10名おり、7人制代表経験者も多く、「ハングリー」という言葉で日本代表のエディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)も警戒していた。指揮官の心配が当たってしまったかのように、前半6分に、日本代表のアタックのミスからカウンターを食らって先制トライを許す。

だが、過去2年間、3部練習でフィジカルとフィットネスを鍛え、さらに春の菅平合宿では、ウェールズ代表強化でも実績のあるフラン・ボッシュ臨時コーチの下、スピードを強化するなどトレーニング重ねてきた日本代表は簡単に崩れることなく、すぐに反撃を見せた。

ジョーンズHCの信条はパスとランによるアタッキングラグビーであり、エディー・ジャパンの代名詞となっているのは「アタック・シェイプ(以下シェイプ)」だ。シェイプとは、SHの周りにタイトファイブ(FWの前5人)、SOの横にバックロー(FLとNO8)、CTBの周りに主にBKを配置し、重層的なアタックラインを形成し、かつ基本的には順目、順目を攻めて相手のディフェンスラインを崩す戦術である。

そのため、ボールキャリアがゲインしつつ、なるべく少人数でボールをリサイクルすること、常にSHやSOに選手を配置することが欠かせない。この試合で目立ったのは、ボールキャリアが低く前に出て、ラックになったときに、ボールをお腹の下から出すスクイーズボール(亀ラックとも呼ばれる。高校生以下は禁止)を多用していたことだ。

今シーズン、2年目のスーパーラグビーでは先発も勝ち取っている副将のHO堀江翔太が積極的に勧めていたスキルで、しかも、5月26日からディフェンス&ブレイクダウン担当のコーチとなったリー・ジョーンズ氏も、スピンして相手のディフェンスの間を狙ってゲインし、スクイーズボールで出すという練習を課した(スピンして相手のディフェンスラインの間を狙う動きは、初トライを生んだCTB松島幸太朗の動きそのものだった)。

つまり、チームとして、スクイーズボールを意識的に行ったことで、相手からの絡みを防ぎ、攻撃にリズムを生んだ。

さらにジョーンズHCはSOには立川理道、インサイドCTB田村優を起用した(前の2試合はSOが田村、インサイドCTBが立川だった)。立川はパスとランに集中させて、相手のWTBが上がってきたときなどにスペースを突くキックは田村に任せた。この布陣により、SHからのシェイプとSOからのシェイプを連動させて、相手ディフェンスをドリフトさせないようにする「リンケージ」が機能し、CTB松島の突破力やBK陣のパスも冴えて11分、25分にWTB藤田慶和のトライを演出した。

後半は、順目、順目だけでなく、逆目にシェイプを配置するなどして、相手のディフェンスの薄い方向を突いて崩していた。ただ試合後、「(日本語で)まあまあ。あと4~5本はトライが取れた」とジョーンズHCが語っていたように、フィニッシュの精度には課題が残る。また、相手がシェイプに惑わされないように、10番、12番の選手にプレッシャーをかけてきた時の対応も後手に回っていた。

いずれにせよ、若きサモア代表相手に、アタック&戦術コーチを兼ねるジョーンズHCが意図する攻撃ができていたことだけは間違いない。

この試合はアタックだけでなく、ディフェンスでも改善が見られた。コーチとして就任1週目のリー・ジョーン氏の指導の効果が、早速、見られたと言ってよいだろう。リーコーチは就任早々、主将や副将らのリーダーグループを前にディフェンスにおける「フィロソフィー」を伝えたという。また「(日本代表は)接点で人数をかけ過ぎている。判断が良くない」と感じていた。

組織的なディフェンスでは、しっかりとセットできたときは、素早く前に出て相手のディフェンスのスペースを奪っていた。さらに、タックルする前にパドリング(足を細かく動かす動作)し、相手のステップに対応して、しっかりタックルに入っていた。後半、トライを奪われたシーンではパドリングができていない選手も見られたが、個々の問題であり、すぐに対応可能だろう。

また、チャンスと見たらカウンターラックでターンオーバーを狙うなど、今までには見られなかった積極性が見られたことも頼もしかった。

過去2年間、日本代表はアジア5カ国対抗後のフィジー、トンガといったパシフィックアイランダーとの対戦に敗戦していたが、ジョーンズHC就任後3年目にして初めてサモア代表に33-14で勝利。テストマッチで初となる7連勝を達成し、世界ランキングも過去最高タイの12位へと上げた。

経験豊かな指揮官が「Instinct(直感)」で選出し、見事なステップからトライを挙げたCTB松島選も多いに将来性を感じた。日本歴代最多得点記録を更新しつつあるFB五郎丸歩のプレースキックも正確だった。元フランス代表HOのマルク・ダルマゾコーチの下で強化し続けているスクラム、ラインアウトというセットプレーの安定も大きかった。

「エディー・ジャパン」のチームとしての成長を感じるとともに、2015年9月の開幕まで、あと1年あまりとなったラグビーW杯が楽しみな夜となった。

日本代表は、現在、北米遠征中であり、6月7日(日本時間8日10時キックオフ)にカナダ代表(世界ランキング15位)と、6月14日(日本時間15日11時30分キックオフ)に2015年W杯で同組に入ったアメリカ代表(同18位)とアウェイで対戦する。そして6月21日にはホームである東京・秩父宮ラグビー場でイタリア代表(同14位)を迎え撃ち、春シーズンを終える。

今後も2015年のW杯に向けて、着実に進化を遂げつつあるラグビー日本代表から目が離せない。

スポーツライター

ラグビーとサッカーを中心に新聞、雑誌、Web等で執筆。大学(西洋史学専攻)卒業後、印刷会社を経てスポーツライターに。サッカーは「ピッチ外」、ラグビーは「ピッチ内」を中心に取材(エディージャパン全57試合を現地取材)。「高校生スポーツ」「Rugby Japan 365」の記者も務める。「ラグビー『観戦力』が高まる」「ラグビーは頭脳が9割」「高校ラグビーは頭脳が9割」「日本ラグビーの戦術・システムを教えましょう」(4冊とも東邦出版)「世界のサッカー愛称のひみつ」(光文社)「世界最強のGK論」(出版芸術社)など著書多数。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。1975年生まれ。

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