Yahoo!ニュース

アカデミー賞快挙も「ゴジラ-1.0」は現在アメリカで観られない? その理由とは…

斉藤博昭映画ジャーナリスト
(写真:REX/アフロ)

第96回アカデミー賞では、視覚効果賞『ゴジラ-1.0』、長編アニメーション賞『君たちはどう生きるか』と日本映画が2冠の快挙となり、この2作は現在も日本で公開中ということで、「アカデミー賞効果」で劇場に足を運ぶ人が復活しそう。未見の人はもちろん、すでに観た人もアカデミー賞の感動を噛みしめたくなるもの。『君たちは』は、豪華キャストによる英語吹替版(クリスチャン・ベール、ロバート・パティンソン、ウィレム・デフォー、フローレンス・ピュー、マーク・ハミル…etc.)の公開が日本で始まるので、そちらを観たくなる人もいるはず。

もちろんアカデミー賞のお膝元であるアメリカでも受賞効果による再ヒットは期待される。ただ作品賞の『オッペンハイマー』は昨年夏の公開で、すでに昨年末にソフトも出ているし、Peacockでの配信も2月に始まっている。通常、アカデミー賞効果は前年末あたりの公開作に大きく表れる。昨年12月にアメリカで劇場公開された『君たちはどう生きるか』は現在もアメリカ主要都市では、回数は限られつつ上映が続いている。この週末には観客が詰めかけるだろう。では『ゴジラ-1.0』はどうか。強力なハリウッド大作を抑えて受賞した視覚効果がいったいどんなレベルなのか。確認したいアメリカの観客もきっと多いはずだが、残念ながら劇場での公開は終了。現在は、まだ配信でも観ることはできない。

昨年の12/1に北米で劇場公開。大ヒットした『ゴジラ-1.0』は、1/26の北米の週間ボックスオフィスでも、まだ7位にランクインしていた。しかしその翌週、2月の第1週ではランクからぱったりと姿を消してしまった。ランク全64本の中にも入っていない。つまり2/1に一気に劇場公開がストップしたのだ。前週7位の作品にはありえない措置。

アカデミー賞直前のIndieWireの記事には、こんな記載があった。

今この段階で、アカデミー賞の前に視覚効果賞候補の『ゴジラ-1.0』を観たければ、ひとつの方法しかありません。それは投票用にアカデミー会員に送られたリンクだけです

この“観られない”理由は、ゴジラが登場する、もう1本の映画と関係しているらしい。ハリウッド製作の『ゴジラxコング 新たなる帝国』が3/29に北米公開されるからだ(日本は4/26公開)。

日本の東宝と、「モンスター・ヴァース」を手掛けるレジェンダリー・ピクチャーズ、ワーナー・ブラザースにはゴジラ映画に関する契約があり、同じ年にゴジラが登場する新作を公開できない。ゆえに『ゴジラ-1.0』も昨年末に北米公開となった。

そして大ヒットにもかかわらず、2/1で劇場公開を終わらせざるをえなかったのは、『ゴジラxコング』との契約と関係しているのでは……とIndieWireの記事も伝えている。『ゴジラ-1.0』はアメリカでは配信日も発表されていないので、アカデミー賞効果で観たい人の心もモヤモヤさせることになった。とにかくアメリカの人たちに今、『ゴジラ-1.0』を観てもらえないのは、ちょっと残念!

現時点で中国、韓国、インドなど大きなマーケットをもつ国でも『ゴジラ-1.0』は未公開なので、アカデミー賞受賞後、それらの国でどのように受け止められるか、反応を知る楽しみは、まだ先のようである。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

斉藤博昭の最近の記事