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オスカーの重さも体験!? 受賞で日本も盛り上がり、LA観光の目玉になりそうなアカデミー・ミュージアム

斉藤博昭映画ジャーナリスト
山崎貴監督にオスカーを渡したシュワちゃんの「T2」のモデルも展示(撮影/筆者)

日本でも例年以上に盛り上がった、今年のアカデミー賞。『ゴジラ-1.0』でアジア作品初の視覚効果賞を受賞した山崎貴監督が早速、オスカー像を日本に持ち帰り、凱旋会見では同作に出演した浜辺美波が監督からオスカー像を受け取り、その重たさを実感していた。この後、何人もの関係者がオスカー像を手にして、喜びを分かち合うことだろう。

では実際にオスカー像は、どんな重さなのか。公式には3.86kgとなっているが、実際に持たないと手触りも含め実感はできない。さすがに一般人は手に取るチャンスはない……と思ったら、ある場所では本物と同じオスカー像を持ち、なんとステージ上で受賞の喜びまで体験できるのだ。それはロサンゼルスのアカデミー映画博物館。2021年9月にオープンしたこのミュージアムは、映画芸術アカデミーの1300万点というコレクションの中から選りすぐった展示品のほか、さまざまな企画、映画の上映も行われ、今も連日の大賑わい。LAの新たな観光スポットとなっている。今年はアカデミー賞の受賞結果に加え、ドジャースも盛り上がっているので、日本人にとってLAは最高の行き先のひとつになりそう。

オスカー像を持つことができるのは、アカデミー賞体験シミュレーション。ステージに上がると、目の前には映像で客席が再現され、そこでなんと自分の名前が呼ばれる。オスカー像を手に喜び、感動しながら短いスピーチができ、それを数分後に録画映像としてもらえるのだ。まさに一生の思い出になる、いわゆるアトラクション。観光客には体験必至である(入場料とは別料金が必要)。

アカデミー賞体験シミュレーションの録画映像から(モデルは筆者)
アカデミー賞体験シミュレーションの録画映像から(モデルは筆者)

もちろんメインの展示は、映画ファンにとって天国のような空間。最初に迎え入れてくれるのが、アカデミー賞の歴史の部屋。さまざまな記録や、初期の授賞式でのパンフレットなどが展示され、歴代のトピックとなった受賞スピーチが映像で流れている。そのチョイスも絶妙で、黒人初のハッティ・マクダニエルや、当時史上最年少のテイタム・オニールなど多くの人にインパクトや感動を与えた名スピーチの数々の中に、ミヨシ梅木石岡瑛子という日本人受賞者も含まれており、眺めているだけで心が震える作りになっている。

その後は名作の撮影で使われたアイテムの、怒涛のような展示が待っている。『カサブランカ』のピアノや、『ゴッドファーザー』でベッドの上に置かれた馬の首(本番ではペットフード工場から手に入れた本物が使われたので、リハーサル用の模型)など、映画ファンには垂涎のレアアイテムがズラリ。「映像」「音響」「演技」「脚本」「キャスティング」など映画がどのように完成するのかを、名作の貴重な資料とともに体感させる展示にも感動する。たとえば「音響」では『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』の有名な巨大岩ゴロゴロのシーンに、音がどうやって重ねられたかを映像で体感させてくれる。

これが『ゴッドファーザー』でベッドに置かれていた。(撮影/筆者)
これが『ゴッドファーザー』でベッドに置かれていた。(撮影/筆者)

そして意外なほど力が入っているのが、特殊効果やアニメの展示で、このあたりは今年のアカデミー賞で日本映画の受賞とリンクするので感慨深いはず。特殊効果では、『キング・コング』のウィリス・オブライエン、『アルゴ探検隊の大冒険』のレイ・ハリーハウゼンら、レジェンドたちの仕事が現在にどう受け継がれ、発展してきたかが手に取るようにわかる。特殊メイクから小道具、CGIに至るまで、ここでも貴重な「実物」のオンパレード。アニメーションの部屋にも、1940年の『ピノキオ』のために制作されたジミニー・クリケットのモデルなど目を疑う歴史的アイテムが並んでいる。

(撮影/筆者)
(撮影/筆者)

2016年公開で、日本が舞台になった3Dストップモーション・アニメ『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』の実物大セット。(撮影/筆者)
2016年公開で、日本が舞台になった3Dストップモーション・アニメ『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』の実物大セット。(撮影/筆者)

ミュージアムらしいのが「映画への軌跡(Path to Cinema)の空間。映像エンタテインメントの収集家である故リチャード・バルザーの所蔵品が展示されているのだが、映画が誕生する以前の「映像と人間」の歴史にもさかのぼる。その最初の展示品が、日本の浮世絵(影絵を描いている)なのは、ちょっとしたサプライズだった。

『ジョーズ』で使われたサメのモデルが! (撮影/筆者)
『ジョーズ』で使われたサメのモデルが! (撮影/筆者)

展示スペースの最上階は特別展。2021年のオープン時には宮崎駿展が開催され、大きな話題になった。ここで2023年の9月から2024年の8月まで開催されているのは、なんとジョン・ウォーターズ展! その展覧会名も監督の形容詞ともいえる「Pope of Trash」、トラッシュ(ごみ)映画の司祭である。初期の『ピンク・フラミンゴ』などでカルト映画の鬼才となったウォーターズの、超危険で毒々しい世界にも踏み入った展示だが、彼をフィーチャーするあたりにアカデミー映画博物館の懐の深さを感じずにはいられない。

『ヘアスプレー』の衣装も展示
『ヘアスプレー』の衣装も展示

今年のアカデミー賞の余韻はもちろん、映画の歴史を体感するうえで、世界中で最高のプレイスであることは間違いない。ロサンゼルス旅行の目玉として考えてもいいかもしれない。

Academy Museum

6067Wilshire Boulevard, Los Angeles

入場料:大人$25、62歳以上$19、学生$15(要証明書)、17歳以下無料

アカデミー賞体験:1人$15 公式サイトはこちら(英語)

Photo by Joshua White, JW Pictures/ (c) Academy Museum Foundation.
Photo by Joshua White, JW Pictures/ (c) Academy Museum Foundation.

ジョン・ウォーターズ展 画像クレジット:John Waters: Pope of Trash is organized by the Academy Museum of Motion Pictures and made possible in part by major funding from Agnes Gund and Robert and Eva Shaye, The Four Friends Foundation. Generous support provided by Emma Koss and Sara Risher. Technology solutions generously provided by Christie. Academy Museum Digital Engagement Platform sponsored by Bloomberg Philanthropies.

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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