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「ゴジラ」をはじめ戦争・反戦へのアピールが不覚にも強調された今年のアカデミー賞

斉藤博昭映画ジャーナリスト
作品賞・監督賞のノーラン監督と受賞を喜ぶ山崎貴監督(写真:ロイター/アフロ)

『ゴジラ-1.0』『君たちはどう生きるか』の受賞で日本でも盛り上がった第96回アカデミー賞。しかし全体を振り返ったとき、今年の授賞式から浮かび上がったのは、戦争に関する作品、あるいは戦争へのメッセージだった。

日本映画の受賞作2作『ゴジラ』『君たちは』にしても、両方とも第二次世界大戦が背景になっており、反戦メッセージが直接的ではないにしろ伝わってくる。作品賞ほか7部門受賞の『オッペンハイマー』も、言うまでもなく広島・長崎に投下された原爆の開発が物語のメインになっていた。

同作で主演男優賞を受賞したキリアン・マーフィーは、スピーチの最後を「オッペンハイマーが原爆を開発し、そうした世界で今のわれわれは生きている。和平を望む」と締めくくった。はっきりとではないが、現在起こっている戦争への反対メッセージが込もっていたのは事実だ。

現在の戦争といえば、イスラエルとパレスチナの問題だが、ハリウッドでイスラエル批判をすることは御法度。通常は社会問題に対するメッセージを過剰なまでに入れるアカデミー賞授賞式でも、直接的なアピールは難しい。その状況で、パレスチナの国旗のピンバッチを着けて授賞式に参加したのが、フランス映画『落下の解剖学』のチームだった。ハリウッドの“外”だからこそできたアピールだっただろうが、その分、強く印象づけられた。

写真:ロイター/アフロ

一方で歌曲賞を受賞したビリー・アイリッシュの胸元には、赤いピンバッチがあった。『哀れなるものたち』に出演したラミー・ユセフやマーク・ラファロ、またプレゼンターで登場したマハーシャラ・アリも赤バッチ。これは、イスラエル、パレスチナのどちらかに対してではなく、イスラエル人の人質解放、およびガザの一般市民への被害への抗議、両方へのアピールで、戦争の停止を訴えるものとされる。いずれにしても戦争の終結を求める思いという点では共通している。

受賞作を振り返っても、長編ドキュメンタリー賞に輝いたのが『実録 マウリポリの20日間』。ウクライナの現実をとらえたこの作品で、受賞した監督はウクライナで初めてのオスカーを喜びつつ、ロシアによる侵攻に対して、激しい抗議を口にした。また、短編アニメーション賞を受賞したのが『War is Over!』。ジョン・レノンとオノ・ヨーコの息子、ショーン・レノンの作品だが、タイトルどおり反戦メッセージの作品である。

また、日本映画『PERFECT DAYS』がノミネートされていた国際長編映画賞を受賞した『関心領域』も、アウシュヴィッツ収容所の隣で暮らしていた一家の物語で、現在の状況につながるシーンもあり、戦争を見て見ぬフリをする人々への警鐘にもなった作品。監督のスピーチにも、もちろん戦争反対の思いが溢れていた。同作は『オッペンハイマー』が有力視された音響賞も受賞した。

アカデミー賞はつねにその時代を象徴するものだが、今年はウクライナ、およびガザの今も続く悲劇が意外なまでに反映されることになった。日本映画の躍進を素直に喜びつつ、こうした現実とのリンクにも注目することで、さらにその意義を受け止めることもできる。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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