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突然、公開延期が決まった映画。あの監督の性加害騒動とは無関係と思いたい。東京国際のアニメにも不安が?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『1%er(ワンパーセンター)』公式HPより

公開を1ヶ月後に控えた、ある映画が突然、公開延期が決まった。11/10(金)公開の『1%er(ワンパーセンター)』だ。10/6(金)、配給会社から発表され、その理由として伝えられたのは「総合的な判断により」で、具体的な実情は述べられていない。

この公開延期には、ちょっと奇妙な動きがあった。10/6に先立つ10/2(月)に『1%er』を上映する予定だった東京の新宿武蔵野館が自社のX(旧twitter)アカウントで、公開の中止を発表していたのだ。ここでも理由は「諸般の事情により」と綴られたのみ。通常、何かの事情で映画の公開が延期・中止になる場合、まず配給会社がアナウンスするのが常識だが、このように上映劇場が理由も明かさず、自ら中止を切り出すケースはちょっと珍しい。

この新宿武蔵野館の上映中止が、『1%er』の全国的公開延期の引き金になったとも考えられる。

『1%er』は、かつて一世を風靡したアクション俳優が、撮影で訪れた無人島で傭兵軍団と戦う一作。主演を務めたのが、アクション俳優、アクション監修で活躍してきた坂口拓で、自身を彷彿とさせる役どころが話題になっていた。

この少し前のこと。ある日本の映画監督の海外の映画祭出席がキャンセルされたことが、一部で話題になっていた。園子温監督だ。9月末からポーランドで開催される、インラン・ディメンションズ国際アート・フェスティバルで、園子温作品が特集上映され、監督も同地に渡航する予定だったが、開催直前になって参加が取りやめになった。この園子温監督の海外映画祭参加に関しては、早くから一部で疑問の声が上がっていた。

園子温監督は2022年、週刊誌で女優への性的関係の強要を報道され、監督側がその記事に対して訴訟を起こす騒動となった。園監督については他にも性被害に関する様々な証言も出ていることで、泥沼の様相を呈し、監督が表舞台に現れることは少なくなっていた。そんな中でのポーランドの映画祭の出席ということで、動向が注目されていたのだ。

そして、この園子温監督の性加害騒動で名前が出ていたのが、坂口拓であった。10年前のことながら、園監督が女性に対して加害的行為をしたとされる飲み会に同席していたことを認め、自身のYouTubeチャンネルで謝罪。坂口自身が性加害を訴えられたわけではないが、園監督の『地獄でなぜ悪い』や、彼のハリウッド進出作『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』への出演など、公私にわたる深い関係が改めて伝わったことで、イメージが傷ついたのは事実。さらに坂口は、園監督より前に性加害で糾弾された榊英雄監督とは、彼の俳優時代で何度も共演している仲。映画デビュー作も榊との共演作だった。坂口は木下ほうかとも親しいことから、いろいろと“渦中の人”という存在ではあった。

園子温監督のポーランドの映画祭キャンセル、その直後のタイミングで坂口拓の主演映画が公開延期……となると、偶然ではない何かのリンクを想像してしまう人も多いかもしれない。しかし、本当の理由はわからない。

「諸般の事情」「総合的な判断」という記述は便利だが、「今は詳しく言えない」という“闇”が伝わってくるのではないか?

この映画人の性加害問題で、間もなく開催される第36回東京国際映画祭で、不安な作品もある。同映画祭にとっても肝となるアニメーション部門の一作だが、2017年頃から出演者への性行為の強要を訴えられ、現在もその話がくすぶっている監督がプロデューサーを務めた作品が上映される。これに関しても一部から「国際映画祭という場で大丈夫なのか?」という心配の声が聞かれる。

故ジャニー喜多川の問題のように、公の見解として「認められた」性加害と比べてはいけないかもしれない。しかし何かとモヤモヤする状況が続いているのは間違いなく、このように理由が明示されない映画の公開延期に際し、想像力がはたらいてしまうのである。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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