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予想外に評価高い「トランスフォーマー」新作。ミュージカルの経験も生かされたと、新主人公のこの人が語る

斉藤博昭映画ジャーナリスト
主演のアンソニー・ラモス。人なつっこい笑顔が作品に温かみを加える。(写真:ロイター/アフロ)

日本のタカラ(タカラトミー)から発売された変形ロボットがアニメシリーズとなって人気を拡大。2007年にはスティーヴン・スピルバーグ製作、マイケル・ベイ監督という最強タッグで実写化された『トランスフォーマー』。その後、シリーズ6本が作られたが、2023年、再始動と言ってもいい新作が完成した。

その『トランスフォーマー/ビースト覚醒』、シリーズでも最高の評判を獲得している。映画批評サイト、ロッテントマトでは一般観客から91%の満足度を獲得(8/1現在)。これまでの最高だった1作目の85%を大きく更新した。

その内容はここでは触れないが、物語も新たなスタートとなる。これまでシャイア・ラブーフ、マーク・ウォールバーグらが担ってきた人間側の主人公は、今回、アンソニー・ラモスに引き継がれた。

「アンソニー・ラモス? 誰それ?」と言う人も多いかもしれない。

プエルトリコにルーツを持つ、NYブルックリン出身の31歳。映画は『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』などに出ているが、この人は何と言っても、ミュージカルのスターである。ブロードウェイの大ヒットミュージカル「ハミルトン」で主人公の息子を演じ、やはりブロードウェイ・ミュージカルで映画になった『イン・ザ・ハイツ』では主演を務めた。ミュージシャンとしても活躍するラモスが、「トランスフォーマー」に新たな息吹を届け、しかも観ているこちらが共感せずにはいられないヒューマンな魅力をたっぷり発揮しているのだ。

激しいアクションもこなすアンソニー・ラモス。マチュピチュ遺跡などロケ地も見どころ。
激しいアクションもこなすアンソニー・ラモス。マチュピチュ遺跡などロケ地も見どころ。

そのアンソニー・ラモスに、俳優組合のストライキが始まる少し前にインタビューした。

アクション超大作での主演、しかも「トランスフォーマー」は撮影方法も特殊。そんな現場にどのような思いで挑んだのか。

「アクション大作、ヒーロー映画というのは僕にとって初めての経験となったので、とにかく肉体作り、トレーニングに勤しみました。だって5週間とかぶっ続けで夜間の撮影があったりするんですよ! スタミナが問われる現場だったのです。そして共演するオートボット(トランスフォーマー)はもちろん目の前にいません。からっぽの空間で一人で演技をするのも、これまた初めてだったので、すべてが新鮮なチャレンジでした」

あらゆることが初体験の現場。しかし、これまでのミュージカルでのアプローチが生かされたのではないか、と聞くと……。

「そうなんですよ。ミュージカルとアクション作品って、共通点が多いんです。アクションを撮影する際にも『ここに足を置いて』とか、『相手が向かってくるから右に避けて、ジャンプして、ここで受け止めて』とか、ミュージカルの振付を覚えるプロセスとそっくり。特に相手がいる格闘シーンなんかは、ダンスナンバーとほとんど同じ感覚でした。

 映画の撮影では、何度も同じテイクを繰り返しますよね? アクションシーンは少しでもしっくりこないと、同じ動きを撮り続ける必要があります。ミュージカルのナンバーでも、同じ曲を何度も踊ることが要求されますが、そうやってテイクを重ねるごとに、動きにひとひねり加えたり、新たな表現を試せるんです。そこもアクション映画に近いのではないでしょうか」

さらに舞台俳優としての経験も有効だったという。

「舞台の仕事、とくにミュージカルの場合は、上演時間内のスタミナをキープするのが大変です。そのためのペース配分を自分で考えなくてはなりません。こうした配分のアプローチは、今回も意識しました。アクション映画の場合、ちょっとしたミスや間違いが大事故につながる可能性があります。だからつねに100%の集中力が要求される。この集中力の持続も舞台と似ていますよね。下積みも含め過去の経験が生かされたと心から思っています」

ネオは病気を抱える弟のためにも新しい仕事を探していたところ、トランスフォーマーの戦いに巻き込まれてしまう。
ネオは病気を抱える弟のためにも新しい仕事を探していたところ、トランスフォーマーの戦いに巻き込まれてしまう。

アンソニー・ラモスが演じるネオは、NYのブルックリンで暮らす青年。ブルックリンで生まれ育ったラモスは、自然体で演じられたのではないか。

「ブルックリンって、ものすごく特殊な地区なんです。NYは全部の地区が一緒くたにされがちですが、ブルックリンを訪れたり、しばらく過ごしたことのある人なら、実感としてわかると思います。ブルックリンの住民に『NY出身だよね?』と尋ねると、『違う! NYではなくブルックリン』と答えるはず。ブルックリン自治区は、いつかアメリカから独立するんじゃないか……というのは冗談として、それくらい特殊な人たちが集まっているんです。

 地元のレストランや人気の食べ物、言葉遣いに至るまでブルックリンのカルチャーは、僕の身体にしみついています。子供の頃に遊んでいた場所で映画の撮影をするのは、ちょっとシュールな体験でしたが、生まれ育った場所では自然体でいられ、演じやすかったのは確かですね」

完成作を観たアンソニー・ラモス。「壮大なクライマックスのシーンは、肉体的に本当に辛かった。あんなに素晴らしい映像に仕上がっていたなんて、役者冥利に尽きます」と自信に満ちた笑顔を見せる。

この俳優がなぜ、われわれ観客の心をつかむのか。プロデューサーのロレンツォ・ディ・ボナヴェンチュラが「その辺にいる“お兄ちゃん”という雰囲気なのに、スクリーンに映ると存在感、多面性を発揮できる稀有なタイプ」と称賛するその魅力、ぜひ確認してほしい。

『トランスフォーマー/ビースト覚醒』

8月4日(金)、全国ロードショー

(C) 2023 PARAMOUNT PICTURES. HASBRO, TRANSFORMERS AND ALL RELATED CHARACTERS ARE TRADEMARKS OF HASBRO. (C) 2023 HASBRO

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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