Yahoo!ニュース

アントマン新作で登場のMCU最凶の敵、別作品では衝撃ボディビルダーで来年オスカー候補かも…超注目俳優

斉藤博昭映画ジャーナリスト
ボディビルの世界の舞台裏も見られる『Magazine Dreams』

2/17に公開が始まった、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の最新作『アントマン&ワスプ:クアントマニア』。MCUのフェーズ5の幕開けと位置づけられているが、注目なのはフェーズ5で最大にして最凶の敵となるキャラの登場である。

その名は、カーン。新生アベンジャーズが束になっても敵うかどうか。あのサノスをも超える強敵とされる。マルチバースが“常識”となったMCUにおいて、カーンはマルチ=複数の時間をすべて征服しようと目論む存在。ひとつの次元で難を逃れ、別の次元へ移ろうとも、そこでもカーンの脅威が存在する。しかもカーンは未来で何が起こるかを知っている……。もはや逃れる手立てはないのか?

このカーン、じつはフェーズ4ですでに登場していた。2021年のシリーズ「ロキ」の終盤に出てきた“在り続ける者”が、今回のカーンと同じ俳優、ジョナサン・メジャースによって演じられていた。征服者カーンの変異体と考えられる役回りだった。

『アントマン&ワスプ:クアントマニア』のカーン。どこか頼りなさげな表情だが、その素性は……
『アントマン&ワスプ:クアントマニア』のカーン。どこか頼りなさげな表情だが、その素性は……

今回の『アントマン&ワスプ:クアントマニア』で、われわれはカーンのキャラクター、その片鱗を知ることになるのだが、それ以上に記憶に残したいのはジョナサン・メジャースである。2023年、最も注目すべき俳優となるのは間違いないからだ。

今年の1月、サンダンス映画祭で上映された『Magazine Dreams(原題)』で主演を務めたメジャース。その演技は大絶賛を受け、来年のアカデミー賞へ向けて主演男優賞の有力候補に上げた人もいるほど。さすがにまだ気は早いが、実際に作品を観れば、その年を代表する渾身演技と認めざるをえない。

メジャースが演じたのは、ボディビルダーのキリアン。雑誌の表紙になることを夢みて(それがタイトルの由来)日々、トレーニング、食生活にストイックに向き合い、祖父の面倒を看る生活を送っているが、とにかくボディビルのことしか頭にない。女性とのデートにこぎつけてもボディビルの話しかできないので、相手はドン引き。思い込みが強すぎる性格が災いし、暴力沙汰を引き起こすこともある。そしてキリアンは予想もできない壮絶かつ衝撃の運命をたどるのだった。ジョナサン・メジャースは、肉体改造はもちろん、激しすぎる演技の積み重ねで、その役柄も相まって『タクシードライバー』のロバート・デ・ニーロを彷彿とさせたりも……。来年の賞レースの予想はまだまだ先の話とはいえ、観れば主演男優賞に推したくなる気持ちも納得。日本での公開は今のところ未定。

さらにメジャースには、2023年、もう一本の話題作が待っている。『クリード 過去の逆襲』だ。アメリカなどでは3/3公開で、日本は5/26公開。あの「ロッキー」シリーズからバトンを受けた「クリード」の3作目。ここでメジャースは、主人公アドニス・クリードに復讐を誓う、幼なじみのデイミアンを任されている。2人のリング上の死闘が見どころになるのは間違いないが、複雑な葛藤を抱えるデイミアンで、メジャースの演技力も発揮されるはず。

このように大ヒット確定的なメジャー作品が2本、さらに賞レースに絡みそうな主演作が1年の間に凝縮されるのは、偶然とはいえ、俳優にとっては奇跡に近い幸運である。

これまでも、A24作品『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』の主役の一人や、スパイク・リー監督の『ザ・ファイブ・ブラッズ』などで、映画ファンには“顔”は知られてはいたが、ここへ来て、マーベル最凶の敵ボディビルダープロボクサー……と、向かうところ敵なしのジョナサン・メジャースの快進撃を、2023年、われわれは目にすることになる。

『Creed Ⅲ』のUKプレミアより。ジョナサン・メジャース
『Creed Ⅲ』のUKプレミアより。ジョナサン・メジャース写真:REX/アフロ

『アントマン&ワスプ:クアントマニア』全国公開中

(c) Marvel Studios 2022

『Magazine Dreams』

courtesy of Sundance Institute

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

斉藤博昭の最近の記事