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「トップガン」、前哨戦の最高賞でアカデミー賞候補に一歩前進? トムは紛糾する「あの賞」やはり欠席か

斉藤博昭映画ジャーナリスト
トム・クルーズ(写真:REX/アフロ)

アカデミー賞に向けた各映画賞が発表され始めた12月。その前哨戦のひとつでもある、ナショナル・ボード・オブ・レビューが12/8(現地時間)に発表され、作品賞は『トップガン マーヴェリック』に贈られた。

1932年から作品賞の発表が始まったこの賞。あのアカデミー賞が1929年のスタートだから、ほぼ同じ長さの歴史をもっており、作品賞を受賞した作品が、そのままアカデミー賞作品賞にノミネートされる確率がひじょうに高い。

過去20年では、ナショナル・ボード・オブ・レビュー作品賞20本のうち18本がアカデミー賞作品賞にノミネート。うち3本がアカデミー賞作品賞に輝いている。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』など思わぬ作品賞の例もあったが、同作はそのままアカデミー賞作品賞にノミネートされた。

それ以前でも『アメリカン・ビューティー』『フォレスト・ガンプ/一期一会』『シンドラーのリスト』『羊たちの沈黙』『ダンス・ウィズ・ウルブズ』『ドライビング Miss デイジー』など、アカデミー賞作品賞と一致するケースがめちゃくちゃ多かった賞でもある。

『トップガン マーヴェリック』はアメリカでは2022年、最高のヒット作であり、以前からアカデミー賞作品賞にノミネートされるのでは……という評判だったが、今回の受賞でさらに確実になったと言ってよさそう。アカデミー賞授賞式を盛り上げることに一役買いそうだ。実際に作品賞受賞となると、スティーヴン・スピルバーグ監督の『フェイブルマンズ』、ここへきて評価が急上昇中の『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』など他に強力作がいくつも控えている一方、近年は意外な結果も出ているので、現状はなんとも言えないところ。

『トップガン マーヴェリック』はトム・クルーズがプロデューサーを務めているので、作品賞ノミネートとなればトムは授賞式に来るだろう。それ以前に、彼自身が主演男優賞にノミネートされる可能性もある。12/10現在、業界誌Varietyの予想では、『トップガン マーヴェリック』は作品賞で5番手、主演男優賞ではトムが6番手につけている。

偽善者になりたくないとスターが欠席表明

そうなると、アカデミー賞の前にTV中継される、ある賞に注目が集まる。ゴールデングローブ賞だ。アカデミー賞の前の最大の前哨戦といわれてきたゴールデングローブだが、主催するHFPA(ハリウッド外国人映画記者協会)の数々の問題により、過去2年間は例年のような授賞式が開催されなかった。コロナの影響もあったが、業界がHFPAをボイコットしていたのも大きな理由だ。

「ハムナプトラ」シリーズでトップスターになるも、キャリアが低迷していたブレンダン・フレイザー。新作『The Whale』では体重600ポンド(約272kg)の主人公を熱演し賞レースに加わった。
「ハムナプトラ」シリーズでトップスターになるも、キャリアが低迷していたブレンダン・フレイザー。新作『The Whale』では体重600ポンド(約272kg)の主人公を熱演し賞レースに加わった。写真:REX/アフロ

次回は3年ぶりに従来どおりTV(NBC)が授賞式を中継する。しかし現段階ですでに、ノミネートされる可能性の高い何人かのスターが、授賞式の欠席を表明している。ブレンダン・フレイザーダニエル・クレイグオリヴィア・コールマンといった面々。ブレンダン・フレイザーは過去にHFPAのメンバーからセクハラを受けて同団体を告発。HFPAがその告発をはねつけたことで、両者には深い因縁がある。このセクハラ事件後、フレイザーのキャリアは低迷し、鮮やかに復活したのが今年の主演作『The Whale』で、彼はヴェネチア国際映画祭で大絶賛され、アカデミー賞でも主演男優賞の最有力候補の一人。当然、ゴールデングローブへのノミネートも有力だが、フレイザーはGQのインタビューで「母は僕を偽善者になるように育てなかった」と強烈なコメントを放ち、ノミネート発表前ながらゴールデングローブ欠席を表明した。

トム・クルーズも、このHFPAへの反発を露わにしたスターの一人で、かつて受賞したゴールデングローブの3つのトロフィーを「手元に置いておきたくない」と協会に送り返したほどだ。そんなトムについては、今回のゴールデングローブで作品賞、主演男優賞のノミネートの可能性にふれつつ「授賞式に来ないのでは」と予想する記事も出ている。

ゴールデングローブのノミネート発表は12/12(現地時間)とこれからだが、それ以前に、このようにスターたちの出席/欠席が話題になり、1/10(現地時間)の授賞式の1ヶ月前にようやく司会者、ジェロッド・カーマイケルが発表されるなど、混乱が見受けられつつ、3年ぶりの授賞式TV中継ということで、華やかなショーを成功させようという気運の記事も見られる。

『トップガン マーヴェリック』、およびトム・クルーズのノミネートがどうなるか。ノミネートされたスターたちは、すんなり出席を表明するのか。第80回という記念すべき節目を迎えるゴールデングローブ授賞式。2024年の第81回についてはNBC中継の契約が決まっていないようなので、どのような動きになるか注視したい。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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