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巨匠が競うピノキオ、殺人鬼になったプーさん、日本人ダンサー出演…ディズニー人気キャラは多様に進化

斉藤博昭映画ジャーナリスト
ディズニープラスで配信される『ピノキオ』

9/8からディズニープラスで配信が始まる『ピノキオ』は、あの名作の新たな映画化。1940年に公開されたアニメーション映画『ピノキオ』が実写として甦るわけだが、このようにディズニーの名作が新たな手法で復活するパターンは、『アリス・イン・ワンダーランド』『シンデレラ』『美女と野獣』『アラジン』『ライオン・キング』……と、つねに注目を集め、劇場公開の場合、多くが特大ヒットになっている。ディズニーの人気キャラクターの威力、時を超えてまったく衰え知らずである。

これらの例は、ディズニー自身による再映画化で、もちろん『ピノキオ』も同様。今回、監督を務めたのがロバート・ゼメキスで、ゼペットじいさん役はトム・ハンクスと、『フォレスト・ガンプ/一期一会』コンビの最強布陣。ピノキオやジミニー・クリケット(コオロギ)、ネコ、金魚、そしてクジラなど人間以外のキャラクターはCGで、これもここ数年のディズニー実写化のパターン。ディズニーが自社の“遺産”を再生するわけだから、基本的に1940年版とのリンクを楽しめる作りになっていそうだ。ディズニーの長い歴史でも、最高の名曲である「星に願いを」は、今回どのように使われているか……。

ディズニーが有名にした「ピノキオ」だが、原作はある。19世紀末に出た、イタリアのカルロ・コッローディ作の童話「ピノッキオの冒険」だ。ディズニー以外でも映画化されており、母国イタリアでロベルト・ベニーニ主演で実写化した『ピノッキオ』などが有名。その新たな映画化に挑んだのが、『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』だ。こちらは今年12月にNetflixで配信される。デル・トロのこだわりは、ストップモーション・アニメ。アナログ感も全開に、デル・トロらしい奇妙で味わいのあるキャラクター造形や動きに期待が高まる。デル・トロは脚本・製作も手がけており、まったく新しいピノキオの世界が届けられそうな予感。

ロバート・ゼメキスとギレルモ・デル・トロ。ともにアカデミー賞監督で、映像にはとことんこだわる巨匠が、同じ題材で新作を完成したことになる。しかもディズニープラス、Netflixという配信の2大巨頭というのも因縁めいていないか。

このようにディズニーで有名になったキャラを他社が新たな映画にするというパターンで、衝撃の新作もある。クマのプーさんが殺人鬼となる実写ホラーだ。

原作であるA・A・ミルンの児童小説「クマのプーさん」が、著作権が発生しない“パブリックドメイン”になったことで生まれた映画『Winnie the Pooh: Blood and Honey(クマのプー:血とハチミツ)』は、先日、予告編が解禁され大きな話題となった。

自分を捨てたクリストファー・ロビンへの復讐心から、プーさんとピグレットが凶暴化。若者たちを次々と襲っていく。ただし出てくるのは、あの可愛い外見ではなく、プーさんやピグレットらしきマスクを被った怪人。ジェイソンやレザーフェイス、『ハロウィン』や『スクリーム』まで連想させる世界観は、逆に「そこまでやるか!」と感動レベルである。日本公開日は今のところ未定。

そしてもちろん、ディズニーが新たにアップデートさせる作品も待機しており、近々のもので注目なのは、『白雪姫』の実写化。『Snow White』が現在、2023年の公開に向けて製作中だ。ただこの作品、何かと波紋を呼ぶネタを提供している。主人公スノーホワイトを演じるのが、『ウエスト・サイド・ストーリー』でマリアを好演したレイチェル・ゼグラーだが、彼女は母親がコロンビア系。マリア役もプエルトリコから来たヒロインだったので、「白雪姫にラテン系?」という疑問が一部で上がった。ただ、最近の彼女の写真などを見ると、その批判も吹き飛ぶのではないか。

2022年6月、グラミー賞授賞式でのレイチェル・ゼグラー。
2022年6月、グラミー賞授賞式でのレイチェル・ゼグラー。写真:REX/アフロ

さらに、白雪姫の世界には重要な「七人のこびと」がどのように描かれるか、まだ明らかになっておらず、現代の映画におけるこの表現について論議が起こったりもしている。

そんな『Snow White』だが、ひとつ注目したいトピックもある。すでに発表されているクレジットにダンサー役で日本人の名前があるのだ。Misa Koide。イギリス在住のダンサーで振付家。5歳からクラシックバレエを学び、英国のバレエスクールに留学。2012年に日本に帰国して香瑠鼓、森山開次らの振付助手などを務めた彼女は、2015年から再びロンドンを拠点にしている。バレエ、コンテンポラリーと表現の幅を広げ、「王様と私」のロンドン公演(日本にも凱旋公演)などで活躍。(以上、Misa Koideのホームページより)

ダンサーとしての彼女の才能が『Snow White』でどのように発揮されているのか? 少なくとも『Snow White』はダンスも見どころのミュージカル映画の魅力に溢れることが想像される。

さらにディズニーのリメイクとしては『リトル・マーメイド』の新作も2023年公開予定で進んでおり、主人公のアリエル役にアフリカ系のハリー・ベイリーをキャスティングしたことで、こちらも一時、大きく騒がれたが、監督がロブ・マーシャル(『シカゴ』)で、ミュージカル界の大御所、リン=マニュエル・ミランダも音楽に参加している(出演の可能性も)ので安心保証か。

ピノキオにプーさん、白雪姫にリトル・マーメイド……と、ディズニーが有名にしたキャラクターや作品が、ますます多様化する流れは止まりそうにない。

アリエルを演じるハリー・ベイリー。2022年6月のグラミー賞授賞式より。
アリエルを演じるハリー・ベイリー。2022年6月のグラミー賞授賞式より。写真:REX/アフロ

『ピノキオ』 (C)2022 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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