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映画館行ってもハズレなし!? 7/1の公開作、信じがたいほど傑作ラッシュ

斉藤博昭映画ジャーナリスト
映画館がライヴ会場と化す? 『エルヴィス』

夏休みに向けて話題作の公開が相次ぐのが、毎年の映画興行。7月に入ると、その状況がよくわかるのだが、今年は月が変わるまさにその日、7/1に新作が多く公開されるだけでなく、そのどれもが傑作なのである。ここまで各ジャンルでハイレベルな作品が同日公開となるのも珍しい。

伝説のカリスマで『ボヘミアン』の興奮再び!

まず挙げられるのは『エルヴィス』。伝説的シンガー、エルヴィス・プレスリーの人生を描いたこの作品は、先週末に公開されたアメリカでは首位デビュー。エルヴィス本人が憑依したような、オースティン・バトラーの演技、およびステージ上でのパフォーマンスが絶賛されており、4年前の『ボヘミアン・ラプソディ』の記憶がよみがえる。クイーンに比べ、エルヴィスの場合はリアルタイムで知る世代が限定的とはいえ、ステージやTVショーでのパフォーマンスの演出が、観る人を選ばずアドレナリンを上昇させるのは確実。むしろ熱狂の渦に巻き込まれる度合いは『ボヘミアン』を上回る可能性もあり、“当たれば大きい”音楽映画のポテンシャルに期待できる。

ピクサー作品として久々の劇場公開

(C) 2022 Disney/Pixar. All Rights Reserved.
(C) 2022 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

次にピクサーの新作『バズ・ライトイヤー』。これまで数々の特大ヒットを送り出してきたピクサーだが、コロナ禍になってから日本で劇場公開されたのは、『2分の1の魔法』のみ。じつに2年4ヶ月ぶりにピクサー作品が劇場のスクリーンに戻ってくる。しかも、100億円超えの作品もある『トイ・ストーリー』シリーズの人気キャラが主人公になった新作だ。何かと物議を醸している要素もありつつ、「アンディ少年がバズに夢中になった映画」という設定、つまり本格SFアクションアドベンチャーを目指した作りで、映像、ドラマの両面でピクサー作品の魅力を純粋に満喫できる。

映画ファン必見の、あの監督の新作

(C) 2021 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved.
(C) 2021 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All Rights Reserved.

その名を聞くだけで心がときめく映画ファンは多い、ポール・トーマス・アンダーソン監督。『マグノリア』『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』『ファントム・スレッド』などアカデミー賞に絡む確率が異常に高い彼の新作で、やはり今回もアカデミー賞作品賞にノミネートされた『リコリス・ピザ』が7/1公開。1973年、カリフォルニア州、サンフェルナンド・バレーを舞台に描く、15歳の高校生と10歳年上の女性のラブストーリー。ピュアな青春映画であることを軸に、音楽やビジュアルに監督らしいセンスを盛り込み、さらに『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のように時代や映画へのオマージュがたっぷり。知らず知らず、その世界に没入してしまう不思議な魔力をもったこの作品は、日本の映画関係者たちの間でも、かなり前から「早く観たい!」という声が上がっていた。

怖くて感動もしてしまう奇跡のホラー

夏といえば、ぴったりなジャンルがホラー。今年もいくつか注目作があるなか、『ブラック・フォン』は、すでに観たマスコミ関係者の中でも異常に評判が高い一作。スティーヴン・キングの息子、ジョー・ヒルの短編小説を原作に、少年たちが次々と誘拐される事件を描く。『ゲット・アウト』などを手がけたブラムハウス・プロダクションズ製作なので信頼度も満点。タイトルの「黒電話」にかかってくる声の正体など、その設定は大胆かつ新鮮で、最後は思いもよらぬ感動がもたらされるという、お父さんの傑作『IT』や『スタンド・バイ・ミー』、さらに話題の「ストレンジャー・シングス」とも比較したくなる逸品。ドッキリな怖さも用意され、この猛暑に最適だ。

韓国映画の底力にひたすら圧倒

1週前に公開されてヒット中の『ベイビー・ブローカー』は「韓国映画」。その韓国で2021年度、ナンバーワンのヒットを記録したのが、『モガディシュ 脱出までの14日間』。ソウル五輪を成功させた韓国が、国連への加盟をめざすためアフリカ諸国でのロビー活動を励んでいた1990年。ソマリアの首都モガディシュで内戦に巻き込まれた韓国大使らの脱出劇を描くのだが、モロッコでオールロケを行い、超リアル&大スケールな映像が有無を言わさぬ興奮とスリルを届ける。まるでハリウッドのアクション大作を観ているのかと錯覚するほどで、改めて韓国映画の勢い、製作にかけるパワーを感じずにはいられない。北朝鮮の大使たちもキーパーソンとなってヒューマンドラマも展開され、韓国俳優陣の層の厚さも実感させる。

『ドライブ・マイ・カー』と最後まで競った

そしてアートハウス系からも、今年のアカデミー賞で『ドライブ・マイ・カー』と国際長編映画賞を争った『わたしは最悪。』が7/1公開。監督はノルウェーのヨアキム・トリアーで、当初は『ドライブ・マイ・カー』より賞レースをリードしていた。30歳で恋人もいるが、自身の人生の方向性に悩むヒロインが、若く魅力的な相手と新たな恋が始まってしまい……という、一見、ありがちな自分探しのストーリーながら、各章に分かれた構成や、遊び心にあふれた映像&演出でフレッシュな味わいを感じられる一作。おそらく観る人それぞれで印象が変わる作風で、思わず誰かと話したくなる。

……という風に、ここまで多様なジャンルで傑作が放たれる日は、一年でもそうそうあることではない。猛暑が続く中、映画館に涼しさを求めたい人にとって、ハズレが極端に少ない週末になりそうだ。

最後に映画批評サイト、ロッテントマトでの各作品のフレッシュ(評価)の数字を。

エルヴィス 78%/94%

バズ・ライトイヤー 75%/85%

リコリス・ピザ 91%/65%

ブラック・フォン 84%/90%

モガディシュ 脱出までの14日間 95%/87%

わたしは最悪。 96%/86%

(前者の数字は批評家、後者は一般観客。数値は6/29現在)

『エルヴィス』(C) 2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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