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社会現象化しつつある『トップガン マーヴェリック』、100億円への道は?

斉藤博昭映画ジャーナリスト

『トップガン マーヴェリック』が絶好調の成績を続けている。その期待感から、ある程度の大ヒットは予想されていたが、公開後の作品自体への反響が熱く、配給会社が当初、設定していた興行収入「50億円」という目標を大きく上回り、メガヒットのひとつの指針である「100億円」を目指す勢いをみせている。

公開3週目の週末(6/11〜12)も依然として好調で、とくにIMAXレーザー、MX4D吹替版などで完売の回が目立つ。たとえばIMAXレーザーのスクリーンは、6/12日曜の回が前日の午前中の段階ですでに予約で満席、あるいは、このように残りわずかの状態。

グランドシネマサンシャイン池袋HPより。IMAXレーザーGT字幕版の日曜の回は、前日の土曜の段階でこのような予約状況に
グランドシネマサンシャイン池袋HPより。IMAXレーザーGT字幕版の日曜の回は、前日の土曜の段階でこのような予約状況に

まだしばらくは大ヒット街道が続きそうである。すでにその理由は「『トップガン』続編、なぜヒット?」のようにあちこちの記事で語られているが、集約すれば「36年前の『トップガン』との熱いつながり」「絶対に大スクリーンで体験すべき作品」という点で、近年のメガヒット作品の傾向を示すように、リピーターの増加も見てとれる。具体的な数字は調べられないものの、SNSでは「2回目を観てきた」という書き込みが相次いでおり、スクリーンでしか味わえない映像体験を、IMAX、ドルビーアトモス、4DX、吹替などバージョンを変えて再度楽しむ人がたくさんいることが実感できる。

作品のコアなファンの中には、公開当初に話題になった「F14」のチケットをゲットしたいという人もいて、確かに劇場によってはそのあたりが見やすいこともあり、日付が変わった予約開始の瞬間に「F14」や「F18」の席が予約されるケースも見受けられる。それも社会現象となったヒット作の、ユニークな一端だ。F-14(トムキャット)戦闘機は前作の象徴で、『トップガン マーヴェリック』にも重要なシーンで再登場し、激しいまでの感動を導く。今回のメインの機はF/A-18ホーネット。

たとえば火曜分の予約が始まった日曜の早朝、F14とF18が即埋まるという、このような回も。

TOHOシネマズ日比谷のHPより。2日後の予約が始まった直後、明らかにF14とF18を狙った人が席を押さえた形跡が。
TOHOシネマズ日比谷のHPより。2日後の予約が始まった直後、明らかにF14とF18を狙った人が席を押さえた形跡が。

では、『トップガン マーヴェリック』は、このまま日本で興収100億円に到達するのか? かなり現実味を帯びてきてはいる。その予想をするうえで比較したいのが、近年の洋画実写で100億円に到達した作品。2018年の『ボヘミアン・ラプソディ』(興収131億円)、2019年の『アラジン』(同121億円)がある。

その公開週からの週末土日の数字の推移を振り返ると……

『ボヘミアン・ラプソディ』2018/11/9公開

1週目:4億8698万円

2週目:3億8850万円

3週目:3億9502万円

4週目:4億9604万円

5週目:5億0717万円

6週目:4億3153万円 ←ここで累計53億円

『アラジン』2019/6/7公開

1週目:11億2200万円

2週目:10億9899万円

3週目:9億9600万円 ←ここで累計55億円

4週目:8億7900万円

5週目:9億9900万円

6週目:4億9100万円 ←ここで累計98億円

このように『ボヘミアン』は爆発的スタートではないが数字を落とさず、息の長いヒットになった。『アラジン』は、まさにロケットスタートの典型例。そして両作ともリピーターの存在も大きかったが、『ボヘミアン』は、そのリピーター効果の影響がより大きく、ロングランヒットになった。

『トップガン マーヴェリック』は現在のところ

1週目:8億2500万円

2週目:7億5700万円 ←ここで累計28.9億円

そして3週目で40億円超えは確実視され、一気に50億円に迫る勢いである。初週こそ『アラジン』には届かなかったが、3〜4週目に追いつきそうな気配だ。『アラジン』は5週連続1位の後、6週目に『トイ・ストーリー4』に首位の座を明け渡した。そして7週目には『天気の子』が1位デビュー。強力な競合作品が出てきたわけだ。

『トップガン マーヴェリック』も6月いっぱいは強力なライバルが現れない状況。やはり6週目の7/1に『バズ・ライトイヤー』『エルヴィス』が公開され、7/8に『ソー ラブ&サンダー』、7/15には邦画の『キングダム2 遥かなる大地へ』、そして『ミニオンズ フィーバー』と超話題作が続き、夏休みモードに入っていくので、6月中にどれだけ高い数字をキープするかによって、興収100億円が見えてくるだろう。

ただ、『ボヘミアン』の場合は、ライヴを楽しむようなヘビロテのリピーターが見受けられたが、『トップガン マーヴェリック』にはそこまで“何度も観る”コアなファンが大量にいるかは微妙なところ。

北米では公開わずか2週で、『トップガン マーヴェリック』がトム・クルーズ主演作として最高の興収を記録した(それまでは『宇宙戦争』が最高)。しかし日本では、トム作品として2003年の『ラスト サムライ』が137億円でトップに君臨している。第2位の『ミッション:インポッシブル2(M:I-2)』が97億円。3位の『ミッション:インポッシブル』が61.2億円、4位の『宇宙戦争』が60億円なので、とりあえず2位を射程に、さらに『ラスト サムライ』の数字が見えてくるようなら、特大成功の飛行となる。

(C) 2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.

※興行収入の数字は、日本映画製作者連盟調べ

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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