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日本人妻を迎えて58歳で父になる幸せ。じつは仕事も絶好調の勢いで、いま、ニコラス・ケイジが来てる!

斉藤博昭映画ジャーナリスト
最新作のプレミアに妻のリコ・シバタを伴って参加したニコラス・ケイジ(写真:REX/アフロ)

ニコラス・ケイジ。その名を聞くだけで、妙に心がときめく映画ファンは多いはず。

アカデミー賞主演男優賞を受賞した実力があり、叔父は巨匠のフランシス・フォード・コッポラという血筋。『フェイス/オフ』『ナショナル・トレジャー』など大ヒット作でも主演を務めてきた。

しかし一方で、ここ15年ほどキワモノ的な味が加速してきたのも事実。『ウィッカーマン』『ゴーストライダー』『ノウイング』など、熱演なのか、わざと外しているのか、妙に振り切れた表現で作品を「珍品」へと変化させてしまうことも。「なんでこの映画に出た!?」というパターンも増えつつ、その“勘違い”系が逆に味わいとなり、一部ファンから「ニコケイ映画」として偏愛も受けていた。

とはいえ、本当に勘違いな作品も多数。昨年(2021年)に公開された、いま何かと話題の園子温監督と組んだ『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』では、ニコケイの怪優ぶりが発揮されつつも、作品自体が残念な仕上がりで、ダメな部類の「ニコケイ映画」に分類された。園監督にインタビューしたとき、ニコケイに出演を打診した際、新宿の安い居酒屋に彼が一人でフラリと現れ、大いに盛り上がったとかイイ話を聞けただけに残念だった。

園子温監督の現場で最愛の人を発見!?

しかし『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』はニコケイ自身に、この上ない幸福をもたらした。同作にマネキン(人形)の役で一瞬だけ出演した芝田璃子リコ・シバタ)に一目惚れ。5度目の結婚に踏み切り、彼女はめでたく妊娠。58歳にして3人目の子供が生まれることになる。これまでの結婚では勢いで決めたりと失敗も目立ったニコケイだが、シバタとは順調のようで、「生まれてくるのは女の子だとわかった。名前はレノン・オーギーに決めた」と、誕生前から大はしゃぎのよう。最初の息子にはすでに子供もいて(つまり孫)、私生活は最高にハッピーのようだ。

かつては借金地獄に苦しんで自宅も差し押さえられ(数千万円もするアメコミの初版本恐竜の化石不動産を爆買いの結果)、奇行も多かった(来日の際にホテルの寝巻き用の浴衣を「正装」だと信じて、その浴衣で帰りの飛行機に乗った…etc.)ニコケイだが、つい先日、GQ誌のインタビューで借金を完済していたことを明かした。B級映画にも積極的に出演するなど、自ら必死に仕事をこなしたという告白は涙ぐましかった。このあたりも、真っ直ぐすぎるニコケイらしい。

そして、そんな仕事面での地道な彼の努力が、最近は報われ始めている。このところの出演作がめちゃくちゃ高評価なのだ。

“愛する豚”を取り戻す男で最高の演技!

ウィル・スミス事件で大騒ぎになった今年のアカデミー賞でも、ニコケイは最後まで主演男優賞ノミネートの有力候補だった。授賞式会場でウィルの近くに座っている可能性もあった。その対象となった作品は『Pig(ピッグ)』。

かつての料理人の主人公は、今は森でひっそりと暮らし、豚とともにトリュフを収穫していたが、その“愛豚”がさらわれてしまう。怒った彼が豚を取り戻そうと、奇策も使って犯人側と攻防するドラマで、主人公から豚への溢れる愛、引き裂かれた悲しみ、狂気的な怒りなど、ニコケイがカリスマ的な表現力で圧倒。作品自体も映画批評サイトのロッテントマトで批評家96%、観客84%支持(4/28現在)という大絶賛だし、「全編を通して、セリフのないシーンまでスクリーン全体を支配する名演技をみせた」(シカゴ・サンタイムズ)など、ニコケイへの賞賛が止まらない。

自虐ネタも余裕でこなし、思わぬ傑作に…

2021年の『Pig』に続いて、さらに2022年の新作でもニコケイの演技が話題を呼んでいる。『The Unbearable Weight of Massive Talent(大きな才能の耐えられない重さ)』。

彼が演じたのは「ニコラス・ケイジという名の俳優」。つまり、自分自身。しかも今は落ち目という設定。借金返済に苦心する俳優が、金持ちのファンの誕生日パーティーに出席することになるが、その金持ちは麻薬組織のボスで、俳優ニコラスはCIAの捜査に手を貸す……というもの。要するにニコケイにとっては、自虐的なネタもたっぷり登場するわけで、彼自身、この役のオファーを受けるかどうか迷いつつ、覚悟の上で挑んだ結果、これ以上ない極上のセルフパロディに仕上がったようだ。

監督コンビは、ニコラス・ケイジの各作品はもちろん、彼のTVショーのインタビュー映像なども見まくって脚本を仕上げたということで、過去の代表作へのあっからさまなオマージュなど、ニコケイのファンのツボを押すシーンの連発に期待していい。

※こちらが監督たちが参考にしたというインタビュー動画。最初の数秒だけでニコケイらしさが炸裂してます。

『The Unbearable Weight of Massive Talent』も、ロッテントマトで批評家88%、観客87%という高数字(4/28現在)。ただ、『Pig』『The Unbearable〜』とも日本で観られるのは、まだちょっと先になりそうで、そこが残念ではあるが。

ドラキュラ伯爵を怪演する、ユニバーサルのモンスター映画『Renfield』、元スゴ腕ガンマン役の『The Old Way』、坊主頭で挑んだ西部劇『Butcher’s Crossing』、犯罪組織に狙われる2人の娘を守る『The Retirement Plan』と、すでに4本の主演作を撮り終えており、そのどれもがB級映画ではなく話題になりそうなものばかり。また、Netflixで大人気となったドキュメンタリー「タイガーキング」の実写化シリーズで、大量のトラやライオンを飼う、カルト教団のリーダーという実在の超怪人物を演じるプロジェクトが準備中と、ニコケイの勢いはどうやら本物、というか、ますます加速している。

おそらく私生活では人生で最も幸福に満ちた日々を送っていると思われるニコラス・ケイジ。仕事でも追い風が吹いているのは明らかで、長年、陰ながら応援し続けてきたファンにとっても、これからしばらく幸せな時間が確約されている。

追記)

『Pig』は、東京・新宿のミニシアター、新宿シネマカリテで7月15日~8月11日に開催される映画祭「カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション(R)2022」で上映されることが決定した。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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